商人の意義(固有の商人・擬制商人・小商人・未成年者)しょうにんのいぎ
商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者のことで(固有の商人。商法4条1項)、店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者と鉱業を営む者は、商行為を業としなくても商人とみなされます(擬制商人。商法4条2項)。小商人とは営業のために使用する財産の価額が法務省令で定める金額を超えない商人のことで、商業登記などの規定が適用されず(商法7条)、未成年者も商人になることができ、営業を行うときは登記をしなければなりません(商法5条)。
八百屋も銀行も、自分の名前で商売を繰り返しているので商人です。商法は、商行為を業とする者を商人と呼び、取引の迅速さを求める特別のルールをこの人たちに当てはめます。農家が自分の畑でとれた野菜を売る行為はもともと商行為ではありませんが、店を構えて売れば商人として扱われます。会社はその事業の行為がすべて商行為なので、常に商人です。商人になるのに年齢の制限はなく、未成年者も親の許可を得て営業できますが、取引相手が分かるように登記をします。逆に営業規模がごく小さい小商人には、登記などの重い規定を外してあります。

商人には、商行為を業とする固有の商人と、店舗での物品販売や鉱業を営む擬制商人があり、会社は常に商人です
商法上の商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者です(4条1項)。「自己の名をもって」とは、その行為から生じる権利義務の帰属主体となることで、「業とする」とは、営利の目的で同種の行為を反復継続することです。ここでいう商行為は、絶対的商行為(501条)と営業的商行為(502条)です。絶対的商行為は誰が行っても商行為になるので、これに対し、店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者と、鉱業を営む者は、商行為を業としない者でも商人とみなされます(4条2項。擬制商人)。自分で栽培した農産物を店舗で売る者がその例で、売る物を仕入れていないので501条1号の商行為ではありませんが、店舗という設備で営業する点に着目して商人としたものです。会社は、その事業としてする行為と事業のためにする行為がすべて商行為なので(会社法5条)、会社は常に商人です。判例は、宅地建物取引業者について、他人間の商行為の媒介を業とする商事仲立人(543条)ではないが、仲立ちに関する行為(502条11号)を営業とする者として4条1項の商人に当たるとしたうえで、買主から委託を受けて媒介をした業者は、委託を受けておらず売主のためにする意思もなかった売主に対しては、512条の報酬請求権を取得せず550条2項の適用もないとしました(最判昭和44年6月26日)。他方、営利を目的としない協同組織の金融機関である信用金庫や信用協同組合は、両替その他の銀行取引(502条8号)を営業とする者に当たらず、商人ではないと判例はしています。個人の質屋営業者の金員貸付行為も銀行取引に当たらず(最判昭和50年6月27日)、
未成年者も商人になることができ、営業を行うときは登記をしなければなりません
商人になれるかどうかは、営業から生じる権利義務が誰に帰属するかで決まり、行為能力の有無では決まりません。未成年者も、一種又は数種の営業を許されればその営業に関しては成年者と同一の行為能力を持ち(民法6条1項)、自ら商人として営業することができます。未成年者が商人としての営業を行うときは、その登記をしなければなりません(5条)。取引の相手方が、未成年者が自分で営業している商人であることを登記で知ることができるようにしたものです。後見人が被後見人のために営業を行うときも登記をしなければならず、後見人の代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できません(6条)。

小商人には商業登記・商号の登記・商業帳簿などの規定が適用されません
小商人とは、商人のうち、営業のために使用する財産の価額が法務省令で定める金額(50万円)を超えない者です(7条)。営業規模がごく小さい商人にまで公示や帳簿の負担を課す必要が乏しいので、未成年者登記・後見人登記(5条・6条)、商業登記の章(8条〜10条)、商号の登記に関する規定(11条2項・15条2項・17条2項前段)、商業帳簿の章(19条)、支配人の登記(22条)は小商人には適用されません。短答の問題文に「個人商人(小商人に当たる者を除く。)」という断りが付くのは、この適用除外を外して、商号や支配人の登記を要するかどうかを問うためです。
