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吸収合併の登記:手続の流れと添付書面

商業登記法 読了 約10分

吸収合併の登記を、合併契約と効力発生日、株主総会の承認と簡易・略式合併、債権者保護手続、変更登記と解散登記の同時申請・経由申請、商業登記法80条の添付書面、登録免許税の順に整理。商業登記の択一と記述式に備える受験生向けです。

吸収合併は、組織再編の中で最も出題が多く、ほかの再編を学ぶときの基準にもなる手続です。会社法では手続の要否と決議要件が、商業登記法では同時申請・経由申請と添付書面が問われます。

結論を先に言うと、吸収合併の登記は「存続会社の変更登記」と「消滅会社の解散登記」の2本を、存続会社の本店所在地を管轄する登記所に同時に申請します。解散登記の申請書には添付書面が要らず、添付書面は変更登記の側にまとめて付けます。その中身は、存続会社と消滅会社のそれぞれで、株主総会の承認と債権者保護手続を経たことの証明です。

この記事は、吸収合併の条文を一度読み、商業登記法80条の添付書面と結びつけたい受験生向けです。組織再編に共通する手続の型は会社法・商業登記法の勉強法で、決議要件の一般論は株主総会の決議要件で扱っています。

吸収合併の全体像

合併契約と効力発生日

会社は他の会社と合併することができ、合併をする会社は合併契約を締結しなければなりません(会社法748条)。存続会社が株式会社である吸収合併では、契約で、両社の商号・住所、消滅会社の株主に交付する対価、その割当て、効力発生日などを定めます(749条1項)。

存続会社は、効力発生日に消滅会社の権利義務を承継します(750条1項)。新設合併が設立の登記の日に効力を生じるのと違い、吸収合併は契約で定めた効力発生日に効力を生じ、登記は効力の要件ではありません。ただし、消滅会社の解散は、合併の登記の後でなければ第三者に対抗できません(同条2項)。

債権者保護手続が終わっていない場合や、合併を中止した場合には、効力発生日が来ても効力は生じません(750条6項)。効力発生日は、消滅会社が存続会社との合意で変更でき、変更前の効力発生日の前日までに変更後の日を公告します(790条)。

手続の流れ

存続会社・消滅会社のそれぞれで、同じ型の手続を並行して進めます。

手続 消滅会社 存続会社
事前開示書面の備置 782条 794条
株主総会の承認 783条。略式の例外あり 795条。簡易・略式の例外あり
反対株主の株式買取請求 785条 797条
新株予約権買取請求 787条 なし
債権者保護手続 789条 799条
事後開示書面の備置 なし 801条

消滅会社の事前開示書面は効力発生日まで、存続会社は効力発生日後6か月を経過する日まで備え置きます(782条1項・794条1項)。存続会社は効力発生日後、承継した権利義務などを記載した事後開示書面を作成し、6か月間備え置きます(801条1項・3項)。

株主総会の承認と簡易・略式合併

原則は特別決議

消滅会社・存続会社とも、効力発生日の前日までに、株主総会の決議で合併契約の承認を受けます(783条1項・795条1項)。この決議は特別決議です(309条2項12号)。

決議要件が加重される場面があります。

場面 要件 根拠
種類株式発行会社でない公開会社が消滅会社で、その株主に譲渡制限株式等を交付する 特殊決議。議決権を行使できる株主の半数以上で、議決権の3分の2以上 309条3項2号
種類株式発行会社である消滅会社で、譲渡制限でない種類の株主に譲渡制限株式等を交付する その種類の種類株主総会の特殊決議 783条3項・324条3項2号
種類株式発行会社でない消滅会社の株主に持分等を交付する 総株主の同意 783条2項
存続会社が種類株式発行会社で、譲渡制限株式である種類の株式を交付する その種類の種類株主総会の特別決議 795条4項1号・324条2項6号

