記述式 不動産登記の答案構成:事実関係の読み方と申請の順番
司法書士試験の記述式・不動産登記で、事実関係を権利変動の一覧表に変える読み方と、申請の順番を決める4つのルールを解説します。例題で答案構成を通し、名義の鎖で検算する方法まで。雛形は書けるのに枠がずれる受験生向け。
記述式の不動産登記で、雛形は書けるのに点が伸びない。その原因の多くは、欄の書き方ではなく「何件の登記を、どの順番で申請するか」の判断にあります。結論を先に言います。事実関係は読みながら「権利変動の一覧表」に変換し、登記記録の名義人から1本の鎖でつながるように申請を並べる。この2つを型にすれば、件数と順番の誤りは大きく減らせます。
この記事は、雛形の暗記は進んでいるのに枠ズレが止まらない受験生向けに、答案構成の中でも「事実関係の読み方」と「申請の順番の決め方」だけを掘り下げます。答案構成の全体の手順と時間配分は記述式・不動産登記法の対策にまとめてあるので、そちらを土台にして読んでください。
答案構成で決めるのは「件数」と「順番」
雛形を書く前に答えが出ている
解答欄に書く登記の目的・登記原因及びその日付・申請人・添付情報・登録免許税は、登記の種類が決まれば雛形どおりに書けます。つまり欄の中身は、何の登記を申請するかが決まった時点でほぼ決まっています。答案の出来を左右するのは、その手前の判断です。どの出来事が登記になるか、何件になるか、どの順に並べるか。この判断を誤ると、欄をどれだけ正確に書いても点になりません。
順番は形式ではなく中身
申請の順番は、見た目を整えるための並べ方ではありません。不動産登記法20条は、同一の不動産に関する権利の登記の申請が2つ以上あるとき、登記官は受付番号の順序に従って登記をしなければならないと定めています。そして不動産登記法4条1項により、同一の不動産について登記した権利の順位は、原則として登記の前後によります。答案で並べた順番は、実際の申請でいえば受付の順であり、そのまま権利の順位につながります。
なお、同一の不動産について同時に2つ以上の申請がされたときは、不動産登記法19条3項により同一の受付番号が付されます。
順番を誤ると連鎖して崩れる
順番を1つ誤ると、その後の申請の前提が崩れます。たとえば、所有権の移転より先に買主を設定者とする抵当権の設定を置けば、その時点の登記記録では買主はまだ所有権の登記名義人ではありません。1件の誤りが、登記義務者・添付情報・登録免許税の各欄にまで波及します。失点の型全体は記述式でよくあるミスで整理しています。
事実関係を「権利変動の一覧表」に変換する
人物表を先に作る
事実関係を読む前に、登記記録から人物表を作ります。所有権の登記名義人、担保権の登記名義人、それぞれの登記記録上の住所と氏名。これが鎖の起点です。
そのうえで事実関係に出てくる人物を書き足し、登記記録の人物との関係を記入します。相続人、買主、債権者、代理人。登記記録上の名義人に死亡・住所移転・氏名変更・商号変更が起きていれば、その場で人物表に書き込みます。後で探すのではなく、読んだ瞬間に書くのがこつです。
人物表は、次のような簡単なもので足ります。
| 人物 | 登記記録上の立場 | 登記記録上の住所 | 事実関係で起きたこと |
|---|---|---|---|
| A | 甲区の所有権の登記名義人 | X市 | Y市へ住所移転。Bへ売却 |
| B | なし | ― | Aから買い受け、C銀行から借入れ |
| C銀行 | なし | ― | Bに融資し、抵当権の設定を受ける |
右端の列に書いた出来事のうち、登記記録上の立場を変えるものが、申請の候補になります。
出来事を5つの項目で拾う
事実関係の中の出来事は、次の5項目で1行ずつ拾います。
| 項目 | 拾う内容 | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 日付 | 契約・死亡・支払・許可の到達などの日 | 原因日付と順番の誤り |
| 出来事 | 売買・贈与・相続・弁済・住所移転など | 登記の目的の誤り |
