株式会社の設立登記:発起設立の流れと添付書面
株式会社の発起設立を、定款の作成・認証から出資、設立時役員の選任、調査、登記申請まで時系列で整理。商業登記法47条の添付書面、印鑑証明書と本人確認証明書、登録免許税の最低15万円まで受験生向けに解説します。
株式会社の設立登記は、会社法の設立手続と商業登記法の添付書面が一対一で対応する論点です。設立手続の各段階で「誰が何を決めたか」を書面で示す。これが添付書面のすべてです。
結論を先に言うと、発起設立の設立登記は次の順で組み立てると整理できます。発起人が定款を作り、公証人の認証を受ける。発起人が出資し、設立時取締役を選任する。設立時取締役が調査をする。代表者が登記を申請し、申請の日に会社が成立する。添付書面は、この流れの各段階を証明する書面を並べたものです。
この記事は、会社法の設立を一度読んだ受験生で、添付書面がまだ流れと結びついていない人向けです。会社法・商業登記法全体の学習順序は会社法・商業登記法の勉強法で扱っています。
発起設立と募集設立
2つの方法の違い
株式会社の設立方法は2つです(会社法25条1項)。発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける発起設立と、発起人が引き受けるほか、引き受ける者を募集する募集設立です。どちらでも、各発起人は1株以上を引き受けなければなりません(同条2項)。
| 項目 | 発起設立 | 募集設立 |
|---|---|---|
| 株式を引き受ける者 | 発起人のみ | 発起人と募集に応じた引受人 |
| 設立時取締役の選任 | 発起人が選任(38条) | 創立総会で選任 |
| 払込みを証する書面 | 払込みがあったことを証する書面 | 払込取扱機関の保管証明書(64条1項) |
| 創立総会 | ない | ある。議事録が添付書面になる |
| 登記期間の起算点 | 調査終了日と発起人が定めた日の遅い方 | 創立総会の終結の日など |
試験でも実務でも中心は発起設立です。以下では発起設立を基準にし、募集設立は差分として触れます。持分会社を含む会社の種類の違いは株式会社と合同会社の違いで整理しています。
定款の作成と認証
発起人が定款を作成し、全員が署名または記名押印します(26条1項)。電磁的記録で作成することもできます(同条2項)。定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じません(30条1項)。
定款の絶対的記載事項は、目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所の5つです(27条)。発行可能株式総数は認証時の定款になくてもよく、会社の成立の時までに発起人全員の同意で定款を変更して定めれば足ります(37条1項)。公開会社では、設立時発行株式の総数は発行可能株式総数の4分の1を下回れません(37条3項)。
変態設立事項と検査役
現物出資、財産引受、発起人の報酬その他の特別の利益、設立費用は、定款に記載しなければ効力を生じません(28条)。これらを変態設立事項といい、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要です(33条1項)。
現物出資と財産引受については、次の場合に検査役の調査が不要になります(33条10項)。
- 定款に記載された価額の総額が500万円を超えない場合
- 市場価格のある有価証券で、定款の価額が市場価格として算定される額を超えない場合
- 価額が相当であることについて弁護士、公認会計士、税理士などの証明を受けた場合。不動産はこれに加えて不動産鑑定士の鑑定評価が必要
検査役の調査が不要な場合でも、設立時取締役による調査は必要です(46条1項1号・2号)。登記の場面では、変態設立事項の定めがあるときに次の書面が加わります(商業登記法47条2項3号・4号)。
| 場面 | 添付書面 |
|---|---|
| 検査役の調査を受けた | 検査役の調査報告とその附属書類 |
| 検査役の調査が不要な場合 | 設立時取締役などの調査報告とその附属書類 |
