登記原因証明情報:何を書けば足りるか|要素と書面の型
登記原因証明情報に何を書けば足りるかを、不動産登記法61条と不動産登記令7条から整理。報告形式の書面の構成、登記の種類ごとに書くべき事実、公文書や特定の情報が求められる場合、提供不要の場合まで受験生向けに解説します。
登記原因証明情報は、権利に関する登記のほぼすべてで添付情報欄の先頭に来る情報です。記述式では毎回書く一方で、択一では「この登記にはどんな情報が要るか」「そもそも要らない登記はどれか」という形で細部を問われます。
結論を先に言うと、登記原因証明情報に書くべきことは4つです。誰と誰の間で、どの不動産について、どんな事実や法律行為があり、その結果いつ権利が変動したか。この4つが申請情報の登記の目的・原因・日付・申請人と食い違わずに読み取れれば足ります。書面の体裁は契約書そのものでも、当事者が作成した報告形式でもかまいません。
この記事は、添付情報の体系を一通り学んだ受験生向けです。添付情報全体の分類は登記識別情報と添付情報で扱っているので、ここでは登記原因証明情報の中身に絞ります。
登記原因証明情報とは何か
法61条と「登記原因」の意味
不動産登記法61条は、権利に関する登記を申請する場合には、法令に別段の定めがある場合を除き、申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならないと定めます。不動産登記令7条1項5号ロも、権利に関する登記の添付情報として登記原因を証する情報を掲げています。
ここでいう登記原因は、登記の原因となる事実または法律行為です(法5条2項)。売買や贈与のような法律行為だけでなく、相続や時効取得、弁済による債権の消滅のような事実も含みます。登記原因とその日付は登記事項であり(法59条3号)、申請情報の内容にもなります(令3条6号)。登記原因証明情報は、この「原因と日付」が本当にあったことを登記官に示すための資料です。
現行法で必須になった理由
2005年3月に施行された現行の不動産登記法は、登記原因証明情報の提供を原則として必須にしました。旧法では、登記原因を証する書面がないときに申請書の副本で代えることができましたが、現行法ではその道はありません。
目的は、登記の正確性を高めることです。登記原因証明情報は登記所に保管され、登記を申請した者は自己を申請人とする登記の附属書類を閲覧でき、それ以外の者も正当な理由があれば閲覧を請求できます(法121条3項・4項)。登記原因が事後に検証できる形で残ることになります。
登記官の審査と却下事由
登記官の審査は、提供された情報と登記記録に基づく形式的審査です。登記原因証明情報についての却下事由は2つあります。
| 却下事由 | 条文 | 典型例 |
|---|---|---|
| 申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致しない | 法25条8号 | 原因の日付が契約日と所有権移転の日で食い違う |
| 提供すべき情報が提供されない | 法25条9号 | 登記原因証明情報を添付しない |
8号は記述式の答案作成でも意識してください。申請情報の原因日付は、登記原因証明情報に書かれた事実から導ける日付でなければなりません。
書面の2つの型:契約書型と報告形式
既存の契約書などを使う型
売買契約書、金銭消費貸借契約書、抵当権設定契約書、弁済証書など、登記原因となった法律行為の際に作成された書面を、そのまま登記原因証明情報として提供できます。
ただし、契約書であれば常に足りるわけではありません。売買契約書に所有権移転時期の特約があり、代金の支払が確認できない場合、契約書だけでは「いつ所有権が移転したか」が読み取れません。対象の不動産が特定されていない書面も同じです。契約書型は、4つの要素が書面から読み取れる場合に使える型だと理解してください。
報告形式の書面を作る型
もう1つは、登記の申請のために、登記原因となった事実や法律行為の内容を当事者がまとめて報告する書面です。報告形式の登記原因証明情報と呼ばれ、実務では広く使われています。一般的な構成は次のとおりです。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| 表題 | 登記原因証明情報である旨 |
| 登記申請情報の要項 | 登記の目的、登記原因とその日付、当事者、不動産の表示 |
| 登記の原因となる事実または法律行為 | 事実を時系列で番号を付けて記載 |
| 確認の文言と日付 | 上記の事実に相違ない旨、作成日、提出先の登記所 |
| 作成者 | 当事者の住所・氏名と署名または記名押印 |
事実の欄は、結論だけを書くのではなく、結論に至る事実を順に書きます。「年月日、売買により所有権が移転した」だけでなく、契約の成立、特約の有無、代金の支払、移転の時期の順です。架空の売買で、事実の欄の骨組みを示します。
- 売主Aと買主Bは、ある日、本件不動産の売買契約を締結した
- この契約には、代金全額の支払が済んだ時に所有権が移転する旨の特約がある
- BはAに対し、後の日に代金全額を支払い、Aはこれを受領した
- よって、本件不動産の所有権は、3の日にAからBに移転した
4の日付が申請情報の原因日付になります。1の契約日を原因日付にすると、法25条8号の不一致になります。
誰が作成するか