| 当事者 | 誰から誰へ。共有なら持分も | 申請人と持分の誤り |
| 対象 | どの不動産の、どの権利か | 対象の取り違え、件数の誤り |
| 効力の条件 | 許可・同意・所有権移転時期の特約・代金の支払 | 効力発生前の登記を書いてしまう |
5つ目の「効力の条件」が最も見落とされます。売買契約の日と所有権が移転する日は、特約があれば別の日です。農地の売買で許可が届いていなければ、所有権はまだ移転していません。
聴取記録は事実と予定を分けて読む
事実関係は、依頼者と司法書士の会話や聴取記録の形で書かれることがあります。会話の中には、すでに起きた事実と、これから行う予定や依頼者の希望が混ざっています。「〜した」は事実、「〜する予定」「〜したいと考えている」は事実ではありません。一覧表に拾うのは事実だけです。予定のほうは、注意事項や設問が「申請日までに生じた事実を前提とする」と区切っている場合、その日までに実行されたかどうかを確認します。
各出来事に3つの問いを当てる
問い1:権利変動は生じたか
一覧表の各行について、まず権利変動が実体法上生じたかを判定します。契約が成立していても、効力の条件が満たされていなければ権利は動きません。許可が効力要件になっている取引、停止条件付きの契約、所有権移転時期の特約がある売買が典型です。条件が満たされた日が、次の問いの答えになります。実体法上の物権変動と登記の関係は民法177条の第三者で確認できます。
問い2:いつ生じたか
権利変動が生じた日が、登記原因の日付になります。間違えやすいのは、日付が複数並んでいる出来事です。
| 出来事 | 原因日付になる日 | 間違えやすい日 |
|---|---|---|
| 所有権移転時期の特約がある売買 | 特約で定めた時期が到来した日 | 契約の日 |
| 相続登記の前に遺産分割が成立した相続 | 被相続人の死亡の日 | 遺産分割協議の日 |
| 法定相続分での登記の後に成立した遺産分割 | 遺産分割協議の日 | 被相続人の死亡の日 |
| 許可が効力要件の取引 | 許可が到達した日 | 契約の日 |
2行目と3行目は、同じ遺産分割でも登記の段階によって答えが変わる例です。法定相続分で相続登記をした後に遺産分割があれば、分割で持分を取得した相続人への持分の移転を、遺産分割を原因として別に申請します。不動産登記法76条の2第2項も、この場面の登記を前提にした規定です。
問い3:登記できるか、申請すべきか
最後に、その権利変動が登記の対象になるかを判定します。不動産登記法25条2号は、登記事項以外の事項の登記を目的とする申請を却下事由としています。そもそも登記できない事項は枠になりません。
もう1つの判断は、注意事項による限定です。「申請すべき登記がない場合はその旨と理由を記載する」「依頼者が申請を希望しない登記は除く」といった指示があれば、登記できる事項でも枠にしないことがあります。3つの問いを通過した行だけが、申請の候補として残ります。
申請の順番を決める4つのルール
ルール1:登記記録の名義人から鎖をつなぐ
登記の申請は、登記記録上の名義人から始まる鎖として並べます。不動産登記法25条7号は、申請情報の内容である登記義務者の氏名・名称・住所が登記記録と合致しないときを却下事由としています。売主の住所が登記記録と違えば、売買による所有権移転の前に所有権登記名義人の住所変更を入れます。登記名義人が死亡していて、相続人が不動産を売却したのなら、売買の前に相続による所有権移転を入れます。
住所変更の登記は、令和8年4月1日から申請が義務になりました。不動産登記法76条の5は、所有権の登記名義人の氏名・名称・住所に変更があったとき、変更の日から2年以内に変更の登記を申請しなければならないと定めています。制度の詳細は住所変更登記の義務化で扱っています。
ルール2:登記名義人が売却後に死亡した場合は鎖を足さない
鎖に前提の登記を足さない場面もあります。登記名義人が生前に売却し、その登記をしないまま死亡した場合です。不動産登記法62条は、登記義務者などについて相続その他の一般承継があったとき、相続人その他の一般承継人がその登記を申請できると定めています。この場合、売主から買主への所有権移転を、売主の相続人が登記義務者の側に立って申請します。相続登記は入れません。
