司法書士試験の模試の活用法:受ける時期・復習の順番・成績表の読み方
司法書士試験の模試を点数の確認で終わらせないための使い方を解説します。受ける時期と回数の決め方、本番のリハーサルとしての受け方、復習の優先順位、成績表で見るべき数字と見なくてよい数字まで。
模試の点数に一喜一憂しても、本試験の点は上がりません。結論を先に言います。模試は合否を占う場ではなく、本番と同じ条件で自分の処理を点検する場です。受ける前に「この回で何を試すか」を1つ決め、受けた後は正答率の高い問題から復習し、成績表は総合点ではなく部門ごとの基準点との差で読む。この3つで、同じ1回の模試から取れる情報がまったく変わります。この記事は、模試を受ける予定の司法書士試験の受験生向けに、受ける時期と回数の決め方、当日の受け方、復習の順番、成績表の読み方を扱います。直前期全体での模試の位置づけは直前期の基準点戦略にまとめています。
模試で得られるもの・得られないもの
模試にしかない3つの価値
模試には、過去問演習では手に入らない価値が3つあります。
- 初見の問題:過去問は何度も回すうちに、問題そのものを覚えてしまいます。模試の問題は初見なので、知識がどこまで応用できるかを測れます。
- 本番の時間割と環境:午前2時間・午後3時間を、他の受験生がいる会場で通して解く経験は、自宅の演習では再現しにくいものです。
- 受験生の中での位置:同じ問題を解いた受験生の正答率が分かります。多くの受験生が取った問題を自分が落としていれば、そこが優先して埋めるべき穴です。
この3つ以外の目的、たとえば知識の網羅や論点の暗記は、肢別の周回のほうが効率よくこなせます。模試をその目的で使うと、1回あたりのコストが高くつきます。
模試では分からないこと
模試の点数は、本試験の点数を予測しません。作問の主体が違うので、難易度も論点の選び方も本試験とは一致しないからです。模試が本試験より難しく作られていることもあれば、易しいこともあります。
本試験の基準点も、模試からは分かりません。基準点は本試験の後に法務省が公表するもので、事前に決まった点数はありません。模試の成績表に「予想基準点」のような数字が載っていても、それはその模試の受験者の得点分布から作られた目安です。基準点の決まり方は基準点と上乗せ点の仕組みで確認してください。
年度別過去問との役割分担
模試と年度別過去問は、どちらも本番の時間割で通して解く演習です。違いは問題が初見かどうかにあります。
| 項目 | 年度別過去問 | 模試 |
|---|---|---|
| 問題 | 本試験そのもの。何度か解くと覚えてしまう | 初見 |
| 難易度 | 本試験の水準そのもの | 作問者によって上下する |
| 他の受験生との比較 | できない | 正答率・順位が分かる |
| 回数 | 自分で決められる | 実施日に縛られる |
本試験の水準を知るのは年度別過去問、初見への対応と受験生の中での位置を知るのは模試、と分けて考えてください。年度別過去問を何年分使うかは過去問は何年分やるかで扱っています。
受ける時期と回数を決める
本試験から逆算する
令和8年度の筆記試験は7月5日でした。本試験が7月上旬にある前提で、模試の時期を逆算します。模試の実施時期は主催者によって違うので、ここでは受ける側の設計だけを示します。
- 最後の模試は本試験の2〜3週間前までに置きます。それより後だと、復習で見つかった穴を埋める時間が残りません。
- 最初の模試は全科目を一通り学習した後に置きます。未学習の科目がある状態で受けても、点数から読み取れるのは「未学習の科目は解けない」ことだけです。
- 模試と模試の間は2〜3週間空けます。前の回で見つかった穴を埋め、次の回で埋まったかを確かめるための間隔です。
初受験者と受験経験者で使い方が変わる
同じ模試でも、学習の段階によって目的が変わります。
| 受験生 | 主な目的 | 受け方の目安 |
|---|---|---|
