住所等変更登記の義務化:2年の期限・過料・職権登記の整理
2026年4月1日施行の住所等変更登記の申請義務(不動産登記法76条の5)を受験生向けに整理。2年の起算点・5万円以下の過料・施行前の変更の経過措置・検索用情報と職権登記を条文ベースで解説し、申請構造にもつなげます。
住所等変更登記の申請義務化は、2026年4月1日に施行されました。相続登記の義務化に続く、所有者不明土地対策の二本目の柱です。押さえる骨格は4つです。「誰が」「いつから2年か」「怠るとどうなるか」「職権登記とどう関係するか」。相続登記の義務と数字や起算点が微妙に違うので、択一ではその違いがそのまま肢になります。
この記事は司法書士試験の受験生向けに、不動産登記法76条の5・76条の6・164条2項と改正法附則5条7項を、試験で問われる形に組み直したものです。相続登記の義務化は相続登記の義務化:申請期限・過料・相続人申告登記の整理で扱っているので、この記事では比較に必要な範囲だけ触れます。不動産登記法全体の学習設計は不動産登記法(択一)の勉強法を先に読んでおくと、位置づけがはっきりします。
住所等変更登記の申請義務:不動産登記法76条の5の構造
義務を負うのは「所有権の登記名義人」
不動産登記法76条の5は、所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所について変更があったときは、その所有権の登記名義人が、変更があった日から2年以内に、氏名もしくは名称または住所についての変更の登記を申請しなければならないと定めています。条文から次の3点が導けます。
- 対象は所有権の登記名義人だけです。抵当権者や地上権者の住所が変わっても、この条文の義務は生じません。
- 自然人と法人の両方が対象です。条文が「氏名若しくは名称」と書いているのは、法人の名称変更も含める趣旨です。法人の住所は本店の所在場所です。
- 義務の内容は「変更の登記」です。登記の時点ですでに住所が誤っていた場合の更正の登記は、この条文の義務の対象ではありません。
住所の変更だけでなく、婚姻などによる氏の変更も含まれます。「住所変更登記の義務化」と略されることが多いのですが、条文上は氏名・名称・住所の三つが並んでいる点を正確に覚えておいてください。
起算点は「変更があった日」から2年
期間は「その変更があった日から2年以内」です。ここが相続登記との最大の違いです。相続登記は「相続の開始を知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年」という認識基準でした。住所等変更登記は、変更という客観的な事実の日から数えます。自分の住所が変わったことを本人が知らないという事態は通常考えにくいので、認識を要件にしていないと理解すれば覚えやすくなります。
相続登記の申請義務との比較
| 比較項目 | 相続登記の申請義務 | 住所等変更登記の申請義務 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 不動産登記法76条の2 | 不動産登記法76条の5 |
| 施行日 | 2024年4月1日 | 2026年4月1日 |
| 義務者 | 相続により所有権を取得した者 | 所有権の登記名義人 |
| 期間 | 3年 | 2年 |
| 起算点 | 相続開始と所有権取得を知った日 | 変更があった日 |
| 過料 | 10万円以下(164条1項) | 5万円以下(164条2項) |
| 簡易な手段 | 相続人申告登記(76条の3) | 検索用情報の申出と職権登記(76条の6) |
この表の数字を入れ替えた肢は毎年のように作れます。「3年・10万円」と「2年・5万円」をペアで覚え、起算点が「知った日」か「変更があった日」かを必ず確認する癖をつけてください。
過料と正当な理由:不動産登記法164条2項
5万円以下の過料
不動産登記法164条2項は、76条の5の規定による申請をすべき義務がある者が、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処すると定めています。相続登記の義務違反や表示に関する登記の申請義務違反は同条1項で10万円以下なので、住所等変更登記だけが第2項として別に置かれています。
