司法書士試験の口述試験:出題範囲・準備・当日の流れ
司法書士試験の口述試験を、受験案内書と司法書士法に沿って解説します。出題範囲は不動産登記・商業登記と司法書士の業務。日程、受験票、試験場、持ち物、筆記合格発表からの約2週間の準備の組み立て方まで。筆記の結果を待つ受験生向け。
司法書士試験の口述試験は、筆記試験の合格者だけが受ける最後の関門です。出題範囲は受験案内書で決まっていて、不動産登記と商業登記に関する知識、それに司法書士の業務を行うのに必要な知識と能力の2つです。民法や会社法、民事訴訟法は範囲に入っていません。筆記の合格発表から口述試験までは2週間ほどしかないので、範囲を絞って、声に出して答える練習に時間を使うのが準備の中心になります。
この記事は、筆記試験の結果を待っている受験生と、合格発表を受けて口述の準備を始める人に向けて書いています。口述試験の法律上の位置づけ、出題範囲、日程と手続、準備の組み立て方、当日の注意点を、法務省の受験案内書と司法書士法の条文で確認できる範囲で整理します。
口述試験の位置づけ
法律が定める2段階の試験
司法書士法6条2項は、司法書士試験を筆記と口述の方法で行うと定め、ただし書で「口述試験は、筆記試験に合格した者について行う」としています。口述試験は筆記試験の後に置かれた、独立した試験です。最終合格者は、口述試験を経て決まります。
試験の1年の流れの中では、次の位置にあります。
| 段階 | 令和8年度の日付 |
|---|---|
| 筆記試験 | 7月5日 日曜日 |
| 筆記試験の合格発表 | 10月1日 午後4時 |
| 口述試験 | 10月13日 火曜日 |
| 最終合格発表 | 11月5日 午後4時 |
申請から最終合格までの手続全体は司法書士試験の流れと日程で扱っています。
公表資料から分かること・分からないこと
法務省の最終結果の発表に載っているのは、受験者数・合格者数・筆記試験の合格点・基準点・合格者の年齢や受験地です。口述試験の受験者数や、口述試験で不合格になった人の数は載っていません。口述試験の合格率を公表資料から計算することはできません。
受験案内書にも、口述試験の試験官の人数や1人あたりの時間、問答の進め方は書かれていません。書かれているのは、出題範囲、日付、試験場、持ち物、注意事項です。この記事では、書かれていることだけを土台にして準備の方法を組み立てます。
筆記試験の免除を受けた人も口述を受ける
司法書士法6条3項により、筆記試験に合格した人は、申請すれば次回の筆記試験が免除されます。前の年に筆記を通ったのに口述試験を受けられなかった人や、口述試験で結果が出なかった人は、翌年は口述試験だけを受けることになります。
免除の申請は、通常の受験申請と同じ5月の受付期間に行います。受験申請書に前年度の口述試験受験票の原本と写し1通を添え、口述試験を受ける地の法務局の総務課に提出します。免除は次回の1回だけです。
出題範囲:受験案内書が定める2つの領域
筆記試験の4つの事項のうち2つ
受験案内書は、筆記試験の内容を4つの事項に分けて示し、口述試験はそのうち2つについて行うとしています。
| 筆記試験の内容 | 口述試験の範囲 |
|---|---|
| 憲法・民法・商法・刑法に関する知識 | 含まれない |
| 不動産登記・商業登記に関する知識。登記申請書の作成に関するものを含む | 含まれる |
| 供託・民事訴訟・民事執行・民事保全に関する知識 | 含まれない |
| その他、司法書士法3条1項1号から5号の業務を行うのに必要な知識と能力 | 含まれる |
出典は令和8年度の受験案内書です。範囲の外にある民法や会社法の知識も、登記の理由を説明するときには当然使います。ただ、準備で新たに時間をかけて復習する対象は、不動産登記・商業登記と司法書士の業務に絞れます。
不動産登記と商業登記
1つ目の領域は、筆記試験の午後の部で択一式と記述式に出る不動産登記と商業登記です。受験案内書が「登記申請書の作成に関するものを含む」と明記している点は、口述でもそのまま範囲になります。