| 初受験者 | 本番の時間割に慣れる。全科目の穴の分布を知る | 全科目を一通り終えてから。直前期に2〜3回 |
| 受験経験者 | 前年の不合格の型が直ったかを確かめる | 前年に割った部門の点数を重点的に見る。直前期に2〜4回 |
受験経験者は、前年の本試験で割った部門が模試でも基準点付近にあるなら、その部門の対策がまだ足りていないと判断できます。前年の結果の分析方法は司法書士試験に落ちたときの立て直し方で扱っています。
回数は復習できる数で決める
模試の回数は多いほど良いわけではありません。1回の模試は、受ける時間と同じかそれ以上の時間を復習に使って初めて元が取れます。復習が追いつかないまま次の回を受けると、同じ穴で2回点を落とすだけになります。
目安は、1回の模試の復習に2〜3日分の学習時間を充てられるかどうかです。充てられないなら回数を減らしてください。受けっぱなしの模試を3回重ねるより、2回をしっかり復習するほうが本試験の点につながります。
会場で受けるか、自宅で受けるか
会場受験と自宅受験を選べる模試なら、少なくとも1回は会場で受けることをすすめます。周囲の物音、時計の位置、机の広さ、昼休みの過ごし方は、会場でしか経験できません。本試験の会場の環境は、自分では選べません。環境の変化に強くなるには、慣れない環境で一度解いておくのがいちばん確実です。
自宅受験は、時間割を自分で守れるかが鍵になります。途中で調べ物をしたり、時間を延ばしたりすると、模試の価値の大半が失われます。
当日の受け方:本番のリハーサルにする
時間割と持ち物を本番に合わせる
模試は、試験の中身だけでなく1日の動き方のリハーサルでもあります。令和8年度の受験案内書では、午前の部が9時30分から11時30分まで、午後の部が13時から16時まででした。模試の時間割が違う場合でも、起床時刻や食事の時刻は本番に合わせてください。
持ち物も、受験案内書で机上に置けるとされている物だけで解きます。たとえば時計は計時機能のみのものに限られ、アラームなど音の出る機能は使えません。演習で使い慣れた道具が本番で使えないと、それだけで調子が狂います。本番の当日の流れは司法書士試験の流れと日程で確認できます。
試す項目を1つ決めて臨む
模試を受ける前に、その回で試すことを1つだけ決めます。
- 午後の部で、択一と記述のどちらを先に解くか
- 午前の部で、民法から解くか問題番号順に解くか
- 択一で1問にかける上限時間を守れるか
- 記述式の答案構成に上限時間を設けて、それを守れるか
1回の模試で複数を同時に変えると、結果が良くても悪くても、どの変更が効いたのか分かりません。1回に1つずつ試し、効果を確かめてから次に進みます。午後の部の解く順序の型は午後の部の時間配分、午前の部は午前の部の時間配分で扱っています。
問題冊子に記録を残す
解きながら、後の復習に必要な記録を問題冊子に残します。書くのは短い印だけで構いません。
- 科目のまとまりを解き終えた時刻
- 確信のない肢につけた「?」
- 2択で迷った問題の印
- 飛ばした問題の印
この記録がないと、復習の段階で「正解したが自信がなかった問題」と「確信を持って正解した問題」の区別がつきません。前者は次に同じ論点が出れば落とす問題なので、復習の対象に入れる必要があります。
復習の順番
当日か翌日に、時間と自己採点の記録を済ませる
復習の最初の作業は、記憶が新しいうちに済ませます。模試を受けた当日か翌日に、次の3つを記録してください。
- 部門ごとの得点と、各部門の所要時間
- 間違えた問題の原因。知識・処理・時間のどれか
- 試した項目がうまくいったかどうか
原因の分類は、時間がたつほど不正確になります。「時間がなくて勘でマークした問題」は、数日後には「知らなかった問題」と区別がつかなくなるからです。解説を読み込むのは後でも構いませんが、この記録だけは先に済ませます。
正答率と自分の正誤で優先順位をつける