| 市場価格のある有価証券 | 有価証券の市場価格を証する書面 |
| 弁護士などの証明を受けた | 証明を記載した書面とその附属書類 |
| 裁判所が定款の定めを変更した | 検査役の報告に関する裁判の謄本 |
出資から設立時役員の選任・調査まで
出資の履行と発起人の決定事項
発起人は、引き受けた株式について、遅滞なく出資の全額を払い込み、または現物出資財産の全部を給付します(34条1項)。金銭の払込みは、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所でしなければなりません(同条2項)。出資をしない発起人がいるときは、期日を定めて履行を通知し、期日までに履行しなければその発起人は株主となる権利を失います(36条)。
定款に定めがない次の事項は、発起人全員の同意で定めます(32条1項)。
| 決定事項 | 決定方法 |
|---|---|
| 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数 | 発起人全員の同意 |
| その株式と引換えに払い込む金銭の額 | 発起人全員の同意 |
| 成立後の資本金および資本準備金の額に関する事項 | 発起人全員の同意 |
| 発行可能株式総数の定款変更 | 発起人全員の同意(37条) |
資本金の額は、払込みまたは給付をした財産の額が原則で、その2分の1を超えない額は資本準備金にできます(445条1項〜3項)。
設立時役員の選任
出資の履行が完了した後、発起人は遅滞なく設立時取締役を選任します(38条1項)。監査役設置会社であれば設立時監査役も選任します(同条3項2号)。選任は、発起人の議決権の過半数で決定し、議決権は出資の履行をした設立時発行株式1株につき1個です(40条1項・2項)。頭数の過半数ではない点に注意してください。
定款で設立時取締役などを定めた場合は、出資の履行が完了した時に選任されたものとみなされます(38条4項)。この場合、選任の書面は要らず、定款が選任を証明します。
取締役会設置会社では、設立時取締役は3人以上必要です(39条1項)。設立時取締役の中から、設立時取締役の過半数で設立時代表取締役を選定します(47条1項・3項)。取締役会を置かない会社では、代表取締役を定めなければ各取締役が会社を代表するので(349条1項・2項)、設立時取締役の全員が代表取締役として登記されます。
設立時取締役の調査と登記期間
設立時取締役は、選任後遅滞なく、現物出資財産等の価額の相当性、出資の履行の完了、設立手続が法令・定款に違反していないことを調査します(46条1項)。監査役設置会社では設立時監査役も調査します。
発起設立の登記は、この調査が終了した日と、発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内に、本店の所在地でしなければなりません(911条1項)。株式会社は本店の所在地で設立の登記をすることによって成立します(49条)。成立の日は登記が完了した日ではなく、登記を申請した日です。
申請人と登記すべき事項
申請人は会社を代表すべき者
設立の登記は、会社を代表すべき者の申請によってします(商業登記法47条1項)。発起人が申請するのではありません。取締役会設置会社なら設立時代表取締役、取締役会を置かない会社で代表取締役を定めなければ各設立時取締役です。
登記すべき事項
登記すべき事項は911条3項が列挙しています。受験生がまず押さえる項目は次のとおりです。
| 区分 | 主な登記事項 |
|---|---|
| 会社の基本 | 目的、商号、本店の所在場所、公告方法 |
| 株式 | 資本金の額、発行可能株式総数、発行済株式の総数、発行する株式の内容、株式の譲渡制限 |
| 機関 | 取締役の氏名、代表取締役の氏名および住所、取締役会設置会社である旨、監査役設置会社である旨と監査役の氏名 |
| 任意の定め | 存続期間・解散の事由、単元株式数、責任免除・責任限定契約の定め、電子提供措置をとる旨の定め |
