抵当権抹消登記:申請構造と添付情報
抵当権抹消登記を、消滅原因と登記原因、権利者と義務者の区別、混同、添付情報と登録免許税、前提登記、抵当権者が所在不明の場合の単独申請(不動産登記法69条・70条・70条の2)の順に整理。司法書士試験の受験生向けに条文から解説します。
抵当権抹消登記は、不動産登記法の中で最も件数の多い登記の一つです。記述式では売買の前提として抹消を入れる連件が定番で、択一でも申請人・添付情報・単独申請の特則が繰り返し問われます。
結論を先に言うと、抵当権抹消で押さえるべき点は3つです。第1に、登記権利者は所有権の登記名義人、登記義務者は抵当権者であり、設定のときと立場が入れ替わること。第2に、第三者が弁済して代位した場合は抹消ではなく移転の登記になること。第3に、抵当権者の所在が知れないときの単独申請には、除権決定・弁済の証明・休眠担保権の供託・解散法人の特則という4つのルートがあることです。
本記事では、民法の抵当権の消滅原因を確認したうえで、共同申請の構造、添付情報、前提登記、単独申請の特則を条文に沿って整理します。設定登記は抵当権設定登記で、不動産登記法の学習全体は不動産登記法の勉強法で扱っています。
抵当権の消滅原因と登記原因
付従性による消滅と登記原因の型
抵当権は被担保債権を担保する権利なので、債権が消滅すれば抵当権も消滅します。これが付従性です。抵当権そのものについての合意で消滅させることもできます。代表的な消滅原因と、登記原因の書き方は次のとおりです。
| 消滅原因 | 登記原因の型 | 日付 |
|---|---|---|
| 被担保債権の全額の弁済 | 年月日弁済 | 債権が全部消滅した日 |
| 抵当権設定契約の解除 | 年月日解除 | 解除の日 |
| 抵当権の放棄 | 年月日放棄 | 放棄の日 |
| 混同 | 年月日混同 | 所有権と抵当権が同一人に帰属した日 |
分割で弁済していた住宅ローンなら、最後の弁済で債権が消滅した日が原因日付です。金融機関が完済後に交付する書面が解除証書の形をとっていれば、原因は「解除」になります。登記原因は、登記原因証明情報に書かれた事実に合わせて選びます。
代位弁済は抹消ではなく移転
保証人や物上保証人などが債務者のために弁済すると、弁済者は債権者に代位します(民法499条)。代位した者は、債権者が有していた担保を行使できます(民法501条1項)。抵当権は消滅せず、弁済者に移ります。
この場合の登記は、「代位弁済」を原因とする抵当権移転の登記です。抹消の登記ではありません。保証会社が弁済した事案で抹消を書くのは、典型的な失点です。保証人の代位の実体法は保証と連帯保証で扱っています。
| 弁済した人 | 抵当権の行方 | 登記 |
|---|---|---|
| 債務者本人 | 付従性で消滅 | 抹消 |
| 保証人・物上保証人など | 代位により弁済者に移転 | 抵当権移転 |
混同で消滅しない場合
同一物について所有権と他の物権が同一人に帰属したときは、他の物権は消滅します(民法179条1項本文)。抵当権者が抵当不動産の所有権を取得した場合が典型です。
ただし、その物または当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは消滅しません(同項ただし書)。たとえば1番抵当権者が所有権を取得しても、2番抵当権が付いていれば、1番抵当権は消滅しません。1番抵当権が消えると、2番抵当権者が順位上昇の利益を受けてしまうからです。記述式で混同を検討するときは、乙区に後順位の担保権があるかを必ず確認してください。
申請人と申請の構造
権利者は所有者、義務者は抵当権者
抵当権抹消登記は、登記権利者と登記義務者の共同申請です(不動産登記法60条)。
| 立場 | 抹消登記での該当者 | 理由 |
|---|---|---|
| 登記権利者 | 所有権の登記名義人 | 抵当権の負担が消え、登記上直接に利益を受ける |
| 登記義務者 | 抵当権の登記名義人 | 抵当権の登記を失い、登記上直接に不利益を受ける |