自由に売れた株式が譲渡制限株式に変わる、株式が持分会社の持分に変わる、という株主の地位が大きく変わる場面で、要件が重くなっています。

略式合併:特別支配会社がいるとき

相手方が総株主の議決権の10分の9以上を持つ特別支配会社である場合、支配されている側の会社は株主総会の承認を省略できます。消滅会社について784条1項、存続会社について796条1項です。決議をしても結果が見えているからです。

ただし、次の場合は略式が使えません。

  • 消滅会社が公開会社で、種類株式発行会社でなく、対価の全部または一部が譲渡制限株式等である場合(784条1項ただし書)
  • 存続会社が公開会社でなく、対価の全部または一部が存続会社の譲渡制限株式である場合(796条1項ただし書)

簡易合併:存続会社だけの例外

存続会社が交付する対価の額が、存続会社の純資産額の5分の1を超えない場合は、存続会社で株主総会の承認が不要です(796条2項)。定款でこの割合を引き下げることもできます。存続会社にとって影響が小さいという趣旨なので、消滅会社の側には簡易合併はありません。784条2項の簡易の規定は吸収分割についてのものです。

簡易合併でも、次の場合は株主総会の承認が必要です。

  • 合併差損が生じる場合、つまり承継する債務の額が承継する資産の額を超える場合など(796条2項ただし書・795条2項)
  • 存続会社が公開会社でなく、対価が存続会社の譲渡制限株式である場合(796条2項ただし書・同条1項ただし書)
  • 法務省令で定める数の株式を持つ株主が、通知・公告の日から2週間以内に反対を通知した場合(796条3項)

債権者保護手続と株主への通知

合併では両社とも常に必要

吸収合併では、消滅会社の債権者も存続会社の債権者も、合併に異議を述べることができます(789条1項1号・799条1項1号)。会社分割や株式交換では債権者保護手続が要らない場合がありますが、合併では常に必要です。

会社は、合併をする旨、相手方の商号・住所、計算書類に関する事項、異議を述べることができる旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者に各別に催告します。異議を述べる期間は1か月を下ることができません(789条2項・799条2項)。

官報に加えて、定款で定めた公告方法である日刊新聞紙または電子公告でも公告したときは、各別の催告を省略できます(789条3項・799条3項)。

異議を述べた債権者への対応

期間内に異議を述べなかった債権者は、合併を承認したものとみなされます(789条4項・799条4項)。異議を述べた債権者には、弁済するか、相当の担保を提供するか、弁済を受けさせる目的で信託会社等に相当の財産を信託します。ただし、合併をしてもその債権者を害するおそれがないときは不要です(789条5項・799条5項)。

登記の添付書面では、この3つの対応のどれをとったか、または害するおそれがないことを証明します。異議を述べた債権者がいなければ、その旨を書面で明らかにします。

株主・新株予約権者・株券

反対株主は、自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(785条1項・797条1項)。そのため両社は、効力発生日の20日前までに、株主に合併をする旨などを通知します。公開会社である場合と、株主総会の決議で承認を受けた場合は、公告で代えられます(785条3項・4項、797条3項・4項)。

消滅会社が株券発行会社なら、効力発生日までに株券を提出すべき旨を、効力発生日の1か月前までに公告し、株主と登録株式質権者に各別に通知します(219条1項6号)。消滅会社の新株予約権は効力発生日に消滅します(750条4項)。

登記の申請:同時申請と経由申請

登記期間と2つの登記

会社が吸収合併をしたときは、効力が生じた日から2週間以内に、本店の所在地で、消滅会社は解散の登記を、存続会社は変更の登記をします(921条)。

存続会社の変更登記では、合併をした旨と、消滅会社の商号・本店も登記します(商業登記法79条)。これに加えて、合併で株式を発行すれば発行済株式の総数、資本金の額が増えればその額が変更されます。消滅会社の解散登記では、解散の旨とその事由・年月日を登記します(同法71条1項)。