筆記を通った人は、この領域の知識をすでに持っています。口述の準備で変わるのは、知識の出し方です。択一式は肢を見て正誤を判断し、記述式は申請書の枠を埋めます。口述では、問いに対して自分の言葉で、要件や手続を順を追って説明することになります。
司法書士法3条1項1号から5号の業務
2つ目の領域は、司法書士の業務を行うのに必要な知識と能力です。司法書士法3条1項1号から5号の業務は、次の5つです。
| 号 | 業務 |
|---|---|
| 1号 | 登記または供託に関する手続の代理 |
| 2号 | 法務局または地方法務局に提出する書類や電磁的記録の作成 |
| 3号 | 法務局または地方法務局の長に対する、登記または供託に関する審査請求の手続の代理 |
| 4号 | 裁判所や検察庁に提出する書類、筆界特定の手続で法務局に提出する書類の作成 |
| 5号 | 1号から4号の事務についての相談 |
6号から8号の簡易裁判所での訴訟代理などは、この範囲の記載に含まれていません。これらは3条2項により、研修を修了し法務大臣の認定を受けた司法書士会の会員に限って行える業務です。
業務を行うのに必要な知識には、業務の範囲だけでなく、業務を行ううえでの義務も含まれると考えるのが自然です。司法書士法には、2条の職責、21条の依頼に応ずる義務、22条の業務を行い得ない事件、24条の秘密保持の義務などが置かれています。筆記の司法書士法で学んだ条文を、説明できる形に直しておいてください。
範囲外の科目との付き合い方
民法・会社法・民事訴訟法などは口述の範囲に書かれていませんが、登記の説明と切り離せない部分があります。たとえば、不動産の売買による所有権移転の登記を説明すれば、民法177条の対抗要件の話に自然に触れます。役員の変更の登記を説明すれば、会社法の任期や選任の決議が前提になります。
準備では、範囲外の科目を一から復習し直す必要はありません。不動産登記と商業登記の問いに答える中で、根拠として出てくる民法や会社法の条文だけを確かめる、という順番にします。範囲の中心から外へ広げていけば、2週間という短い期間でも優先順位を崩さずに済みます。
日程と手続
口述試験は10月中旬の平日
口述試験は、直近3年はいずれも10月中旬の火曜日に行われました。令和6年度は10月15日、令和7年度は10月14日、令和8年度は10月13日です。集合時刻は、口述試験受験票に記載されます。
平日なので、働いている人は休暇を取る必要があります。筆記の合格発表から口述試験までは2週間足らずです。自己採点で合格の可能性があると感じたら、結果が出る前から、10月中旬の平日を空けられるように職場と調整しておくと慌てずに済みます。
口述試験受験票が合格の通知を兼ねる
筆記試験の合格者への通知は、口述試験を実施する法務局から口述試験受験票を送る形で行われます。受験票には試験場と集合時刻が書かれています。令和8年度の受験案内書は、10月8日までに受験票が届かない場合は、口述試験を実施する法務局の総務課に問い合わせるよう案内していました。
筆記試験の合格は、10月上旬の合格発表日に法務局での掲示と法務省のホームページで確認できます。受験票の到着を待たずに、発表当日に自分の受験番号を確かめてください。
試験場は8か所
口述試験を実施する法務局は、東京・大阪・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松の8か所です。筆記試験の受験地によって、口述試験の場所が決まります。
| 筆記試験の受験地 | 口述試験の実施局 |
|---|---|
| 東京・横浜・さいたま・千葉・静岡 | 東京 |
| 大阪・京都・神戸 | 大阪 |
| 福岡・那覇 | 福岡 |
| 名古屋・広島・仙台・札幌・高松 | それぞれ同じ局 |
試験場は、それぞれの局が指定した場所で、口述試験受験票に記載されます。指定された試験場以外では受験できません。遠方から移動する人は、前日入りも含めて移動の計画を立ててください。
持ち物と当日の注意事項