2021年3月施行の会社法改正に関連して、株主総会資料の電子提供措置をとる旨の定款の定めが登記事項に加わりました(911条3項12号の2)。支店所在地における登記は2022年9月から廃止されています。また、2024年10月からは、一定の書面を添付して申し出ることで、代表取締役の住所のうち行政区画以外の部分を登記事項証明書に表示しない措置がとれるようになりました(商業登記規則31条の3)。登記事項そのものは変わらず、証明書での表示の問題です。
添付書面
一覧:設立手続のどの段階を証明するか
発起設立で問われる添付書面を、証明する段階ごとに並べます。
| 添付書面 | 証明すること | 根拠 |
|---|---|---|
| 定款 | 公証人の認証を受けた定款 | 商業登記法47条2項1号 |
| 発起人全員の同意または一致を証する書面 | 32条の事項、発行可能株式総数、本店の所在場所の決定など | 同条3項 |
| 設立時取締役等の選任を証する書面 | 発起人の議決権の過半数による選任。定款で定めた場合は不要 | 同条3項 |
| 設立時代表取締役の選定を証する書面 | 取締役会設置会社での選定 | 同条2項7号 |
| 就任承諾書 | 設立時取締役・設立時代表取締役・設立時監査役の承諾 | 同条2項10号 |
| 払込みがあったことを証する書面 | 金銭出資の全額払込み | 同条2項5号 |
| 調査報告書とその附属書類 | 変態設立事項があるときの調査結果 | 同条2項3号 |
| 印鑑証明書 | 就任承諾書に押した印鑑 | 商業登記規則61条4項・5項 |
| 本人確認証明書 | 印鑑証明書を添付しない設立時取締役・設立時監査役の氏名・住所 | 同条7項 |
| 資本金計上証明書 | 資本金の額が法令に従って計上されたこと | 同条9項 |
| 委任状 | 代理人が申請するとき | 商業登記法18条 |
定款で最小行政区画までしか本店の所在地を定めていないときは、具体的な所在場所を発起人の過半数の一致で決め、その一致を証する書面を添付します。資本金計上証明書は、出資が金銭のみの設立では添付を要しない取扱いです。株主総会がまだ存在しないので、株主リストは設立の登記では問題になりません。
印鑑証明書と本人確認証明書の組合せ
印鑑証明書の対象は、取締役会の有無で変わります。
| 会社の機関 | 印鑑証明書が必要な者 | 本人確認証明書が必要な者 |
|---|---|---|
| 取締役会を置かない会社 | 設立時取締役の全員 | 設立時監査役 |
| 取締役会設置会社 | 設立時代表取締役 | 代表取締役以外の設立時取締役、設立時監査役 |
取締役会を置かない会社では、設立時取締役全員が就任承諾書に押した印鑑について印鑑証明書を添付します(規則61条4項)。取締役会設置会社では、読み替えにより設立時代表取締役の分だけになります(同条5項)。本人確認証明書は住民票の写しなどで、印鑑証明書を添付する者については不要です(同条7項ただし書)。役員変更の登記でも同じ組合せが出てくるので、役員変更登記の添付書面と並べて覚えると効率的です。
2021年3月施行の会社法改正で、取締役の欠格事由から成年被後見人と被保佐人が外れ、成年後見人が本人に代わって就任を承諾する仕組みができました(会社法331条の2、39条5項による準用)。この場合、印鑑証明書や本人確認証明書は、承諾をした成年後見人などについて添付します(規則61条4項・7項の括弧書)。
払込みを証する書面と募集設立の違い
発起設立では、払込みがあったことを証する書面を添付します。設立時代表取締役などが払込みの事実を証明し、払込取扱機関の口座に入金されたことが分かる通帳の写しなどを合わせた書面を用いるのが一般的な形です。
募集設立では、払込取扱機関が作成する払込金の保管に関する証明書が必要です(商業登記法47条2項5号括弧書、会社法64条1項)。引受人の払込みを発起人以外の第三者が確認する仕組みで、発起設立との大きな違いです。募集設立ではさらに、引受けの申込みを証する書面と創立総会の議事録が加わります(商業登記法47条2項2号・9号)。
登録免許税
資本金の1000分の7、最低15万円
株式会社の設立の登記の登録免許税は、資本金の額の1000分の7です。計算した税額が15万円に満たないときは、申請1件につき15万円になります(登録免許税法別表第一第24号(一)イ)。