| 事情 | 前提の相続登記 | 売買による所有権移転の登記義務者 |
|---|---|---|
| 名義人が死亡し、その後に相続人が売却 | 必要 | 相続登記を受けた相続人 |
| 名義人が売却し、登記前に死亡 | 不要 | 名義人。申請は相続人がする |
どちらも「名義人の死亡」と「売買」が出てくる事案です。違いは、死亡と売買のどちらが先に起きたかだけです。一覧表で日付を並べていれば、ここで迷いません。
ルール3:順位が問題になる登記は依存関係で並べる
買主が代金の借入れをして、取得した不動産に抵当権を設定する事案では、所有権移転が先、抵当権設定が後です。抵当権の設定の登記義務者は設定者である買主で、買主が所有権の登記名義人になっていなければ鎖がつながりません。
同じ不動産に複数の担保権を設定する事案では、申請の順番がそのまま順位になります。事実関係に当事者が合意した順位が書かれていれば、それに合わせて並べます。抵当権設定の登記の構造は抵当権設定登記にまとめています。
ルール4:依存関係がなければ時系列
ルール1から3で順番が決まらない申請は、権利変動が生じた日の順に並べます。一覧表をそのまま上から写せば済みます。同じ日に生じた出来事で依存関係もない場合は、事実関係の記載や注意事項に手がかりが置かれていないかを確認してください。
例題で答案構成を通す
事実関係と一覧表
抽象化した例で、ここまでの手順を通します。
登記記録では、甲土地の所有権の登記名義人はAで、住所はX市です。事実関係は次のとおりです。
- 令和8年2月1日、AはX市からY市に住所を移転した
- 令和8年3月1日、AはBに甲土地を売却した。所有権は代金全額の支払の時に移転する特約がある
- 令和8年3月15日、BはAに代金全額を支払った
- 同日、BはC銀行から金銭を借り入れ、甲土地にC銀行のための抵当権を設定する契約をした
これを一覧表にします。
| 日付 | 出来事 | 当事者 | 効力の条件 | 登記 |
|---|---|---|---|---|
| R8.2.1 | 住所移転 | A | なし | 所有権登記名義人住所変更 |
| R8.3.1 | 売買契約 | A・B | 代金全額の支払で所有権移転 | この日は移転しない |
| R8.3.15 | 代金支払 | A・B | 特約の条件が成就 | 所有権移転 |
| R8.3.15 | 金銭消費貸借と抵当権設定 | B・C銀行 | なし | 抵当権設定 |
順番を決める
ルールを当てると、次の順番になります。
| 順 | 登記の目的 | 登記原因及びその日付 | 申請人 | この位置の理由 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 所有権登記名義人住所変更 | 令和8年2月1日住所移転 | A | 売買の登記義務者Aの住所を登記記録と合わせる。ルール1 |
| 2 | 所有権移転 | 令和8年3月15日売買 | 権利者B・義務者A | 特約により代金支払の日に移転。問い2 |
| 3 | 抵当権設定 | 令和8年3月15日金銭消費貸借同日設定 | 権利者C銀行・義務者B | 設定者Bが名義人になった後。ルール3 |
2件目の原因日付は、契約の日である3月1日ではありません。所有権移転時期の特約があるので、代金全額を支払った3月15日です。売買による所有権移転の欄の書き方は所有権移転登記・売買で確認してください。
仮に所有権移転時期の特約がなかったとすると、売買の原因日付は契約の日である3月1日になります。この場合も順番は変わりません。住所変更、所有権移転、抵当権設定の順です。原因日付が変わっても、名義の鎖の形は同じだからです。日付の判断と順番の判断は、別々に確かめる必要があります。
名義の鎖で検算する
並べ終えたら、上から順に「その申請の登記義務者は、その時点の登記記録上の名義人か」を確かめます。