特定の営業を開始する目的でした準備行為により商人資格を取得しますが、単なる金銭の借入れは相手方が開業目的を知らない限り開業準備行為と認められません
商人資格をいつ取得するかは、開業前の準備行為に商法が適用されるかを決めます。判例は、特定の営業を開始する目的でその準備行為をした者は、その行為により営業を開始する意思を実現したものとして商人資格を取得し、その準備行為も商人がその営業のためにする行為として商行為になるとしました(最判昭和33年6月19日)。もっとも、どの行為が開業準備行為に当たるかについて、判例は、準備行為は相手方はもとよりそれ以外の者にも客観的に開業準備行為と認められうるものであることを要し、単に金銭を借り入れる行為は、特段の事情のない限り、その外形からは何の目的でされるのかを知ることができないので、行為者の主観的な目的だけで直ちに開業準備行為とすることはできず、取引の相手方がその事情を知っていた場合には開業準備行為として商行為になるとしました(最判昭和47年2月24日)。「営業を行っていなかった個人が映画館を買い受けて経営する目的で特にそのことを説明せずに当該目的を知らない信用協同組合からその手付金相当額の金銭を借り受けた場合,その金銭消費貸借契約に基づく返還請求権の消滅時効期間は,10年である」という記述は、出題当時は正しい肢でした。相手方が開業目的を知らないので借入れは商行為に当たらず、出題当時は商行為によって生じた債権の消滅時効が5年(旧商法522条)、それ以外の債権が10年(旧民法167条1項)とされていたからです。平成29年の民法改正に伴い旧商法522条は削除され、現在は商行為によって生じた債権かどうかにかかわらず、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で時効が完成します(民法166条1項)。したがって現行法では、この借入れが商行為に当たらないことは変わりませんが、そのことで時効期間が10年になるという結論は導かれません。
商人の分類と適用される規定
- 固有の商人(4条1項): 自己の名をもって商行為(501条・502条)を業とする者。宅地建物取引業者(仲立ちに関する行為)、問屋、運送人など
- 擬制商人(4条2項): 店舗その他これに類似する設備で物品を販売することを業とする者、鉱業を営む者。商行為を業としなくても商人
- 会社(会社法5条): 事業としてする行為・事業のためにする行為が商行為なので常に商人
- 商人でない者(判例): 信用金庫・信用協同組合など営利を目的としない協同組織の金融機関。個人の質屋営業者の貸付けは銀行取引に当たらない(最判昭50.6.27)
- 未成年者(5条): 商人になれる。営業を行うときは登記。後見人が営業するときも登記(6条)
- 小商人(7条): 営業用財産50万円以下。未成年者・後見人登記、商業登記、商号の登記、商業帳簿、支配人の登記の規定は不適用
- 商人資格の取得時期(判例): 特定の営業を開始する目的でした客観的に認められる準備行為の時(最判昭33.6.19)。単なる借入れは相手方が開業目的を知らない限り開業準備行為でない(最判昭47.2.24)
商法 第4条第1項この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。
商法 第4条第2項店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす。
商法 第5条(未成年者登記)
未成年者が前条の営業を行うときは、その登記をしなければならない。
試験ではこう問われる
- 未成年者も商人になれる。営業を行うときは登記(商法5条)
- 小商人には商業登記の規定が適用されない(商法7条)。問題文の「小商人に当たる者を除く」はこの除外を外すための断り
- 宅地建物取引業者は仲立ちに関する行為を営業とする商人だが、委託を受けていない売主に報酬を請求できない(最判昭44.6.26)
- 信用金庫などは商人でない(判例)。個人の質屋営業者の貸付けは銀行取引に当たらず商行為でない(最判昭50.6.27)
- 開業準備行為で商人資格を取得する(最判昭33.6.19)。単なる借入れは相手方が開業目的を知らない限り開業準備行為でない(最判昭47.2.24)。時効期間を10年とする肢は旧商法522条があった出題当時の結論で、現行法では民法166条1項による

