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要件事実と主張立証責任の分配(売買代金・貸金・所有権に基づく明渡し・消滅時効・賃貸借の解除)ようけんじじつとしゅちょうりっしょうせきにんのぶんぱい

民事訴訟法 第6章 訴訟行為・攻撃防御 過去問で5肢

要件事実とは、権利の発生・障害・消滅・阻止という法律効果を定める実体法の要件に当たる具体的な事実のことです。主張立証責任の分配とは、どの要件事実をどちらの当事者が主張し証明しなければならないかの振り分けで、その効果を主張する側が負うのが原則です。

絵画を売った人が代金を請求するとき、「売りました」と言えば足りるのか、「引き渡しました」まで言わなければならないのかで、訴訟の勝ち負けが変わることがあります。言うべき事実を言わず、証明もできなければ、その人が負けるからです。そこで、ある法律効果を発生させるために必要な事実を要件事実として切り出し、原告と被告のどちらがそれを主張し証明するかを決めておきます。この振り分けが、請求原因・抗弁・再抗弁の骨格になります。

法廷の場面。原告席の男性(札「原告(売主)」)が額縁入りの絵画の写真を掲げ「この絵を代金200万円で売りました」と言っている。被告席の男性(札「被告(買主)」)は腕を組んでいる。裁判官席に先生が裁判官役(札「裁判所」)として座り、吹き出し「

要件事実は法律効果の発生に必要な事実で、その効果を主張する側が主張立証責任を負います

要件事実(主要事実)とは、権利の発生・障害・消滅・阻止という法律効果を定める実体法の要件に当たる具体的な事実です。訴訟物を特定し、それを発生させる事実を原告が請求原因として主張立証し、請求原因と両立してその効果を妨げる事実を被告が抗弁として主張立証し、抗弁の効果を妨げる事実を原告が再抗弁として主張立証します。どの事実を誰が負うかは、条文の構造(本文とただし書、原則規定と例外規定)に従って分けるのが通説と実務です。証明責任の分配の一般論と、法律上の推定・暫定真実による調整は、後半の証明責任の分配の語で扱います。売買代金請求の訴訟物は、契約の日・当事者・目的物・代金額で特定された売買契約に基づく代金支払請求権と表せます。

売買代金請求の請求原因は売買契約の締結だけで、目的物の引渡しは要りません

売買は、財産権の移転と代金の支払を約することで効力を生じる諾成契約なので(民法555条)、売買契約が締結されれば代金支払請求権が発生します。引渡しは契約の成立要件ではなく、引渡しがないことは買主の側が同時履行の抗弁権として主張することです。そのため、引渡しまで請求原因として主張する必要はありません。弁済の抗弁の要件事実は、債務者が債権者に給付をしたことと、その給付がその債務の履行としてされたことです(最判昭和30年7月15日)。

消滅時効の抗弁は時効期間の経過と援用の意思表示で、債務の承認は再抗弁になります

債権の消滅時効の抗弁の要件事実は、権利を行使できる状態になったこと、時効期間が経過したこと、援用権者が時効を援用する意思表示をしたことです(民法145条)。売買契約の締結は請求原因に現れているので、権利を行使できる時期を抗弁で改めて主張する必要はなく、期間の末日の経過と援用を主張すれば足ります。現行民法では、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効消滅します(民法166条1項)。時効期間の経過前に支払の猶予を求めることは債務の承認に当たり、承認の時から時効が新たに進行するので(民法152条1項)、消滅時効の抗弁に対する再抗弁になります。改正前はこれを「時効の中断」と呼んでいました。時効期間の経過後に支払の猶予を求めた場合は時効は更新されませんが、時効完成後に債務を承認した債務者は、時効完成を知らなかったときでも、その後に時効を援用することが信義則に照らして許されないので(最大判昭和41年4月20日)、これも再抗弁になります。

教室の黒板の板書の図解。三段の階段の図で、一段目「請求原因(原告):売買契約の締結」、二段目「抗弁(被告):弁済/消滅時効(期間の経過+援用)」、三段目「再抗弁(原告):債務の承認」。各段の横に担い手の札「原告」「被告」「原告」。先生(札「