存続会社の代表者が消滅会社を代表する

効力発生日に消滅会社は解散しているので、消滅会社の代表取締役は解散登記を申請できません。そこで、合併による解散の登記は、存続会社を代表すべき者が消滅会社を代表して申請します(商業登記法82条1項)。

経由申請と同時申請

解散の登記は、存続会社の本店所在地を管轄する登記所を経由して申請します(82条2項)。消滅会社の本店が同じ登記所の管轄にあれば、経由は問題になりません。解散登記と変更登記は同時に申請しなければなりません(同条3項)。

存続会社の本店所在地の登記所は、どちらかの申請に却下事由があれば、両方を共に却下します(83条1項)。変更登記をしたときは、遅滞なく、その登記の日を解散登記の申請書に記載し、消滅会社の本店所在地の登記所に送付します(同条2項)。

項目 変更登記 解散登記
申請人 存続会社の代表者 存続会社の代表者が消滅会社を代表
提出先 存続会社の本店所在地の登記所 同じ登記所を経由して、消滅会社の本店所在地の登記所へ
添付書面 商業登記法80条の書面 不要(82条4項)

管轄外の本店移転で旧所在地経由の同時申請をするのと、構造が似ています。本店移転の仕組みは本店移転登記で扱っているので、経由する方向の違いを比べておくと混乱しません。

添付書面と登録免許税

商業登記法80条の添付書面

変更登記の申請書には、次の書面を添付します。

添付書面 根拠
吸収合併契約書 80条1号
存続会社の株主総会議事録と株主リスト 46条2項、商業登記規則61条3項
簡易・略式合併の場合は、その要件を満たすことを証する書面。反対通知があったときは株主総会を要しないことを証する書面 80条2号
存続会社の債権者保護手続の公告・催告をしたこと、異議を述べた債権者への対応を証する書面 80条3号
資本金の額が会社法445条5項に従って計上されたことを証する書面 80条4号
消滅会社の登記事項証明書。同じ登記所の管轄なら不要 80条5号
消滅会社の株主総会議事録など、合併契約の承認その他の手続を証する書面。略式なら要件を満たすことの証明と取締役の過半数の一致または取締役会の議事録 80条6号
消滅会社の債権者保護手続を証する書面 80条8号
消滅会社が株券発行会社なら株券提供公告をしたことを証する書面、新株予約権を発行しているなら新株予約権証券提供公告に関する書面 80条9号・10号
委任状 18条

消滅会社の登記事項証明書は、申請書に会社法人等番号を記載すれば添付を省略できます(商業登記法19条の3)。消滅会社が持分会社なら、株主総会議事録ではなく、総社員の同意を証する書面になります(80条7号)。

登録免許税

登録免許税は、存続会社と消滅会社で別に数えます(登録免許税法別表第一第24号(1))。

登記 区分 税額
存続会社の資本金の増加の登記 ヘ 増加した資本金の額の1000分の1.5。消滅会社の合併直前の資本金の額として財務省令で定める額を超える部分は1000分の7。最低3万円
資本金が増加しない場合の存続会社の変更登記 ツ 3万円
消滅会社の解散の登記 レ 3万円

1000分の1.5の軽減は、消滅会社がもともと持っていた資本金を引き継ぐ部分に限られます。これを超えて資本金を積み増した部分は、募集株式の発行と同じ1000分の7です。

計算例

単純化した例で確認します。消滅会社の合併直前の資本金の額が財務省令上3,000万円と扱われ、存続会社の資本金が合併により5,000万円増加したとします。

  • 3,000万円の部分は1000分の1.5で、4万5,000円
  • 超える2,000万円の部分は1000分の7で、14万円
  • 存続会社の変更登記は合計18万5,000円
  • 消滅会社の解散登記は3万円