受験案内書が口述試験の携行品として挙げているのは、口述試験受験票と、黒インクの万年筆またはボールペンです。当日は試験場の注意事項を守り、係員の指示に従います。注意事項や係員の指示に従わない場合は不正受験となる場合がある、と受験案内書に書かれています。
災害などで公共交通機関が止まり、受験地への移動が難しくなりそうな場合は、申出により受験地の変更が認められることがあります。令和8年度の口述試験では、この申出の期限は10月9日でした。台風の多い時期と重なるので、天候の情報には気を配っておいてください。
準備:合格発表から2週間の組み立て方
準備は筆記の自己採点の段階から始められる
8月に択一式の正解と基準点が公表されると、択一式の結果はほぼ確定します。記述式の結果は10月まで分かりませんが、択一式で基準点を超え、記述式の自己採点で手応えがある人は、9月のうちに口述の範囲を見直し始めても損はありません。口述の範囲である不動産登記と商業登記は、翌年に筆記を受け直す場合にも中心になる科目だからです。
結果を待つ間の過ごし方は基準点と上乗せ点の仕組みでも触れています。
声に出して説明する練習
口述の準備で最も大事なのは、声に出して答える練習です。頭で分かっていることと、それを順序立てて口で説明できることは別の力です。1つの問いに対して、結論、理由、条文の順で30秒から1分程度で答える型を作っておくと、緊張していても話が崩れにくくなります。
練習の相手がいなければ、問いを紙に書いて自分に出し、答えを録音して聞き直す方法があります。聞き直すと、結論を言う前に前置きが長い、条文番号があいまい、といった癖が分かります。
練習用の問いを自分で作る
範囲から練習用の問いを作るときは、筆記で学んだ基本事項を、説明を求める形に言い換えます。以下は練習用に作った例で、実際の出題を示すものではありません。
| 領域 | 練習用の問い |
|---|---|
| 不動産登記 | 権利に関する登記は、原則として誰が申請しますか |
| 不動産登記 | 登記識別情報とは何で、どんな場面で提供しますか |
| 不動産登記 | 登記原因証明情報は、なぜ提供する必要がありますか |
| 商業登記 | 株式会社の役員に変更が生じたとき、登記はいつまでに申請しますか |
| 商業登記 | 株式会社の設立の登記は、誰が申請しますか |
| 司法書士の業務 | 司法書士は、依頼を拒むことができますか |
| 司法書士の業務 | 司法書士が業務上知った秘密について、どんな義務を負いますか |
答えは条文や筆記の教材で確かめてから練習してください。自分の答えを文章で書き出し、それを見ずに言えるまで繰り返します。不動産登記の申請構造の整理は登記原因証明情報の解説、司法書士の業務の範囲は司法書士法の業務範囲を参考にしてください。
2週間の時間割の例
筆記の合格発表から口述試験までの2週間を、次のように分けると範囲を一通り回せます。
| 期間 | やること |
|---|---|
| 発表から3日目まで | 休暇と移動の手配。範囲を確認し、練習用の問いを書き出す |
| 4日目から8日目まで | 不動産登記と商業登記の問いを声に出して答える。詰まった箇所を教材で確認する |
| 9日目から11日目まで | 司法書士法の条文を読み、業務と義務の問いに答える |
| 12日目から前日まで | 全体を通して答え直す。新しい教材には手を出さない |
働きながら準備する人は、平日は通勤時間に問いを見て頭の中で答え、夜に1回だけ声に出す、という形でも回せます。
当日の心構えと、その後
分からないときの答え方
口述試験は問答の形で進むので、答えに詰まる場面も出てきます。そのときに避けたいのは、知らないことを推測で断定することです。司法書士の業務は、登記の申請を誤りなく行うことが前提にあります。分からないことは分からないと答え、分かる範囲で筋道を示すほうが、業務を行う者の姿勢として自然です。
質問の意味が取れなかったときは、聞き返してかまいません。問いを取り違えたまま長く答えるより、確認してから答えるほうが確実です。
