不動産登記法(択一)の勉強法
司法書士試験の午後の部で最大配点を占める不動産登記法択一16問の攻略法。総論と各論の学習配分、添付情報と登記識別情報の整理、先例学習の射程、記述式との相乗効果、午後の時間戦略までを解説します。
不動産登記法は、司法書士試験の中で最も「投資対効果」がはっきりしている科目です。午後の部の択一35問のうち16問がこの科目から出題され、さらに記述式でも1問(70点)が不動産登記法から出ます。午後の部の配点245点のうち、実に118点分が不動産登記法に関係している計算になります。これほど1科目に依存した試験は他に例がありません。
一方で、不動産登記法は多くの受験生が最初につまずく科目でもあります。民法のように体系的な理屈で押し切れる部分が少なく、手続法特有の「決まりごと」が大量に出てくるからです。しかし裏を返せば、決まりごとを正しい順序で正しい量だけ入れれば、必ず安定して得点できる科目でもあります。本記事では、択一16問を確実に取り切るための学習設計を、総論・各論の配分から先例学習、午後の時間戦略まで通しで解説します。
不動産登記法は午後の部の主役——配点構造から逆算する
午後の部の中での位置づけ
まず、自分が何と戦っているのかを数字で押さえておきましょう。司法書士試験の筆記試験は次の構成です。
区分 内容 問数 配点 午前の部 択一(憲法3・民法20・刑法3・商法/会社法9) 35問 105点 午後の部 択一(民訴5・民保1・民執1・司法書士法1・供託3・不動産登記法16・商業登記法8) 35問 105点 午後の部 記述式(不動産登記法1問・商業登記法1問) 2問 140点午後の部の択一35問のうち、不動産登記法は16問。全体の約46%を1科目が占めています。次に多い商業登記法の8問と合わせると24問、実に7割近くが登記法です。民事訴訟法5問、供託法3問、民事執行法・民事保全法・司法書士法が各1問という構成を見れば、午後の部が「登記法の試験」であることは明らかです。
さらに、記述式の配点が令和6年度(2024年度)から70点→140点に倍増しました。この改正によって、不動産登記法の重要性はもう一段上がっています。記述式140点の半分、70点が不動産登記法の申請書を書く問題です。択一16問(48点)と合わせれば118点。午前の部の民法20問(60点)を上回る、試験全体で最大の得点源です。
「16問中何問取るか」を先に決める
学習を始める前に、目標点を数字で決めてください。おすすめは次の水準です。
学習段階 不登法択一16問の目標 内訳の考え方 初学者・1年目前半 8〜10問 総論の頻出論点と所有権・抵当権を確実に 直前期に入る前 12問 根抵当権・仮登記まで戦力化 本試験 13〜14問 落とすのは新傾向・マイナー各論の2〜3問のみ「16問全部取る」を目標にしないのがコツです。不動産登記法には、毎年必ず1〜2問、誰も見たことのない先例や実務的な細部を突く問題が混ざります。そこに時間と精神力を吸われるより、13〜14問を高速・確実に取り、余った時間を記述式に回すほうが総合点は伸びます。基準点制度がある以上、午後の択一で基準点を確保しつつ、記述式に時間を残すことが最優先です。
択一と記述を分けて勉強しない
不動産登記法の学習で最も非効率なのは、「択一の勉強」と「記述の勉強」を別々のものとして扱うことです。両者は同じ知識体系の表と裏です。
- 択一で問われる「この登記に登記原因証明情報は要るか」は、記述で申請書の添付情報欄に書く内容そのものです。
- 記述で書く「所有権移転(原因:年月日相続)」の登記原因と日付は、択一で問われる実体法上の効力発生時期そのものです。
したがって、択一の過去問を解いたら「これを申請書にするとどうなるか」を、記述の雛形を書いたら「この論点は択一でどう聞かれるか」を、常に往復させてください。合格者の多くが「記述をやり始めてから択一が伸びた」と言うのは、この往復が起きるからです。試験全体の設計については司法書士試験の合格ロードマップも併せて確認しておくとよいでしょう。
総論と各論の学習配分——時期によって比率を変える
総論・各論とは何か
不動産登記法の学習範囲は、大きく総論と各論に分かれます。