催告を経て裁判所へ通知される
過料は刑罰ではなく、裁判所が科す行政上の秩序罰です。不動産登記規則187条1号は、登記官が過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、遅滞なく管轄地方裁判所に通知しなければならないと定めています。ただし76条の5の義務違反については、登記官が相当の期間を定めて申請すべき旨を催告したにもかかわらず、その期間内に申請がされない場合に限られます。
流れを整理すると次のとおりです。
- 登記官が義務違反を把握し、義務者に催告する
- 催告の期間内に申請がされない
- 登記官が管轄地方裁判所に通知する
- 裁判所が要件の有無を判断し、過料の裁判をする
「登記官が過料を科す」という肢は誤りです。登記官の役割は催告と通知までです。この構造は相続登記の義務違反と共通なので、まとめて覚えられます。
正当な理由として示されている類型
過料の要件である「正当な理由」について、法務省は住所等変更登記の義務化に関するQ&Aで例を示しています。検索用情報の申出や会社法人等番号の登記がされているのに職権による変更登記がまだされていない場合、行政区画の変更などにより住所が変わった場合、重病などの事情がある場合、DV被害者等で生命・身体に危害が及ぶおそれがある場合、経済的に困窮していて登記費用を負担できない場合などです。
試験対策としては、類型を暗記するより、条文が「正当な理由がないのに」という要件を置いていること、そして職権登記の仕組みに乗っていれば義務違反を問われない設計になっていることを押さえてください。後者は次の職権登記の項で詳しく見ます。
施行前の住所変更にも適用される:改正法附則5条7項
読み替えの内容
住所等変更登記の申請義務は、2026年4月1日より前に生じた住所等の変更にも適用されます。根拠は民法等の一部を改正する法律、令和3年法律第24号の附則5条7項です。同項は76条の5の規定を、施行日前に所有権の登記名義人の氏名・名称・住所について変更があった場合にも適用すると定め、そのうえで次の読み替えを置いています。
| 76条の5の文言 | 施行前の変更への読み替え |
|---|---|
| 「所有権の登記名義人の」 | 施行日前に所有権の登記名義人となった者の |
| 「あった日」 | 「あった日又は施行日のいずれか遅い日」 |
2028年3月31日が期限になる場面
施行日前に住所が変わっていて変更登記をしていない者は、施行日である2026年4月1日から2年、すなわち2028年3月31日までが申請期限になります。法務省の案内も同じ日付を示しています。
| 住所変更の日 | 起算日 | 申請期限 |
|---|---|---|
| 2020年6月1日 | 施行日 2026年4月1日 | 2028年3月31日 |
| 2026年3月20日 | 施行日 2026年4月1日 | 2028年3月31日 |
| 2026年5月10日 | 変更の日 2026年5月10日 | 2028年5月10日まで |
相続登記の経過措置は「知った日又は施行日のいずれか遅い日」でした。住所等変更登記は「あった日又は施行日のいずれか遅い日」です。「いずれか遅い日」という骨格は同じで、前半の文言だけが本則の起算点に合わせて変わっています。附則の条番号も、相続登記が5条6項、住所等変更登記が5条7項と隣り合っています。
職権による変更登記:不動産登記法76条の6と検索用情報
76条の6の条文構造
不動産登記法76条の6本文は、登記官は、所有権の登記名義人の氏名・名称・住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、職権で変更の登記をすることができると定めています。同条ただし書は、所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限るとしています。
つまり、法人については登記官が職権で変更登記をすることができ、自然人については本人の申出が要件になります。自然人の住所は個人情報なので、本人の意思を確認せずに登記記録を書き換えない設計です。
自然人:検索用情報の申出と意思確認
自然人の職権登記は、次の手順で進みます。法務省はこの仕組みを「スマート変更登記」と呼んでいます。