報告形式の書面は、登記によって不利益を受ける登記義務者が内容を確認し、作成者として署名または記名押印するのが核心です。権利者だけが作成した書面では、義務者の関与なしに権利変動を主張しているにすぎず、共同申請で真実性を担保しようとする法60条の趣旨が生きません。権利者と義務者の双方が作成者となる形も用いられます。
報告形式の書面は、その登記の申請のためだけに作成された書面です。書面申請では添付書面の原本還付を請求できますが、申請のためにのみ作成された委任状その他の書面は除かれます(不動産登記規則55条1項ただし書)。報告形式の登記原因証明情報は原本還付を受けられないので、契約書原本を還付してもらいたい場合とは扱いが分かれます。
何を書けば足りるか:登記の種類ごとの要素
4つの要素と登記原因の日付
どの登記でも、登記原因証明情報から次の4つが読み取れる必要があります。
- 当事者:権利者と義務者。申請人と一致していること
- 不動産:所在・地番・家屋番号などで特定されていること
- 原因となる事実または法律行為:契約、弁済、相続などの内容
- 権利変動の発生と時期:3の結果、どの権利がいつ変動したか
4の時期が、申請情報の「原因 年月日○○」の日付になります。契約日と権利変動の日が異なる場合は、権利変動の日を導く事実まで書かなければ、日付が特定できません。売買で所有権移転時期の特約があるときは、特約の存在と、代金を支払った事実を書きます。この点は売買による所有権移転登記で詳しく扱っています。
登記の種類ごとに書く事実
主要な登記について、事実の欄に書くべき内容を並べます。
| 登記 | 事実の欄に書く内容 | 原因の日付 |
|---|---|---|
| 売買による所有権移転 | 売買契約の成立、移転時期の特約と代金支払 | 所有権が移転した日 |
| 贈与による所有権移転 | 贈与契約の成立、移転時期の特約があればその内容 | 所有権が移転した日 |
| 抵当権設定 | 被担保債権の発生原因と債権額、設定契約 | 債権の発生原因の日と設定の日 |
| 弁済による抵当権抹消 | 被担保債権の弁済、それによる抵当権の消滅 | 弁済の日 |
| 時効取得による所有権移転 | 占有の開始、時効期間の経過、援用 | 占有を開始した日 |
| 根抵当権の元本確定(共同申請) | 確定事由の発生。確定請求ならその到達と期間の経過 | 確定した日 |
| 真正な登記名義の回復 | 現在の登記名義が真実と異なること、真実の所有者 | 日付を記載しない |
時効取得の日付が援用の日ではなく占有開始の日になるのは、時効の効力が起算日にさかのぼるからです(民法144条)。真正な登記名義の回復は、特定の日に生じた権利変動ではなく登記の是正なので、原因に日付を付けません。
抵当権の設定と抹消は、原因の書き方の差が出やすい登記です。設定は抵当権設定登記、抹消は抵当権抹消登記で扱っています。元本確定の事由ごとの違いは根抵当権の元本確定を参照してください。
中間の権利変動を省略した事実は書けない
登記原因証明情報は、実際に生じた権利変動を示すものです。AからBへ、BからCへと順に売買された場合、AからCへ直接移転したことを示す登記原因証明情報は作れません。事実を書けば2回の移転が現れるので、申請情報の「AからCへの移転」と合致しないからです。
AからCへ直接所有権を移すには、実体法上そのような権利変動が生じる契約の組み方が必要です。第三者のためにする売買契約のように、Aから直接Cに所有権が移転する契約をしたのであれば、その契約内容と、Cが受益の意思を表示した事実などを書いた登記原因証明情報で、AからCへの移転の登記を申請できます。書面の工夫ではなく、実体の権利変動が先に決まる点を押さえてください。
公文書や特定の情報が求められる場合
相続・合併は公務員が作成した情報が中心
相続または法人の合併による権利の移転の登記では、相続または合併を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報と、その他の登記原因を証する情報を提供します(令別表22項)。当事者が作成する報告形式の書面だけでは足りません。
相続では、戸籍や除籍の全部事項証明書などで相続関係を示し、遺産分割があればその協議書を加えます。遺産分割協議書には、協議に参加した相続人の印鑑証明書を添付する取扱いです。相続登記の実際の組み立ては相続登記の義務化とやり方で扱っています。
判決・仮登記を命ずる処分は正本に限定される
令7条1項5号ロは、次の2つの場合、登記原因証明情報を特定の書面に限定しています。
| 場面 | 提供する情報 |
|---|---|
| 法63条1項の確定判決による登記 | 執行力のある確定判決の判決書の正本など |
| 法108条の仮登記を命ずる処分による仮登記 | 仮登記を命ずる処分の決定書の正本 |
判決による登記では、判決の主文や理由から登記原因と日付が読み取れることが前提になります。報告形式で補うことはできません。
令別表で内容が決まっている登記
令7条1項5号ロのただし書は、別表の登記欄に掲げる登記では、同表の添付情報欄の定めによるとしています。たとえば、根抵当権者が法93条により元本確定の登記を単独で申請する場合は、確定請求をしたことを証する情報、競売開始等の催告・通知を受けたことを証する情報、破産手続開始決定を証する情報が、それぞれ定められています(令別表61項〜63項)。単独申請が認められる登記では、共同申請による真実性の担保がない代わりに、提供すべき情報の中身が法令で指定されていると理解してください。
