抵当権設定登記:登記事項と添付情報
抵当権設定登記を、登記原因の書き方、申請人と債務者の区別、申請情報に記載する登記事項、添付情報、利益相反の承認、共同担保と追加設定、登録免許税の順に整理。司法書士試験の択一と記述式で差がつく論点を受験生向けに解説します。
抵当権設定登記は、所有権移転登記と並ぶ不動産登記法の基本の申請です。記述式では売買と連件で出ることが多く、択一でも登記事項・添付情報・登録免許税の細部が繰り返し問われます。
結論を先に言うと、抵当権設定登記で間違えやすいのは3点です。第1に、申請人は抵当権者と設定者であり、債務者は申請人ではないこと。第2に、登記原因は「被担保債権の発生原因」と「設定契約」を組み合わせて書くこと。第3に、住所証明情報は不要で、印鑑証明書は設定者が所有権の登記名義人のときに必要になること。
本記事では、民法の抵当権の基本を確認したうえで、申請情報・添付情報・共同担保・登録免許税を条文に沿って整理します。抵当権と根抵当権の実体法上の違いは抵当権と根抵当権の違いで、不動産登記法の学習全体は不動産登記法の勉強法で扱っています。
抵当権設定契約と登記の関係
抵当権は非占有の約定担保
民法369条1項は、抵当権者は、債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定めます。2項により、地上権と永小作権も抵当権の目的にできます。
抵当権は、抵当権者と設定者の設定契約で成立します。登記は成立要件ではなく、第三者に対する対抗要件です(民法177条)。同じ不動産に複数の抵当権があれば、その順位は登記の前後で決まります(民法373条)。登記の順位が優先弁済の順位そのものになるので、金融機関は設定契約と同時に登記を求めます。
設定者と債務者は別の概念
抵当権の当事者は抵当権者と設定者です。債務者は被担保債権の債務者で、設定者と同じ人とは限りません。第三者が自分の不動産に抵当権を設定すれば、その第三者は物上保証人になります。
| 立場 | 意味 | 登記上の扱い |
|---|---|---|
| 抵当権者 | 被担保債権の債権者 | 登記権利者として申請する |
| 設定者 | 目的不動産の所有者など | 登記義務者として申請する |
| 債務者 | 被担保債権の債務者 | 登記事項として記録される。申請人ではない |
債務者は登記事項(不動産登記法83条1項2号)ですが、申請人ではありません。記述式で債務者を義務者欄に書くのは典型的な枠ズレです。
登記原因は債権と設定契約を組み合わせる
抵当権は特定の債権を担保するので、登記原因には被担保債権の発生原因を示します。一般的な型は次のとおりです。
| 被担保債権 | 登記原因の型 |
|---|---|
| 金銭消費貸借による貸金債権 | 年月日金銭消費貸借同日設定 |
| 保証委託契約による求償債権 | 年月日保証委託契約による求償債権同日設定 |
| 既存の債務を消費貸借の目的とした債権 | 年月日準消費貸借同日設定 |
最初の日付は債権の発生原因となる契約の日、「同日設定」は設定契約の日です。設定契約が別の日なら「年月日設定」と日付を分けて書きます。金銭の交付前に設定契約をした場合でも、将来の債権を担保する抵当権として有効とされており、登記も可能です。
申請人と申請情報
共同申請の構造
抵当権設定登記は、抵当権者を登記権利者、設定者を登記義務者とする共同申請です(法60条)。設定者が所有権の登記名義人であれば、義務者として登記識別情報と印鑑証明書を提供します。
抵当権者には、登記完了後に抵当権についての登記識別情報が通知されます(法21条)。この登記識別情報は、後に抵当権を抹消するときや移転するときに、抵当権者が義務者として提供するものです。
申請情報に記載する登記事項
抵当権の登記事項は、権利に関する登記の共通事項(法59条)に、担保権共通の事項(法83条1項)と抵当権固有の事項(法88条1項)を加えたものです。申請情報には、これらを記載します(不動産登記令別表55項申請情報欄)。架空の例で骨格を示します。
| 項目 | 記載の例 |
|---|---|