問題ごとの正答率が分かる場合は、自分の正誤と組み合わせて復習の優先順位を決めます。
| 受験生全体の正答率 | 自分の結果 | 優先度 | 扱い |
|---|---|---|---|
| 高い | 不正解 | 最優先 | 多くの受験生が取る問題。基準点に直結する穴として必ず埋める |
| 高い | 正解だが自信なし | 高 | 根拠を条文・判例で言えるまで確認する |
| 中程度 | 不正解 | 中 | 論点が過去問にあるものから埋める |
| 低い | 不正解 | 低 | 解説に目を通す程度。深追いしない |
基準点の周りには受験生が密集しているので、合否を分けるのは難問ではなく、多くの受験生が取る問題を落とさないことです。正答率の低い難問に復習の時間を使うのは、最後に回してください。正答率が分からない模試なら、過去問で問われた論点かどうかを優先度の代わりにします。
記述式は答案の骨格から見直す
記述式の復習は、細かい記載の誤りより先に、答案の骨格を見直します。前提登記の要否、申請の件数と順序、登記できない事項の判断です。骨格を外していると、それ以降の枠がまとめて崩れているので、個々の記載を直しても意味がありません。
骨格が合っていたら、次に枠ごとの記載を見ます。登記の目的、登記原因及びその日付、申請人、添付情報、登録免許税の順です。失点を型で記録する方法は記述式でよくあるミスにまとめています。
模試の問題を肢別の周回に組み込む
復習が終わった模試の問題は、捨てずに肢別の周回に組み込みます。間違えた肢と、正解したが自信がなかった肢を、普段回している肢別の×肢と同じ管理に乗せます。模試の問題を別のノートで管理すると、見直す機会がなくなります。
模試の問題を5肢のまま解き直すのは、本試験の直前に1回で十分です。2回目は問題を覚えているので、初見への対応力は測れません。肢別の回し方は肢別過去問の勉強法を参照してください。
次の模試までの2〜3週間で穴を埋める
復習で見つかった穴は、次の模試までに埋めて、次の回で埋まったかを確かめます。この往復がなければ、模試は同じ穴を毎回確認するだけの行事になります。
- 1週目:最優先と優先度「高」の問題の論点を、条文と過去問で確認する
- 2週目:その論点を含む肢を肢別の周回に乗せ、2回以上思い出す
- 3週目:次の模試で試す項目を1つ決め、年度別過去問でその項目を1回試しておく
穴が多すぎて2〜3週間で埋まらないときは、次の模試を見送る判断もあります。
成績表の読み方
総合点や判定より部門ごとの基準点との差を見る
成績表を開いたら、最初に見るのは部門ごとの得点です。総合点や合格可能性の判定は後回しにします。本試験は、午前の択一式・午後の択一式・記述式のどれか1つでも基準点を割れば、総合点に関係なく不合格です。総合点が良くても、1部門が基準点付近にあるなら危険な状態です。
基準点の目安は、模試の予想値ではなく、過去の本試験で公表された基準点の高いほうに置くのが安全です。択一は1問3点なので、差は問題数で持ってください。
偏差値と順位は受験者層で動く
偏差値や順位は、その模試を受けた受験生の中での位置です。模試ごとに受験者層が違うので、別の模試の偏差値を並べて比べても意味がありません。同じ主催者の模試を複数回受けたときに、推移を見る程度の使い方にとどめてください。
合格可能性の判定も同じです。判定は、その模試の受験者の得点分布と、主催者が置いた基準から出た目安です。判定が良くても悪くても、翌日からやることは変わりません。部門ごとの差と、間違えた問題の原因を見て、次の2〜3週間の学習を決めます。
問題別正答率は取るべき問題の地図になる
成績表に問題ごとの正答率が載っている場合は、それが最も使える数字です。正答率の高い問題を自分がどれだけ落としているかを数えてください。この数が多いほど、基本論点の精度に穴があるということです。
逆に、正答率の低い問題ばかり落としているなら、基本は固まっているので、心配しすぎる必要はありません。本試験でも正答率の低い問題は多くの受験生が落とすので、差がつきにくい部分です。