- 所有権の登記名義人が、あらかじめ検索用情報を申し出る。内容は氏名・氏名の振り仮名・住所・生年月日・電子メールアドレスです(不動産登記規則158条の39・158条の40)
- 登記官が住民基本台帳ネットワークシステムに照会し、住所等の変更を把握する
- 登記官が本人に、変更があったことと76条の6ただし書の申出ができることを通知する。通知は原則として電子メールです(規則158条の45第1項・2項)
- 本人が通知の発送日から1か月以内に申出をする(同条3項)
- 登記官が職権で変更の登記をする
検索用情報の申出には、所有権の保存や移転の登記を申請するときにあわせてする方法と、すでに登記名義人である者が単独でする方法があります。法務省によれば、2025年4月21日から、所有権の保存・移転等の登記を申請する際には検索用情報をあわせて申し出る運用になっています。申出にも職権登記にも、登録免許税や手数料はかかりません。
法人:会社法人等番号による連携
法人については、所有権の登記事項として会社法人等番号が登記されていることが前提です(不動産登記法73条の2第1項1号)。登記官は、商業・法人登記のシステムから名称や本店の変更の情報を受け取り、職権で変更の登記をします(規則158条の44第1項2号)。法人は検索用情報の申出の対象ではありません。
職権登記と申請義務の関係
76条の6の職権登記がされれば、変更の登記は完了しています。義務の目的は登記記録を最新に保つことなので、本人が申請したかどうかは問いません。また、検索用情報の申出や会社法人等番号の登記がされていれば、職権登記がまだされていなくても正当な理由がある場合として扱われることが法務省から示されています。
ただし、自然人は通知を受けて申出をしなければ職権登記はされません。また、国内に住所を有しない者は検索用情報の申出の対象外です(規則158条の39第1項・158条の40第1項)。海外に住所を移した者は、自分で変更登記を申請する必要があります。
住所変更登記の申請構造
単独申請と添付情報
登記名義人の氏名・名称・住所についての変更の登記は、登記名義人が単独で申請できます(不動産登記法64条1項)。登記によって不利益を受ける者がいないからです。添付情報は不動産登記令別表23の項に定められており、住所等に変更があったことを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報です。自然人なら住民票の写しや戸籍の附票が典型です。
単独申請なので、登記識別情報の提供は不要です。住所を何度か移転した後に申請する場合でも、最終の住所への変更を1件で申請できます。このとき登記原因の日付は最後の住所移転の日です。登記記録上の住所から現在の住所までのつながりを、住民票の写しや戸籍の附票で証明することになります。
登録免許税と非課税の場面
登記名義人の住所変更の登記は、登録免許税法別表第一第1号(14)の「登記事項の変更の登記」にあたり、不動産1個につき1,000円の定額課税です。同じ別表の(15)登記の抹消には「同一の申請書で20個を超える不動産について抹消を受ける場合は1件2万円」という上限がありますが、この上限は抹消の登記についてのもので、変更の登記には置かれていません。計算の全体像は登録免許税の計算:税率・軽減・免税の整理で扱っています。
住居表示の実施・変更に伴う変更の登記と、行政区画や町・字の名称の変更に伴う変更の登記は、証明書を添付すれば非課税です(登録免許税法5条4号・5号)。職権による変更登記も、法務省の案内のとおり登録免許税はかかりません。
前提登記としての住所変更
試験で住所変更登記が本当に効いてくるのは、義務化の条文よりも「前提登記」の場面です。売買による所有権移転登記を申請する際、登記義務者である売主の登記記録上の住所が現在の住所と異なると、申請は不動産登記法25条7号により却下されます。そこで、所有権移転登記の前に、売主の住所変更登記を申請することになります。売買の登記の全体像は所有権移転登記(売買)の申請構造で整理しています。
一方、相続による所有権移転登記では、被相続人の登記記録上の住所と死亡時の住所が違っていても、被相続人の住所変更登記は不要です。住民票の除票や戸籍の附票で同一人であることを証明すれば足ります。前提登記が要る場面と要らない場面を対比して覚えておくと、記述式の申請件数を誤りません。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