| 登記の目的 | 抵当権設定 |
| 原因 | 年月日金銭消費貸借同日設定 |
| 債権額 | 金○○万円 |
| 利息 | 年○% |
| 損害金 | 年○% |
| 債務者 | 債務者の住所・氏名 |
| 抵当権者 | 抵当権者の住所・氏名 |
| 設定者 | 設定者の住所・氏名 |
| 添付情報 | 登記原因証明情報、登記識別情報、印鑑証明書、代理権限証明情報 |
| 課税価格 | 金○○万円 |
| 登録免許税 | 金○円 |
利息と損害金は、定めがあるときだけ記載します(法88条1項1号・2号)。このほか、債権に付した条件、民法370条ただし書の別段の定め、抵当権の目的が所有権以外の権利であるときはその権利、共同担保のときは他の不動産も記載事項になります。利息と損害金が登記事項になる理由は、民法375条が優先弁済の範囲を最後の2年分に限っていることと結びついています。この点は抵当権と根抵当権の違いで詳しく扱っています。
債権の一部・持分・地上権を目的とする場合
実務と試験で出る変形を押さえておきます。
- 債権の一部を担保する場合:「債権額 金○万円のうち金○万円」のように、担保する範囲を示して設定できる
- 共有持分を目的とする場合:登記の目的を「何某持分抵当権設定」とする。共有者の持分は独立して処分できるので抵当権の目的になる
- 所有権の一部を目的とする場合:単独所有の不動産の「2分の1」について抵当権を設定することはできない。持分として独立していないからである
- 地上権を目的とする場合:民法369条2項により可能。登記の目的は「何番地上権抵当権設定」とし、付記登記でされる(不動産登記規則3条5号)
持分と所有権の一部の区別は、択一で好んで問われます。
添付情報
抵当権設定登記の添付情報
| 添付情報 | 誰の・何のために | 根拠 |
|---|---|---|
| 登記原因証明情報 | 被担保債権と設定契約の存在を示す | 法61条、令別表55項添付情報欄 |
| 登記識別情報 | 設定者のもの | 法22条 |
| 印鑑証明書 | 設定者が所有権の登記名義人のとき。作成後3か月以内 | 令16条・18条、規則47条・48条 |
| 代理権限証明情報 | 代理人が申請するとき | 令7条1項2号 |
| 会社法人等番号 | 申請人が法人のとき | 令7条1項1号イ |
| 第三者の承諾を証する情報 | 利益相反の承認などが必要なとき | 令7条1項5号ハ |
住所証明情報は不要です。住所証明情報は所有権の保存・移転で、新たに所有権の登記名義人となる者について求められるもので、抵当権者はこれに当たりません。売買の登記との差分として押さえてください。
印鑑証明書の要否は設定者の立場で決まる
印鑑証明書が必要になるのは、設定者が所有権の登記名義人として登記義務者になるからです。地上権を目的とする抵当権の設定では、設定者は地上権者であり、所有権の登記名義人ではありません。この場合、登記識別情報を提供して申請する限り、書面申請でも印鑑証明書は不要です(規則47条3号・48条5号)。
設定者が登記識別情報を提供できない場合の扱いは、登記識別情報と添付情報で整理しています。
利益相反の承認と承諾を証する情報
抵当権設定では、設定行為そのものが利益相反取引に当たる場面が出ます。登記原因について第三者の同意や承諾を要するときは、それを証する情報を提供します(令7条1項5号ハ)。
| 場面 | 必要な手続 |
|---|---|
| 株式会社が、取締役個人の債務のために会社所有の不動産に抵当権を設定する | 株主総会の承認。取締役会設置会社では取締役会の承認(会社法356条1項3号・365条1項) |
| 親権者の債務のために、子の所有する不動産に抵当権を設定する | 家庭裁判所が選任した特別代理人による設定(民法826条1項) |
会社の例は、会社と取締役が直接取引するのではなく、会社が取締役の債務を担保する間接取引です。承認をしたことを証する議事録などを、承諾を証する情報として提供します。親権者の例では、特別代理人が子を代理して設定契約と申請をするので、選任の審判書は代理権限を証する情報として扱います。記述式では、別紙の登記事項証明書で会社の代表取締役と債務者が同一人であることに気づけるかが問われます。