複数回の推移は部門ごとに見る
模試を複数回受けたら、部門ごとの得点を並べて推移を見ます。
| 回 | 午前の択一 | 午後の択一 | 記述式 | 試した項目 |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
| 2回目 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
| 3回目 | 記入 | 記入 | 記入 | 記入 |
模試ごとに難易度が違うので、点数の上下そのものより、基準点付近の部門が離れていったかどうかを見ます。試した項目の列を入れておくと、時間配分の変更が点数にどう効いたかも追えます。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
本試験の択一は、過去問の論点の焼き直しと新しい肢が混ざって出題されます。模試の新作肢は、この新しい肢への対応を練習する材料になります。ただし模試で出た論点が本試験に出るとは限りません。模試の問題で初めて見た論点は、条文と過去問で裏づけが取れるものだけを覚える対象にしてください。
模試は、本試験の年までに施行された改正を扱うことがあります。改正論点の肢は過去問に蓄積がないので、模試で間違えた改正論点は条文で確認します。改正の拾い方は法改正への対応で扱っています。
記述式との接続
記述式の模試は、本番の時間の中で2問を書き切る経験を積む場です。自宅で1問ずつ解く演習では、択一を解いた後の疲れた状態で記述式に入る感覚は再現できません。模試では、書きかけでも通過時刻が来たら次の問題に移る動作を、実際に一度やっておいてください。本番で初めて切り上げるのは難しいものです。
まとめ
- 模試の価値は、初見の問題・本番の時間割と環境・受験生の中での位置の3つ。点数は本試験の予測にならない。
- 最初の模試は全科目を一通り終えてから、最後の模試は本試験の2〜3週間前までに置く。回数は復習できる数で決める。
- 少なくとも1回は会場で受ける。時間割と持ち物を本番に合わせ、試す項目を1つだけ決めて臨む。
- 当日か翌日に、部門ごとの得点・所要時間・誤答の原因を記録する。
- 復習は、正答率が高いのに落とした問題から。正答率の低い難問は最後に回す。
- 成績表は部門ごとの基準点との差で読む。偏差値や判定は受験者層で動くので、比べるなら同じ主催者の推移だけにする。
よくある質問
模試の判定が悪く、本試験までに間に合う気がしません
判定は、その模試の受験者の中での位置から出た目安で、本試験の結果を予測するものではありません。見るべきなのは、部門ごとの基準点との差と、間違えた問題の原因です。正答率の高い問題を多く落としているなら、基本論点の復習で点が戻る余地があります。時間切れの失点が多いなら、知識ではなく時間配分の型で改善します。判定の文字ではなく、この2つから残りの期間でやることを決めてください。
模試を受けずに年度別過去問だけで本試験に臨んでもよいですか
受けないと決めることもできます。その場合、年度別過去問で本番の時間割を再現する演習の回数を増やし、初見の問題への対応は、新しく作られた肢を含む問題集で補う必要があります。ただし会場の環境に慣れる機会はなくなるので、本番が初めての会場受験になることは覚悟してください。初受験の人ほど、1回は会場で模試を受ける価値があります。
模試の問題は本試験より難しいと感じます。気にしなくてよいですか
模試の難易度は作問者によって上下するので、点数の絶対値は気にしなくて構いません。気にするべきなのは、正答率の高い問題を落としていないかです。難しい模試でも、多くの受験生が正解した問題はあります。そこを落としているなら、難易度に関係なく埋めるべき穴です。
過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。