基準点と上乗せ点の仕組み:司法書士試験の合格点はどう決まるか
司法書士試験の合否を決める3つの基準点と筆記試験合格点の関係を、法務省の公表資料の数字で解説します。上乗せ点の計算方法、基準点の位置を得点分布で読む方法、試験後の自己採点の使い方まで。
司法書士試験の筆記試験は、2つの条件を両方満たしたときにだけ合格します。午前の択一式・午後の択一式・記述式のそれぞれで基準点に達すること。そして3つの合計が筆記試験の合格点に達すること。基準点の合計と合格点の間には差があり、この差が「上乗せ点」です。令和7年度は基準点の合計が220点、合格点が255.0点で、上乗せは35点でした(法務省公表)。
この記事は、合格点がどう決まり、何点をどこで取れば合格なのかを数字で理解したい受験生向けです。受験案内書に書かれた判定方法、公表のタイミング、上乗せ点の計算、得点分布から見た基準点の位置、試験後の自己採点の使い方までを扱います。直前期にどこで上乗せを作るかという戦略は直前期の基準点戦略に譲り、ここでは仕組みそのものを掘り下げます。
合否判定の仕組みを原文で確認する
受験案内書に書かれている判定方法
法務省の受験案内書は、配点と合格判定を次のように定めています。要点を抜き出します。
- 午前の部の多肢択一式問題と午後の部の多肢択一式問題は、それぞれ35問で105点満点
- 午後の部の記述式問題は、2問で140点満点
- 午前の択一式、午後の択一式、記述式の各成績のいずれかが、それぞれ一定の基準点に達しない場合には、それだけで不合格とする
法務省が毎年公表する「合格点等について」でも、筆記試験合格点の注記として同じ趣旨が書かれています。基準点は総合点の一部ではなく、それだけで不合格を決める独立の条件です。
判定は2段階で行われる
判定の構造を表にすると次のとおりです。
| 段階 | 条件 | 満たさないと |
|---|---|---|
| 第1段階 | 午前の択一式が基準点以上 | 不合格 |
| 第1段階 | 午後の択一式が基準点以上 | 不合格 |
| 第1段階 | 記述式が基準点以上 | 不合格 |
| 第2段階 | 350点満点の総合点が合格点以上 | 不合格 |
第1段階の3つは「かつ」でつながっています。午前の択一式が満点でも、午後の択一式が基準点に1問足りなければ不合格です。
筆記の後に口述がある
司法書士法6条2項は、試験を筆記と口述の方法で行い、口述試験は筆記試験に合格した者について行うと定めています。基準点と合格点は筆記試験の判定に使うものです。筆記に合格すると、同条3項により申請すれば翌年の筆記試験が免除されます。
基準点と合格点はいつ・どう公表されるか
択一の基準点は夏、記述と合格点は秋
公表は2回に分かれます。令和7年度の受験案内書では、8月12日に択一式の正解と基準点を、10月2日に筆記試験の合格者を法務省のホームページに掲載するとしていました。記述式の基準点と筆記試験の合格点は、10月の発表と同時に「合格点等について」として公表されます。
つまり択一式の結果は夏の時点でほぼ見通せますが、記述式の基準点と合格点は秋まで分かりません。日付は年度ごとに変わるので、その年の受験案内書で確認してください。
直近の数字
法務省の公表資料から、直近の数字を並べます。
| 年度 | 午前択一の基準点 | 午後択一の基準点 | 記述式の基準点 | 筆記試験合格点 |
|---|---|---|---|---|
| 令和6年度 | 78点 | 72点 | 83.0点 | 267.0点 |
| 令和7年度 | 78点 | 72点 | 70.0点 | 255.0点 |
| 令和8年度 | 84点 | 75点 | 記事公開時点で未公表 | 記事公開時点で未公表 |
択一式の満点はいずれも105点、記述式は140点、総合は350点です。令和6年度と令和7年度は択一式の基準点が同じでしたが、記述式の基準点は13点、合格点は12点違います。令和8年度は択一式の基準点が午前で6点、午後で3点上がりました。
事前に決まった点数はない
