司法書士試験AIブートラボ 司法書士試験AIブートラボ

遺言執行者の当事者適格ゆいごんしっこうしゃのとうじしゃてきかく

民事訴訟法 第3章 当事者

遺言執行者の当事者適格とは、遺言執行者が遺言の執行に必要な範囲で相続財産の管理処分権を持つことから、その職務の範囲内の訴訟について、相続人に代わって自分の名で原告又は被告となる資格のことです。遺言執行者は法定訴訟担当の一つに当たります。

亡くなった父が、自宅を長年世話になった知人に遺贈する遺言を残し、遺言執行者に弁護士を指定していたとします。知人が登記を移してほしいと訴えるとき、被告を相続人とするか遺言執行者とするかが問題になります。遺言執行者は遺言の内容を実現する職務を持ち、その範囲で相続人は相続財産を処分できなくなります。そのため、遺言の執行に関わる訴訟では遺言執行者が自分の名で当事者になります。どこまでが遺言執行者の職務かで、被告が入れ替わるのがこの語の論点です。

法律事務所の会議室の場面。机の上に「遺言書」と不動産の登記簿の写しが置かれ、遺言書に「自宅を知人Cに遺贈する」「遺言執行者 D」と書かれている。椅子に男性(札「C(受遺者)」)と女性(札「B(相続人)」)が座り、先生が遺言執行者役(札「D(

遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持つので、その職務の範囲内の訴訟では、相続人に代わって当事者となる法定訴訟担当者です

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条1項)、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます(同条2項)。相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条1項)。このように相続財産の管理処分権が遺言執行者に移るので、遺言執行者はその職務の範囲内の訴訟について、相続人のために自分の名で当事者となります。法律の規定によって他人の権利について当事者となるので、法定訴訟担当の一つです。もっとも、どの訴訟で遺言執行者が当事者になるかは、その訴訟が遺言の執行そのものに当たるかで判例が線を引いています。

受遺者が遺言の執行として所有権移転登記を求める訴えは遺言執行者を被告とし、既に受遺者への登記がされた後に相続人がその抹消を求める訴えは受遺者を被告とします

判例は、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告としての適格を有する者は遺言執行者に限られ、相続人はその適格を有しないとしました(最判昭和43年5月31日)。登記の移転はまだ済んでいない遺言の執行そのものだからです。これに対し、遺言の執行として受遺者への所有権移転登記や仮登記が既にされている場合に、相続人がその登記の抹消を求める訴えについては、相続人は遺言執行者ではなく受遺者を被告とすべきだとしました(最判昭和51年7月19日)。受遺者のために登記を守ることはそれ自体遺言の執行ではなく、執行として登記がされた後は、その登記についての権利義務は受遺者だけに帰属するからです。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立つ。黒板に時間の矢印が左から右へ引かれ、左の区間に「登記の移転前:受遺者の移転登記請求 → 被告は遺言執行者」、矢印の途中に「受遺者へ登記」、右の区間に「登記の移転後:相続人の抹消登記請求

特定の不動産を相続させる旨の遺言の対象不動産について賃借権の確認を求める訴えは、特段の事情がない限り、遺言執行者ではなく相続人を被告とします

特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言があると、その相続人は相続開始と同時に遺産分割を経ずにその不動産を取得します。判例は、その不動産について賃借権の確認を求める訴えの被告適格を有するのは、遺言書に不動産の管理と相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者ではなくその相続人であるとしました(最判平成10年2月27日)。遺言の内容が相続開始と同時に実現していて、不動産の管理は遺言執行者の職務ではないからです。平成30年の相続法改正で、特定財産承継遺言について遺言執行者が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができると定められました(民法1014条2項)が、不動産の管理まで遺言執行者の職務とされたわけではないので、この判例の考え方は改正後も妥当すると考えられています。

相続人が遺言の無効を主張して相続財産の持分の確認を求める訴えでは、遺言執行者を被告とすることができます

判例は、相続人が遺言の無効を主張し、遺言執行者を被告として相続財産について共有持分権を有することの確認を求めた事案で、相続人が敗訴すれば遺言どおりに執行されることになるから、相続人には遺言執行者に対して確認を求める利益があり、その判決の効果は受遺者にも及ぶとしました(最判昭和31年9月18日)。遺言を執行するかどうかがまさに遺言執行者の職務にかかわるからです。

  • 受遺者が遺言の執行として所有権移転登記を求める遺言執行者が被告です。相続人は被告適格を有しません(最判昭和43年5月31日)
  • 受遺者への登記が済んだ後に相続人が抹消を求める受遺者が被告です。遺言執行者ではありません(最判昭和51年7月19日)
  • 相続させる旨の遺言の対象不動産について賃借権の確認を求める特段の事情がない限り、その相続人が被告です(最判平成10年2月27日)
  • 相続人が遺言の無効を主張して持分権の確認を求める遺言執行者を被告とすることができます(最判昭和31年9月18日)
民法1012条1項

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

民法1012条2項

遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

民法1013条1項

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

試験ではこう問われる

  1. 受遺者が遺言の執行として所有権移転登記を求める訴えは、遺言執行者を被告とし、相続人は被告適格を有しない(最判昭和43年5月31日)
  2. 遺贈による登記が既にされた後に相続人が抹消を求める訴えは、遺言執行者ではなく受遺者を被告とする(最判昭和51年7月19日)
  3. 相続させる旨の遺言の対象不動産の賃借権確認の訴えは、特段の事情がない限り相続人を被告とする(最判平成10年2月27日)
  4. 相続人が遺言の無効を主張して持分権の確認を求める訴えは、遺言執行者を被告とすることができる(最判昭和31年9月18日)
  5. 遺言執行者があるときは、受遺者は遺言執行者と共同して遺贈による所有権の移転の登記を申請する(R4 午後 問20 エ ○)
  6. 相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記は、遺言執行者があっても受遺者が単独で申請できる(不動産登記法63条3項、R8 午後 問14 ア ○)

司法書士試験AIブートラボ

司法書士試験の対策を、
スマホひとつで。

過去問の肢別演習、記述式と雛形ドリル、先例と条文、用語集。司法書士試験の勉強に使う教材をひとつのアプリにまとめました。

関連する用語

当事者

当事者適格の意義と判断(給付・確認・形成の訴え、係争物の譲渡、法人の内部紛争)

当事者適格とは、特定の訴訟物について、当事者として訴訟を追行し本案判決を求め又は受けることができる資格のことで、訴...
訴えの提起

相続をめぐる確認の訴え(遺言無効・遺産確認・具体的相続分・特別受益・相続人の地位・遺言者生存中)

相続をめぐる確認の訴えとは、相続の開始後に共同相続人などの間で、遺言の効力、遺産の範囲、相続分、相続人の地位といっ...
当事者

法定訴訟担当の類型と任意的訴訟担当(差押債権者の取立訴訟・破産管財人・業務執行組合員・支配人との区別)

訴訟担当とは、権利義務の帰属主体に代わって、第三者が自己の名で当事者となり、その判決の効力が本人に及ぶ場合のことで...
既判力と判決効

訴訟担当と判決効(債権者代位・破産管財人・選定当事者)

訴訟担当と判決効とは、他人の権利について自己の名で訴訟を追行する者(訴訟担当者)が受けた確定判決の効力が、権利の帰...