会社法・商業登記法の勉強法
司法書士試験の会社法・商業登記法を午前9問・午後8問・記述1問まで一気通貫で攻略する学習法。機関設計を軸にした条文学習、添付書面とのセット学習、数字要件の暗記術、持分会社の割り切り方を解説します。
会社法・商業登記法は、司法書士試験で最も「学習効率の差が出る」領域です。同じ知識が午前の部の択一9問、午後の部の択一8問、そして記述式1問(70点)という3か所で問われるにもかかわらず、多くの受験生がこれらを別々の科目として勉強してしまうからです。
会社法を会社法として、商業登記法を商業登記法として、記述式を記述式として学ぶと、同じ論点を3回覚え直すことになります。逆に、この3つを一本の線でつないだ受験生は、学習時間を3分の2に圧縮しながら、得点を1.5倍にできます。本記事では、その「一気通貫の学習法」を具体的に解説します。
会社法・商業登記法は3か所から出る——配点構造から逆算する
試験全体における位置づけ
まず配点構造を確認します。司法書士試験の筆記試験は次の通りです。
区分 内容 問数 配点 午前の部 択一(憲法3・民法20・刑法3・商法/会社法9) 35問 105点 午後の部 択一(民訴5・民保1・民執1・司法書士法1・供託3・不動産登記法16・商業登記法8) 35問 105点 午後の部 記述式(不動産登記法1問・商業登記法1問) 2問 140点午前の商法・会社法9問(27点)、午後の商業登記法8問(24点)、記述式の商業登記法1問(70点)。合計121点分が、この領域から出題されます。民法20問(60点)の2倍です。
記述式の配点は令和6年度(2024年度)から70点→140点に倍増しました。この改正により、商業登記の記述式1問が70点となり、会社法・商業登記法の重要度は決定的に上がりました。かつては「午前の民法で稼ぎ、会社法はほどほどに」という戦略も成立しましたが、現在は成立しません。
午前9問の内訳
午前の「商法・会社法」9問は、その大半が会社法から出題され、商法(総則・商行為)からは例年1問前後です。したがって、9問のうち8問程度が会社法だと考えて学習配分を決めてください。
商法総則・商行為は範囲が狭く、商行為の特則(商事法定利率は廃止されましたが、商事留置権、商人間の売買、代理商など)、商号、商業使用人、支配人あたりが繰り返し問われます。1問のために深入りする必要はありませんが、逆に言えば数十時間で確実に1問取れる領域でもあります。優先順位としては、会社法の主要論点を固めた後に着手するのが正解です。
目標得点の設定
学習の段階に応じて、次の水準を目標にしてください。
学習段階 午前9問 午後8問 考え方 初学者・1年目前半 5問 4問 機関と設立、役員変更の登記まで 直前期に入る前 6〜7問 6問 株式・組織再編まで戦力化 本試験 7問 6〜7問 落とすのは商法1問と細部の2問程度会社法は範囲が膨大なため、9問すべてを取ろうとすると学習時間が破綻します。7問取れれば十分に合格圏です。むしろ、午後の商業登記法8問と記述式のほうが、投資に対するリターンが大きい領域です。試験全体の設計は司法書士試験の合格ロードマップも参照してください。
学習の順序
初学者が会社法に着手するとき、テキストの順番通りに「設立→株式→機関→計算→組織再編」と進めると、ほぼ確実に挫折します。設立の規定は会社法の中でも技術的に難しく、しかも機関の知識を前提としているからです。
推奨する順序は次の通りです。
- 機関(株主総会・取締役・取締役会・監査役・会計監査人・各委員会) — ここが会社法の骨格です
- 株式(内容・種類・譲渡制限・自己株式・募集株式の発行)
- 設立 — 機関と株式の知識が入ってから戻ると、驚くほど読みやすくなります
- 計算(資本金・準備金・剰余金の配当)
- 組織再編(合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式交付)
- 解散・清算、持分会社、商法総則・商行為
この順序は、商業登記法の学習順序ともほぼ一致します。商業登記で最も出題数が多いのが役員変更の登記であり、それは機関の知識を前提とするからです。
会社法の条文学習——「機関」を骨格に据える
