本店移転登記:管轄内・管轄外の違いと申請の仕組み
本店移転登記を、定款変更の要否と管轄内・管轄外の2つの軸で整理します。管轄外は旧所在地経由で2通を同時申請し、新所在地宛は委任状のみ、登録免許税は3万円ずつ。商業登記法51条〜53条を条文で確認したい受験生向け。
本店移転の登記は、2つの問いに分けると迷いません。1つ目は、定款変更が要るかどうか。2つ目は、移転先が今の登記所の管轄内か管轄外か。この2つは別々の軸で、組み合わせは4通りあります。管轄外への移転では、旧所在地の登記所に、旧所在地宛と新所在地宛の2通の申請書を同時に出します。新所在地宛には委任状以外の書面を付けず、登録免許税は旧・新それぞれに3万円かかります。
この記事は、商業登記法の本店移転を「管轄外は2通」とだけ覚えていて、決議機関や添付書面、登記官の処理まで説明できない受験生向けです。会社法と商業登記法の条文を、択一と記述式の両方で使える形に整理します。
本店移転で最初に決めること:定款変更の要否
定款の「本店の所在地」と登記の「本店の所在場所」
本店について、定款と登記記録は違う粒度で書かれています。株式会社の定款には「本店の所在地」を記載します(会社法27条3号)。一方、登記するのは「本店及び支店の所在場所」です(会社法911条3項3号)。
| 書く場所 | 記載する内容 | 根拠 | 書き方の例 |
|---|---|---|---|
| 定款 | 本店の所在地 | 会社法27条3号 | 甲県乙市 |
| 登記記録 | 本店の所在場所 | 会社法911条3項3号 | 甲県乙市丙町一丁目2番3号 |
定款の所在地は、最小行政区画である市区町村までで足ります。番地まで定款に書いている会社もあります。記述式で定款が別紙に出たら、本店の条項がどこまで書かれているかを最初に確認してください。これで定款変更の要否が決まります。
定款変更が要る場合・要らない場合
移転先が定款に書いた所在地の範囲内なら、定款変更は不要です。範囲の外に出るなら、先に定款を変更しなければなりません。
株式会社の定款変更は株主総会の決議によります(会社法466条)。この決議は特別決議です(会社法309条2項11号)。議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が要ります。定款で定足数を3分の1まで下げている会社もあるので、定款の該当条項を確認します。決議要件の全体像は株主総会の決議要件で整理しています。
| 定款の本店の定め | 移転先 | 定款変更 |
|---|---|---|
| 甲県乙市 | 乙市内の別の場所 | 不要 |
| 甲県乙市 | 丁市 | 必要 |
| 甲県乙市丙町一丁目2番3号 | 乙市内の別の場所 | 必要 |
3行目のように番地まで定款に書いている会社は、同じ市内の移転でも定款変更が要ります。
移転先の具体的な場所と移転日を決める機関
定款変更で決まるのは所在地の範囲までです。具体的な所在場所と移転の時期は、業務執行の決定として別に決めます。
- 取締役会設置会社:取締役会の決議(会社法362条2項1号)
- 取締役会を置かない会社で取締役が2人以上:取締役の過半数による決定(会社法348条2項)
株主総会の定款変更の決議と、取締役会の決議の2段階になる事案が、記述式では典型です。取締役会を置くかどうかで決定機関が変わる点は、取締役会設置会社の機関設計で確認できます。
管轄内移転と管轄外移転の分かれ目
管轄は登記所ごとに決まる
商業登記の事務は、当事者の営業所の所在地を管轄する登記所がつかさどります(商業登記法1条の3)。管轄内か管轄外かは、移転の前後で本店を管轄する登記所が同じかどうかで決まります。市区町村が同じかどうかではありません。
市区町村が違っても同じ登記所の管轄であることがあり、その場合は管轄内の移転です。どの登記所がどの区域を管轄するかは、法務局が公表している管轄区域で確認します。試験では、問題文や注意事項で管轄内か管轄外かが示されるのが通常です。
2つの軸で4通りに分ける
定款変更の要否と、管轄の内外は独立しています。同じ市内の移転でも定款変更が要ることがあり、別の市への移転でも管轄内のことがあります。
| 定款変更 | 管轄 | 決議 | 申請書 |
|---|---|---|---|
| 不要 | 管轄内 | 取締役会など | 1通 |