設定登記では抵当権者が権利者、設定者が義務者でした。抹消では入れ替わります。直感と逆に見えるので、「その登記で登記上直接に利益を受ける者が権利者」という定義に毎回戻ってください。
抵当権の設定後に不動産が売却されていれば、抹消の登記権利者は現在の所有権の登記名義人です。設定者ではありません。
混同による抹消では、所有権の登記名義人と抵当権の登記名義人が同一人です。この場合は、その者が権利者兼義務者として申請します。形式上は共同申請の構造を保っていると理解してください。
登記上の利害関係を有する第三者
権利に関する登記の抹消は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、その第三者の承諾があるときに限り申請できます(不動産登記法68条)。抵当権の抹消では、その抵当権を目的とする転抵当権者や、抵当権付債権の差押債権者などがこれにあたります。
後順位の抵当権者は利害関係人ではありません。先順位が消えれば順位が上がるだけで、不利益を受けないからです。承諾を証する情報は、令別表26項添付情報欄トにより、第三者が作成した承諾を証する情報または第三者に対抗できる裁判があったことを証する情報です。
申請情報の骨格
架空の例で、申請情報の骨格を示します。
| 項目 | 記載の例 |
|---|---|
| 登記の目的 | 何番抵当権抹消 |
| 原因 | 年月日弁済、年月日解除など |
| 権利者 | 所有権の登記名義人の住所・氏名 |
| 義務者 | 抵当権の登記名義人の住所・氏名 |
| 添付情報 | 登記原因証明情報、登記識別情報、代理権限証明情報、会社法人等番号 |
| 登録免許税 | 金1000円に不動産の個数を乗じた額 |
| 不動産の表示 | 抹消する抵当権が登記されている不動産 |
登記の目的では、どの抵当権を抹消するかを乙区の順位番号で特定します。同じ不動産に複数の抵当権があるときに、順位番号を書き落とすと、どの登記を消すのかが決まりません。課税価格の欄は不要です。定額課税なので課税標準は不動産の個数だからです。
添付情報と登録免許税
抵当権抹消の添付情報
| 添付情報 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 登記原因証明情報 | 解除証書や弁済証書など | 法61条、令別表26項添付情報欄ヘ |
| 登記識別情報 | 義務者である抵当権者のもの。設定登記の際に通知されたもの | 法22条 |
| 代理権限証明情報 | 代理人が申請するとき | 令7条1項2号 |
| 会社法人等番号 | 申請人が法人のとき | 令7条1項1号イ |
| 承諾を証する情報 | 登記上の利害関係を有する第三者があるとき | 法68条、令別表26項添付情報欄ト |
住所証明情報は不要です。所有権の登記名義人が新たに生じるわけではないからです。
印鑑証明書は原則不要
書面申請で印鑑証明書が必要になるのは、原則として所有権の登記名義人が登記義務者になる場合です。抵当権者は所有権以外の権利の登記名義人なので、登記識別情報を提供して申請する限り、印鑑証明書は不要です(不動産登記規則48条1項5号・47条3号)。
ただし、抵当権者が登記識別情報を提供できずに申請する場合は、所有権以外の権利の登記名義人であっても印鑑証明書が必要になります(規則47条3号ハ)。登記識別情報を提供できない場合の事前通知などの扱いは、登記識別情報と添付情報で整理しています。
登録免許税と申請情報の一件化
登録免許税は、不動産1個につき1000円です(登録免許税法別表第一第1号(十五))。同一の申請書で20個を超える不動産について抹消を受ける場合は、申請件数1件につき2万円です。20個ちょうどなら2万円、21個なら2万1000円ではなく2万円になります。
申請情報は一の不動産ごとに作成するのが原則ですが、同一の登記所の管轄区域内にある2以上の不動産について、登記の目的と登記原因およびその日付が同一であるときは、一の申請情報で申請できます(不動産登記令4条ただし書)。共同抵当の抹消は、この要件を満たせば1件で申請できます。上限2万円の扱いは登録免許税の計算でも確認してください。