基準点も合格点も、あらかじめ「何割」と決まってはいません。受験案内書には「一定の基準点」とあるだけで、算出方法は公表されていません。確実に言えるのは、筆記試験の後に年度ごとの数字が公表され、その数字が年によって動くということです。「例年7割」といった言い方で目標を固定すると、令和8年度の午前のように基準点が8割に達した年に足りなくなります。
合格点についても同じです。令和6年度の267.0点から令和7年度の255.0点へ12点下がりましたが、合格者数は737人と751人でほとんど変わっていません(法務省公表)。問題が難しい年は合格点が下がり、易しい年は上がる。点数の絶対値より、その年の中での位置で合否が決まっていると読めます。合格率と合格者数の読み方は司法書士試験の合格率と難易度で詳しく扱っています。
択一は3点刻み、記述式は小数第1位まで
択一式は1問3点なので、基準点は必ず3の倍数になります。78点は26問、72点は24問、84点は28問、75点は25問です。自分の目標も問題数で持つほうが、演習の結果と直接比べられます。
記述式の基準点と合格点は「83.0点」「255.0点」のように小数第1位まで公表されます。記述式の採点が択一式のような3点刻みではないことを示しています。ただし配点の内訳や採点基準は公表されていません。
上乗せ点を計算する
上乗せは「合格点から基準点の合計を引いた差」
3つの基準点をぎりぎりで超えても、合計は合格点に届きません。足りない分を、どこかのパートで基準点より多く取って埋める必要があります。この差が上乗せ点です。
| 年度 | 基準点の合計 | 合格点 | 上乗せ点 |
|---|---|---|---|
| 令和6年度 | 78+72+83.0=233点 | 267.0点 | 34点 |
| 令和7年度 | 78+72+70.0=220点 | 255.0点 | 35点 |
どちらの年も上乗せは30点台半ばでした。択一式は1問3点なので、35点は択一式およそ12問分にあたります。
同じ総合点でも合否が分かれる
令和7年度の数字で、3人の受験生を比べてみます。
| 受験生 | 午前択一 | 午後択一 | 記述式 | 総合点 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 93点 | 78点 | 84.0点 | 255.0点 | 合格 |
| B | 84点 | 81点 | 90.0点 | 255.0点 | 合格 |
| C | 102点 | 69点 | 84.0点 | 255.0点 | 不合格 |
3人とも総合点は255.0点です。Aは午前で15点、Bは記述式で20点の上乗せを作り、どちらも合格しています。Cは午前で24点も上乗せしましたが、午後の択一式が基準点72点に1問届かず、第1段階で不合格です。上乗せは、3つの基準点をすべて超えたあとでしか意味を持ちません。
この表から、学習の優先順位が1つ導けます。得意なパートをさらに伸ばす前に、最も基準点に近いパートを基準点の上へ安定させることです。Cの午前の24点の上乗せは、午後の1問の不足で全部無駄になりました。年度別過去問や模試の結果は、総合点ではなく3つのパートごとに基準点との差で記録してください。総合点だけを見ていると、Cのような崩れ方に気づけません。
上乗せを問題数に置き換える
上乗せ点は、問題数に直すと計画に落とし込めます。令和7年度の数字を使った設計例です。
| パート | 基準点 | 目標 | 上乗せ |
|---|---|---|---|
| 午前択一 | 78点・26問 | 90点・30問 | 4問・12点 |
| 午後択一 | 72点・24問 | 78点・26問 | 2問・6点 |
| 記述式 | 70.0点 | 87.0点 | 17点 |
| 合計 | 220点 | 255.0点 | 35点 |
