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司法書士と行政書士の違い:業務・試験・ダブルライセンス

試験制度・キャリア 読了 約10分

司法書士と行政書士の違いを、司法書士法・行政書士法の条文と両試験の公表資料で整理します。業務の境界、試験の形式・合否の決まり方・合格率の違い、科目の重なり、ダブルライセンスで何ができるかまで。どちらを目指すか迷っている人向け。

司法書士と行政書士は、名前は似ていますが、扱う書類の行き先が違います。司法書士は登記・供託と裁判所に出す書類の専門家で、行政書士は役所に出す許認可の書類と、契約書などの権利義務に関する書類の専門家です。試験も別物で、司法書士試験は筆記と口述の2段階、行政書士試験は筆記1回で、合格率は令和7年度で約5.2%と14.54%でした。

この記事は、司法書士と行政書士のどちらを目指すか迷っている人と、ダブルライセンスを考えている人に向けて書いています。業務の違いは司法書士法と行政書士法の条文で、試験の違いは法務省と行政書士試験研究センターの公表資料で確認できる範囲に限って整理します。年収や予備校の比較は扱いません。

業務の違い:書類の行き先で分かれる

司法書士の業務は司法書士法3条

司法書士の業務は、司法書士法3条1項に列挙されています。中心は次の5つです。

  • 登記または供託に関する手続の代理
  • 法務局または地方法務局に提出する書類の作成
  • 登記または供託に関する審査請求の手続の代理
  • 裁判所・検察庁に提出する書類、筆界特定の手続で法務局に提出する書類の作成
  • これらの事務についての相談

このほか、3条2項の研修修了と法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所での訴訟代理などの簡裁訴訟代理等関係業務も行えます。業務範囲の詳しい整理は司法書士法の業務範囲で扱っています。

行政書士の業務は行政書士法1条の3と1条の4

行政書士の業務は、行政書士法1条の3が定めています。他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することです。1条の4は、これに付随して、官公署への提出手続の代理、契約書などを代理人として作成すること、作成についての相談などを業務として認めています。

行政書士法は令和8年1月1日に施行された令和7年の改正で条文の番号が動いており、現行法では1条の2が職責、1条の3が業務の中心、1条の4が付随する業務です。古い教材では番号が1つずつずれていることがあるので、条文番号で調べるときは現行法で確認してください。

境界を決めるのは「他の法律による制限」

2つの業務の境界は、行政書士法1条の3第2項が決めています。行政書士は、書類の作成であっても、他の法律で制限されているものは行えません。登記の申請書類はその典型で、司法書士法73条1項は、司法書士会に入会している司法書士や司法書士法人でない者は、3条1項1号から5号の業務を行ってはならないと定めています。

書類・手続 担い手 根拠
不動産や会社の登記の申請 司法書士 司法書士法3条1項1号・2号
供託の手続 司法書士 司法書士法3条1項1号
裁判所に出す書類の作成 司法書士 司法書士法3条1項4号
役所への許認可の申請書類 行政書士 行政書士法1条の3
契約書などの権利義務に関する書類 行政書士 行政書士法1条の3

同じ「書類を作る仕事」でも、法務局に出す登記の書類は司法書士、役所に出す許認可の書類は行政書士、と行き先で分かれると覚えておくと整理しやすくなります。

制限は反対の向きにもあります。行政書士法19条1項は、行政書士や行政書士法人でない者が、他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として1条の3の業務を行うことを禁じています。ただし書で、他の法律に別段の定めがある場合を除いています。司法書士が法務局に出す書類を作れるのは、司法書士法3条がその別段の定めに当たるからです。司法書士法3条8項も、司法書士の業務であっても他の法律で制限されているものは行えないと定めています。2つの法律が互いの領域を区切り合っている、と見ると構造がつかめます。

試験の違い:制度・形式・合否の決まり方

試験の骨格を比べる

2つの試験の骨格を並べます。司法書士試験は令和8年度の受験案内書、行政書士試験は行政書士試験研究センターの令和8年度の案内によります。

項目 司法書士試験 行政書士試験
根拠 司法書士法6条 行政書士法3条
実施 法務大臣 都道府県知事の事務を、指定試験機関の行政書士試験研究センターが行う
受験資格 制限なし 制限なし
試験日 筆記は7月上旬の日曜日、口述は10月中旬 毎年11月の第2日曜日
試験時間 午前の部2時間、午後の部3時間 午後1時から4時までの3時間
方法 筆記の択一式と記述式、その後に口述 筆記の択一式と記述式
満点 350点 300点
受験手数料 8,000円 10,400円

司法書士試験は1日で5時間の筆記を受け、さらに口述試験があります。行政書士試験は1日3時間の筆記で完結します。

記述式の中身も違います。行政書士試験の記述式は、40字程度で記述するものが出題されると案内されています。司法書士試験の記述式は、不動産登記と商業登記の事実関係を読み取り、登記の申請書の内容を答案用紙の枠に書く形式で、2問で140点です。同じ「記述式」という名前でも、求められる作業の量はかなり違います。