前提登記が必要になる場面
所有者と抵当権者の表示変更
登記権利者である所有者の住所や氏名が登記記録と一致しないときは、前提として所有権登記名義人の住所等の変更の登記を申請します。法務局が公表している抹消登記の記載例も、この扱いを前提にしています。所有者の住所変更登記そのものの申請義務は住所変更登記の義務化で扱っています。
一方、登記義務者である抵当権者の住所や名称が変わっている場合は、先例上、変更を証する情報を提供すれば、前提としての抵当権登記名義人の表示変更登記を省略できる扱いです。抹消される登記の名義人の表示をわざわざ変更しても、すぐに消えるからです。義務者側と権利者側で結論が逆になる点が、択一の定番です。
| 表示が変わっている者 | 前提の変更登記 |
|---|---|
| 所有者(登記権利者) | 必要 |
| 抵当権者(登記義務者) | 省略できる。変更を証する情報を添付する |
抵当権者の死亡・合併
抵当権者が死亡したり、法人の抵当権者が合併で消滅したりしている場合は、抵当権が消滅した時期で処理が分かれます。
| 消滅した時期 | 処理 |
|---|---|
| 死亡・合併の前に被担保債権が弁済された | 抵当権は死亡・合併の前に消滅している。相続人や承継会社が法62条により義務者として抹消を申請する。移転登記は不要 |
| 死亡・合併の後に弁済された | 抵当権はいったん相続人や承継会社に移転している。前提として相続・合併による抵当権移転の登記をしてから抹消する |
62条は、登記義務者について相続その他の一般承継があったときに、一般承継人が登記を申請できるとする規定です。消滅した抵当権を移転登記するのは実体と合わないので、前者では移転登記を入れません。
抵当権者の所在が知れない場合
単独申請の4つのルート
抵当権者の所在が知れないと共同申請ができず、完済済みの古い抵当権が残り続けます。不動産登記法は、登記権利者が単独で抹消を申請できるルートを用意しています。
| ルート | 条文 | 要件の骨格 | 主な添付情報 |
|---|---|---|---|
| 除権決定 | 70条1項・3項 | 公示催告の申立てをし、除権決定を得る | 除権決定があったことを証する情報 |
| 弁済の証明 | 70条4項前段 | 被担保債権が消滅したことを証する情報を提供 | 債権証書、被担保債権と最後の2年分の利息などの完全な弁済を証する情報、所在不明を証する情報 |
| 休眠担保権の供託 | 70条4項後段 | 弁済期から20年を経過し、その後に債権・利息・損害金の全額を供託 | 弁済期を証する情報、供託を証する情報、所在不明を証する情報 |
| 解散法人の担保権 | 70条の2 | 法人が解散し清算人の所在が判明しない。弁済期から30年、かつ解散の日から30年を経過 | 弁済期を証する情報、解散の日を証する情報、清算人の所在が判明しないことを証する情報 |
添付情報は令別表26項添付情報欄ロからホに定められています。どのルートも「所在が知れない」ことが出発点で、単に協力してくれない抵当権者には使えません。協力しない抵当権者に対しては、登記手続を命ずる確定判決を得て、63条1項により単独で申請します。
休眠担保権の抹消
70条4項後段は、いわゆる休眠担保権の抹消の規定です。被担保債権の弁済期から20年を経過し、かつ、その期間を経過した後に被担保債権、その利息および債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときに、登記権利者が単独で抹消を申請できます。
供託する額は元本だけではありません。利息と遅延損害金まで含めた全額です。弁済期から20年の経過は、供託の前に満たしている必要があります。供託した後に20年が経過しても要件を満たしません。供託の基本は弁済供託の記事で扱っています。
解散した法人の担保権と69条
