司法書士の年収と働き方:勤務・独立・法人・企業内の違い
司法書士の年収を公的データで確認できる範囲と、収入を左右する業務分野・地域・事務所の形を整理します。勤務・独立・司法書士法人・企業内の違い、合格後の研修と登録の費用、独立までの道筋まで。目指すか迷っている社会人・学生向け。

司法書士の年収は、公的な統計で「平均いくら」と言い切れる数字がありません。厚生労働省の賃金統計は司法書士を弁護士などとまとめて集計しており、日本司法書士会連合会の白書も収入額そのものは公表していないからです。確実に言えるのは、収入の大半が登記から生まれていること、そして勤務か独立か、どの業務分野を持つか、どの地域で働くかで収入の形が大きく変わることです。
この記事は、司法書士を目指すか迷っている社会人と学生に向けて書いています。日本司法書士会連合会の白書と厚生労働省の統計、e-Gov の司法書士法で確認できる範囲に限って、働き方の違い、収入を左右する要素、合格後の研修と登録の流れを整理します。予備校の調査や個人の体験談の数字は使いません。
司法書士の年収を公的データで確かめる
司法書士だけの年収を示す公的統計はない
年収の数字を探すと、まず厚生労働省の賃金構造基本統計調査に行き当たります。この調査は、事業所に雇われて働く労働者の賃金を集計するものです。職種の区分では、司法書士は「法務従事者」に入ります。同じ区分には弁護士、弁理士、海事補佐人、土地家屋調査士も含まれます。
つまり、この統計の「法務従事者」の賃金は、司法書士だけの数字ではありません。しかも雇われて働く人の数字なので、独立開業した司法書士の収入は入りません。この数字を「司法書士の平均年収」として読むと、実態とずれます。
日本司法書士会連合会は毎年「司法書士白書」を公表しています。2024年版と2025年版に載っている実態調査は、収入の金額ではなく、収入の内訳や業務の動向を尋ねたものです。この記事では、その範囲の数字を使います。

収入のおよそ8割は登記から生まれる
司法書士白書2024年版には、令和5年度の実態調査の結果が載っています。全会員23,015名に調査票を送り、2,848通の回答を得た調査です。回収率は12.4%でした。収入に占める業務の割合を尋ねた結果は次のとおりです。
| 業務の区分 | 収入に占める割合の平均 | 前回調査 |
|---|---|---|
| 登記 | 78.5% | 76.3% |
| 家事事件 | 12.8% | 12.3% |
| その他 | 4.9% | 3.5% |
| 民事事件 | 3.7% | 7.9% |
登記には不動産登記、商業・法人登記などが入ります。家事事件には家庭裁判所に出す書類の作成と後見人等への就任が、民事事件には簡易裁判所の代理や多重債務の事件などが入ります。白書は、登記が司法書士業務の中核であると述べています。
収入の柱が登記だという事実は、目指すかどうかを考えるうえで大事です。試験の中心が不動産登記法と商業登記法であることと、仕事の中心が登記であることは、きれいに対応しています。
事務所の形と人数の全体像
司法書士白書2025年版によると、令和6年4月1日現在の司法書士は23,156名、司法書士法人は1,194法人です。法人の数は、令和2年の741法人から増え続けています。
同じ白書の令和6年度の実態調査では、回答者1,790名の事務所の形態は次のとおりでした。全会員23,233名に送った調査で、回収率は7.7%です。回答した人の傾向であって、全体の正確な比率ではない点に注意してください。
| 事務所の形態 | 回答者に占める割合 |
|---|---|
| 個人事務所 | 77.7% |
| 司法書士法人 | 11.8% |
| 共同事務所 | 9.1% |
回答者の多くは個人事務所で働いています。ここから、司法書士の典型的な姿は、いまも個人で事務所を構える形だと読み取れます。
4つの働き方と収入の形
勤務司法書士:給与で働き、実務を学ぶ
合格して登録した直後の多くの人は、既存の事務所や法人に勤めて実務を覚えます。司法書士法は、司法書士法人に雇われて働く司法書士を「使用人」と呼んでいます(司法書士法22条2項2号)。
勤務の場合、収入は雇い主との契約で決まる給与です。事務所の売上が増えても、それがそのまま自分の収入になるわけではありません。代わりに、集客や経費の心配をせずに、登記の申請書の作り方、決済の立会い、依頼者への説明の仕方を、案件の数をこなしながら学べます。