住所等変更登記の義務化は、相続登記の義務化と並べて、要件を一語ずつ入れ替える形で出題されやすい論点です。次の切り口を用意しておいてください。
- 主体の範囲:所有権の登記名義人に限る。抵当権者は対象外。法人も対象。
- 対象の変更:氏名・名称・住所の変更。更正は対象外。
- 期間と起算点:変更があった日から2年。「知った日から」「3年」への書き換えは誤り。
- 過料の額:5万円以下。164条2項。相続登記の10万円と区別する。
- 過料の手続:登記官の催告を経て裁判所へ通知。科すのは裁判所。
- 経過措置:施行前の変更にも適用。起算点は「変更があった日又は施行日のいずれか遅い日」。
- 職権登記:法人は職権で可。自然人は申出があるときに限る。
- 検索用情報:国内に住所を有する自然人が対象。法人は会社法人等番号の登記で連携する。
肢別の過去問を回すときは、相続登記の義務化と住所等変更登記の義務化を横に並べて、同じ切り口の肢を続けて解くと混同が減ります。演習のやり方は肢別過去問の勉強法にまとめています。
記述式との接続
記述式で義務化の条文を直接書かせることは考えにくいですが、住所変更登記そのものは前提登記として頻繁に登場します。
- 別紙の登記記録と登記原因証明情報や印鑑証明書の住所を照らし合わせ、登記義務者の住所が一致しているかを最初に確認する。
- 一致していなければ、所有権移転登記の前に登記名義人住所変更登記を1件入れる。
- 登録免許税は不動産1個につき1,000円。20個超の上限は抹消の登記の話なので、変更の登記に当てはめない。
- 相続登記では被相続人の住所変更は不要。前提登記を入れすぎない。
答案構成の技術は記述式(不動産登記)対策を参照してください。
まとめ
- 所有権の登記名義人は、氏名・名称・住所に変更があった日から2年以内に変更の登記を申請する義務を負う(不動産登記法76条の5)。2026年4月1日施行。
- 正当な理由なく怠ると5万円以下の過料(164条2項)。登記官の催告を経て裁判所に通知される。
- 施行前の変更にも適用され、起算点は「変更があった日又は施行日のいずれか遅い日」。施行前に変更があった者は2028年3月31日が期限。
- 登記官は職権で変更登記ができる(76条の6)。自然人は申出があるときに限る。
- 自然人は検索用情報の申出、法人は会社法人等番号の登記によって職権登記の仕組みに乗る。
- 申請する場合は単独申請で、登録免許税は不動産1個につき1,000円。
- 記述式では、登記義務者の住所の不一致を見つけて前提登記を入れる判断が中心になる。
よくある質問
抵当権者の銀行が本店を移転した場合も申請義務はありますか
ありません。76条の5の義務を負うのは所有権の登記名義人だけです。抵当権者の名称や住所が変わっても、この条文による申請義務や164条2項の過料の対象にはなりません。ただし、その抵当権の抹消登記などを申請するときに、登記記録上の住所と現在の住所が違えば、前提として登記名義人住所変更登記が必要になる場面はあります。
2026年4月1日より前に引っ越していた場合の期限はいつですか
2028年3月31日です。改正法附則5条7項により、施行日前の変更にも76条の5が適用され、起算点は「変更があった日又は施行日のいずれか遅い日」に読み替えられます。施行前の変更なら施行日である2026年4月1日が起算日になり、そこから2年で2028年3月31日が期限です。
検索用情報の申出をしておけば、自分で変更登記を申請しなくてよいのですか
自然人の場合、検索用情報を申し出ておけば、登記官が住民基本台帳ネットワークシステムで住所等の変更を把握し、本人に通知します。通知を受けて1か月以内に76条の6ただし書の申出をすれば、登記官が職権で変更登記をします。申出をしておけば職権登記がまだの段階でも正当な理由がある場合として扱われると法務省は示しています。ただし国内に住所がない者は検索用情報の申出ができないので、自分で申請する必要があります。
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