前提登記と当事者の死亡
抵当権設定の申請書そのものは単純でも、申請の前提となる事情で枠が崩れることがあります。記述式で見落としやすい2つの場面を確認します。
登記前に当事者が死亡した場合
設定契約をした後、登記を申請する前に当事者が死亡することがあります。この場合は不動産登記法62条により、相続人が被相続人の地位で申請します。
| 死亡した者 | 処理 |
|---|---|
| 設定者 | 設定者の相続人全員が登記義務者の地位で、抵当権者と共同して申請する。設定者名義のまま抵当権設定登記をし、相続登記を前提にしない |
| 抵当権者 | 抵当権者の相続人が登記権利者の地位で申請し、死亡した抵当権者名義で設定登記をする。その後、相続による抵当権移転の登記をする |
設定者が死亡したケースで、先に相続登記を入れてから相続人を設定者として申請するのは誤りです。抵当権は生前の設定契約で成立しており、相続人が設定したわけではないからです。この考え方は売買の登記前に当事者が死亡した場合と同じ構造です。
前提としての住所変更登記
設定者の登記記録上の住所が現在の住所と違うときは、登記義務者の住所が登記記録と合致しないとして申請が却下されます(法25条7号)。前提として、設定者の住所変更の登記を申請します。記述式では、印鑑証明書の住所と登記記録の住所を照合する習慣をつけてください。住所変更登記そのものの申請義務は住所変更登記の義務化の記事で扱っています。
共同担保と追加設定
同時に設定する場合
同一の債権を担保するために複数の不動産に抵当権を設定するのが共同抵当です。登記事項として、他の不動産とその権利が記録され(法83条1項4号)、登記官は共同担保目録を作成できます(法83条2項)。
同じ登記所に同時に申請するときは、これらを1つの抵当権設定登記とみなして登録免許税を計算します(登録免許税法13条1項)。債権額に税率を1回だけ乗じればよく、不動産の数を掛けません。
追加設定の場合
既に抵当権を設定した後、同じ債権のために別の不動産に抵当権を追加して設定することもできます。この場合、申請情報には前の登記の不動産の表示と順位事項などを記載します(令別表55項申請情報欄ハ)。前の登記に係る共同担保目録が申請を受ける登記所にある場合は、法務省令で定める事項で足ります。
登録免許税は、追加設定であることを証する財務省令で定める書類を添付すれば、不動産に関する権利の件数1件につき1500円です(登録免許税法13条2項)。書類を添付しないと、債権額に1000分の4を乗じた本則の税額になります。
| 場面 | 登録免許税 |
|---|---|
| 1個の不動産に設定 | 債権額の1000分の4 |
| 同一登記所に同時に複数の不動産に設定 | 債権額の1000分の4を1回だけ |
| 追加設定で証明書類を添付 | 権利の件数1件につき1500円 |
登録免許税と住宅用家屋の軽減
本則は債権額の1000分の4
抵当権設定登記の登録免許税は、債権額に1000分の4を乗じた額です(登録免許税法別表第一第1号(五))。課税標準は不動産の価額ではなく債権額である点が、所有権の登記との違いです。債権の一部を担保する場合は、担保する額が課税標準になります。
端数処理は、課税標準の1000円未満切り捨て、税額の100円未満切り捨てで、所有権の登記と同じです。架空の数字で確認します。
| 手順 | 金額 |
|---|---|
| 債権額 | 12,345,678円 |
| 課税標準(1000円未満切り捨て) | 12,345,000円 |
| 1000分の4を乗じる | 49,380円 |
| 登録免許税(100円未満切り捨て) | 49,300円 |
債権額に1000円未満の端数が出る問題はまれですが、課税標準の切り捨てと税額の切り捨てを別々に行う順序は、どの登記でも同じです。毎回この表の手順で処理してください。計算の練習は登録免許税の計算の記事でまとめています。
住宅用家屋の軽減は期限付き