独立開業:売上から経費を引いた残りが収入
独立すると、収入は事務所の売上から家賃、人件費、システムなどの経費を引いた残りになります。上限はなく、下限もありません。依頼が集まれば勤務時代を大きく上回る一方、開業直後は売上が立たない期間もあります。
司法書士の報酬は、法律で決まった額があるわけではありません。日本司法書士会連合会は、報酬の額や算定方法・諸費用を明示し、依頼者との合意によって決めると説明しています。連合会は2024年3月に実施した報酬アンケートの結果も公開しています。独立を考える段階では、自分が開業したい地域でどの程度の報酬が受け入れられているかを確かめることになります。

司法書士法人:社員として経営に加わる
司法書士は、司法書士法人を設立できます(司法書士法26条)。法人の社員、つまり出資して経営を担う者は、司法書士でなければなりません(同法28条1項)。法人は、従たる事務所を設けて複数の拠点で業務を行うことができます。
一方、個人の司法書士は、2つ以上の事務所を設けることができません(司法書士法施行規則19条)。拠点を増やして規模を大きくしたい場合は、法人の形を選ぶことになります。法人で働く場合、使用人として給与を受ける立場と、社員として経営の成果を受ける立場があり、収入の形はまったく違います。
企業内:会社員として法務の仕事をする
司法書士試験の知識は、企業の法務部や総務部でも生きます。株主総会の運営、役員の変更、組織再編の手続は、会社法と商業登記法の知識そのものです。この場合の収入は、その会社の給与体系で決まります。
注意したいのは、司法書士の業務は「他人の依頼を受けて」行うものだという点です(司法書士法3条1項)。会社が自社の登記を申請するのは、会社自身による申請です。また、司法書士の登録には事務所の所在地が必要で(同法8条1項)、事務所を設ける義務もあります(同法20条)。企業に勤めながら登録を維持するかどうかは、所属しようとする司法書士会の会則の確認が必要です。
4つの働き方をまとめます。
| 働き方 | 収入の決まり方 | 主な利点 | 主な負担 |
|---|---|---|---|
| 勤務司法書士 | 雇い主との契約による給与 | 経費の負担なく実務を学べる | 売上が増えても収入に直結しない |
| 独立開業 | 売上から経費を引いた残り | 上限がない、業務を選べる | 集客と経営の責任をすべて負う |
| 司法書士法人 | 使用人は給与、社員は経営の成果 | 複数の拠点で業務ができる | 社員は経営責任を負う |
| 企業内 | 会社の給与体系 | 収入が安定しやすい | 司法書士としての業務とは性格が違う |
収入を左右する要素
業務分野:どの登記・どの事件を扱うか
同じ司法書士でも、扱う業務で依頼の集まり方と収入の形が変わります。主な分野と、その仕事を支える条文を並べます。
| 業務分野 | 主な仕事 | 根拠 |
|---|---|---|
| 不動産登記 | 売買・相続・抵当権の設定や抹消の登記の申請 | 司法書士法3条1項1号・2号 |
| 商業登記 | 会社の設立、役員の変更、組織再編の登記の申請 | 司法書士法3条1項1号・2号 |
| 相続 | 相続登記、家庭裁判所に出す書類の作成 | 司法書士法3条1項1号・4号 |
| 成年後見 | 後見人等への就任と財産管理 | 家庭裁判所の選任による |
| 簡裁代理 | 140万円以下の民事事件の代理 | 司法書士法3条1項6号・2項 |
不動産登記は、不動産の取引や金融機関の融資と結びついているため、取引先との継続的な関係から依頼が来やすい分野です。商業登記は、役員の任期が来るたびに変更の登記が必要になるため、顧問先の会社から繰り返し依頼が来ます。どちらも、取引先を持つかどうかで売上が大きく変わります。
相続登記の義務化で相続の相談が増えている
令和6年4月1日に相続登記の申請が義務化されました。司法書士白書2025年版の令和6年度の実態調査では、過去5年間に相続・遺言関係の相談を受けた回答者1,756名のうち73.3%が、令和5年以降に相談件数が「増えた」と答えています。