総論は、どんな登記にも共通して適用されるルールです。登記の目的と効力、登記所と登記記録、申請主義と共同申請主義、申請人適格、申請情報の内容、添付情報、登記識別情報、却下・取下げ、登録免許税、審査請求などが含まれます。
各論は、個別の権利ごとの登記手続です。所有権(保存・移転・変更・更正・抹消)、抵当権、根抵当権、用益権(地上権・地役権・賃借権・配偶者居住権)、仮登記、信託、処分制限の登記、区分建物、表示に関する登記などが並びます。
出題比率の実感値
例年の16問を分解すると、おおむね次のような分布になります。年度によって前後しますが、傾向としては安定しています。
領域 おおよその問数 特徴 総論(申請手続・添付情報・登記識別情報など) 5〜7問 毎年必ず出る。差がつきにくいが落とすと致命的 所有権に関する登記 2〜3問 相続・共有・更正が頻出 抵当権・根抵当権 2〜3問 根抵当権は元本確定が中心 仮登記 1問前後 ほぼ毎年。パターンが決まっている 用益権・信託・区分建物・その他各論 2〜3問 差がつく領域。捨て問も混ざる 表示に関する登記 0〜1問 深追い不要この表から読み取るべきは、総論だけで5〜7問あるということです。総論は範囲が狭く、何度も同じ論点が繰り返されます。ここを固めるだけで、基準点突破の土台ができます。
時期別の配分
学習時期によって、総論と各論のどちらに時間を割くかを変えてください。
第1期(インプット初期・全体の3割の時間) — 総論7:各論3。
まず総論を一通り通します。この段階では各論に手を広げず、「申請人は誰か」「添付情報は何か」という総論の枠組みを頭に作ることを優先します。各論は所有権移転(売買・相続)と抵当権設定という最頻出のものだけ触れておけば十分です。
第2期(各論展開期・全体の4割の時間) — 総論4:各論6。
所有権各論、抵当権、根抵当権、仮登記、用益権へと横に広げます。このとき、各論の論点は必ず総論の枠組みに載せて理解します。「根抵当権の極度額変更は、誰が申請人で、添付情報は何で、登録免許税はいくらか」という形です。総論という棚に各論の商品を並べていくイメージです。
第3期(過去問回転期・全体の3割の時間) — 総論5:各論5。
過去問を年度別・分野別に回し、抜けを潰します。この段階では総論と各論を分ける意味が薄くなり、「聞かれ方」に対する反応速度を上げる作業になります。過去問の使い方については足別過去問の使い方で詳しく扱っています。
各論を「差分」で覚える
各論の学習でやってはいけないのは、権利ごとにゼロから覚え直すことです。所有権移転登記で覚えたことの9割は、地上権移転登記でも通用します。各論は次のように「基準形からの差分」で整理してください。
- 基準形を1つ決める(所有権移転登記・売買を推奨)。申請人、登記の目的、登記原因、添付情報、登録免許税をフルセットで暗記する。
- 他の登記は、基準形と何が違うかだけを覚える。
- 抵当権設定 → 登記権利者が抵当権者になる、登記事項に債権額・利息・損害金が加わる、税率が異なる
- 相続による所有権移転 → 単独申請になる、登記原因証明情報が戸籍等になる、登記識別情報が不要になる
- 仮登記 → 仮登記義務者の承諾があれば単独申請できる、登記識別情報の扱いが変わる
この「差分方式」で覚えると、記憶量が体感で半分以下になります。
総論の核①申請手続——共同申請主義から例外を束ねる
共同申請主義という原点
権利に関する登記は、登記権利者と登記義務者が共同して申請するのが原則です(不動産登記法60条)。これは、登記に不利益を受ける者(義務者)を手続に関与させることで登記の真正を担保するという趣旨に基づきます。
この趣旨を理解しておくと、以下がすべて一本の線でつながります。
- なぜ登記識別情報が必要なのか → 義務者が本人であることを担保するため。だから義務者側だけが提供する。
- なぜ単独申請が例外的に許されるのか → 義務者を関与させなくても真正が担保できる事情があるとき(判決、相続、義務者の承諾など)。
- なぜ判決による登記は確定判決に限られるのか → 給付判決の既判力・執行力によって義務者の意思表示が擬制されるから。