1件目の住所変更はAの単独申請で、登記記録上の名義人はAです。2件目の売買の義務者Aは、1件目で住所が登記記録と合っています。3件目の抵当権設定の義務者Bは、2件目で所有権の登記名義人になっています。鎖が途切れていなければ、件数と順番はおおむね正しいと言えます。途切れていれば、前提の登記が抜けているか、順番が逆です。
この検算は1件あたり数秒で済みます。最後に、注意事項に件数の指定があれば、自分の件数と照合してください。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
答案構成で使うルールは、午後の択一式でそのまま問われます。
- 登記義務者の氏名・住所が登記記録と合致しない申請は、不動産登記法25条7号により却下される
- 登記義務者に相続があったとき、相続人は不動産登記法62条により、被相続人が申請人となるべき登記を申請できる
- 相続による権利の移転の登記は、不動産登記法63条2項により登記権利者が単独で申請できる
- 同一の不動産に関する申請の前後が明らかでないときは、不動産登記法19条2項により同時にされたものとみなされる
択一でこれらを肢として判断できれば、記述式の答案構成で迷う場面は減ります。条文を覚えるときは、記述式のどの判断に使うかを一緒に押さえてください。科目全体の学び方は不動産登記法の勉強法を参照してください。
記述式との接続
近年の記述式では、申請情報の記載に加えて、ある登記を申請しない理由や、申請できない理由を文章で書かせる小問が出されています。3つの問いのどこで候補から外れたのかを一覧表に残しておけば、その理由がそのまま解答の骨格になります。「効力の条件が満たされていない」「登記事項ではない」「注意事項で除外されている」のどれに当たるかを、根拠となる事実とともに書きます。
たとえば、農地の売買で許可書がまだ届いていない事案なら、「許可が到達していないため所有権が移転していない」という結論に、許可の申請中であるという事実を添えます。結論だけでも、事実だけでも足りません。一覧表の「効力の条件」の列に書いたメモが、そのまま理由の材料になります。
まとめ
- 答案の出来は、欄の書き方より「件数」と「順番」の判断で決まる。
- 申請の順番は受付の順となり、不動産登記法4条1項・20条により権利の順位につながる。
- 事実関係は、日付・出来事・当事者・対象・効力の条件の5項目で一覧表に変換する。
- 各出来事に、権利変動は生じたか・いつ生じたか・登記すべきかの3つの問いを当てる。
- 順番は、名義人からの鎖、売却後の死亡の例外、順位の依存関係、時系列の4つのルールで決める。
- 並べ終えたら、各申請の登記義務者がその時点の名義人かを上から検算する。
よくある質問
一覧表を作ると時間が足りなくなりませんか
一覧表は、清書する表ではなく問題用紙の余白に書くメモです。日付と出来事と当事者を略記するだけなら、事実関係を読むのと同じ速さで書けます。一覧表なしで読んでも、答案を書く途中で事実関係を読み直すことになり、結局は時間がかかります。午後の部全体の時間の配り方は午後の部の時間配分で扱っています。
前提の住所変更の登記は、どんな場合でも必要ですか
必要かどうかは、その申請で誰が登記義務者になるか、どんな登記を申請するかで変わります。売買による所有権移転の義務者である売主の住所が登記記録と違う場合は、前提として住所変更の登記を入れます。一方で、相続による所有権移転のように被相続人が登記義務者として申請に関与しない登記では、扱いが異なります。場面ごとに整理してください。
同じ日に複数の出来事がある場合、どう並べればよいですか
まず依存関係を確認します。一方の登記が完了していないと他方の登記義務者が名義人にならない、という関係があれば、依存されている側が先です。依存関係がなければ、事実関係の記載の順序や注意事項の指示を確認します。同じ日の出来事を並べる手がかりは、問題文の中から探してください。
過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。