同じ調査では、事務所のある自治体の人口が少ないほど「増えた」と答えた人の割合が高い傾向も示されています。白書は、相続の手続が長く放置されていた不動産について、義務化をきっかけに相談が増えたのではないかと分析しています。義務化の中身は相続登記の義務化とやり方で扱っています。
簡裁代理と認定司法書士
簡易裁判所で訴訟の代理をするには、特別研修を修了し、法務大臣の認定を受ける必要があります(司法書士法3条2項)。令和6年4月1日現在、認定司法書士は18,297名で、司法書士全体の79.0%です。
ただし、収入の内訳を見ると、民事事件の割合は平均3.7%で、前回調査の7.9%から半減しています。認定を受けることは多くの司法書士にとって標準になっていますが、それだけで収入の柱になるとは限りません。認定の仕組みは認定司法書士と簡裁訴訟代理で詳しく扱っています。

地域:司法書士の数と依頼の量
司法書士は都市部に集まっています。令和6年4月1日現在、東京会の会員は4,638名で、全国の約2割にあたります。都市部は依頼の量が多い一方、司法書士の数も多く競合も多くなります。人口の少ない地域では、司法書士の数が少なく、相続の相談が増えている傾向は先に見たとおりです。
合格から登録・独立までの道筋
合格後の新人研修
司法書士試験に最終合格すると、多くの人は日本司法書士会連合会などが行う新人研修を受けます。研修は次の3つで構成されています。
| 研修 | 内容 |
|---|---|
| 中央新人研修 | 職責と使命の自覚、法律の理論と実務。司法書士・弁護士・大学教授が講師 |
| ブロック新人研修 | 実務を具体的に示し、職責に堪える資質を養う |
| 司法書士会研修 | 司法書士事務所で日常の執務を経験する実務研修 |
司法書士白書2025年版によると、令和6年度試験の合格者737名のうち656名、89.0%が令和6年度の中央新人研修を受講しました。新人研修は受講料がかかります。研修の詳細と費用は、日本司法書士会連合会と各司法書士会の案内で確認してください。
登録した後も、司法書士は所属する司法書士会と日本司法書士会連合会が実施する研修を受け、資質の向上を図るよう努めなければなりません(司法書士法25条)。簡裁代理の認定に必要な特別研修は、白書によると約100時間をかけて行われます。
登録と司法書士会への入会
試験に合格しただけでは、司法書士の業務はできません。日本司法書士会連合会の司法書士名簿に登録を受けて初めて司法書士になります(司法書士法8条1項)。
登録の申請は、事務所を設けようとする地を管轄する法務局の管轄区域に設立された司法書士会を経由して行います(同法9条1項)。申請と同時に、その司法書士会に入会する手続をとらなければなりません(同法57条1項)。入会の手続をとらないと、登録は拒否されます(同法10条1項1号)。司法書士会に入会していない者は、登記の代理などの業務を行えません(同法73条1項)。
登録の際にかかる費用のうち、金額を確認できるものは次のとおりです。
| 費用 | 金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 30,000円 | 登録免許税法別表第一32号(五)イ |
| 登録手数料 | 25,000円 | 日本司法書士会連合会会則 |
| 入会金・会費 | 司法書士会ごとに異なる | 各司法書士会の会則 |
入会金と毎月の会費は、所属する司法書士会によって金額が違います。開業を考えている地域の司法書士会で確認してください。

独立までの典型的な道筋
司法書士の多くは、次の順序で独立に向かいます。
- 最終合格の後、新人研修を受ける
- 事務所や法人に勤めて登録し、実務を覚える
- 特別研修を受け、簡裁代理の認定を得る
- 取引先や得意分野を固めてから独立する、または法人の社員になる
勤務の期間に決まった年数はありません。不動産の決済、会社の登記、相続の案件を一通り経験し、取引先との関係を作れるかどうかが独立の目安になります。
白書2025年版によると、令和5年度に試験合格によって新たに登録した人は660名、法務大臣の認定によって登録した人は52名でした。同じ年度の登録取消は613名です。毎年、合格者の多くがこの流れに入っていきます。
目指すか迷っている人のための判断材料
年齢構成から見る参入のしやすさ