会社法は条文の試験である
会社法の択一は、判例よりも条文の知識を直接問う問題が中心です。したがって、学習の中心は条文の読み込みになります。しかし会社法は979条まである巨大な法律で、全部を読むことは現実的ではありません。
そこで、次の3層に分けて条文を扱ってください。
層 対象 扱い方 第1層(素読対象) 機関・株式・組織再編の中核規定 条文を実際に何度も読む。要件と効果を言えるようにする 第2層(参照対象) 計算・設立・解散清算の規定 論点として出会ったときに条文を引く 第3層(不読) 罰則、細かい訴訟規定、外国会社の大半 過去問に出たもの以外は読まない第1層は分量としては会社法全体の3割程度ですが、出題の7割以上をカバーします。ここを徹底的に読み込むことが、会社法学習の中心です。
機関設計のルールを図で押さえる
機関は会社法学習の中心であり、最も出題される領域です。出発点は次の2つの区分です。
- 公開会社かどうか — 発行する全部または一部の株式について譲渡制限を定めていない会社が公開会社です(2条5号)。一部にでも譲渡制限のない株式があれば公開会社になる、という点を取り違えないでください。
- 大会社かどうか — 資本金の額が5億円以上、または負債総額が200億円以上の会社が大会社です(2条6号)。最終事業年度に係る貸借対照表を基準に判定します。
この2軸で4象限を作ると、機関設計の必要規律が整理できます。
非公開・非大会社 非公開・大会社 公開・非大会社 公開・大会社 取締役会 任意 任意 必置 必置 監査役 任意 原則必要 原則必要 原則必要 会計監査人 任意 必置 任意 必置 監査役会 任意 任意 任意 必置ここに監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社という2つの選択肢が加わります。これらを選んだ場合、監査役を置くことができない、という排他関係も重要です。
覚え方のコツは、「取締役会を置いたら監査役が要る」「大会社なら会計監査人が要る」「公開かつ大会社なら監査役会も要る」という3つのルールを順に適用することです。細かい例外(非公開の会計参与設置会社では監査役を置かないことができるなど)は、この3ルールを固めた後に足してください。
株主総会——招集手続と決議要件
株主総会は毎年出題される最頻出テーマです。次の3点を軸に整理します。
第一に、権限です。 取締役会設置会社では、株主総会は会社法および定款に定めた事項に限り決議できます(295条2項)。取締役会非設置会社では、株主総会は一切の事項について決議できます(295条1項)。この違いが、様々な論点の分岐点になります。
第二に、招集手続です。 招集通知の発送期限は、公開会社では総会の日の2週間前、非公開会社では1週間前、取締役会非設置会社では定款でさらに短縮できます(299条1項)。書面投票・電子投票を採用する場合は非公開会社でも2週間前になる点も頻出です。
また、株主による招集請求は、総株主の議決権の100分の3以上を6か月前から引き続き有する株主ができます(297条1項)。非公開会社では6か月の保有期間要件が外れます(297条2項)。
第三に、決議要件です。 ここは表で完全に暗記してください。
決議の種類 定足数 可決要件 主な対象 普通決議 議決権の過半数を有する株主の出席(定款で排除可) 出席株主の議決権の過半数 計算書類の承認、剰余金の配当 役員の選任・解任 議決権の過半数を有する株主の出席(定款で3分の1未満にできない) 出席株主の議決権の過半数 取締役・監査役の選解任 特別決議 議決権の過半数を有する株主の出席(定款で3分の1未満にできない) 出席株主の議決権の3分の2以上 定款変更、資本金の額の減少、組織再編の承認、解散 特殊決議(309条3項) — 議決権を行使できる株主の半数以上かつ議決権の3分の2以上 全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更 特殊決議(309条4項) — 総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上 非公開会社での剰余金配当等に関する属人的定め特殊決議の2種類を混同する受験生が非常に多い領域です。309条3項は「議決権を行使できる株主の半数以上」、309条4項は「総株主の半数以上」であり、後者のほうが要件が重い、と押さえてください。