登記原因証明情報が要らない場合と周辺の情報
提供不要の場合は令7条3項で確認する
令7条3項は、登記原因証明情報の提供を要しない場合を列挙しています。
| 号 | 場合 |
|---|---|
| 1号 | 法69条の2により買戻しの特約に関する登記の抹消を単独で申請する場合 |
| 2号 | 所有権の保存の登記を申請する場合。敷地権付き区分建物について法74条2項により申請する場合を除く |
| 3号〜5号 | 民事保全法の処分禁止の登記に後れる登記の抹消を、法111条・113条により申請する場合 |
所有権保存の登記が原則として不要なのは、保存登記には権利変動の原因がないからです。ただし敷地権付き区分建物の転得者が法74条2項で保存登記をする場合は、敷地権について売買などの権利変動が含まれるので、登記原因証明情報が必要になります。1号の買戻特約の抹消は、契約の日から10年の経過が登記記録から明らかなので、原因を証する情報が要りません。
第三者の許可・承諾は別の添付情報
農地の売買に農地法の許可が必要な場合など、登記原因について第三者の許可、同意または承諾を要するときは、それを証する情報を別に提供します(令7条1項5号ハ)。登記原因証明情報に「許可があった」と書くだけでは足りず、許可書そのものが別の添付情報になります。
一方で、許可が効力発生の要件になる場合、所有権が移転する日は許可が到達した日以後になります。登記原因証明情報の事実の欄には、許可の到達によって権利が移転したことが分かるように書き、原因の日付と合わせます。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
- 根拠条文:法61条が原則。令7条1項5号ロが内容、7条3項が不要の場合
- 体裁:契約書でも報告形式でもよい。報告形式は登記義務者の関与が核心
- 却下事由:申請情報と内容が合致しないときは法25条8号、提供がないときは9号
- 相続・合併:公務員が職務上作成した情報が必要。報告形式だけでは足りない
- 判決・仮登記を命ずる処分:判決書の正本・決定書の正本に限られる
- 不要な場合:所有権保存(敷地権付き区分建物の74条2項を除く)、買戻特約の単独抹消、処分禁止の登記に後れる登記の抹消
- 原本還付:申請のためにのみ作成された書面は還付されない
添付情報の問われ方は、不動産登記法の総論の中心です。科目全体の学習順序は不動産登記法の勉強法を参照してください。
記述式との接続
記述式の添付情報欄では、登記原因証明情報は権利に関する登記である限りほぼ必ず書きます。問われるのは書くかどうかより、原因と日付を正しく特定できるかです。
- 別紙の契約書で、契約日と権利変動の日が別になっていないかを確認する
- 相続の事案では、登記原因証明情報の中身として戸籍と遺産分割協議書などを意識する
- 所有権保存の申請では、添付情報欄に登記原因証明情報を書かない
- 判決による登記では、判決の確定日ではなく、判決が認定した原因の日付を使う
最後の点は、判決主文が「年月日売買を原因とする」と原因を示している場合です。記述式で添付情報を過不足なく書く練習の手順は記述式(不動産登記)の答案構成で扱っています。
まとめ
- 登記原因証明情報は、権利に関する登記の原則的な添付情報。根拠は法61条と令7条1項5号ロ
- 書くべきは、当事者・不動産・原因となる事実または法律行為・権利変動の発生と時期の4つ
- 体裁は契約書でも報告形式でもよい。報告形式は登記義務者が内容を確認して作成する
- 原因の日付は権利変動が生じた日。時効取得は占有開始日、真正な登記名義の回復は日付なし
- 相続・合併、判決、仮登記を命ずる処分、単独申請の一部では、提供する情報の中身が法令で決まっている
- 不要な場合は令7条3項で確認する。第三者の許可は別の添付情報
よくある質問
売買契約書を持っていない場合でも登記できますか
できます。登記原因証明情報は契約書に限られないので、当事者が報告形式の書面を作成して提供できます。売買契約の成立、所有権移転時期の特約と代金の支払など、所有権が移転した事実と日付が読み取れるように書きます。登記義務者である売主が内容を確認して作成に加わることが必要です。
報告形式の登記原因証明情報に印鑑証明書は必要ですか
登記原因証明情報そのものについて印鑑証明書を添付する規定はありません。所有権の登記名義人が登記義務者となる申請で印鑑証明書が必要になるのは、申請情報や委任状への押印についてであり、登記原因証明情報の要件ではありません。相続の遺産分割協議書に印鑑証明書を付けるのは、協議書が相続を証する情報の一部になるための取扱いで、場面が異なります。
所有権保存の登記で登記原因証明情報が要らないのはなぜですか
所有権保存の登記は、表題部所有者などが初めて所有権の登記をするもので、誰かから権利が移る変動を登記するものではないからです。そのため登記原因とその日付も申請情報になりません。例外は敷地権付き区分建物について法74条2項により申請する場合で、敷地権の移転を伴うので登記原因証明情報が必要です。
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