令和6年4月1日現在、司法書士の平均年齢は54.9歳です。年代別では40歳代が30.7%、50歳代が23.8%で、この2つで過半数を占めます。20歳代は1.0%、30歳代は10.1%です。
現役の司法書士の中心は40代と50代で、若いうちに登録しなければ居場所がない世界ではありません。受験資格に年齢や学歴の制限もありません。働きながらの学習の組み立ては社会人が働きながら司法書士試験に合格するための設計で扱っています。
年収より先に考えたいこと
年収の数字が見つからない以上、判断の軸は「どの仕事をしたいか」に置くほうが確実です。登記の申請書を正確に作る仕事、相続で困っている人の手続を整える仕事、会社の機関の変更を支える仕事。そのどれに興味が持てるかで、向き不向きが見えてきます。
似た資格との違いで迷っているなら、司法書士と行政書士の違いも参考にしてください。試験の難しさは司法書士試験の合格率と難易度、合格までの全体像は合格ロードマップにまとめています。

試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
午後の部の司法書士法では、この記事で扱った登録・入会・法人・研修の条文が肢になります。押さえたいのは次の点です。
- 司法書士名簿の登録は日本司法書士会連合会が行う(司法書士法8条2項)
- 登録の申請は、事務所を設けようとする地の司法書士会を経由する(同法9条1項)
- 登録の申請と同時に司法書士会への入会の手続をとる(同法57条1項)
- 司法書士法人の社員は司法書士でなければならない(同法28条1項)
- 司法書士会に入会していない者は3条1項1号から5号の業務を行えない(同法73条1項)
「司法書士試験に合格すれば、登録を受けなくても業務を行える」という肢は誤りです。業務範囲の全体は司法書士法の業務範囲で整理しています。
記述式との接続
収入の約8割が登記だという実態は、記述式の重さと重なります。不動産登記と商業登記の記述式は、事実関係から必要な登記を判断し、申請書の内容を正確に書く問題です。これは、司法書士が毎日している仕事そのものです。
合格後の口述試験でも、不動産登記と商業登記の知識が問われます。口述試験の範囲と準備は司法書士試験の口述試験で扱っています。
まとめ
- 司法書士だけの平均年収を示す公的統計はない。賃金構造基本統計調査の「法務従事者」は弁護士なども含み、雇われて働く人だけの数字
- 白書2024年版の実態調査では、収入に占める登記の割合は平均78.5%
- 働き方は勤務・独立・司法書士法人・企業内の4つで、収入の決まり方がそれぞれ違う
- 収入を左右するのは、業務分野、取引先の有無、地域、事務所の形
- 業務を始めるには、司法書士会を経由した登録と、同時の入会が必要。登録免許税は30,000円、登録手数料は25,000円
- 合格後は新人研修を受け、勤務で実務を覚えてから独立する流れが典型
よくある質問
司法書士の平均年収はいくらですか
司法書士だけを対象にした公的な年収の統計は見当たりません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は、司法書士を弁護士や弁理士と同じ「法務従事者」として集計しており、独立開業した人の収入も含みません。日本司法書士会連合会の白書は、収入の金額ではなく内訳を公表しています。平均額を示す数字を見かけたら、どの調査の、誰を対象にした数字かを確認してください。
合格してすぐに独立開業できますか
制度上はできます。司法書士名簿に登録を受け、司法書士会に入会すれば、登録の日から業務を行えます。ただし、新人研修のうち司法書士会研修は、事務所で日常の執務を経験する実務研修です。決済の立会いや依頼者への説明など、試験では学べない部分が多いため、勤務で経験を積んでから独立する人が多い流れです。
企業の法務部で働く場合も司法書士登録は必要ですか
会社員として法務の仕事をするだけなら、司法書士の登録は必要ありません。会社が自社の登記を申請するのは、会社自身による申請だからです。ただし、登録していない人は司法書士やこれに紛らわしい名称を使えません(司法書士法73条3項)。他人の依頼を受けて登記の代理などを業として行うには、登録と司法書士会への入会が必要です。企業に勤めながら登録を維持したい場合は、事務所の要件があるため、所属しようとする司法書士会に確認してください。

