選挙権の法的性格せんきょけんのほうてきせいかく
選挙権の法的性格とは、公務員を選定する権利(憲法15条1項)である選挙権を、国政への参加を国民に保障する個人の権利とみるか、選挙人という公の地位に基づいて選挙という国家作用に関与する公務とみるかという問題です。通説は両方の面を合わせもつとする二元説で、判例は、選挙権やその行使を制限するにはやむを得ないと認められる事由が必要だとします。
海外で暮らす日本人が、日本の国会議員を選ぶ選挙で一票を投じられない場面を考えてみます。投票は自分の意見を国政に届ける権利ですが、同時に、国の代表を選ぶという公の仕事に選挙人として参加する側面もあります。前者を強く見れば投票できない人を残す制度は簡単には認められず、後者を見れば選挙の公正を害した人を一定期間外すことも説明できます。最高裁は在外国民の事件で、選挙権の制限にはやむを得ない事由が必要だとしました。

選挙権は権利であると同時に公務でもあるとするのが二元説です
選挙権とは公務員を選定する権利で(憲法15条1項)、成年者による普通選挙が保障され(同条3項)、選挙人の資格で差別してはなりません(44条ただし書)。その法的性格については、自分の意思を国政に反映させる個人の権利であると同時に、選挙人という公の地位に基づいて選挙という国家作用に関与する公務でもあるとする二元説が通説です。この説によると、選挙権も公務としての特殊な性格に基づく必要最小限度の制限を受け、選挙犯罪者が一定期間選挙権を行使できないことはその例といえます。公務の側面から必要最小限度の制限が導かれます。これに対し、公務の側面を否定する権利一元説からは、選挙が不公正に行われると他の人の選挙権が害されるので、その回避のための必要最小限度の制限かどうかを問うことになります。どちらの説からも選挙犯罪者の選挙権停止を説明でき、選挙犯罪による被処罰者の選挙権及び被選挙権の停止を、14条及び44条ただし書に違反する差別的待遇ではないと解することができます。最大判昭和30年2月9日も、選挙犯罪の処刑者は現に選挙の公正を害した者として選挙に関与させるのに不適当だから、一般の犯罪の処刑者より厳しく停止しても別個の事由に基づくものであって条理に反する差別ではないとしました。説の対立が結論を分けない場面です。
- 権利の側面国政への参加を国民に保障する個人の権利。制限には厳格な理由が要る
- 公務の側面選挙人としての地位に基づき公務員の選挙に関与する作用。公務としての制約に服する
- 権利一元説公務の側面を否定する見解。制限は選挙の公正確保のための必要最小限度かで判断する
- 棄権の自由二元説でも、棄権に制裁を科す強制投票制は権利の側面と衝突すると説かれる

制限にはやむを得ないと認められる事由が必要です
最大判平成17年9月14日(在外日本人選挙権訴訟)が示した規範が出発点です。同判決は、選挙権は国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成し、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものだとしたうえで、制限が許されるのは、制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められる場合に限られるとしました。憲法は両議院の議員の選挙で投票することを一定の年齢に達した国民の固有の権利として保障しており、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、選挙権又はその行使を制限するにはやむを得ないと認められる事由が必要だという趣旨です。選挙の公正を害する行為をした者への制限は、この例外にあたります。選挙権を議会制民主主義の根幹を成す基本的権利と位置づけても、自ら選挙の公正を害する行為をした者の選挙権を一定の範囲で制限することまで違憲になるわけではありません。

保障は投票をする機会の平等にも及びます
憲法の保障は、投票をする機会の平等にも及びます。平成17年判決は、憲法は投票によって国の政治に参加する権利を固有の権利として保障し、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているとしました。国には、国民が選挙権を行使できない場合、その行使を現実に可能にするための所要の措置を執る責務があります。この考え方は投票所に行くことが困難な有権者にも及びます。最判平成18年7月13日は、精神的な原因で投票所に行けない者のための在宅投票制度を設けない立法不作為が争われた事件で、平成17年判決の法理がこの場合にも当てはまるとしました。もっとも同判決は、国会が正当な理由なく長期にわたって立法を怠ったとまではいえないとして、国家賠償請求は認めていません。最大判昭和60年11月21日(在宅投票制度廃止事件)が立法不作為の違法性を否定した時代から、判例の姿勢は大きく変わっています。
在外国民の選挙権を比例代表に限ることも違憲とされました
平成10年の改正前の公職選挙法は在外国民の投票をまったく認めておらず、改正後の附則も、当分の間、在外選挙制度の対象を衆議院と参議院の比例代表選出議員の選挙に限っていました。平成17年判決は、改正前に投票をまったく認めていなかったことは憲法15条1項・3項、43条1項、44条ただし書に違反するとし、改正後についても、在外選挙が繰り返し実施され通信手段が発達したことなどから、遅くとも判決言渡し後に初めて行われる総選挙または通常選挙の時点では、小選挙区と選挙区の選挙で在外国民に投票を認めないことにやむを得ない事由があるとはいえず違憲だとしました。選挙区選挙が国内の特定地域への居住を前提とすることは、在外国民の投票を認めないやむを得ない事由にはならなかったのです。他方、判決は、在外国民への選挙公報や候補者情報の伝達の困難などを踏まえ、初めて在外選挙制度を設けるにあたり問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ投票を認めたことが全く理由のないものだったとまではいえないとしつつ、通信手段の発達等を踏まえれば遅くとも判決時点では選挙区選挙に限定する理由は失われているとしました。

立法不作為の国家賠償と、地位確認の訴えの両方が認められました
判決は、立法の内容又は立法不作為が違憲であるとしても、国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国家賠償法上違法の評価を受けるものではないとしつつ、例外を示しています。すなわち、立法の内容または立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠でそれが明白であるのに国会が正当な理由なく長期にわたって怠る場合には、例外的に国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとし、10年以上何の立法措置も執られなかった本件はこの例外にあたるとして、国家賠償を認めました。救済方法についても、次回の選挙で選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして確認の利益が認められました。外国人については最判平成7年2月28日(定住外国人地方選挙権訴訟)が、地方選挙権の付与は禁止されておらず立法政策の問題だとしました。「参政権は、その性質上国民にのみ認められる権利であるから、その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至った在留外国人について、当該地方公共団体の長に対する選挙権を付与することは、憲法上許されない」という肢(R7 問1 ア)は誤りです。
最大判平成17年9月14日(在外日本人選挙権訴訟)国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
試験ではこう問われる
- 選挙権は権利であると同時に公務の性格ももつとする二元説が通説で、権利一元説に立っても選挙犯罪者の選挙権停止を説明できる
- 選挙犯罪の処刑者の選挙権停止は一般犯罪と別個の事由に基づき、条理に反する差別ではない(最大判昭和30年2月9日)
- 選挙権又はその行使を制限するには、やむを得ないと認められる事由が必要である(最大判平成17年9月14日・在外日本人選挙権訴訟)
- 在外国民の投票を比例代表選挙に限り、選挙区選挙で認めないことも違憲とされ、立法不作為の国家賠償と次回選挙での地位確認の訴えが認められた(在外日本人選挙権訴訟)
- 投票所に行くことが困難な有権者にも、選挙権の行使を可能にする所要の措置を執る国の責務の考え方は及ぶ(最判平成18年7月13日)
- 地方公共団体と特段に緊密な関係をもつ在留外国人に、法律で地方公共団体の長や議員の選挙権を付与することは憲法上禁止されていない(最判平成7年2月28日。R7 問1 ア ×)