択一で問われるのは、ほぼ常に「原則からのズレ」です。原則を正確に言葉にできない受験生は、ズレを認識できません。
単独申請できる登記の一覧化
単独申請は頻出中の頻出です。次のような表を自分で作り、いつでも再現できるようにしてください。
単独申請できる場面 根拠・理由 注意点 相続又は法人の合併による権利の移転の登記 包括承継で義務者が存在しない 遺贈は原則共同申請。ただし相続人に対する遺贈は単独申請可 判決による登記 意思表示の擬制 給付判決であること。和解調書・調停調書も可 登記名義人の氏名等の変更・更正の登記 不利益を受ける者がいない 住所証明情報は不要、変更を証する情報が必要 所有権保存の登記 前主が登記記録上いない 申請適格者が法定されている(74条) 仮登記(仮登記義務者の承諾があるとき、仮登記を命ずる処分があるとき) 承諾により真正が担保される 承諾書の添付が必要 仮登記の抹消(仮登記名義人が申請するとき等) 自らの権利を消す行為 利害関係人の承諾が必要な場合がある 収用による所有権移転の登記(起業者の申請等) 公法上の効果 嘱託によることも多い 買戻しの特約に関する登記の抹消(期間満了時) 令和3年改正で導入 買戻期間経過が明らかな場合相続登記の申請義務化への対応
令和6年(2024年)4月1日から、相続によって不動産を取得した相続人には、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務が課されました(不動産登記法76条の2)。義務を簡易に履行するための手段として、相続人申告登記の制度も設けられています(同法76条の3)。
改正直後の数年は、この領域が出題の狙い目になります。期間の起算点、義務者の範囲、遺産分割が後からされた場合の扱い、相続人申告登記の法的性質(権利の登記ではなく報告的な登記であること)などは、条文ベースで正確に押さえてください。
申請人適格の落とし穴
択一でよく問われるのは、「誰が申請できるか」の周辺です。
- 一般承継人による申請 — 登記権利者・義務者が申請前に死亡した場合、その相続人が申請できます(62条)。これは相続登記を経由しないという点で重要です。
- 代位申請 — 債権者代位により、債権者が債務者に代わって登記を申請できます。代位原因を証する情報が必要になります。
- 判決による登記における承継執行文 — 判決確定後に当事者に承継があった場合の扱いは、民事執行法の知識と接続します。
総論の核②添付情報と登記識別情報
添付情報は「機能」で分類する
添付情報を丸暗記しようとすると必ず破綻します。それぞれが何を証明するための書面かという機能で分類してください。
添付情報 何を証明するか 典型的に不要になる場面 登記原因証明情報 登記の原因となる法律行為・事実の存在 所有権保存の登記(74条1項1号・2号前段) 登記識別情報 申請人が登記名義人本人であること 単独申請、登記名義人が持っていない場合 印鑑証明書 申請書等の押印が本人のものであること 義務者以外、電子申請の一部 住所証明情報 新たに名義人となる者が実在すること 所有権以外の権利の登記、抹消・変更の登記 代理権限証明情報 代理人の権限の存在 本人申請 第三者の許可・同意・承諾を証する情報 実体法上必要な第三者の関与 該当する規定がない場合この6分類を覚えたうえで、「所有権移転(売買)なら6つ全部」「所有権移転(相続)なら登記原因証明情報・住所証明情報・代理権限証明情報」というように、登記ごとに埋めていきます。
住所証明情報が必要な登記
住所証明情報は「新しく所有権の登記名義人になるとき」に必要、と覚えるのが基本形です。したがって、所有権保存、所有権移転、所有権の登記名義人の住所変更(この場合は変更を証する情報)といった場面で登場します。抵当権設定では抵当権者の住所証明情報は不要です。この「所有権かどうか」という切り口は択一で繰り返し問われます。
第三者の承諾を要する場面
実体法上、第三者の関与が必要な場面では、その承諾を証する情報が添付情報になります。頻出は次の3系統です。
- 農地法の許可 — 農地の所有権移転。許可がないと物権変動が生じないため、登記原因証明情報の一部というより効力要件を証する情報として機能します。届出で足りる場合との区別が問われます。
