売買による所有権移転登記:申請人・添付情報・登録免許税
売買による所有権移転登記を、所有権移転時期と登記原因日付、共同申請の構造、申請情報の骨格、添付情報、登録免許税の税率と軽減措置で整理。記述式で崩れやすい前提登記と応用場面まで、司法書士試験の受験生向けに解説します。
売買による所有権移転登記は、不動産登記法のすべての申請の「基準形」です。共同申請、登記識別情報、印鑑証明書、住所証明情報、登録免許税という総論の論点が、この1件にすべて入っています。ほかの登記は、この基準形との差分で覚えるのが最も速い学習法です。
結論を先に示すと、売買の登記で判断すべきことは5つです。登記原因の日付はいつか、申請人は誰か、申請情報に何を書くか、添付情報は何か、登録免許税はいくらか。本記事では、この5つを条文から順に確認し、最後に記述式で崩れやすい応用場面を扱います。
添付情報の総論は登記識別情報と添付情報で扱っているので、本記事では売買に固有の論点に絞ります。不動産登記法全体の学習順序は不動産登記法の勉強法を参照してください。
売買と所有権移転の時期
登記原因の日付は、所有権が移転した日です。売買契約の日と同じとは限りません。まず民法から確認します。
意思主義と判例の原則
民法555条は、売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方が代金を支払うことを約することによって効力を生ずると定めます。そして176条は、物権の設定および移転は当事者の意思表示のみによって効力を生ずるとしています。
判例は、特定物の売買では、所有権の移転が将来なされるべき特約がない限り、買主への所有権移転の効力は契約と同時に生ずるとしています(最判昭和33年6月20日)。特約がなければ、登記原因の日付は売買契約の日になります。
特約・許可があると日付がずれる
実務でも試験でも、所有権移転時期の特約は頻出です。日付の決まり方を表にします。
| 事実関係 | 所有権移転の日 | 登記原因 |
|---|---|---|
| 特約なし | 売買契約の日 | 年月日売買(契約日) |
| 代金完済時に移転する特約 | 代金を完済した日 | 年月日売買(完済日) |
| 農地で知事等の許可が必要 | 許可が到達した日。ただし代金完済特約があれば許可到達と完済の遅い方 | 年月日売買(その日) |
農地の売買は、農地法の許可がなければ所有権移転の効力を生じません。許可の到達前に契約があっても、登記原因の日付は許可の到達日以降になります。記述式では、別紙の契約書・領収書・許可書の日付を並べて、最も遅い日を拾う作業になります。
登記原因は「売買」だけを書く
登記原因は「年月日売買」と書き、代金額や特約の内容は書きません。登記事項は法59条に列挙されており、代金は含まれていないからです。買戻しの特約は別の登記として申請するもので、この点は後で扱います。
申請人と申請情報
共同申請:買主が権利者、売主が義務者
権利に関する登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同して申請します(法60条)。売買では、登記上直接に利益を受ける買主が登記権利者、不利益を受ける売主が登記義務者です。
共同申請の例外として押さえるべきは次の2つです。
- 売主が登記に協力しないときは、買主が登記手続を命ずる確定判決を得て単独で申請できる(法63条1項)
- 売主または買主について相続その他の一般承継があったときは、相続人等がその地位で申請できる(法62条)
62条は単独申請の規定ではなく、申請人の地位の承継の規定です。この区別は登記識別情報と添付情報の記事でも強調しているので、あわせて確認してください。
申請情報の骨格
申請情報の内容は、法18条を受けて不動産登記令3条に定められています。売買の場合の骨格を、架空の例で示します。
| 項目 | 記載の例 |
|---|---|
| 登記の目的 | 所有権移転 |
| 原因 | 年月日売買 |
| 権利者 | 買主の住所・氏名(共有なら持分) |
| 義務者 | 売主の住所・氏名 |
| 添付情報 | 登記原因証明情報、登記識別情報、印鑑証明書、住所証明情報、代理権限証明情報 |
| 課税価格 | 不動産の価額 |