服装と持ち物の準備
受験案内書に服装の指定はありません。持ち物は受験票と黒インクのペンが指定されているだけです。指定されていないことに気を取られるより、受験票・ペン・移動経路の確認を前日までに済ませ、当日は範囲の見直しに集中してください。
最終合格の後に続く手続
最終合格者の受験番号は、令和8年度なら11月5日に掲示と法務省のホームページで発表され、11月27日の官報に受験番号と氏名が載ります。合格証書は法務局から窓口または郵送で交付されます。
合格しただけでは、司法書士として業務はできません。司法書士法8条により、日本司法書士会連合会の司法書士名簿に登録を受けて初めて司法書士になります。簡易裁判所での訴訟代理などの業務には、さらに3条2項の研修修了と法務大臣の認定が必要です。合格までの学習全体の設計は合格ロードマップで扱っています。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
口述試験の範囲にある司法書士の業務は、筆記試験の午後の部の司法書士法でも問われます。例年1問の科目ですが、3条1項の各号の業務と、3条2項の簡裁訴訟代理等関係業務の要件は、条文そのものが肢になりやすい箇所です。たとえば、簡裁訴訟代理等関係業務を行うには、研修の修了、法務大臣の認定、司法書士会の会員であることの3つが必要です。
21条の依頼に応ずる義務が、簡裁訴訟代理等関係業務に関する依頼を除いている点も、条文の括弧書きがそのまま問われる形です。筆記の段階でこうした条文を正確に読んでおくと、口述の準備がそのまま短く済みます。
記述式との接続
口述試験の範囲である不動産登記と商業登記は、記述式の範囲と重なります。受験案内書が範囲に「登記申請書の作成に関するもの」を含めているのは、記述式で書いた申請書の中身を、口頭で説明できるかを問う余地があるということです。記述式の練習で、なぜその登記の目的になるのか、なぜその添付情報が必要なのかを一言で説明する習慣をつけておけば、口述の準備の多くは済んでいます。答案の組み立ては記述式・不動産登記法の対策を参照してください。
まとめ
- 口述試験は司法書士法6条2項ただし書により、筆記試験の合格者について行われる。
- 出題範囲は、不動産登記・商業登記に関する知識と、司法書士法3条1項1号から5号の業務を行うのに必要な知識と能力の2つ。
- 直近3年は10月中旬の火曜日に実施された。平日なので休暇の手配が要る。
- 口述試験受験票が筆記合格の通知を兼ね、試験場と集合時刻が書かれている。
- 試験場は全国8か所で、筆記試験の受験地で決まる。
- 準備の中心は、範囲の知識を声に出して説明する練習。
- 口述の受験者数や不合格者数は公表されていない。
よくある質問
口述試験で不合格になることはありますか
口述試験は筆記試験とは別の試験で、最終合格は口述試験を経て決まります。ただ、法務省の公表資料には口述試験の受験者数や不合格者数が載っていないので、どの程度の人が不合格になるかは分かりません。筆記の合格を前提に油断せず、範囲の見直しと声に出す練習を済ませて臨んでください。
口述試験を欠席したら、翌年はどうなりますか
司法書士法6条3項により、筆記試験に合格した人は、申請すれば次回の筆記試験が免除されます。翌年の受験申請の期間に免除を申請すれば、口述試験から受け直せます。免除は次回の1回だけなので、翌年の口述試験も受けられなかった場合は、筆記試験から受け直すことになります。
口述試験の対策に市販の問題集は必要ですか
口述試験の範囲は、筆記試験で学んだ不動産登記・商業登記と司法書士法に限られています。まずは筆記で使った教材と条文で、基本事項を自分の言葉で説明できるかを確かめてください。準備期間は2週間ほどしかないので、新しい教材を増やすより、手元の教材で問いを作り、声に出して答える回数を増やすほうが確実です。
過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。