取締役・取締役会
取締役については、資格、選任・解任、任期、権限、義務が問われます。
任期は特に頻出です。
役員等 原則の任期 非公開会社での伸長 根拠 取締役 選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 10年まで伸長可 332条1項・2項 監査等委員である取締役 2年(定款・決議で短縮不可) 伸長不可 332条 監査等委員以外の取締役(監査等委員会設置会社) 1年 伸長不可 332条 指名委員会等設置会社の取締役 1年 伸長不可 332条 監査役 4年 10年まで伸長可 336条1項・2項 会計監査人 1年(別段の決議がなければ再任とみなす) — 338条「監査等委員である取締役の任期は短縮できない」「監査役の任期は短縮できない」という点は、択一で繰り返し狙われます。取締役の任期は定款や株主総会決議で短縮できるのに、監査役はできません。独立性を確保するためです。
取締役会については、招集権者、招集通知(原則1週間前・定款で短縮可)、決議要件(議決権を行使できる取締役の過半数が出席し、その過半数)、特別利害関係人の議決からの排除、書面決議の可否(定款の定めと監査役の異議がないこと)が定番です。
役員の欠員と権利義務役員
役員が欠けた場合、任期満了または辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します(346条1項)。これを権利義務役員と呼びます。
権利義務役員は、辞任も解任もできないという点が最重要です。辞任によって退任した者が権利義務を負っている以上、重ねて辞任することはできません。そして商業登記の場面では、権利義務役員がいる間は退任の登記ができない、という帰結になります。会社法の論点が、そのまま登記の可否に直結する典型例です。
株式・新株予約権・計算——会社法のもう一つの柱
種類株式の9類型
株式については、まず種類株式(108条1項)を押さえます。剰余金の配当、残余財産の分配、議決権制限、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権(黄金株)、役員選任権の9類型です。
このうち登記事項になるもの、定款に定めるべき事項、種類株主総会の決議が必要な場面が、択一と記述の両方で問われます。特に、拒否権付株式と役員選任権付株式は非公開会社でしか発行できない(役員選任権付株式は指名委員会等設置会社でも不可)という制限が頻出です。
議決権制限株式については、公開会社では発行済株式総数の2分の1を超えてはならず、超えた場合は直ちに是正措置をとる必要があります(115条)。
募集株式の発行
募集株式の発行は、記述式でも頻出のテーマです。決定機関の区別が核心になります。
会社の類型 募集事項の決定機関 例外 非公開会社 株主総会の特別決議 特別決議で取締役(会)に委任可(1年以内) 公開会社 取締役会 有利発行の場合は株主総会の特別決議さらに、公開会社において支配株主の異動を伴う募集株式の割当てをする場合は、株主への通知・公告と、一定割合の株主の反対があるときの株主総会決議が必要になります(206条の2)。
登記の場面では、資本金の額の増加と発行済株式の総数の変更が生じます。資本金に計上する額の計算(払込金額の2分の1を超えない額を資本準備金にできる)は、記述式で必ず計算させられます。
自己株式と分配可能額
自己株式の取得は、財源規制(461条)がかかります。分配可能額を超えて取得することはできません。取得方法(株主との合意による取得、市場取引、公開買付け、取得請求権付株式の請求など)ごとに手続が異なり、株主総会決議の要否と種類が変わります。
計算分野は苦手意識を持つ受験生が多いのですが、択一で問われるのは概念の理解であり、複雑な計算ではありません。「資本金・準備金・剰余金の三者はどう動くか」「どの操作に債権者異議手続が必要か」という2点に絞って学習してください。