- 利害関係人の承諾 — 付記登記によってする権利の変更の登記(66条)、仮登記に基づく本登記(109条)、登記の抹消(68条)など。承諾がない場合にどうなるか(主登記になるのか、申請自体が却下されるのか)が最重要の分岐点です。
- 会社・法人の内部手続 — 取締役会の承認、株主総会の特別決議など。ここは会社法・商業登記法の知識と直結します。
登記識別情報——提供できない場合の3ルート
登記識別情報は、登記の申請人自らが登記名義人となる場合に、登記完了後に通知されます(21条)。そして共同申請の際、登記義務者が提供します(22条)。
問題になるのは、提供できない場合です。制度は次の3ルートを用意しています。
ルート 概要 ポイント 事前通知 登記官が登記義務者に対して通知を発し、義務者が申請内容が真実である旨を申し出る(23条1項) 申出には期間制限がある。所有権の登記名義人の住所変更があった場合は前住所通知も併用 資格者代理人による本人確認情報 司法書士等が本人確認をして情報を提供し、登記官が相当と認めるとき 事前通知が不要になる。実務上の主流 公証人の認証 申請情報等について公証人の認証を受ける 実務での利用は少ないが択一では問われるこの3ルートの使い分け、それぞれの効果(事前通知が省略されるのか、単に添付情報が代替されるのか)は毎年のように問われます。
また、登記識別情報が通知されない場合(申請人が登記名義人にならない場合、通知を希望しない旨の申出をした場合など)、失効の申出、有効証明の請求といった周辺制度も一体で押さえてください。
却下と取下げ
申請が却下される場合は法定されています(25条)。13の号がありますが、すべてを暗記する必要はありません。頻出は「申請の権限を有しない者の申請」「申請情報の内容が登記記録と合致しない」「登記識別情報の提供がない」といったところです。
重要なのは、却下事由に当たらないものを見抜けることです。たとえば実体法上無効な登記原因であっても、登記官には形式的審査権しかないため、申請情報と添付情報の形式が整っていれば却下できません。この「形式的審査主義」は不動産登記法全体を貫く原理で、択一の判断基準として何度も使います。
なお、補正できる場合には登記官が補正を促し、申請人が補正すれば却下されません。取下げは登記完了前であればでき、却下との違い(添付書面の還付の有無、登録免許税の再使用証明の可否)が問われます。却下・取下げ・補正の三者を並べた比較表を一度作っておくと、この領域は二度と落とさなくなります。
登録免許税——計算より「区分」が問われる
登録免許税は、記述式では必ず計算させられますが、択一でも独立した論点として出題されます。ただし択一で問われるのは複雑な計算ではなく、課税区分の判断がほとんどです。
課税標準 対象となる登記の例 注意点 不動産の価額 所有権の保存・移転、地上権等の設定・移転 固定資産課税台帳の価格が基準。持分移転は持分に応じた価額 債権金額・極度額 抵当権・根抵当権の設定 追加設定の場合の特例あり 不動産の個数 変更・更正・抹消の登記、付記登記 1個につき1,000円(上限あり)覚え方のコツは、「権利が新たに生まれるか、価値が動くか」で分けることです。所有権や担保権が新たに設定されるときは価額や債権額に対して課税され、既存の登記の内容をいじるだけなら不動産1個あたりの定額になります。この原則を掴んでおけば、初見の登記でも区分の見当がつきます。
また、非課税や軽減の場面(国等が登記権利者となる場合、相続に関する一定の登記、更正・変更の登記のうち一定のもの)は、択一で狙われやすいポイントです。免税・軽減は例外なので、原則を先に固めてから例外を足してください。
審査請求
登記官の処分に不服がある者は、監督法務局または地方法務局の長に対して審査請求ができます。ここで問われるのは主に3点です。
- 誰が審査請求できるか — 処分によって不利益を受ける者。申請人以外でも可能な場合があります。