70条の2は、2023年4月1日施行の改正で新設された規定です。抵当権者である法人が解散し、70条2項の方法で調査をしてもなお清算人の所在が判明しない場合に、被担保債権の弁済期から30年、かつ法人の解散の日から30年を経過していれば、供託をしなくても単独で抹消を申請できます。
これと別に、69条は、権利が人の死亡または法人の解散によって消滅する旨が登記されている場合に、その死亡または解散で権利が消滅したときは、登記権利者が単独で抹消を申請できるとする規定です。70条・70条の2が「所在が知れない」ことを出発点にするのに対し、69条は登記された消滅の定めを出発点にする点で、構造が違います。70条2項の「存続期間の満了」の特則は地上権・賃借権・買戻しの特約などの規定で、抵当権は対象に含まれていない点も比較で問われます。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
- 申請人:権利者は現在の所有権の登記名義人、義務者は抵当権者。第三取得者がいれば第三取得者が権利者
- 代位弁済:保証人などが弁済したら抹消ではなく抵当権移転
- 混同:後順位の担保権など第三者の権利の目的になっていれば消滅しない
- 利害関係人:転抵当権者などは承諾が必要。後順位抵当権者は利害関係人でない
- 印鑑証明書:抵当権者が登記識別情報を提供すれば不要。提供できないと必要
- 前提登記:所有者の表示変更は必要、抵当権者の表示変更は省略できる
- 単独申請:70条4項後段は弁済期から20年経過後に全額供託。70条の2は弁済期と解散の日からそれぞれ30年
- 登録免許税:1個1000円。同一申請書で20個を超えると2万円
記述式との接続
記述式では、売買による所有権移転の前提として抵当権抹消を入れる事案が定番です。
- 抹消を先、所有権移転を後に申請する。抹消の権利者は売主で、買主ではない
- 売主の住所が登記記録と違えば、抹消よりさらに前に売主の住所変更登記を入れる
- 抵当権者の商号や本店が変わっていても、抹消の前提としての表示変更は入れない
- 保証会社が代位弁済している事案では、抹消ではなく移転の登記を検討する
枠の決め方は記述式(不動産登記)の答案構成で扱っています。
まとめ
- 抵当権は被担保債権の弁済などで付従性により消滅する。登記原因は弁済・解除・放棄・混同など
- 保証人などの代位弁済では抵当権は移転する。登記は抹消ではなく移転
- 権利者は所有権の登記名義人、義務者は抵当権者。設定のときと立場が逆になる
- 添付情報は登記原因証明情報、抵当権者の登記識別情報、代理権限証明情報など。住所証明情報は不要
- 所有者の表示変更は前提登記が必要で、抵当権者の表示変更は省略できる
- 抵当権者の所在が知れないときは、70条・70条の2の単独申請のルートがある
- 登録免許税は不動産1個1000円。同一申請書で20個を超えると2万円
よくある質問
住宅ローンを完済したのに抹消登記をしないとどうなりますか
抵当権は付従性で消滅していますが、登記は残り続けます。抹消の申請に期限はありません。ただし、時間が経つと抵当権者が合併したり、登記識別情報などの書類が見当たらなくなったりして、手続が複雑になります。登記が残っている限り、登記記録上は抵当権の付いた不動産として扱われます。
抵当権者が合併で消滅している場合、合併後の会社名義に移転してから抹消するのですか
合併の前に完済していたなら、移転登記は不要です。抵当権は合併前に消滅しているので、承継会社が62条により義務者として抹消を申請します。合併の後に完済したなら、前提として合併による抵当権移転の登記をしてから抹消します。
休眠担保権の抹消で供託する額は、登記された債権額だけで足りますか
足りません。70条4項後段は、被担保債権、その利息および債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭の供託を求めています。登記記録の債権額に加えて、利息と遅延損害金を計算して供託します。
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