資本金・準備金の額の減少と債権者異議手続
資本金の額の減少は、原則として株主総会の特別決議と債権者異議手続が必要です(447条、449条)。ただし、定時株主総会で欠損の額を超えない範囲で減少する場合は普通決議で足ります。
債権者異議手続は、組織再編でも資本金減少でも共通する「型」です。次の手順を1つ覚えれば、あらゆる場面で使えます。
- 官報に公告する
- 知れている債権者には各別に催告する(定款所定の公告方法が日刊新聞紙または電子公告であれば、官報公告に加えてその方法でも公告することで各別の催告を省略できる)
- 異議申述期間を1か月以上設ける
- 異議を述べた債権者には弁済、担保提供、または相当の財産の信託をする(ただし当該行為をしても債権者を害するおそれがないときは不要)
商業登記では、この手続を経たことを証する書面(公告をしたことを証する書面、催告をしたことを証する書面、異議を述べた債権者がいないことまたは弁済等をしたことを証する書面)が添付書面になります。会社法の手続がそのまま添付書面の一覧になる、という関係を体で覚えてください。
組織再編——手続の型を1つ覚えれば全部読める
5つの組織再編
会社法の組織再編は、吸収合併・新設合併、吸収分割・新設分割、株式交換・株式移転、そして令和元年改正で導入された株式交付の5系統です。範囲が広く、条文も入り組んでいるため、多くの受験生が後回しにして手つかずのまま本試験を迎えます。
しかし、組織再編には共通の「型」があります。この型を1つ覚えれば、5系統すべてが同じ構造で読めます。
共通の手続フロー
どの組織再編も、次の順序で進みます。
- 契約の締結または計画の作成 — 吸収型は契約、新設型は計画
- 事前開示書面の備置 — 一定の時期から効力発生日後6か月まで
- 株主総会の承認決議 — 原則として特別決議
- 反対株主の株式買取請求 — 通知・公告、請求期間、価格決定
- 新株予約権買取請求 — 該当する場合
- 債権者異議手続 — 必要な場合(合併は常に必要、会社分割・株式交換は場合による)
- 効力発生 — 吸収型は契約で定めた効力発生日、新設型は設立登記の日
- 事後開示書面の備置
- 登記 — 吸収型は変更登記、新設型は設立登記と解散登記
この9ステップの表を1枚作り、5系統それぞれについて「必要/不要」「決議の種類」を埋めていけば、組織再編は攻略できます。
簡易組織再編と略式組織再編
株主総会決議が不要になる2つの例外は、必ず出題されます。
簡易組織再編は、対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が、存続会社等の純資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)を超えない場合に、株主総会の承認が不要になる制度です。会社に与える影響が小さいから、というのが趣旨です。ただし、一定の反対株主がいる場合や、差損が生じる場合などは、簡易手続によることができません。
略式組織再編は、特別支配会社(総株主の議決権の10分の9以上を保有する会社)が相手方である場合に、被支配会社側の株主総会承認が不要になる制度です。決議の結果が見えているから、というのが趣旨です。
この2つは趣旨が全く違います。簡易は「影響が小さい」、略式は「結果が決まっている」。趣旨から区別すれば、どちらの会社で使えるのかを取り違えません。
組織再編の登記
登記の場面では、次の点が問われます。
- 吸収合併では、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記を、同時に、存続会社の本店所在地を管轄する登記所を経由して申請します。
- 消滅会社の解散登記は、存続会社の代表者が消滅会社を代表して申請します。
- 添付書面としては、合併契約書、株主総会議事録、株主リスト、債権者異議手続関係書面、消滅会社の登記事項証明書(管轄が異なる場合)などが必要です。
記述式で組織再編が出た場合、この登記の構造を知っているかどうかで白紙か完答かに分かれます。記述式(商業登記)の対策も併せて読んでおいてください。