この設計の意味は、各パートに求める上乗せが小さく見えることです。午前で4問、午後で2問、記述式で17点。どれか1つで35点を作ろうとするより、3つに分けたほうが1つあたりの負担は軽くなります。一方で、令和8年度のように択一式の基準点が上がる年もあります。午前の目標を30問に置いていても、基準点が28問なら上乗せは2問しか残りません。目標は、過去の数字の高いほうに合わせて持っておくのが安全です。
上乗せの配り方には相性がある
上乗せをどのパートで作るかは、受験生ごとに変わります。ただ、パートごとの性質の違いは押さえておいてください。午前の択一式は2時間で35問なので時間に余裕があり、知識の量がそのまま点に出ます。午後の択一式は記述式と同じ3時間を分け合うため、時間に削られます。記述式は配点が大きいぶん、1つの判断ミスで大きく崩れることがあります。配り方の具体的な設計は直前期の基準点戦略の上乗せ点の章で扱っています。
基準点の位置を得点分布で読む
基準点を超えるのは受験者の2〜3割
法務省は択一式について「得点順位別員数累計表」を公表しています。基準点以上の人の割合を拾うと次のようになります。
| 年度 | 午前択一 | 午後択一 |
|---|---|---|
| 令和7年度 | 78点以上 4,740人・32.02% | 72点以上 3,124人・21.67% |
| 令和8年度 | 84点以上 4,225人・27.54% | 75点以上 3,088人・20.64% |
割合は、表に記載された比率です。午前は午前の部の受験者、午後は午後の部の受験者に対する値です。2年分だけの比較ですが、点数が6点動いた午前に比べ、午後の基準点以上の割合はどちらの年も2割強でした。点数そのものより「受験者の中でどの位置か」のほうが動きが小さいことが分かります。
1問足りない人の数を見る
同じ表から、基準点にちょうど1問足りなかった人の数も読めます。
| 年度 | 区分 | 基準点の1問下 | その点数の人数 |
|---|---|---|---|
| 令和7年度 | 午前択一 | 75点 | 769人 |
| 令和7年度 | 午後択一 | 69点 | 623人 |
| 令和8年度 | 午前択一 | 81点 | 858人 |
| 令和8年度 | 午後択一 | 72点 | 590人 |
各年度・各部で、600人から900人近くが基準点の1問下に並んでいます。この人たちは、ほかのパートがどれだけ良くても、その時点で不合格です。基準点の周りは、それだけ人が密集している場所です。1問を拾う技術、たとえば組み合わせ問題の絞り込みや見直しの手順は、ここで効いてきます。手順は択一の解き方の手順にまとめています。
資料は法務省の年度別ページにまとまっている
ここで使った資料は、すべて法務省のホームページで公開されています。夏に「多肢択一式問題の基準点等について」と「得点順位別員数累計表」、秋に「合格点等について」「記述式問題得点別員数表」「総合得点別員数表」、11月に「最終結果について」が載ります。受験案内書と合わせて、年度ごとのページから辿れます。自分の年度別過去問の点数を判定するときも、この資料の数字を使ってください。
記述式の基準点は動きが大きい
記述式は、令和7年度の「記述式問題得点別員数表」に2,673人が載っていて、平均点は140点満点中69.3点でした。基準点70.0点以上の人は1,402人で、表に載った人のほぼ半数です。記述式の基準点は令和6年度の83.0点から令和7年度の70.0点へ13点動いています。択一式よりも年ごとの振れ幅が大きいパートだと考えてください。記述式で基準点を割る典型的な失点の型は記述式でよくあるミスで整理しています。
試験が終わったあとの自己採点
択一の結果は8月にほぼ確定する
択一式はマークシートで、正解と基準点が夏に公表されます。問題用紙に自分の解答を控えておけば、この時点で択一式の2つの基準点を超えたかどうかが分かります。ここで超えていなければ、記述式の出来にかかわらず結果は決まります。翌年に向けた計画に早めに移れるので、解答の控えは必ず取っておいてください。
記述式の自己採点は幅で持つ