受験の手続と会場も違います。行政書士試験は、令和8年度はインターネットか郵送で申し込み、令和7年度は47都道府県の62試験場で行われました。司法書士試験は、法務局・地方法務局の窓口か書留郵便で申請し、筆記試験の受験地は全国15か所です。司法書士試験は受験地によっては遠方への移動が必要になるので、日程と合わせて早めに確認してください。司法書士試験の申請から合格発表までの流れは司法書士試験の流れと日程で扱っています。

合否の決まり方が違う

合否の決まり方は、2つの試験で性格が違います。行政書士試験の令和7年度の合否判定基準は、次の3つをすべて満たした者を合格としています。

条件 点数
法令等科目の得点 244点中122点以上
基礎知識科目の得点 56点中24点以上
試験全体の得点 300点中180点以上

司法書士試験にも、午前の択一式・午後の択一式・記述式の3つの基準点と、筆記試験の合格点があります。ただし、これらの点数は事前に決まっておらず、筆記試験の後に年度ごとに公表されます。令和7年度の筆記試験の合格点は350点中255.0点以上、令和6年度は267.0点以上でした。司法書士試験の合格点の決まり方は基準点と上乗せ点の仕組みで扱っています。

合格率と受験者数

令和7年度の数字を並べます。

項目 司法書士試験 行政書士試験
受験者数 14,418人 50,163人
合格者数 751人 7,292人
合格率 約5.2% 14.54%

司法書士試験の数字は法務省の最終結果の発表、行政書士試験の数字は行政書士試験研究センターの実施結果の概要によります。司法書士試験の受験者数は午前の部と午後の部の双方を受験した人の数で、合格率はそこから計算した値です。

合格率は分母の中身で変わるので、この数字だけで難しさを比べることはできません。司法書士試験の合格率の読み方は司法書士試験の合格率と難易度で詳しく扱っています。

科目の重なりと、学習量の違い

重なるのは憲法・民法・商法

2つの試験の科目を並べると、重なりは次のとおりです。

区分 科目
両方にある 憲法、民法、商法・会社法
司法書士試験だけ 刑法、不動産登記法、商業登記法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、供託法、司法書士法
行政書士試験だけ 行政法、基礎法学、基礎知識

行政書士試験の法令等科目は、憲法、行政法、民法、商法、基礎法学から出題されます。行政法は、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法が中心です。基礎知識科目は、一般知識、行政書士法などの業務に関連する法令、情報通信・個人情報保護、文章理解から出題されます。

司法書士試験の比重は登記法にある

司法書士試験の中心は、行政書士試験にない不動産登記法と商業登記法です。午後の部の択一式35問のうち24問が例年この2科目で、記述式の2問も登記の申請書を作る問題です。記述式だけで140点あり、筆記試験の満点350点の4割を占めます。

民法は両方の試験の柱ですが、司法書士試験では午前の部の択一式35問のうち例年20問が民法で、不動産登記法の前提にもなります。民法の学習の進め方は民法の勉強法で扱っています。

必要な学習時間の比較

2つの試験に必要な学習時間を比べた公的な統計はありません。言えるのは、司法書士試験のほうが科目数が多く、筆記の時間が長く、記述式で登記の申請書を書く力まで求められる、という試験の構造の違いです。司法書士試験の学習時間の目安と内訳は司法書士試験に必要な勉強時間で扱っています。

ダブルライセンスで何ができるか

どちらの資格も、もう一方を含まない

行政書士法2条は、行政書士となる資格を持つ者として、行政書士試験の合格者のほか、弁護士・弁理士・公認会計士・税理士となる資格を持つ者などを挙げています。司法書士はこの中に入っていません。司法書士が行政書士の業務をするには、行政書士試験に合格するなどして行政書士の資格を得る必要があります。

反対に、行政書士の資格では司法書士になれません。司法書士法4条が司法書士となる資格を認めているのは、司法書士試験の合格者と、裁判所書記官や法務事務官などとして通算10年以上の職務経験があり法務大臣の認定を受けた者です。

登録もそれぞれに必要

資格を得ても、それだけで業務はできません。行政書士試験は筆記に合格すれば行政書士となる資格を得ますが、司法書士試験は筆記の後に口述試験を経て最終合格となります。司法書士は司法書士法8条により日本司法書士会連合会の司法書士名簿に、行政書士は行政書士法6条により日本行政書士会連合会の行政書士名簿に、それぞれ登録を受けて初めて業務を行えます。両方の業務をするなら、両方の登録が必要です。

1つの案件で両方の業務がつながる場面

両方の資格を持つと、1つの案件の中で役所の手続と登記の手続をつなげて扱えます。たとえば次のような場面です。

場面 行政書士の業務 司法書士の業務
農地を売買する 農地法3条の許可の申請書類の作成 許可を得た後の所有権移転の登記の申請
会社を作って許認可を取る 事業に必要な許認可の申請書類の作成 株式会社の設立の登記の申請

