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記述式(不動産登記法)の勉強法と対策

司法書士試験の記述式(不動産登記法)対策を解説。出題形式の分解、雛形暗記の進め方、答案構成(枠決め)の手順、枠ズレの類型と防止策、配点140点化後の戦略、年度別過去問の使い方まで。

司法書士試験の午後の部は、3時間で択一35問(105点)と記述式2問(140点)を処理する試験です。記述式は不動産登記法と商業登記法から各1問ずつ出題され、それぞれ70点、合計140点が配点されています。

この記述式には独立した基準点が設定されており、択一でどれだけ高得点を取っても、記述の基準点に届かなければその時点で不合格が確定します。しかも令和6年度(2024年度)から配点が70点から140点へ倍増したことで、記述式の出来が総合点に与える影響はさらに大きくなりました。

この記事では、不動産登記法の記述式について、出題形式の構造分析から、雛形の覚え方、答案構成(枠決め)の具体的手順、失点の最大要因である「枠ズレ」の類型と防止策まで、実践的な対策を整理します。

出題形式の分解と、配点140点化が変えた戦略

対策を立てる前に、何が問われているのかを正確に把握しておく必要があります。不動産登記法の記述式は、毎年ほぼ同じ構造で出題されています。

問題の構成要素

問題冊子は、おおむね次の要素で構成されています。

要素 内容 読む順序の目安 答案作成にあたっての注意事項 申請件数の制約、記載方法の指定、判断の前提条件 最初に読む 事実関係 依頼者からの聴取内容や、司法書士と補助者の会話形式で示される 3番目 別紙:登記記録 対象不動産の甲区・乙区の登記事項 2番目 別紙:不動産の表示 所在・地番・地目・地積、課税価格 2番目と併せて 別紙:各種書面 遺産分割協議書、売買契約書、議事録、登記原因証明情報の一部など 事実関係と対照しながら 解答欄 申請情報の記載欄+小問(理由説明等) —

「答案作成にあたっての注意事項」を最初に読むことは、極めて重要です。ここには「申請件数は何件以内とする」「登記の目的は登記記録に記録される文言で記載する」「登録免許税が課されない場合はその旨を記載する」といった、答案の形式を規定する条件が書かれています。ここを読み飛ばして解き始めると、内容が合っていても形式で失点します。

解答欄に書く項目

申請情報として記載を求められる項目は、おおむね次のとおりです。

項目 内容 登記の目的 「所有権移転」「甲某持分全部移転」「抵当権設定」など 登記原因及びその日付 「令和8年5月1日売買」など 申請人 権利者・義務者、持分、相続人の表示など 添付情報 登記識別情報、登記原因証明情報、印鑑証明書ほか 登録免許税額 課税価格と税率から算出 その他 課税価格、不動産の表示、申請年月日など(指定による)

さらに近年は、申請情報の記載だけでなく、「なぜその登記を申請できないのか」「なぜその登記を申請するのか」を文章で説明させる小問が出題されています。これは単なる雛形の暗記では対応できず、要件の理解が問われる部分です。

何が測られているのか

記述式で問われているのは、突き詰めると次の3つの能力です。

  1. 事実から法律関係を確定する力 — 事実関係と登記記録を突き合わせ、現在の権利関係と、そこに生じた変動を正確に把握する
  2. 登記手続に翻訳する力 — 確定した法律関係を、何件の、どういう順序の、どういう内容の登記申請に落とし込む
  3. 形式を正確に再現する力 — 目的の文言、原因日付、添付情報、登録免許税を、登記実務の様式どおりに書く

このうち3は雛形の暗記で対応できます。1は択一の知識が土台になります。そして合否を分けるのは2です。「枠決め」と呼ばれるこの工程で判断を誤ると、以降の記載がすべて連鎖的に外れます。この記事で最も紙幅を割くのはこの部分です。

不動産登記法の択一対策と記述式は同じ知識基盤の上に立っています。択一側の学習法については不動産登記法の勉強法(択一対策)も併せて参照してください。

配点140点化という前提の変化

令和6年度から、記述式の配点は1問35点(合計70点)から1問70点(合計140点)へと倍増しました。この変更は、単に点数が2倍になったという話にとどまらず、学習配分と本試験での立ち回りの両方に影響します。

総合点における記述の比重

区分 配点 全体に占める割合 午前の部 択一35問 105点 30.0% 午後の部 択一35問 105点 30.0% 午後の部 記述式2問 140点 40.0% 合計 350点 100%