| 登録免許税 | 課税価格に税率を乗じた額 |
| 不動産の表示 | 所在・地番・地目・地積など |
買主が2人以上で共有になるときは、登記名義人ごとの持分を書きます(令3条9号)。売主の一部の持分だけを移すときは、登記の目的を「所有権一部移転」とし、移転する持分を明らかにします。共有者の1人がその持分全部を売るときは「何某持分全部移転」とします。記述式ではこの登記の目的の書き分けが、そのまま1枠の点数になります。
2024年以降に加わった申請情報
所有者不明土地対策の改正により、所有権の保存・移転の登記の申請情報が増えています。
- 所有権の登記名義人となる者が法人であるときは、会社法人等番号などの法人識別事項(令3条11号ト)
- 所有権の登記名義人となる者が国内に住所を有しないときは、国内における連絡先(同)
- 所有権の登記名義人となる者が国内に住所を有する個人であるときは、氏名の振り仮名・生年月日・メールアドレスなどの検索用情報の申出(不動産登記規則158条の39)
検索用情報は、所有権登記名義人の住所等の変更を登記官が把握するための仕組みで、住所等変更登記の申請義務化とつながっています。詳しくは住所変更登記の義務化の記事で扱っています。受験対策としては、どの登記で何が加わったかを押さえておけば足ります。
添付情報
売買で必要になる添付情報の一覧
| 添付情報 | 誰の・何のために | 根拠 |
|---|---|---|
| 登記原因証明情報 | 売買の事実と所有権移転の時期を示す | 法61条、令7条1項5号ロ |
| 登記識別情報 | 売主のもの。義務者の本人性の確認 | 法22条 |
| 印鑑証明書 | 売主のもの。作成後3か月以内 | 令16条2項・3項、令18条2項・3項 |
| 住所証明情報 | 買主のもの。新たな所有権登記名義人の実在 | 令別表30項添付情報欄ハ |
| 代理権限証明情報 | 代理人が申請するとき | 令7条1項2号 |
| 会社法人等番号 | 申請人が法人のとき | 令7条1項1号イ |
| 第三者の許可・承諾を証する情報 | 農地法の許可、利益相反取引の承認など | 令7条1項5号ハ |
売主について必要なものは「登記識別情報と印鑑証明書」、買主について必要なものは「住所証明情報」と整理すると崩れません。印鑑証明書が要るのは、売主が所有権の登記名義人として登記義務者になるからです(不動産登記規則47条3号イ・48条5号)。
売主が登記識別情報を失念・紛失しているときも、売買の登記はできます。登記官は、売主に対して申請があった旨と、申請内容が真実であれば一定期間内にその旨を申し出るべき旨を通知し、申出があってから登記をします(法23条1項)。これが事前通知です。資格者代理人による本人確認情報の提供などで、事前通知を省略できる場合もあります(同条4項)。
売主は所有権の登記名義人なので、登記記録上の住所に変更の登記がされているときは、前の住所への通知も加わります(同条2項)。細部は登記識別情報と添付情報で整理しています。
登記原因証明情報の中身
登記原因証明情報は、売買契約書そのものでも、当事者が作成した報告形式の書面でもかまいません。記載すべきは、当事者、不動産、売買契約の成立、所有権移転の時期とその原因となる事実です。代金完済特約があれば、特約の存在と代金を支払った事実まで書きます。
申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致しないときは、申請は却下されます(法25条8号)。登記原因の日付を契約日と完済日で取り違えると、この却下事由に当たります。
第三者の許可・承諾が要る場面
登記原因について第三者の許可・同意・承諾を要するときは、それを証する情報を提供します(令7条1項5号ハ)。売買で典型的なのは次の場面です。
- 農地の売買で、農地法所定の許可が必要なとき
- 株式会社と取締役との売買など、会社法上の利益相反取引の承認が必要なとき
いずれも、その許可・承認がなければ売買の効力が生じない場面です。許可・承認の有無は、実体法の要件から逆算して判断します。
親権者と子との売買のように親権者と子の利益が相反するときは、家庭裁判所が選任した特別代理人が子を代理します(民法826条1項)。この場合の選任の審判書は、第三者の承諾ではなく、代理権限を証する情報として提供するものです。