財務省令の計算は、存続会社が合併前から消滅会社の株式を持っていた場合などに調整が入るので、本試験では問題文の指示に従ってください。募集株式の発行との比較は募集株式の発行と変更登記で確認できます。

試験での出題ポイント

択一式ではこう問われる

  • 効力発生:吸収合併は契約で定めた効力発生日、新設合併は設立の登記の日。解散の対抗は登記の後
  • 決議:原則は特別決議。種類株式発行会社でない公開会社が消滅会社で、株主に譲渡制限株式等を交付するなら特殊決議
  • 略式:両社で使える。消滅会社が公開会社で譲渡制限株式等を交付する場合などは使えない
  • 簡易:存続会社だけ。合併差損、非公開会社の譲渡制限株式の交付、一定数の反対通知で使えない
  • 債権者保護手続:合併では両社で常に必要。二重公告で各別の催告を省略できる
  • 申請:存続会社の代表者が消滅会社を代表し、存続会社の本店所在地の登記所を経由して同時申請。一方に却下事由があれば共に却下
  • 添付書面:解散登記には添付不要。変更登記に両社の手続の証明をまとめる
  • 登録免許税:存続会社はヘ、資本金が増えなければツ、消滅会社はレ

商業登記法の科目ページから、組織再編の肢を論点別に演習できます。

記述式との接続

記述式で吸収合併が出たら、次の順で判断します。

  1. 効力発生日を確定する。変更の公告があれば変更後の日
  2. 両社の株主総会の承認が必要か。簡易・略式の要件と、そのただし書に当たらないか
  3. 債権者保護手続の期間が1か月以上あり、効力発生日の前日までに終わっているか
  4. 存続会社の発行済株式の総数と資本金の額の変更を計算する
  5. 変更登記と解散登記の2件を書き、登録免許税をヘ・ツ・レで振り分ける

合併と同時に役員の選任や商号の変更をする問題では、合併による変更登記と一緒に申請できるかも問われます。別紙の読み方は記述式(商業登記)対策でまとめています。

まとめ

  • 吸収合併は契約で定めた効力発生日に効力を生じ、消滅会社の解散は登記の後でなければ対抗できない
  • 株主総会の承認は原則として特別決議。略式は両社、簡易は存続会社だけの例外
  • 債権者保護手続は合併では両社で常に必要。官報公告と各別の催告、期間は1か月以上
  • 登記は効力発生日から2週間以内。変更登記と解散登記を同時に申請する
  • 解散登記は存続会社の代表者が消滅会社を代表し、存続会社の本店所在地の登記所を経由する。添付書面は不要
  • 添付書面は80条に列挙。両社の承認と債権者保護手続、資本金の計上、消滅会社の登記事項証明書が核
  • 登録免許税は、存続会社がヘで1000分の1.5と1000分の7の組み合わせ、消滅会社がレで3万円

よくある質問

消滅会社で簡易合併の手続をとることはできますか

できません。簡易の例外は、交付する対価が存続会社の純資産額に比べて小さく、存続会社の株主への影響が小さいことを理由にしたものです(796条2項)。消滅会社の株主にとっては会社が消える重大な変更なので、特別支配会社との略式合併の場合を除き、株主総会の承認が必要です。

合併の登記をするまで、合併の効力は生じないのですか

吸収合併では、効力は契約で定めた効力発生日に生じます(750条1項)。登記は効力の要件ではありません。ただし、消滅会社の解散は、合併の登記の後でなければ第三者に対抗できません(同条2項)。新設合併は設立の登記によって効力を生じるので、ここは入れ替えて出題されます。

消滅会社の解散の登記には、なぜ添付書面が要らないのですか

同時に申請する存続会社の変更登記に、消滅会社の株主総会の承認や債権者保護手続を証する書面がまとめて添付されているからです。商業登記法82条4項は、解散の登記の申請には添付書面に関する規定を適用しないと定めています。登記所は2つの申請をあわせて審査し、一方に却下事由があれば共に却下します。

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