- どのような処分が対象か — 却下処分だけでなく、登記の実行そのものに対しても審査請求できる場合があります。ただし、実体上の権利関係を争う趣旨のものは審査請求では解決できず、訴訟によるべきとされます。
- 手続の流れ — 審査請求は登記官を経由してします。登記官は請求に理由があると認めるときは相当の処分をし、理由がないと認めるときは意見を付して上級庁に送付します。
審査請求は年によって1肢程度しか出ませんが、問われ方が固定されているため、上記3点だけ押さえておけば十分です。深追いは不要です。
各論の攻略——所有権・抵当権・根抵当権・仮登記
所有権に関する登記
所有権保存登記は、申請適格者が法定されている点が特徴です(74条)。表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人、所有権を有することが確定判決によって確認された者、収用によって所有権を取得した者、そして区分建物については表題部所有者から所有権を取得した者(74条2項)。この列挙を正確に言えるかどうかが分岐点です。特に区分建物の場合の特則は、敷地権との関係で難問化しやすい領域です。
相続による所有権移転登記は、民法の相続法と完全に連動します。法定相続分による登記、遺産分割による登記、相続放棄があった場合、遺言がある場合、数次相続、代襲相続と、パターンが多岐にわたります。ここは民法側の理解が甘いと手も足も出ません。相続法の学習方針は民法の勉強法も参考にしてください。
更正登記の可否は、不動産登記法の中でも最も理屈が要求される論点です。更正登記は「登記の一部に錯誤または遺漏があるとき」に、登記の同一性を保ちながら是正する手続です。したがって、登記の前後で同一性が失われるような更正はできません。単独所有を共有に更正できるか、共有者の一部を入れ替える更正ができるか、といった問題は、この同一性の判断基準を自分の言葉で説明できるかにかかっています。
抵当権——基本形を完全に固める
抵当権は、設定・移転・変更・抹消のすべてが出題対象です。特に次の点を押さえてください。
- 登記事項 — 債権額、債務者、利息、損害金、その他の特約。どれが必要的でどれが任意的かの区別。
- 共同抵当 — 共同担保目録、追加設定、前登記証明書の扱い。
- 抵当権の移転 — 債権譲渡による移転は付記登記。代位弁済による移転も同様。随伴性の帰結です。
- 順位変更 — 順位変更は当事者全員の共同申請であり、付記登記ではなく主登記でなされ、利害関係人の承諾が必要です。この3点セットは頻出です。
- 抹消 — 弁済、解除、混同。混同による抹消は民法179条の理解が前提になります。
根抵当権——元本確定の前後で世界が変わる
根抵当権は不動産登記法各論の最重要領域であり、同時に最も差がつく領域です。民法398条の2以下の規定と一体で学習してください。
学習の軸は「元本確定前か確定後か」という一点です。この軸を立てるだけで、散らばった知識が整列します。
論点 元本確定前 元本確定後 被担保債権の範囲の変更 できる(民法398条の4) できない 債務者の変更 できる できない 極度額の変更 できる(利害関係人の承諾が必要・民法398条の5) できる(同様に承諾が必要) 元本確定期日の変更 できる(民法398条の6) できない 被担保債権の譲渡に伴う随伴 随伴しない(民法398条の7) 随伴する 根抵当権の全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡 できる(民法398条の12・398条の13) できない 順位の譲渡・放棄 受けられる —極度額の変更だけが確定前後を問わずできること、そして利害関係人の承諾が「効力要件」であるため承諾がなければ登記できない(主登記でもできない)ことは、繰り返し問われます。
元本の確定事由(民法398条の20)と、確定登記が必要な場合・不要な場合の区別も定番です。確定期日の到来のように登記記録から確定が明らかな場合は確定登記が不要ですが、確定請求(民法398条の19)による場合などは確定登記が必要になります。「登記記録を見て確定が分かるか」という判断基準で整理してください。
