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名板貸人の責任(会社の名板貸しを含む)ないたがしにんのせきにん

会社法・商法 第14章 商法総則

名板貸人の責任とは、自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人が、自分がその営業を行うものと誤認してその他人と取引をした者に対し、その他人と連帯して、その取引によって生じた債務を弁済する責任のことです(商法14条・会社法9条)。許諾した側を名板貸人、許諾を受けて他人の商号で営業する側を名板借人と呼び、会社が自己の商号の使用を許諾した場合も同じ責任を負います。

老舗の金物店の主人が、知人に「うちの屋号で商売をしてよい」と許したとします。客はその屋号を信じて取引し、相手が本当は別人だとは思いません。期待を裏切られた客を守るため、商法は屋号を貸した商人にも、借りた人と連帯して取引上の債務を払わせます。自分で外観を作った者が、それを信じた相手に責任を負うという考え方です。ただし、相手が借り物の屋号だと知っていたり、少し注意すれば分かったのに見過ごしたりした場合まで守る必要はありません。屋号を借りた人が起こした交通事故の賠償のような、取引と関係のない債務にも及びません。

金物店の店先の場面。店の看板「山田金物店」。店の中で男性(札「名板借人 実際の営業主」)が客の男性(札「取引の相手方 誤認」)に商品を売っている。店の外に先生(札「名板貸人 山田」)が立ち、看板を指さして肩をすくめている。店先の黒板「商法1

名板貸人は名板借人と連帯して弁済する責任を負い、名板借人の財産で完済できない場合に限られる補充的な責任ではありません

自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、その商人がその営業を行うものと誤認してその他人と取引をした者に対し、その他人と連帯して、その取引によって生じた債務を弁済する責任を負います(14条)。会社についても会社法9条が同じ規律を置きます。責任の根拠は、商号という外観を作り出した商人が、それを信頼した相手方に対して責任を負うべきだという外観法理・禁反言です。名板貸人の責任は名板借人の債務と連帯する責任で、持分会社の無限責任社員の責任のように、まず名板借人の財産で払えないことを要件とする補充的な責任ではありません。相手方は名板貸人と名板借人のどちらにも全額を請求できます。

相手方の誤認が要件で、名板貸しの事実を知っていた相手方や誤認に重大な過失がある相手方には責任を負いません

名板貸人が責任を負うのは、名板貸人が営業を行うものと「誤認して」取引をした者に対してです。したがって、取引の相手方が名板貸しの事実を知っていて、営業主が名板借人であると分かって取引した場合には、誤認が無いので責任は生じません。「名板貸しの事実を取引の相手方が知っていたときは,名板貸人の責任は生じない」という記述は正しく、判例は、相手方が誤認したことについて重大な過失があるときは、悪意の場合と同様に名板貸人は責任を免れるとしています(最判昭和41年1月27日)。外観を信頼した者を保護する規定なので、少し注意すれば営業主が別人だと分かったのに見過ごした者まで守る必要は無いからです。軽過失にとどまる相手方は保護されます。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。原告席に男性(札「取引の相手方」)、被告席に男性(札「名板貸人」)。法壇の前の板書に4行「①悪意・重過失の相手方 → 責任なし(最判昭41.1.27)」「②営業が同種でない → 特段の

判例は、許諾の有無と範囲について、同種の営業であることを要し、薬局の開設者名義の使用許容は許諾に当たり、手形行為だけの許諾は当たらないとしています

どのような場合に「自己の商号を使用して営業を行うことを許諾した」といえるかについて、判例が積み重なっています。まず、判例は、名板貸人の責任が生じるには、特段の事情のない限り、商号使用の許諾を受けた者の営業がその許諾をした商人の営業と同種の営業であることを要するとしました(最判昭和43年6月13日)。異なる種類の営業であれば、相手方が許諾者を営業主と誤認することは通常無いからです。次に、判例は、営業としてする薬局の開設者として自己の名義を使用することを他人に許容し、その他人が薬局開設の登録を申請した場合は、商号使用の許諾に当たるとしました(最判昭和32年1月31日)。これに対し、手形行為について自己の氏名・商号を使用することを許諾したにすぎない者には、営業を行うことの許諾が無いので名板貸しの規定は適用されず、手形法上の責任の問題になります(最判昭和42年6月6日)。許諾は明示でなくてもよく、判例は、裁判所の庁舎内で「東京地方裁判所厚生部」の名義で物資の購入が行われていた事案で、国が名義の使用を黙認していたとして名板貸しの規定を類推適用しました(最判昭和35年10月21日)。

名板貸人が責任を負うのは取引によって生じた債務で、交通事故などの事実行為たる不法行為による損害賠償債務は含まれません

名板貸人が弁済責任を負うのは「当該取引によって生じた債務」です。名板借人との取引から直接生じた債務のほか、取引の債務不履行による損害賠償債務や、取引の解除による原状回復債務も含まれると解されています。これに対し、判例は、名義貸与を受けた者が交通事故その他の事実行為たる不法行為に起因して負担するに至った損害賠償債務は、取引によって生じた債務には当たらないとしました(最判昭和52年12月23日)。相手方が商号の外観を信頼して取引に入ったことで生じた債務ではないからです。「商号使用の許諾を受けた者が交通事故その他の事実行為たる不法行為に起因して負担するに至った損害賠償債務は,自己の商号を使用して営業を行うことを他人に許諾した商人が責任を負う「当該取引によって生じた債務」に当たらない」という肢は正しいです。取引行為の外形を持つ詐欺のような取引的不法行為による損害賠償債務は、取引によって生じた債務に含まれると解されています。

名板貸人の責任の要件と範囲(商法14条・会社法9条)

  • 許諾: 自己の商号を使用して営業・事業を行うことの許諾。明示・黙示を問わない(東京地裁厚生部事件 最判昭35.10.21 は類推適用)。手形行為だけの許諾は当たらない(最判昭42.6.6)。薬局開設者名義の使用許容は当たる(最判昭32.1.31)
  • 営業の同種性: 特段の事情のない限り名板借人の営業が同種であることを要する(最判昭43.6.13)
  • 相手方の誤認: 名板貸人が営業主だと誤認して取引したこと。悪意・重過失の相手方は保護されない(最判昭41.1.27)。軽過失は保護される
  • 債務の範囲: 取引によって生じた債務(債務不履行による損害賠償・原状回復を含む)。事実行為たる不法行為による損害賠償債務は含まない(最判昭52.12.23)
  • 責任の態様: 名板借人と連帯。補充的ではない
商法 第14条

(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)
自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

試験ではこう問われる

  1. 名板貸人の責任は名板借人と連帯する責任。「他人の財産で完済できない場合に限り」は誤り
  2. 相手方の誤認が要件。名板貸しの事実を知っていた相手方には責任を負わない。重大な過失がある相手方にも負わない(最判昭41.1.27)
  3. 特段の事情のない限り名板借人の営業が同種であることを要する(最判昭43.6.13)
  4. 薬局の開設者として名義使用を許容した場合は許諾に当たる(最判昭32.1.31)。手形行為だけの許諾は当たらない(最判昭42.6.6)
  5. 交通事故など事実行為たる不法行為による損害賠償債務は「取引によって生じた債務」に当たらない(最判昭52.12.23)

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