商業登記法とのセット学習——実体要件を添付書面に翻訳する
商業登記法は会社法の「出口」である
商業登記法の択一8問は、そのほとんどが「この登記をするには何を添付するか」「この登記はできるか」を問います。そして、その答えは会社法の実体要件によって決まります。
たとえば、取締役の就任による変更登記を考えてみましょう。
会社法上の要件 対応する添付書面 株主総会で選任決議がされた 株主総会議事録、株主リスト 本人が就任を承諾した 就任承諾書 本人が実在する 本人確認証明書(一定の場合) 取締役会で代表取締役を選定した 取締役会議事録、印鑑証明書(一定の場合)つまり、会社法の要件を1つずつ書面に置き換えたものが添付書面の一覧です。この対応関係を理解すれば、添付書面を丸暗記する必要がなくなります。初見の登記でも、「この登記をするために会社法上どんな手続が必要か」を考えれば、添付書面が導けます。
セット学習の具体的なやり方
会社法のテキストを読むとき、次の3つの問いを常に自分に投げかけてください。
- この事項は登記事項か — 登記事項でなければ、登記との接点は生じません
- 登記事項なら、何をしたことを証明すればよいか — それが添付書面です
- 登記期間はいつからいつまでか — 原則として効力発生から2週間以内(会社法915条1項)ですが、起算点の判定が問われます
この3問を機械的に繰り返すだけで、会社法の学習が同時に商業登記法の学習になります。
頻出の添付書面ルール
商業登記法の択一で最も問われるのは、次の3系統です。
株主リスト(商業登記規則61条)は、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合、または株主全員の同意を要する場合に添付します。議決権数の上位10名または議決権割合が3分の2に達するまでの株主のいずれか少ないほうを記載します。この「どちらか少ないほう」という部分が頻出です。
印鑑証明書(商業登記規則61条4項以下)は、代表取締役等の選定に関する議事録の押印について、また就任承諾書の押印について必要になります。取締役会設置会社かどうか、変更前の代表取締役が登記所届出印を押しているかどうかで結論が変わる、複雑な領域です。ここは表を作って完全に覚えるしかありません。
本人確認証明書(商業登記規則61条)は、取締役・監査役・執行役が就任する場合に、住民票の写し等を添付するものです。ただし印鑑証明書を添付する場合は不要になります。「印鑑証明書があれば本人確認証明書は要らない」という関係を押さえてください。
登記の効力と商業登記法の総論
商業登記法にも総論があります。会社法908条1項の登記の一般的効力(登記前は善意の第三者に対抗できない、登記後は正当な事由がある場合を除き対抗できる)、908条2項の不実登記の効力(故意または過失により不実の事項を登記した者は善意の第三者に対抗できない)は、択一で繰り返し問われます。
また、登記官の審査権が形式的審査権にとどまること、却下事由が法定されていること(商業登記法24条)、登記期間を経過した場合の扱い(過料の対象にはなるが登記自体は受理される)なども、総論の定番です。
設立の登記——後回しにせず、機関の後に一度だけ通す
設立は会社法の中でも技術的に難しく、初学者が最初につまずく単元です。だからこそ、機関と株式を学んだ後に着手します。そのタイミングで読めば、「発起人が定款で設立時取締役を定める」といった規定の意味が自然に分かります。
押さえるべき骨格は次の通りです。
発起設立と募集設立の区別。 発起人が設立時発行株式の全部を引き受けるのが発起設立、一部を引き受け残りを募集するのが募集設立です。募集設立では創立総会が開かれ、払込取扱機関の払込金保管証明書が必要になるなど、手続が重くなります。実務ではほぼ発起設立ですが、試験では両者の比較が問われます。
定款と変態設立事項。 定款には絶対的記載事項(目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所)を記載し、公証人の認証を受けます(会社法27条、30条)。現物出資、財産引受け、発起人の報酬等、設立費用の4つは変態設立事項として定款に記載しなければ効力が生じません(28条)。