| 資本金の額 | 1000分の7 | 登録免許税 |
|---|---|---|
| 300万円 | 21,000円 | 150,000円 |
| 1000万円 | 70,000円 | 150,000円 |
| 3000万円 | 210,000円 | 210,000円 |
| 1億円 | 700,000円 | 700,000円 |
資本金が小さい会社では、ほぼ最低税額の15万円になります。合同会社の設立は同じ1000分の7でも最低額が6万円である点(同号(一)ハ)と比較して押さえてください。
設立と同時に申請する登記はない
設立の登記は1件の申請で、役員の就任や本店の所在場所もすべてその中の登記事項になります。役員ごとに別の税額が加算されることはありません。設立後に本店を移転すると本店移転の登記が別に必要になり、税額も別に生じます。本店移転の登記は本店移転登記で扱っています。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
- 申請人:会社を代表すべき者。発起人ではない
- 成立の時期:設立の登記の申請日。登記完了日ではない
- 登記期間:発起設立は46条の調査終了日と発起人が定めた日の遅い方から2週間
- 選任の方法:設立時取締役は発起人の議決権の過半数。定款で定めれば選任擬制で選任書面は不要
- 印鑑証明書:取締役会を置かない会社は設立時取締役全員、取締役会設置会社は設立時代表取締役
- 払込み:発起設立は払込みを証する書面、募集設立は保管証明書
- 検査役:500万円以下、市場価格のある有価証券、専門家の証明の3つで不要
- 登録免許税:資本金の1000分の7、最低15万円
記述式との接続
商業登記の記述式で設立そのものが出る頻度は高くありませんが、出題されれば登記すべき事項の欄が長くなり、書き漏れがそのまま失点になります。
- 別紙の定款から、目的・商号・発行可能株式総数・譲渡制限・公告方法・機関設計を順に拾う
- 取締役会の有無を最初に確定し、印鑑証明書と本人確認証明書の対象者を決める
- 定款で設立時役員を定めているかを確認し、選任書面の要否を決める
- 資本金の額は払込額と資本準備金の定めから計算し、登録免許税の最低額と比較する
別紙の読み方と答案構成の型は記述式(商業登記)の答案構成で扱っています。機関設計の組合せは取締役会設置会社と非設置会社の違いで確認してください。
まとめ
- 発起設立は、定款の作成・認証、出資、設立時役員の選任、調査、登記申請の順で進む
- 申請人は会社を代表すべき者で、会社は設立の登記の申請日に成立する
- 登記期間は、調査終了日と発起人が定めた日の遅い方から2週間以内
- 添付書面は各段階の証明。定款、発起人の同意書、選任・選定の書面、就任承諾書、払込みを証する書面
- 印鑑証明書は、取締役会を置かない会社では設立時取締役全員、取締役会設置会社では設立時代表取締役
- 登録免許税は資本金の1000分の7、最低15万円
よくある質問
設立の登記で株主リストは必要ですか
必要ありません。株主リストは、登記すべき事項について株主総会の決議や株主全員の同意を要する場合に添付するものです(商業登記規則61条2項・3項)。発起設立では株主総会が存在せず、決定は発起人がするので、発起人の同意や一致を証する書面を添付します。
定款で設立時取締役を定めた場合も就任承諾書は必要ですか
必要です。定款で定めた場合は選任されたものとみなされるので選任の書面は不要になりますが、就任するかどうかは本人の意思によります。就任承諾書は商業登記法47条2項10号で添付書面とされています。
資本金1円でも設立できますか。登録免許税はいくらですか
会社法に最低資本金の定めはないので、資本金1円の株式会社も設立できます。登録免許税は1000分の7で計算すると15万円に満たないので、最低額の15万円になります。資本金を小さくしても登録免許税は下がらない点を押さえてください。
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