個人が住宅用家屋を新築または取得して自己の居住の用に供し、その資金の貸付けなどに係る債権を担保するためにその家屋に抵当権を設定する場合は、税率が1000分の1に軽減されます(租税特別措置法75条)。取得等から1年以内の登記に限られます。
この軽減も適用期限が定められた特例です。条文上の対象は住宅用家屋を目的とする抵当権の設定登記で、資金の使途や居住の用に供することなどの要件があります。受験年度の条文で適用期限と要件を確認してください。記述式では、軽減の適用の有無は問題文の指示に従うのが原則です。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
- 申請人:抵当権者と設定者の共同申請。債務者は申請人ではない
- 登記原因:「年月日金銭消費貸借同日設定」の2つの日付の意味。設定契約が別日なら日付を分ける
- 目的の可否:共有持分と地上権は目的になる。単独所有の所有権の一部は目的にならない
- 添付情報:住所証明情報は不要。印鑑証明書は設定者が所有権の登記名義人のときに必要
- 利益相反:会社が取締役の債務を担保するときは承認が要る。承認を証する情報は令7条1項5号ハ
- 登録免許税:債権額の1000分の4。同時申請の共同抵当は1回。追加設定は証明書類の添付で1件1500円
抵当権の登記は、設定・変更・移転・抹消の一連で出題されます。設定を基準形として固めておくと、後続の登記は差分で処理できます。肢別演習の回し方は肢別過去問の勉強法を参照してください。
記述式との接続
記述式では、売買による所有権移転と抵当権設定の連件が定番です。買主が売買代金を借り入れ、取得した不動産に金融機関の抵当権を設定する事案です。
- 申請の順序は、所有権移転が先、抵当権設定が後
- 後の抵当権設定の義務者は買主。買主の登記識別情報は、前後を明らかにして同時に申請すれば提供されたものとみなされる(規則67条)
- 買主は所有権の登記名義人として義務者になるので、印鑑証明書が必要
- 抵当権設定の課税標準は債権額。所有権移転の課税標準である不動産の価額と取り違えない
売買の登記の構造は売買による所有権移転登記で扱っています。枠決めの手順は記述式(不動産登記)の答案構成を参照してください。
まとめ
- 抵当権は設定契約で成立し、登記は対抗要件。順位は登記の前後で決まる
- 抵当権者が登記権利者、設定者が登記義務者。債務者は登記事項であって申請人ではない
- 登記原因は被担保債権の発生原因と設定契約を組み合わせて書く
- 申請情報には債権額・債務者のほか、定めがあれば利息・損害金などを記載する
- 添付情報は登記原因証明情報、設定者の登記識別情報と印鑑証明書、代理権限証明情報。住所証明情報は不要
- 登録免許税は債権額の1000分の4。同時申請の共同抵当は1回、追加設定は条件つきで1件1500円
よくある質問
物上保証人が抵当権を設定する場合、債務者の印鑑証明書は必要ですか
必要ありません。印鑑証明書が必要なのは登記義務者である設定者で、物上保証の場合はその物上保証人です。債務者は申請人ではないので、債務者について添付情報を用意する必要はありません。
債権額と課税価格が違うことはありますか
債権の一部を担保する場合などは、登記する債権額が課税標準になります。「債権額 金1000万円のうち金500万円」として設定するなら、課税標準は500万円です。記述式では、課税価格欄に書く金額を問題文の債権額からそのまま写さず、担保する範囲を確認してください。
共同抵当の追加設定では、前の登記と同じ登記所でなくても1500円になりますか
登録免許税法13条2項は、同一の債権のために数個の不動産に関する権利を目的とする抵当権の設定登記のうち、最初の申請以外のものについて、証明書類の添付を条件に1件1500円とする規定です。管轄の異同は条件になっていません。ただし他の登記所の管轄にある不動産が共同担保になる場合は、申請情報に記載すべき事項が増えます。
不動産登記法の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と関連先例がその場で開きます。