所有権に基づく明渡請求では、原告は取得原因の契約だけを主張すれば足り、占有権原は被告が主張立証します

所有権に基づく土地明渡請求の請求原因は、原告の所有と被告の占有です。原告の所有は、前主のもと所有と、前主からの取得原因事実(売買契約の締結など)で基礎づけます。登記は物権変動の対抗要件であって所有権取得の要件ではないので、原告は登記の具備まで主張立証する必要はありません。被告が賃貸借などの占有権原を持つことは、所有者の明渡請求権の発生を妨げる抗弁なので、被告が主張立証責任を負います(最判昭和35年3月1日)。原告が「息子が無断で契約した」と争う場面でも、原告が無権代理の事実を立証するのではなく、被告が賃貸借契約の締結を立証することになります。被告が所有権喪失の抗弁として原告の第三者への売却を主張するときは、特定物の売買では契約の締結で直ちに所有権が移転するので(最判昭和33年6月20日)、売買契約の締結を主張立証すれば足り、代金の支払は要りません。

賃料不払による解除では賃料の支払は賃借人が、無断転貸の背信性を否定する特段の事情も賃借人が主張立証します

賃料不払を理由に解除したと主張する賃貸人は、賃料の支払期限の経過、催告と相当期間の経過、解除の意思表示を主張立証すれば足ります。賃料を支払ったことは債務を消滅させる事実なので、賃借人の側が主張立証します(大判明治38年3月9日)。賃貸人が、賃料を支払わなかった事実を主張立証する必要はありません。無断転貸による解除(民法612条2項)について、判例(最判昭和41年1月27日)は、転貸が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは解除権を行使できないとしつつ、その特段の事情は賃借人が主張立証すべきだとしました。建物賃貸借の期間満了を理由とする明渡請求では、借地借家法の法定更新により、期間満了の1年前から6月前までに更新拒絶の通知をしないと契約は更新されたものとみなされます。そのため賃貸人は請求原因の段階で更新拒絶の通知をしたことまで主張しなければならず、更新の合意が成立しなかった旨を再抗弁として主張しても主張自体失当です。

  • 売買代金請求請求原因=売買契約の締結。抗弁=弁済・同時履行・消滅時効。再抗弁=債務の承認(時効完成前なら時効の更新、完成後なら援用の制限)
  • 所有権に基づく明渡請求請求原因=もと所有・取得原因の契約・被告の占有。抗弁=占有権原・所有権喪失・対抗要件具備
  • 賃料不払解除賃貸人=催告・相当期間の経過・解除の意思表示。賃借人=賃料の支払
  • 無断転貸解除賃貸人=転貸と使用収益・解除の意思表示。賃借人=背信行為と認めるに足りない特段の事情
  • 建物賃貸借の期間満了賃貸人=期間満了と更新拒絶の通知まで請求原因で主張します
民法555条

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法152条1項

時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。

試験ではこう問われる

  1. 売買代金請求の請求原因は売買契約の締結だけで、目的物の引渡しは要件事実ではない(民法555条)
  2. 弁済の抗弁の要件事実は、給付をしたことと、その給付が当該債務の履行としてされたことである(最判昭和30年7月15日)
  3. 消滅時効の抗弁は時効期間の経過と援用の意思表示で(民法145条)、時効完成後の支払猶予の要請(債務の承認)は援用を信義則上許さない事実として再抗弁になる(最大判昭和41年4月20日)
  4. 所有権に基づく明渡請求で、原告は取得原因の売買契約を主張立証すれば足り、所有権移転登記の具備までは要らない。占有権原は被告が主張立証する(最判昭和35年3月1日)
  5. 賃料不払解除で賃料を支払ったことは賃借人が主張立証し、無断転貸の背信性を否定する特段の事情も賃借人が主張立証する(最判昭和41年1月27日)
  6. 主張責任を負わない当事者が自己に不利益な主要事実を陳述すれば、相手方が援用しなくても判決の基礎にできる(R2 午後 問2 ア ×)

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