検査役の調査とその例外。 変態設立事項のうち現物出資・財産引受けについては原則として検査役の調査が必要ですが、価額が500万円を超えない場合、市場価格のある有価証券で定款記載の価額が市場価格を超えない場合、弁護士・公認会計士・税理士等の証明を受けた場合には調査が不要になります(33条10項)。この3つの例外は頻出です。
登記の場面では、設立登記の添付書面(定款、発起人の同意を証する書面、設立時取締役の選任および就任承諾を証する書面、払込みがあったことを証する書面、資本金の額の計上に関する証明書など)が問われます。会社の成立時期が設立登記の時である点(49条)も、択一・記述の両方で使う基本知識です。
解散・清算と休眠会社
解散事由(471条)は、定款所定の存続期間の満了、定款所定の解散事由の発生、株主総会の決議、合併による消滅、破産手続開始決定、解散を命ずる裁判の6つです。加えて、休眠会社のみなし解散があります(472条)。
清算については、清算人となる者の順序(定款の定め、株主総会の決議、それらがなければ取締役、いずれもなければ裁判所の選任)、清算株式会社の機関(清算人会、監査役)、債権申出の公告(2か月以上)、残余財産の分配、清算結了の登記までの流れを押さえます。
登記との関係では、解散の登記と清算人の登記が別々の登記事項であること、清算結了の登記には決算報告の承認があったことを証する書面が必要になることが定番です。解散・清算は択一で1肢〜1問程度ですが、記述式で解散が絡む年もあるため、流れだけは通しておいてください。
商法総則・商行為の1問を確実に取る
午前の9問のうち1問前後を占める商法(総則・商行為)は、範囲が狭いわりに毎年出るため、費用対効果の高い領域です。頻出テーマは次の通りです。
- 商人と商行為 — 絶対的商行為、営業的商行為、附属的商行為の区別。商人資格の取得時期
- 商号 — 商号の選定の自由と制限、名板貸人の責任、商号の譲渡と登記
- 商業使用人 — 支配人の代理権とその制限、競業避止義務、表見支配人
- 代理商 — 通知義務、競業避止義務、留置権
- 商行為の特則 — 商行為の代理(顕名不要)、商事留置権、商人間の売買における買主の検査・通知義務、多数当事者の債務の連帯
このうち特に問われやすいのが、支配人と表見支配人、そして商人間の売買の特則です。民法との対比で覚えると定着します。「民法ではこうだが商法ではこうなる」という差分の形で整理してください。テキストで20〜30時間、過去問で10時間程度あれば、この領域は仕上がります。
細かい数字要件の暗記術——期間・員数・割合
数字は「まとめて」覚える
会社法には数字要件が大量にあります。これらを条文の中で1つずつ覚えようとすると、必ず混乱します。数字はカテゴリごとに一覧化して、まとめて覚えるのが唯一の効率的な方法です。
少数株主権の持株要件
権利 要件 保有期間 株主総会の招集請求 総株主の議決権の3%以上 6か月(非公開会社は不要) 業務執行に関する検査役の選任請求 議決権の3%以上または発行済株式の3%以上 なし 会計帳簿の閲覧・謄写請求 議決権の3%以上または発行済株式の3%以上 なし 役員の解任の訴え 議決権の3%以上または発行済株式の3%以上 6か月(非公開会社は不要) 株主提案権(取締役会設置会社) 議決権の1%以上または300個以上 6か月(非公開会社は不要) 解散判決の請求 議決権の10%以上または発行済株式の10%以上 なしこうして並べると、3%が基本線で、株主提案が1%、解散請求が10%という構造が見えます。バラバラに覚えるのではなく、この構造で覚えてください。
期間の一覧
場面 期間 株主総会の招集通知(公開会社) 2週間前 株主総会の招集通知(非公開会社) 1週間前 取締役会の招集通知 1週間前(定款で短縮可) 債権者異議手続の異議申述期間 1か月以上 登記期間(本店所在地) 効力発生から2週間以内 事前開示・事後開示書面の備置 効力発生日後6か月 休眠会社のみなし解散(株式会社) 最後の登記から12年員数の一覧