記述式は採点基準が公表されないため、自己採点には誤差が出ます。模範解答と照らして書けていた枠を数えても、部分点がどう付くかは分かりません。自己採点は「低く見積もった場合」と「高く見積もった場合」の2つの数字で持ち、低いほうでも基準点と合格点に届くかを見るのが現実的です。
見積もりの手順は次のとおりです。
- 枠ごとに、登記の目的・原因日付・申請人・添付情報・登録免許税の各欄を、模範解答と一致・不一致・不明の3つに分ける
- 一致の欄だけを得点に数えたものを「低い見積もり」とする
- 不明の欄も得点に数えたものを「高い見積もり」とする
- 低い見積もりに択一式の得点を足し、合格点の過去の水準と比べる
枠ズレがあった場合は、ずれた枠以降を低い見積もりから外してください。記述式は1つの判断ミスが複数の枠に波及するので、楽観的な数字ほど外れやすくなります。
成績通知で次の年の設計を決める
法務省は、希望者に筆記試験の成績を郵送で通知しています。受験時に封筒へ住所と氏名を書いた人が対象です。不合格だった年は、3つのパートそれぞれの点数と、その年の基準点との差を並べてください。最も差が小さかったパート、あるいは下回ったパートが、翌年の学習時間を最初に回す場所になります。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
基準点の周りに人が密集している以上、合否を分けるのは難問ではなく、多くの受験生が正解する問題を落とさないことです。択一式では、正解率の高い基本論点の問題が大半を占めます。過去問で繰り返し問われた条文と判例の結論を、迷わず判断できる状態にしておくことが、そのまま基準点対策になります。
午後の択一式は民事訴訟法・供託法・民事執行法・民事保全法・司法書士法で例年11問前後が出題されます。範囲が狭く論点が固定されているので、ここで取りこぼさないことが基準点の安定に直結します。扱い方はマイナー科目の戦略を参照してください。
記述式との接続
記述式の基準点を超えるための最低条件は、白紙の枠を作らないことです。採点は枠ごとに積み上がると考えられるので、1つの枠を完璧にするより、すべての枠の登記の目的と原因日付を埋めるほうが点になります。午後の択一式に時間を使いすぎると記述式の枠が埋まらず、2つの基準点を同時に危うくします。配分は午後の部の時間配分で決めておいてください。
まとめ
- 合格には、午前択一・午後択一・記述式の3つの基準点をすべて超え、かつ総合点が合格点に達することが必要。
- 択一式の基準点は夏、記述式の基準点と合格点は秋に法務省が公表する。事前に決まった点数はない。
- 上乗せ点は合格点から基準点の合計を引いた差で、令和6年度は34点、令和7年度は35点だった。
- 総合点が合格点に届いていても、1つでも基準点を下回れば不合格になる。
- 択一式の基準点以上は受験者の2〜3割。基準点の1問下には毎年数百人が並ぶ。
- 択一式の結果は正解の公表時点でほぼ分かる。記述式の自己採点は幅を持って見る。
よくある質問
基準点は何割を目安にすればよいですか
公表された数字では、択一式の基準点は令和7年度が午前78点・午後72点、令和8年度が午前84点・午後75点でした。105点満点に対して7割弱から8割です。年度によって6点程度動くので、目安を置くなら高いほうの年に合わせてください。低い年の数字を目標にすると、基準点が上がった年に届かなくなります。
総合点が合格点を超えたのに不合格になることはありますか
あります。受験案内書と法務省の合格点の発表は、3つの基準点のどれか1つでも下回れば、それだけで不合格になると明記しています。総合点は、3つの基準点をすべて超えた人の中で使われる2段階目の条件です。
記述式の基準点が発表されるまで、何をしていればよいですか
択一式の基準点を超えていれば、記述式の結果を待つ間も学習を止めないことをすすめます。筆記試験に合格すれば口述試験があり、不合格なら翌年の筆記試験に向けた準備が必要になります。どちらになっても、登記法の知識を保っておくことは無駄になりません。
過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。