農地の売買は、農地法3条1項の農業委員会の許可を受けなければならず、同条6項により許可を受けないでした行為は効力を生じません。許可の申請は役所に出す書類なので行政書士の業務で、許可を得た後の所有権移転の登記は司法書士の業務です。不動産登記の申請では、許可があったことを証する情報を添付情報として提供します。会社の設立の登記の流れは株式会社の設立の登記で扱います。

どちらを目指すかの考え方

扱いたい書類で選ぶ

どちらを目指すかは、将来扱いたい書類で考えるのが近道です。不動産の売買や相続、会社の設立や役員の変更の登記、裁判所に出す書類を扱いたいなら司法書士です。建設業や飲食業などの営業の許可、在留資格、法人の設立後の各種許認可など、役所への申請を扱いたいなら行政書士です。

両方を受けるなら日程の違いを使う

両方の合格を目指す場合、試験日が離れていることは利点になります。司法書士試験の筆記は7月上旬、行政書士試験は11月です。民法・憲法・商法の学習は両方に生きるので、片方の試験の後に、もう片方の固有の科目へ重心を移す計画が立てられます。

ただし、行政書士試験の行政法と基礎知識は、司法書士試験にはない科目です。司法書士試験の登記法と記述式も、行政書士試験にはありません。重なりは民法を中心とする一部で、固有の科目のほうが多いと考えてください。司法書士試験に向けた学習全体の設計は合格ロードマップにまとめています。

行政書士の学習経験は司法書士試験で生きるか

行政書士試験で民法を学んだ経験は、司法書士試験の民法の入口を楽にします。条文の読み方や、要件と効果で整理する習慣も共通です。一方で、司法書士試験の民法は20問と出題が多く、不動産登記法とつながる物権・担保物権の細かい知識まで問われます。行政書士試験の民法の知識を土台に、司法書士試験の過去問の水準に合わせて深めていく、という順序になります。

試験での出題ポイント

択一式ではこう問われる

司法書士試験の午後の部の司法書士法では、業務の範囲と資格が問われます。司法書士法3条1項の各号の業務、3条2項の簡裁訴訟代理等関係業務の要件、4条の資格と5条の欠格事由、8条の登録は、条文そのものが肢になりやすい箇所です。「司法書士試験に合格すれば、登録を受けなくても業務を行える」という肢は誤りです。

73条の非司法書士等の取締りも、行政書士など他の資格との境界を考える材料になります。3条1項1号から5号の業務を、司法書士会に入会している司法書士や司法書士法人でない者が行えない、という骨格を押さえてください。

記述式との接続

不動産登記の記述式では、登記原因に第三者の許可が必要な場合、その許可を証する情報を添付情報として書けるかが問われます。農地の売買で農地法3条の許可が要るのはその典型です。行政書士が作る許可の申請書類と、司法書士が作る登記の申請書が、1つの取引の中でつながっていることを意識すると、添付情報の判断が理由から理解できます。添付情報の考え方は登記原因証明情報の解説も参照してください。

まとめ

  • 司法書士は登記・供託と裁判所に出す書類、行政書士は役所に出す許認可の書類と権利義務に関する書類を扱う。
  • 登記の申請は司法書士法73条により、司法書士会に入会した司法書士などでなければ行えない。
  • 司法書士試験は筆記と口述の2段階、行政書士試験は筆記1回。
  • 令和7年度の合格率は、司法書士試験が約5.2%、行政書士試験が14.54%。
  • 重なる科目は憲法・民法・商法で、固有の科目のほうが多い。
  • どちらの資格も、もう一方の資格を含まない。業務には両方の登録が必要。

よくある質問

司法書士になれば、行政書士の仕事もできますか

できません。行政書士法2条が行政書士となる資格を認める者に、司法書士は含まれていません。行政書士の業務を行うには、行政書士試験に合格するなどして資格を得たうえで、日本行政書士会連合会の行政書士名簿に登録を受ける必要があります。

行政書士試験に先に合格してから司法書士試験を受けるべきですか

どちらの順番が有利かを示す公的なデータはありません。民法・憲法・商法は両方の試験に共通しますが、行政書士試験の行政法と基礎知識は司法書士試験にない科目です。司法書士を目指すことが決まっているなら、行政書士試験の固有の科目に時間を使う分だけ、司法書士試験の登記法に使える時間が減ることを考えて決めてください。

行政書士試験と司法書士試験は同じ年に両方受けられますか

受けられます。司法書士試験の筆記は例年7月上旬、行政書士試験は例年11月の第2日曜日で、日程は重なりません。どちらも受験資格の制限はありません。ただし、司法書士試験の筆記に合格した年は、10月中旬に口述試験があり、その準備の時期は行政書士試験の直前期と重なります。

読んだあとに、今日の1問を

過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。

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