登録免許税
本則税率と課税標準
売買による所有権移転登記の登録免許税は、不動産の価額に1000分の20を乗じた額です(登録免許税法別表第一第1号(二)ハ)。相続や法人の合併による移転は1000分の4なので、売買と相続で5倍の差があります。
課税標準の不動産の価額は、当分の間、固定資産課税台帳に登録された価格を基礎として政令で定める価額によることができます(登録免許税法附則7条)。共有持分を移転するときは、不動産の価額に持分の割合を乗じた額が課税標準になります(同法10条2項)。
租税特別措置法による軽減は期限付き
売買には、租税特別措置法による軽減税率があります。
| 対象 | 軽減後の税率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 土地の売買による所有権移転 | 1000分の15 | 租税特別措置法72条1項1号 |
| 一定の要件を満たす住宅用家屋の取得による所有権移転 | 1000分の3 | 租税特別措置法73条 |
どちらも適用期限が定められた特例で、税制改正のたびに延長されてきました。受験年度の条文で適用期限を確認してください。住宅用家屋の軽減は、個人が取得して自己の居住の用に供することなどが要件で、取得後1年以内の登記に限られます。
端数処理と最低税額
課税標準の1000円未満は切り捨て、算出した税額の100円未満も切り捨てます(国税通則法118条1項・119条1項)。計算した税額が1000円に満たないときは1000円です(登録免許税法19条)。
架空の数字で一度手を動かしておきます。
| 手順 | 本則で計算 | 共有持分2分の1を移転する場合 |
|---|---|---|
| 不動産の価額 | 12,345,678円 | 12,345,678円 |
| 持分を乗じる | 不要 | 6,172,839円 |
| 課税標準 | 12,345,000円 | 6,172,000円 |
| 税率 | 1000分の20 | 1000分の20 |
| 登録免許税 | 246,900円 | 123,440円を切り捨てて123,400円 |
持分を乗じてから1000円未満を切り捨てる順序に注意してください。記述式では課税価格と登録免許税の両方を書かせることが多く、端数処理の順序を誤ると両方の枠を落とします。計算の練習は登録免許税の計算の記事でまとめています。
売買の登記で問われる応用場面
前提としての住所変更登記
売主の登記記録上の住所が現在の住所と違うときは、そのまま売買の登記を申請すると、登記義務者の住所が登記記録と合致しないとして却下されます(法25条7号)。前提として、売主の住所変更の登記を申請します。
記述式では、別紙の印鑑証明書や住民票の住所と、登記記録の住所を必ず照合してください。前提登記の脱落は、申請件数がずれる典型的な失点です。
売主・買主が登記前に死亡した場合
売買契約後、登記前に当事者が死亡した場合は、62条で処理します。
| 死亡した者 | 処理 |
|---|---|
| 売主 | 売主の相続人全員が登記義務者の地位で、買主と共同して申請する。売主名義から直接買主へ移転する |
| 買主 | 買主の相続人が登記権利者の地位で、売主と共同して申請する。まず死亡した買主名義に移転し、その後に相続登記をする |
売主死亡のケースで、先に売主の相続人への相続登記を入れるのは誤りです。所有権は生前の売買で買主に移っており、相続人は所有権を相続していないからです。
買戻しの特約と直接移転
売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金と契約の費用を返還して売買を解除できます(民法579条)。売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しを第三者に対抗できます(民法581条1項)。登記手続としては、所有権移転登記とは別の申請として、同時に申請します。買戻しの特約の登記は付記登記でされます(不動産登記規則3条10号)。