機関 員数 追加要件 取締役会設置会社の取締役 3人以上 — 監査役会 監査役3人以上 半数以上が社外監査役、常勤監査役を選定 監査等委員会 委員である取締役3人以上 過半数が社外取締役 指名委員会等の各委員会 委員3人以上 過半数が社外取締役「機関として合議体を作るなら3人以上」という共通ルールと、「監査役会は半数以上が社外、委員会は過半数が社外」という違いを押さえるのが要点です。監査役会だけ「半数以上」で、委員会は「過半数」。ここは頻繁に入れ替えて出題されます。
数字の覚え方——想起の訓練をする
数字要件は、読んで覚えるものではなく、思い出す訓練によって定着します。次の方法を推奨します。
- 上記のような表を、白紙に自分で再現する練習をする(週2回、各5分)
- 数字だけを空欄にした表を作り、埋める
- 過去問で数字が出てきたら、その周辺の数字も一緒に思い出す
「見て覚える」から「思い出す」に切り替えるだけで、定着率は劇的に変わります。過去問を使った想起訓練の方法は足別過去問の使い方で詳しく解説しています。
持分会社・外国会社の割り切り方
持分会社は「株式会社との差分」だけ
持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)は、会社法575条以下に規定があります。択一では午前・午後を通じて1問前後、記述式で正面から出ることは稀です。
ここに株式会社と同じだけの時間をかけるのは明らかに非効率です。株式会社との差分だけを押さえてください。
項目 株式会社 持分会社 出資者の呼称 株主 社員 責任 有限責任のみ 合名=無限、合資=無限+有限、合同=有限 業務執行 取締役・取締役会 原則として社員全員(定款で業務執行社員を定められる) 意思決定 株主総会の決議(資本多数決) 原則として社員の過半数(頭数)、定款変更は総社員の同意 持分の譲渡 原則自由(譲渡制限可) 原則として他の社員全員の同意が必要 定款の認証 必要 不要 出資の履行 設立時に全額 合同会社は設立時に全額、合名・合資は不要な場合あり「持分会社は人的会社だから、頭数と全員の同意で動く」という一言に集約されます。株式会社が「持株数」で動くのに対し、持分会社は「人」で動く。この一点さえ理解していれば、初見の問題でも半分は正解できます。
登記との関係では、次の3点だけ押さえれば十分です。
- 社員の加入・退社による変更登記(合名・合資会社では社員の氏名等が登記事項)
- 合資会社の有限責任社員が全員退社した場合、合名会社となる定款変更をしたものとみなされる(逆も同様)
- 持分会社の種類変更(638条)は、定款変更によって行い、登記は変更後の会社の設立登記と変更前の会社の解散登記による
特に2の「みなし種類変更」は、択一・記述の両方で出題実績のある論点です。
外国会社はほぼ捨ててよい
外国会社(会社法817条以下、933条以下)は、司法書士試験での出題頻度が極めて低い領域です。数年に1肢出るかどうか、というレベルです。
最低限として、次の3点だけ知っていれば十分です。
- 日本において取引を継続してしようとする外国会社は、日本における代表者を定めなければならず、そのうち1人以上は日本に住所を有する必要がある(817条1項)
- 外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない(818条1項)
- 外国会社の登記は、日本における代表者の住所地等を管轄する登記所においてする(933条)
これ以上は学習しないでください。同じ時間を役員変更の登記に使ったほうが、確実に得点が増えます。
「割り切る」ことの意味
司法書士試験の合格率は近年4〜5%程度で推移しています。この試験に受かる受験生は、全範囲を完璧にした人ではなく、配点の大きい領域に時間を集中させた人です。
外国会社に10時間かけて1肢を取れるかもしれない可能性を追うより、その10時間を商業登記の記述式に使えば、70点満点の問題で5〜10点は確実に上積みできます。割り切りは、手抜きではなく戦略です。
記述式との接続と午後の時間戦略
記述式(商業登記)で問われること
商業登記の記述式は、事案(株主総会議事録、取締役会議事録、定款、登記事項証明書などの資料)を読んで、申請すべき登記の申請書を作成する問題です。求められるのは次の4点です。