さらに、相続(民法398条の8)、合併(同398条の9)、会社分割(同398条の10)による根抵当権の帰趨は、6か月の合意の登記や確定請求と絡んで複雑です。ここは表を作って一気に覚えるのが効率的です。
仮登記
仮登記は毎年のように出題され、しかもパターンが安定しているため、費用対効果が非常に高い領域です。
1号仮登記(手続上の要件が備わらない場合)と2号仮登記(請求権保全の場合)の区別が出発点です。所有権移転請求権仮登記なのか、条件付所有権移転仮登記なのかを、事案から判断できるようにしてください。
仮登記の申請方法は、原則共同申請ですが、仮登記義務者の承諾があるとき、または仮登記を命ずる処分があるときは、仮登記権利者が単独で申請できます。
仮登記に基づく本登記では、所有権に関する仮登記に基づく本登記について、登記上の利害関係を有する第三者の承諾が必要です(109条)。承諾がなければ本登記はできません。そして本登記がされると、その第三者の登記は登記官が職権で抹消します。この「所有権に関する仮登記の場合に限る」という限定は、択一で頻繁に狙われます。
仮登記の抹消は、仮登記名義人が単独で申請できるほか、仮登記上の利害関係人が仮登記名義人の承諾を得て単独申請することもできます。誰が誰の承諾を得るのか、という主語を取り違えないことが重要です。
用益権・信託・区分建物
これらは出題頻度がやや落ちますが、出たときに白紙にしないための最低限は必要です。
- 地上権・地役権・賃借権 — 登記事項の違いを押さえます。地役権は要役地・承役地の関係、地役権の範囲、承役地の登記記録に記録される事項が独特です。
- 配偶者居住権 — 民法改正で新設された権利で、登記できる権利として不動産登記法にも位置づけられました。存続期間の記録方法、譲渡できない旨などが問われます。
- 信託 — 信託の登記は権利の登記と一の申請情報で申請する点、信託目録が作成される点が特徴です。
- 区分建物と敷地権 — 敷地権付き区分建物については、建物のみを目的とする登記が原則としてできないこと、敷地権の登記がされた後にされた登記の効力が敷地にも及ぶことなど、独自のルールがあります。
処分制限の登記と抹消回復
処分制限の登記は、差押え・仮差押え・処分禁止の仮処分といった、民事執行法・民事保全法の手続に伴って嘱託によってされる登記です。午後の部では民事執行法・民事保全法が各1問しか出ませんが、不動産登記法の側から処分制限が問われることがあります。
とくに重要なのが、処分禁止の登記に後れる登記の抹消です。仮処分債権者が本案で勝訴し、保全すべき登記請求権に係る登記をするときは、その仮処分の登記に後れる登記を単独で抹消することができます(111条)。このとき、抹消される登記の名義人にはあらかじめ通知が必要です。「単独で抹消できる」という強力な効果と、その手続的な担保をセットで覚えてください。
抹消された登記の回復(72条)も定番論点です。回復登記をするには、登記上の利害関係を有する第三者の承諾が必要であり、承諾がなければ回復できません。抹消の場面(68条)と回復の場面(72条)で、承諾がどちらも「効力要件」として機能している点は共通です。承諾がないと主登記でもできない、という結論を取り違えないようにしてください。
表示に関する登記は深追いしない
表示に関する登記(土地の分筆・合筆、建物の表題登記・分割・合併・滅失など)は、出題があっても年に0〜1問です。しかも土地家屋調査士の領域と重なる細かい知識が問われることがあり、費用対効果は高くありません。
押さえるべき最低ラインは次の3点です。
- 表示に関する登記は登記官の職権でもできること(権利の登記との最大の違い)
- 表題部所有者に関する規律(表題部所有者の変更の登記は原則としてできず、更正によること)
- 合筆の制限 — 所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地は原則として合筆できない、という制限。ただし承役地についてする地役権の登記など一定の例外がある
この3点を超える部分は、直前期に余裕があれば見る、という優先順位で構いません。
先例・通達の学習法——暗記ではなく「射程」を掴む
なぜ先例が問われるのか