| 必要 | 管轄内 | 株主総会の特別決議と取締役会など | 1通 |
| 不要 | 管轄外 | 取締役会など | 2通を同時に |
| 必要 | 管轄外 | 株主総会の特別決議と取締役会など | 2通を同時に |
決議の欄は定款変更の要否で決まり、申請書の欄は管轄の内外で決まります。軸を混ぜないことが、本店移転を正確に処理するこつです。
登記期間は2週間
登記期間はどちらも2週間です。管轄内の移転は変更の登記として、変更が生じた時から2週間以内に本店の所在地で申請します(会社法915条1項)。管轄外への移転は、2週間以内に、旧所在地では移転の登記を、新所在地では会社法911条3項各号の事項の登記をします(会社法916条1号)。
起算点は、本店を移転した日です。株主総会や取締役会の決議の日ではありません。決議の日と移転の日が別に書かれていたら、それぞれを時系列表に分けて拾います。
管轄内の本店移転
登記の事由と登記すべき事項
管轄内の移転は、1つの登記所に1通の申請書を出すだけです。申請書には登記の事由と登記すべき事項を書きます(商業登記法17条2項3号・4号)。
登記の事由は「本店移転」です。登記すべき事項は、移転の年月日と新しい所在場所で、たとえば次のように書きます。
- 令和8年8月1日本店移転
- 本店 甲県乙市戊町四丁目5番6号
定款の本店の所在地は登記事項ではありません。定款変更をしても、そのための別の登記は申請しません。定款変更は、本店移転の登記の添付書面として株主総会議事録が要る、という形で答案に現れます。
添付書面は決議の段数で決まる
添付書面は、どの機関の決議を経たかで決まります。登記すべき事項につき株主総会や取締役会の決議を要するときは、その議事録を添付します(商業登記法46条2項)。株主総会の決議を要する場合には、株主リストも添付します(商業登記規則61条3項)。
| 事案 | 添付書面 |
|---|---|
| 定款変更なし・取締役会設置会社 | 取締役会議事録、委任状 |
| 定款変更なし・取締役会を置かない会社 | 取締役の過半数の一致を証する書面、委任状 |
| 定款変更あり・取締役会設置会社 | 株主総会議事録、株主リスト、取締役会議事録、委任状 |
取締役会を置かない会社で取締役の過半数の一致を証する書面を付けるのは、商業登記法46条1項が「ある取締役の一致」を要するときの添付を定めているからです。委任状は代理人が申請する場合の書面です(商業登記法18条)。
登録免許税は1箇所3万円
本店の移転の登記の登録免許税は、本店の数1箇所につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(1)ヲ)。管轄内の移転なら、この3万円で終わります。定款変更の登記を別に申請しないので、そのための税額も加算しません。
同じ申請書で商号変更や目的変更も申請するなら、それらは「登記事項の変更」として同号(1)ツの3万円が加わります。区分が違えば合算する、という原則どおりです。
管轄外の本店移転:旧所在地経由の同時申請
2通の申請書を、旧所在地の登記所に同時に出す
管轄外への移転では、旧所在地宛と新所在地宛の2つの登記が必要です。商業登記法51条は、その出し方を定めています。
- 新所在地における登記の申請は、旧所在地を管轄する登記所を経由してする(1項)
- 新所在地における登記の申請と旧所在地における登記の申請は、同時にする(2項)
つまり、申請人が新所在地の登記所に直接申請することはありません。2通とも旧所在地の登記所に提出します。経由すべき登記所を経由しないときや、同時にすべき他の登記の申請を同時にしないときは、却下事由に当たります(商業登記法24条10号・11号)。
新所在地宛は委任状のほか添付不要
新所在地における登記の申請書には、商業登記法18条の書面を除き、他の書面の添付を要しません(商業登記法51条3項)。18条の書面とは、代理人の権限を証する書面、つまり委任状です。
議事録や株主リストは、旧所在地宛の申請書にだけ付けます。2通は旧所在地の登記所がまとめて受け付け、どちらかに却下事由があれば共に却下します。決議を証する書面は、旧所在地宛の1通に付けておけば足りる構造です。
| 申請書 | 登記の事由 | 添付書面 | 登録免許税 |
|---|---|---|---|
| 旧所在地宛 | 本店移転 | 議事録・株主リストなど決議に応じた書面、委任状 | 3万円 |