- 登記すべき事項を漏れなく拾う — 資料に散らばった事実から、登記が必要な事項を特定する
- 登記できない事項を見抜く — 手続に瑕疵があって効力が生じていない、権利義務役員がいるため退任登記ができない、など
- 添付書面を過不足なく列挙する
- 登録免許税を正しく計算する
このうち1と2は、会社法の実体判断そのものです。3は商業登記法の知識です。つまり、記述式は択一の知識を「使う」形で問うているだけであり、まったく別の勉強が必要なわけではありません。
「できない登記」を見抜く力が合否を分ける
記述式で最も差がつくのは、2の「登記できない事項を見抜く」部分です。出題者は必ず、次のような罠を仕掛けてきます。
- 招集手続に瑕疵があり、決議が不成立または取り消しうる
- 定足数を満たしていない
- 特別決議が必要な事項を普通決議で可決している
- 特別利害関係人が議決に加わっている
- 定款の定めに反する選任がされている
- 権利義務役員がいるため、退任の登記ができない
- 任期が満了しているのに、資料上は退任の記載がない
これらはすべて会社法の論点です。択一の勉強をするとき、「これが記述式の資料に紛れ込んでいたら気づけるか」という視点を持ってください。それだけで記述式の点数が変わります。
午後の時間戦略
午後の部は3時間で択一35問と記述式2問を解きます。標準的な時間配分は次の通りです。
時間帯 内容 目安 0分〜60分 択一35問 1問あたり平均1分40秒 60分〜65分 マークシート転記・見直し 5分 65分〜120分 記述式(不動産登記法) 55分 120分〜175分 記述式(商業登記法) 55分 175分〜180分 最終確認 5分商業登記法の択一8問は、午後の択一の最後に配置されています。ここで時間切れになると、8問すべてが崩れます。前半の民訴系・供託法を速く処理し、不動産登記法16問で粘りすぎないことが、商業登記法8問を守る条件です。
商業登記法の択一は、知識があれば即答できる問題が多く、逆に知らなければ何分考えても分かりません。したがって、1問1分を目標に、迷ったら即座に飛ばすという処理が最も効率的です。
学習サイクルの組み方
会社法・商業登記法は、次のサイクルで回すことを推奨します。
インプット期(3〜4か月) — 前述の順序(機関→株式→設立→計算→組織再編→その他)でテキストを1周します。このとき、各単元が終わるごとに対応する商業登記の論点を確認し、添付書面まで一緒に見ます。会社法と商業登記法のテキストを行き来する形になりますが、これが正解です。
演習期(3〜4か月) — 午前の会社法過去問と午後の商業登記法過去問を、同じ論点でまとめて解きます。たとえば「役員変更」の週には、会社法の役員に関する過去問と、商業登記法の役員変更登記の過去問を両方解きます。科目別ではなく論点別に横断するのが、この領域の学習の要点です。
直前期(2〜3か月) — 記述式の答案練習を週2回以上入れながら、択一は数字要件と添付書面の表を高速で回します。この時期に新しいテキストに手を出さないでください。
回転数の目安 — 会社法・商業登記法の過去問は、本試験までに最低4周、できれば6周は回してください。ただし「4周する」ことが目的ではありません。4周目には、肢を読んだ瞬間に正誤と理由が出てくる状態になっていることが目的です。
最後に——一気通貫が最大の武器になる
会社法・商業登記法は、範囲が広く条文が難解で、多くの受験生が苦手意識を持つ領域です。しかし、午前9問・午後8問・記述70点という配点を見れば、ここを避けて合格することはできません。
そして幸いなことに、この3か所は同じ知識で貫かれています。会社法の機関を学べば商業登記の役員変更が分かり、商業登記の添付書面を学べば記述式の答案が書け、記述式で事案を読めば会社法の理解が深まります。
この循環に一度入れば、学習時間あたりの得点効率は他のどの科目よりも高くなります。会社法と商業登記法を別々の科目として扱うのをやめること。それが、この領域を得点源に変える唯一にして最短の道です。
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