記述式が総合点の4割を占めます。択一1問が3点であるのに対し、記述式は1問70点ですから、記述の1枠を落とすことが択一数問分の失点に相当する場面も出てきます。

戦略上の変化(1)部分点の価値が上がった

配点が倍になったということは、各記載項目に割り当てられる点数も相応に大きくなったということです。したがって、「1つの枠を完璧に書く」よりも「すべての枠の目的と原因日付を埋める」ほうが、期待得点が高くなります

具体的な優先順位は次のとおりです。

優先度 記載項目 理由 1 登記の目的 枠の骨格。ここが合っていないと他も連動して外れる 2 登記原因及びその日付 目的と並ぶ配点の柱 3 申請人 権利者・義務者・持分 4 登録免許税 独立して採点されやすく、計算だけで取れる 5 添付情報 項目数が多く、部分点を積みやすい

時間が足りなくなったときに真っ先に削るべきなのは添付情報の細部であり、逆に絶対に空欄にしてはいけないのは登記の目的と原因日付です。

戦略上の変化(2)白紙を作らないことの徹底

配点が大きくなったぶん、白紙の枠が生む損失も大きくなりました。「自信がないから書かない」という判断は、以前にも増して割に合いません。判断に迷った場合でも、最も可能性が高いと考える内容を書き切ることが原則です。

ただし、これは「注意事項で申請件数が指定されている場合に、余分な枠を作ってよい」という意味ではありません。件数指定がある場合は、その範囲内で最善の配置を選ぶ必要があります。

戦略上の変化(3)午後の時間配分の見直し

配点構成が変わった以上、午後3時間の配分も見直す必要があります。標準的な配分は次のとおりです。

区分 時間 補足 択一35問 60〜70分 1問あたり2分弱。迷ったら飛ばす 不動産登記法 記述 50〜55分 読み取り20分+記入30分 商業登記法 記述 50〜55分 同上 予備・見直し 5〜10分 記入漏れの確認

以前は択一に80分以上かけて記述を短時間で処理する受験生もいましたが、配点140点の現在は、択一の時間を削ってでも記述に時間を確保するほうが期待値が高くなります。択一で迷った問題に3分かけるより、記述の1枠を埋めるほうが得点への寄与が大きいからです。

商業登記法の記述式との時間配分やバランスについては記述式(商業登記法)の勉強法と対策も参照してください。

雛形暗記の進め方

記述式対策の土台は雛形の暗記です。ここが自動化されていないと、答案構成に使うべき思考のリソースが、「この目的はどう書くんだったか」という想起に食われてしまいます。

雛形は「書ける」まで持っていく

雛形学習でよくある失敗は、「見れば分かる」で止めてしまうことです。記述式では実際に手で書くため、見て分かるレベルでは足りません。白紙に、問題文を見ずに、申請情報一式を書き出せる状態が目標です。

ただし、すべての雛形についてこのレベルを目指すと時間が足りません。次のように優先度を分けます。

優先度 雛形 到達目標 S 所有権移転(売買・相続・遺贈)、抵当権設定・抹消、根抵当権設定、名変(住所・氏名変更) 白紙に完全再現 A 持分移転、抵当権移転・変更、根抵当権の変更・譲渡・元本確定、仮登記とその本登記、買戻特約 骨格(目的・原因・申請人)を再現 B 信託、代位、処分の制限、区分建物、敷地権 見て内容を説明できる

基本雛形の例

最も基本となる所有権移転(売買)の申請情報です。

登記の目的  所有権移転
原因      令和8年5月1日売買
権利者     甲野太郎
義務者     乙川花子
添付情報    登記識別情報 登記原因証明情報 印鑑証明書
        住所証明情報 代理権限証明情報
課税価格    金1,000万円
登録免許税   金20万円

相続の場合は、共同申請ではなく相続人による単独申請になるため、構造が変わります。

登記の目的  所有権移転
原因      令和8年3月10日相続
相続人     (被相続人 甲野一郎)
        甲野太郎
添付情報    登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報
課税価格    金1,000万円
登録免許税   金4万円

ここで押さえるべきは、単に文字列を覚えることではなく、なぜこの形になるのかを構造で理解することです。相続の場合に登記識別情報と印鑑証明書が不要なのは、共同申請ではなく単独申請だからです。この理屈が分かっていれば、他の単独申請の場面にも応用が利きます。