| 新所在地宛 | 本店移転 | 委任状のみ | 3万円 |
合計の登録免許税は6万円です。登録免許税法別表第一第24号(1)ヲの本店移転の登記を、旧所在地と新所在地でそれぞれ受けるからです。管轄外の移転で3万円とだけ書く誤りに注意してください。
登記官はどう処理するか
商業登記法52条は、2つの登記所の間の処理を定めています。
- 旧所在地の登記所は、2通の申請のいずれかに24条の却下事由があれば、2通とも却下する(1項)
- 却下しないときは、新所在地宛の申請書と添付書面を新所在地の登記所に送付する(2項)
- 新所在地の登記所は、登記をしたか却下したかを旧所在地の登記所に通知する(3項)
- 旧所在地の登記所は、登記をした旨の通知を受けるまで登記をすることができない(4項)
- 新所在地の登記所が却下したときは、旧所在地の申請も却下されたものとみなす(5項)
ポイントは、新所在地で先に登記され、旧所在地の登記が後になることです。どちらか一方だけが登記される状態を避けるための仕組みです。旧所在地では移転の登記をしたうえで、その登記記録を閉鎖します(商業登記規則80条1項1号・2項)。
新所在地で登記される事項
新所在地の登記所では、新しい登記記録が作られます。そこに記録する事項は、株式会社なら会社法911条3項各号の事項です(会社法916条1号)。これに加えて、次の事項も登記します。
- 会社成立の年月日、本店を移転した旨とその年月日(商業登記法53条)
- 取締役・監査役・代表取締役などの就任の年月日(商業登記規則65条2項)
旧所在地の登記記録にあった役員の就任の年月日は、新しい登記記録にも記録されるということです。合同会社など持分会社の本店移転にも同じ仕組みがあり、合同会社については商業登記法118条が51条から53条を準用しています。
日付の扱いと合同会社・支店
決議の日と移転の日を分ける
本店移転の登記すべき事項に書く年月日は、本店を移転した日です。記述式では、株主総会の決議の日、取締役会の決議の日、実際に移転した日が別々に出てきます。
| 日付 | 何の日か | 答案での使い道 |
|---|---|---|
| 株主総会の日 | 定款変更を決議した日 | 決議の有効性の検討 |
| 取締役会の日 | 所在場所と移転時期を決めた日 | 決議の有効性の検討 |
| 移転の日 | 本店移転の効力が生じた日 | 登記すべき事項の年月日、登記期間の起算点 |
登記すべき事項に書くのは3行目の日だけです。前の2つは、決議が有効かどうかを確かめるための日付です。取締役会で定めた移転の日と現実に移転した日がずれた場合の扱いについては先例があります。問題文に移転の事実が書かれていれば、その日付を使います。
合同会社の本店移転
持分会社の本店移転も、2つの軸で考える点は同じです。変わるのは決議機関と添付書面です。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 定款変更 | 株主総会の特別決議。会社法466条・309条2項11号 | 定款に別段の定めがなければ総社員の同意。会社法637条 |
| 所在場所と移転時期の決定 | 取締役会、または取締役の過半数 | 社員の過半数。業務執行社員を定款で定めたときはその過半数。会社法590条2項・591条1項 |
| 決議を証する書面 | 議事録。商業登記法46条2項 | 同意または一致を証する書面。商業登記法93条 |
| 管轄外の移転 | 商業登記法51条〜53条 | 商業登記法118条で51条〜53条を準用 |
合同会社には株主総会も取締役会もないので、議事録ではなく「総社員の同意があったことを証する書面」や「業務執行社員の過半数の一致を証する書面」を添付します(商業登記法118条・93条)。株式会社との機関の違いは株式会社と合同会社の違いで整理しています。
支店の所在地における登記はない
現行の会社法には、支店の所在地においてする登記の規定がありません。以前は、本店を移転すると支店の所在地でも登記が必要でしたが、会社法の改正で支店所在地における登記は廃止されています。古い教材や過去問で「支店所在地の登記所にも申請する」という記述を見たら、現行法では不要と読み替えてください。