不動産登記法は手続法であり、条文だけでは実務の細部が決まりません。そこで法務省民事局長通達や登記研究の質疑応答が、事実上のルールとして機能しています。司法書士試験がこれらを出題するのは、実務家登用試験としての性格上、当然のことです。
しかし、先例は膨大です。「先例を覚える」という発想で臨むと、必ず溺れます。
過去問に出た先例に絞る
結論から言えば、過去問と主要な問題集に出てきた先例だけで十分です。理由は3つあります。
- 司法書士試験の先例出題は、過去に出たものの繰り返しが大半を占めます。まったく新規の先例が出ることもありますが、それは前述の「捨てる2〜3問」に入れてよい部分です。
- 先例には重要度の階層があります。実務で日常的に使われる先例は繰り返し出題され、そうでないものは出題されません。過去問はそのフィルタとして機能します。
- 先例集を独立して読む学習は、文脈が欠落するため定着しません。過去問の中で「この事案でこう扱う」という形で出会ったほうが、記憶に残ります。
先例は「結論」ではなく「理由」で覚える
もう一つ重要なのは、先例を結論だけで覚えないことです。たとえば「AはできるがBはできない」という先例を暗記しても、本試験では少しズラした事案が出されます。そのとき対応できるのは、なぜAができてBができないのかという理由を理解している人だけです。
先例の理由づけは、多くの場合、次のいずれかに還元できます。
- 登記の真正の担保 — 虚偽の登記が入り込む余地があるからできない
- 公示の明確性 — 登記記録から権利関係が読み取れなくなるからできない
- 登記の同一性 — 更正の範囲を超えるからできない
- 実体法上の効力 — 実体法上そもそも生じない権利変動だからできない
- 手続の便宜・実務上の要請 — 厳密には理屈が通らないが実務上認められている
新しい先例に出会ったら、この5分類のどれに当たるかを考える癖をつけてください。分類できたものは、応用が利く知識になります。
先例ノートの作り方
作るとすれば、次の形式を推奨します。1論点1行で、A4用紙数枚に収まる分量に抑えます。
事案 結論 理由の型 (具体的な場面を10〜20字で) 可 / 不可 上記5分類のいずれか分厚い先例ノートは作らないでください。作った時点で満足してしまい、回転しなくなるのが典型的な失敗パターンです。
民法との接続と記述式との相乗効果
不動産登記法は民法の答え合わせである
不動産登記法の各論は、民法の物権変動論をそのまま手続に翻訳したものです。したがって、民法の理解が不動産登記法の理解を規定します。
- 物権変動の時期 → 登記原因の日付
- 対抗要件(民法177条) → 登記の必要性そのもの
- 共有 → 持分移転登記、共有物分割による移転登記、共有物分割禁止の特約の登記
- 相続 → 相続登記のあらゆるパターン
- 担保物権 → 抵当権・根抵当権の登記
- 時効取得 → 登記原因「年月日時効取得」と起算日の問題
逆に言えば、不動産登記法を学ぶことは民法の復習になります。「なぜこの日付が登記原因日付になるのか」を考えるとき、あなたは民法の物権変動論を使っています。この往復が起きているうちは、両科目とも伸び続けます。
とくに注意したいのは、民法を「判例の結論を覚える科目」として学んでしまった受験生です。そのタイプは不動産登記法で急激に失速します。民法は要件効果で理解しておく必要があります。
記述式との相乗効果を最大化する
記述式の不動産登記法は、事案を読んで登記申請書を作成する問題です。求められるのは次の4点です。
- 登記の目的を正しく特定する
- 登記原因と日付を正しく特定する
- 申請人(権利者・義務者)を正しく書く
- 添付情報を過不足なく列挙する
このうち2〜4は、すべて択一の総論知識です。つまり、択一総論を固めることが、そのまま記述式の得点になります。逆に、記述式の答案を書くと「添付情報が言えない」「申請人が曖昧」という穴が可視化され、択一の弱点が分かります。
具体的な往復のやり方としては、次のサイクルが効果的です。
- 択一の過去問を1問解く
- その肢の事案を、簡単な申請書の形に書き直してみる(登記の目的・原因・申請人・添付情報の4行だけでよい)