A から B、B から C と売買があったのに、A から C へ直接移転登記をする中間省略登記は、実体の権利変動と合致しないので認められません。直接 A から C へ登記するには、第三者のためにする売買契約や買主の地位の譲渡など、実体上 A から C へ直接所有権が移る契約の形をとる必要があります。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
- 登記原因の日付:代金完済特約があれば完済日。農地は許可の到達日以降
- 申請人:売主死亡なら相続人全員が義務者として申請し、相続登記を経ない。買主死亡なら買主名義に移転してから相続登記
- 添付情報:印鑑証明書は売主、住所証明情報は買主。印鑑証明書は作成後3か月以内
- 登記の目的:所有権一部移転と持分全部移転の書き分け
- 登録免許税:本則1000分の20。相続は1000分の4。軽減は期限付き
- 却下事由:売主の住所が登記記録と合致しないときは却下。前提として住所変更登記が必要
売買を基準形として覚えておくと、贈与・交換・代物弁済などは、登記原因が違うだけの差分として処理できます。相続との比較もあわせて表にします。
| 項目 | 売買 | 贈与 | 相続 |
|---|---|---|---|
| 申請形態 | 共同申請 | 共同申請 | 相続人の単独申請(法63条2項) |
| 義務者の登記識別情報 | 要 | 要 | 不要 |
| 印鑑証明書 | 要(売主) | 要(贈与者) | 不要 |
| 住所証明情報 | 要(買主) | 要(受贈者) | 要(相続人) |
| 本則税率 | 1000分の20 | 1000分の20 | 1000分の4 |
添付情報の欄は、共同申請か単独申請かでほぼ決まります。住所証明情報だけは、どの原因でも新たに所有権の登記名義人になる者について必要です。
記述式との接続
記述式で売買が出るとき、問われるのは売買の登記そのものより、その前後です。前提として住所変更登記が要るか。売主に相続が開始していないか。売買と同時に抵当権設定があるか。買戻しの特約があるか。これらを先に拾ってから申請件数と順序を決めます。
とくに売買と抵当権設定の連件は定番です。買主の登記識別情報は売買の登記が完了するまで存在しませんが、前後を明らかにして同時に申請すれば、後の抵当権設定について提供されたものとみなされます(不動産登記規則67条)。抵当権設定の登記は抵当権設定登記の記事で扱っています。答案構成の手順は記述式(不動産登記)の答案構成を参照してください。
まとめ
- 特約がなければ所有権は契約時に移転し、登記原因の日付は契約日。代金完済特約や農地法の許可があれば日付がずれる
- 買主が登記権利者、売主が登記義務者として共同申請する(法60条)。判決による単独申請は63条1項、一般承継人の申請は62条
- 添付情報は、売主の登記識別情報と印鑑証明書、買主の住所証明情報、登記原因証明情報、代理権限証明情報
- 2024年以降、法人識別事項・国内連絡先・検索用情報が加わった
- 登録免許税は本則1000分の20。土地と住宅用家屋に期限付きの軽減がある
- 住所変更の前提登記、当事者の死亡、買戻しの特約、連件の抵当権設定が記述式の分岐点
よくある質問
売買契約書がなくても所有権移転登記はできますか
できます。登記原因証明情報は売買契約書に限られず、売買の事実と所有権移転の時期を記載した報告形式の書面を当事者が作成して提供することもできます。大切なのは書面の形式ではなく、申請情報の内容と合致した登記原因が記載されていることです。
売主の印鑑証明書は、買主についても必要ですか
必要ありません。書面申請で印鑑証明書が必要になるのは、所有権の登記名義人が登記義務者として申請する場合が中心です。売買では売主がこれに当たり、買主は登記権利者なので不要です。買主について必要なのは住所証明情報です。
土地の軽減税率1000分の15は必ず使えますか
租税特別措置法72条の軽減は、適用期限が定められた特例です。期限内の登記であることが前提で、延長されるかは税制改正次第です。本試験では問題文の指示に従い、指示がなければ受験年度の条文で適用期限を確認したうえで判断してください。
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