当事者からの主張の要否(所有権の来歴・代理・公序良俗・過失相殺・弁済充当・否認の理由として現れた事実)とうじしゃからのしゅちょうのようひ
当事者からの主張の要否とは、裁判所が判決の基礎とする事実のうち、どの事実に当事者の主張が必要で、どの事実なら主張がなくても認定・判断できるかという問題のことです。主張が必要なのは法律効果を直接基礎づける主要事実で、否認の理由として現れた間接事実や法的評価には主張を要しません。
土地の明渡しを求める裁判で、被告は「原告はその土地を買っていない」と争っているだけなのに、裁判所が証拠から「原告は買ったが、その後別の人に売ってしまった」と見つけて請求を棄却したらどうでしょう。原告は、誰も言っていない「転売」について反論する機会がないまま負けてしまいます。どの事実なら当事者の主張がなくても認定してよく、どの事実なら主張が要るのかは、その事実が主要事実か、相手方の否認の理由にとどまる間接事実かで決まります。

原告がいったん取得した所有権を失わせる事実は被告が抗弁として主張すべき主要事実なので、主張がなければ認定できません
所有権に基づく請求では、原告は所有権の取得原因(Aから買ったこと)を主張・立証し、取得した所有権をその後失ったことは、被告が抗弁として主張・立証すべき主要事実になります。判例(最判昭和41年4月12日)は、原告が土地を買い戻した後に第三者へ譲渡したという、当事者の主張のない事実を認定して請求を排斥した判決を、弁論主義に反し違法としました。相続による取得を主張する事案でも、被相続人が生前に所有権を失った事実(死因贈与など)は承継を争う側が抗弁として主張すべきとされています(最判昭和55年2月7日)。そのため、Xが「Aから甲土地を買った後にこれをCに売った」という事実を、主張がないのに証拠調べの結果から認定して請求を棄却すれば、その判決は弁論主義に反します。二重譲渡で被告が先に登記したことも、原告の所有権を失わせる事実(対抗要件の具備による所有権喪失)なので同じです。
相手方の否認の理由として現れた事実と違う事実を認定しても、その事実が間接事実にとどまる限り弁論主義には反しません
被告が「Aから買ったのは原告ではなくBだ」と争うのは、原告の取得原因事実を否認し、その理由を述べたもの(積極否認)です。買主が誰かという事実は、原告の買受けという主要事実を否定する方向の間接事実にとどまります。裁判所が証拠調べの結果「Aから買ったのはBでもなくCであった」と認定して請求を棄却しても、主張のない主要事実を基礎にしたのではなく、原告の主張が立証されなかったにすぎません。したがって、Xの請求を「Aから甲土地を買ったのはXではなくCであった」との認定で棄却する判決は、弁論主義に反しません。判例(最判昭和46年6月29日)も、相手方が否認している請求原因又は抗弁を立証なしとして排斥するために、それと両立せず相手方に主張立証責任のない事実を認定することは、その事実が主張されていなくても弁論主義に違反しないとしました。被告の弁済の主張を原告が否認しているとき、裁判所が主張のない別の債権への弁済だと認定して請求債権への弁済を否定するのもこれに当たります。

本人による契約締結の主張に対して代理人による締結を認定することや、公序良俗違反の判断は、別途の主張がなくてもできます
判例(最判昭和33年7月8日)は、原告が被告本人との契約締結を主張していたのに、被告の代理人との間で契約が締結されたと認定しても弁論主義に反しないとしました。契約が本人によってされたか代理人によってされたかで法律効果に変わりはないというのが理由です。ただし、代理人による締結を主要事実とみる立場からはこの判例に批判があります。また判例(最判昭和36年4月27日)は、当事者が民法90条による無効を特に主張しなくても、同条違反に当たる事実の陳述があれば、裁判所は公序良俗違反かどうかを判断できるとしました。公序良俗違反という評価は法律上の判断で、弁論主義が及ぶのはその評価を基礎づける具体的な事実だからです。
過失相殺は、被害者の過失を基礎づける事実が弁論に出ていれば、被告が過失相殺を主張しなくても裁判所が職権でできます
判例は、不法行為の過失相殺について、訴訟に現れた資料から被害者に過失があると認めるべきときは、賠償義務者の主張がなくても職権でしん酌できるとし(最判昭和41年6月21日)、債務不履行の過失相殺(民法418条)についても、債務者の主張がなくても職権でできるとしました(最判昭和43年12月24日)。ただし、過失を基礎づける具体的な事実そのものは、当事者が主張していることが必要とする理解が一般的です。被告が原告の過失の根拠となる事実を主張していれば足りるので、「債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟においては,当事者が過失相殺をすべきであるとの主張をしたときに限り,裁判所は,過失相殺をすることができる」という肢(R2 午後 問2 イ)は誤りです。交通事故の事案で被告が原告の飛び出しを主張していたときに、裁判所が飛び出しの事実を認めて500万円の請求のうち300万円の範囲で認容する判決は、弁論主義に反しません。
- 原告の所有権喪失事由(転売・死因贈与・二重譲渡と登記)被告の抗弁として主張が必要で、主張なしに認定すれば弁論主義に反します
- 否認の理由と異なる買主の認定間接事実にとどまり、主張がなくても認定できます
- 否認された弁済を別口の債務への弁済と認定主張がなくても認定できます(最判昭和46年6月29日)
- 代理人による契約締結本人による締結の主張に対して認定しても違法ではないとされています(最判昭和33年7月8日)
- 公序良俗違反違反に当たる事実の陳述があれば、無効の主張がなくても判断できます(最判昭和36年4月27日)
- 過失相殺過失を基礎づける事実が出ていれば、過失相殺の主張がなくても職権でできます
試験ではこう問われる
- 原告の所有権取得後の転売など所有権喪失事由は被告の抗弁で、主張なしに認定して棄却するのは弁論主義に反する(最判昭和41年4月12日)。二重譲渡と被告の登記による所有権喪失も同じである
- 積極否認の理由として現れた事実と違う事実(買主はBでなくC)を認定しても、間接事実なので弁論主義に反しない
- 否認された弁済を別口債務への弁済と認定して、請求債権への弁済なしとできる(最判昭和46年6月29日)
- 本人による契約締結の主張に代理人による締結を認定しても弁論主義に反しない(最判昭和33年7月8日)。公序良俗違反は無効の主張がなくても判断できる(最判昭和36年4月27日)
- 過失相殺は、過失の基礎となる事実が弁論に出ていれば、当事者の主張がなくても裁判所がすることができる(最判昭和43年12月24日、R2 午後 問2 イ ×)
- 被告が主張責任を負わない自己に不利益な主要事実を陳述すれば、原告が援用しなくても判決の基礎にできる(R2 午後 問2 ア ×)