支店の所在場所自体は、今も本店所在地での登記事項です(会社法911条3項3号)。支店を移転したときは、本店の所在地で支店移転の登記をします。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
商業登記法の択一では、本店移転は条文の細部がそのまま肢になります。
- 管轄外の本店移転で、新所在地における登記の申請は、新所在地を管轄する登記所に直接することができる。誤りです。旧所在地の登記所を経由します(商業登記法51条1項)
- 新所在地における登記の申請書には、株主総会議事録を添付しなければならない。誤りです。委任状を除き添付を要しません(同条3項)
- 旧所在地における登記の申請に却下事由があるときは、旧所在地の登記所は新所在地宛の申請も却下する。正しいです(商業登記法52条1項)
- 新所在地においては、会社成立の年月日を登記しなければならない。正しいです(商業登記法53条)
- 定款に番地まで定めている会社が同一市内で本店を移転する場合、定款変更は要しない。誤りです
最後の肢のように、定款変更の要否は会社法の知識です。会社法と商業登記法を一本の線で学ぶ方法は、会社法・商業登記法の勉強法を参照してください。
記述式との接続
記述式で本店移転が出たら、答案の骨格は次の順で決めます。
- 定款の本店の条項を読み、定款変更の要否を判定する
- 定款変更が要るなら、株主総会の特別決議が成立しているかを確かめる
- 取締役会などで所在場所と移転時期が決まっているかを確かめる
- 注意事項や問題文から、管轄内か管轄外かを確定する
- 管轄外なら申請書を2通に分け、新所在地宛は委任状だけにする
- 登録免許税を、管轄内なら3万円、管轄外なら3万円ずつで計算する
1と4を取り違えると、決議の検討も申請書の数も連鎖して崩れます。本店移転と同じ日に役員変更や商号変更が起きる事案では、申請の順序と、どの申請書に何を書くかの判断も加わります。問題文の注意事項に申請の形式の指示があれば、まずそれに従ってください。別紙の読み方と申請順序の原理は記述式(商業登記法)の対策で扱っています。議事録から登記事項と添付書面を拾う手順は、記述式 商業登記の答案構成で例題とともに示しています。
まとめ
- 本店移転は、定款変更の要否と、管轄内か管轄外かの2つの軸で分ける。
- 定款の所在地の範囲を出るなら、株主総会の特別決議で定款を変更する。所在場所と移転時期は取締役会などで決める。
- 登記すべき事項の年月日は、決議の日ではなく本店を移転した日。登記期間の2週間もこの日から数える。
- 管轄外は、旧所在地の登記所に旧所在地宛と新所在地宛の2通を同時に出す。新所在地宛は委任状のみ。
- 登記官は新所在地で先に登記し、その通知を受けてから旧所在地で登記する。一方の却下は他方に及ぶ。
- 登録免許税は1箇所3万円。管轄外は旧・新それぞれで合計6万円。
よくある質問
同じ市内の移転なら、必ず管轄内の移転になりますか
必ずそうなるとは言えません。判断の基準は市区町村ではなく登記所の管轄です。管轄内か管轄外かは、移転前と移転後の本店を管轄する登記所が同じかどうかで決まります。逆に、市区町村が変わっても同じ登記所の管轄であれば管轄内の移転です。試験では問題文で管轄が示されるので、その指示に従ってください。
管轄外の移転で、新所在地宛の申請書に定款を付ける必要はありますか
ありません。商業登記法51条3項により、新所在地における登記の申請書には、代理人の権限を証する書面を除き、他の書面の添付を要しません。定款変更を証する株主総会議事録などは、旧所在地宛の申請書に添付します。旧所在地の登記所が2通まとめて審査し、問題がなければ新所在地の登記所に送付する仕組みだからです。
本店移転と同時に代表取締役の住所を登記事項証明書に表示しない措置を申し出ることはできますか
できます。商業登記規則31条の3は、株式会社の設立の登記や代表取締役の住所変更の登記などと並んで、本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記の申請の際にも、代表取締役等の住所の一部を表示しない措置の申出ができると定めています。申出には、上場会社かどうかなどの区分に応じて一定の書面の添付が求められます。要件は同条で確認してください。
商業登記法の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と関連先例がその場で開きます。