- 書けなかった項目をチェックし、テキストの該当箇所に戻る
この作業は1肢あたり1〜2分で終わります。1日10肢やれば、1か月で300肢分の申請書練習になります。記述式対策の全体像は記述式(不動産登記)の対策にまとめています。
雛形の暗記は択一にも効く
司法書士試験の記述式は、約300とも言われる登記申請書の雛形を白紙から書けるかで決まります。雛形の暗記は記述式のためのものと思われがちですが、実際には択一にも強く効きます。
なぜなら、雛形を書けるということは、その登記についての申請人・登記事項・添付情報・登録免許税をすべて言えるということだからです。択一で「この登記の添付情報として正しいものはどれか」と聞かれたとき、雛形が頭に入っていれば、選択肢を読む前に答えが出ます。
午後の時間戦略と直前期の回し方
午後の部は時間との戦い
午後の部は3時間で、択一35問と記述式2問を解きます。記述式の配点が140点に倍増した以上、記述式に十分な時間を確保することが合否を分けます。標準的な配分は次の通りです。
時間帯 内容 目安 0分〜60分 択一35問 1問あたり平均1分40秒 60分〜65分 マークシート転記・見直し 5分 65分〜120分 記述式(不動産登記法) 55分 120分〜175分 記述式(商業登記法) 55分 175分〜180分 最終確認 5分択一を60分で終える、というのが最大の関門です。1問1分40秒は、5肢のうち3肢を読んで組合せで切る、という解法を身につけていないと不可能です。
択一を速く解くための3原則
第一に、解く順番を固定します。 おすすめは「民訴系(5問)→民保・民執・書士法(3問)→供託(3問)→不動産登記法(16問)→商業登記法(8問)」という問題番号順です。順番を毎回変えると、時間感覚が狂います。ただし、不動産登記法から始めて調子を上げる人もいるので、模試で自分に合う順番を確定させてください。
第二に、全肢を読まないことです。 司法書士試験の択一は組合せ問題が多く、5肢すべてを検討しなくても正解にたどり着けます。確実に判断できる肢から処理し、選択肢を絞り込んだ時点で次の問題に進みます。この技術は過去問演習で意識的に鍛える必要があります。
第三に、迷った問題は即座に飛ばすことです。 30秒考えて方針が立たない問題は、印をつけて飛ばします。不動産登記法16問の中には、毎年必ず「考えても分からない問題」が1〜2問あります。そこに3分使うと、後半の商業登記法8問が崩れ、記述式の時間まで食われます。
直前期の回し方
本試験3か月前からは、次のサイクルを推奨します。
週次サイクル — 不動産登記法の過去問を分野別に1周します。総論・所有権・抵当権・根抵当権・仮登記・その他各論の6ブロックに分け、週に1〜2ブロックを回します。3〜4週間で1周する計算です。
日次サイクル — 毎日、時間を計って択一を解く時間を必ず設けます。20問を35分、といった形で本番のペース感を維持します。速度は使わないと確実に落ちます。
弱点の可視化 — 間違えた肢は、次のいずれかに分類して記録します。
1. 知識がなかった(→テキストに戻る)
2. 知識はあったが引き出せなかった(→回転数を上げる)
3. 事案の読み違い(→読み方の訓練)
4. 時間がなくて雑に処理した(→速度の問題)
この分類をせずに「間違えた問題を復習する」だけだと、対処法が的外れになります。特に2と4は、テキストを読み直しても解決しません。
最後に——不動産登記法は裏切らない科目
不動産登記法は、範囲が広く、覚えることが多く、初学者には最も重い科目に見えます。しかし、出題される論点は驚くほど安定しており、過去問との重複率も高い科目です。民法のように未知の判例が出て一気に崩れることは、まずありません。
やるべきことを、やるべき順序でやれば、必ず13〜14問に到達します。総論を固め、各論を差分で覚え、先例は理由で押さえ、記述式と往復させる。この4つを守れば、午後の部の基準点は必ず超えられます。そして午後の部を安定させた受験生は、司法書士試験の合格圏に大きく近づいています。
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