抵当権設定の雛形も基本形として押さえます。

登記の目的  抵当権設定
原因      令和8年5月1日金銭消費貸借同日設定
債権額     金1,000万円
利息      年2%
損害金     年14%
債務者     乙川花子
抵当権者    株式会社A銀行
設定者     乙川花子
添付情報    登記識別情報 登記原因証明情報 印鑑証明書
        代理権限証明情報 会社法人等番号
登録免許税   金4万円

根抵当権設定は、抵当権との違いを対比で覚えるのが効率的です。

登記の目的  根抵当権設定
原因      令和8年5月1日設定
極度額     金1,000万円
債権の範囲   銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者     乙川花子
根抵当権者   株式会社A銀行
設定者     乙川花子

抵当権が「金銭消費貸借同日設定」と債権の発生原因を書くのに対し、根抵当権は単に「設定」とだけ書きます。特定の債権を担保するのではないからです。この違いは、抵当権と根抵当権の性質の違いがそのまま申請情報に表れたものです。

持分の表記を正確に分ける

記述式で頻繁に問われ、かつ間違えやすいのが持分に関する登記の目的の表記です。

場面 登記の目的 単独所有者が全部を移転する 所有権移転 単独所有者が持分の一部を移転する 所有権一部移転 共有者の一人が自己の持分の全部を移転する 甲野太郎持分全部移転 共有者の一人が自己の持分の一部を移転する 甲野太郎持分一部移転 共有者2名が持分の全部を移転する 共有者全員持分全部移転

これは丸暗記の対象です。実際の答案では、登記記録の甲区を見て現在の所有形態(単独か共有か)を確認したうえで、この表を機械的に当てはめます。

登録免許税の一覧を持っておく

登録免許税は、計算方法さえ知っていれば確実に得点できる部分です。主要なものを表で持っておきます。

登記の種類 課税標準 税率 所有権保存 不動産の価額 4/1000 所有権移転(売買・贈与・遺贈等) 不動産の価額 20/1000 所有権移転(相続・合併) 不動産の価額 4/1000 所有権移転仮登記(売買) 不動産の価額 10/1000 抵当権設定 債権額 4/1000 根抵当権設定 極度額 4/1000 抵当権移転(債権譲渡) 債権額 2/1000 抵当権移転(相続) 債権額 1/1000 根抵当権の全部譲渡 極度額 2/1000 根抵当権の極度額増額変更 増加額 4/1000 抹消登記 — 不動産1個につき1,000円 変更・更正・登記名義人表示変更 — 不動産1個につき1,000円 元本確定の登記 — 不動産1個につき1,000円

定額課税(1,000円)のものについては、同一の申請書で20個を超える不動産について申請する場合は2万円という上限があります。記述式では不動産が複数登場することが多いため、この上限の適用の有無は必ず確認してください。

また、課税価格は1,000円未満を切り捨て、税額は100円未満を切り捨てるという端数処理も、機械的に適用できるようにしておきます。

雛形の回し方——「書く」と「見る」を分ける

雛形は数が多いため、毎回すべてを白紙に書いていると時間が足りません。現実的なのは、「書いて確認するもの」と「見て確認するもの」を分けて、比率を管理する運用です。

段階 書く対象 見る対象 週あたり所要 導入期 優先度Sの雛形すべて — 3〜4時間 定着期 優先度Sのうち直近で間違えたもの 優先度S・Aの全体 2時間 維持期 週替わりで5〜8個をローテーション 優先度S・A・Bの全体 1時間 直前期 優先度Sの全体を週1回通しで 全体を毎日流し読み 2〜3時間

「見る」ときも、ただ眺めるのではなく、目的欄だけを見て原因・申請人・添付情報を頭の中で言えるかを確認します。言えなければ、その雛形を「書く」対象に戻します。この出し入れができていれば、雛形の維持コストは大きく下がります。

雛形は「対比」で覚えると崩れにくい

単独で覚えた雛形は、似た制度が出てきたときに混線します。最初から対で覚えてしまうほうが、結果的に定着します。押さえておきたい対比の組は次のとおりです。

対比の組 何が違うか 抵当権設定 ⇔ 根抵当権設定 原因の書き方、記載する権利事項(債権額/極度額・債権の範囲) 所有権移転(売買)⇔ 所有権移転(相続) 共同申請か単独申請か。添付情報と税率が連動して変わる 抵当権抹消 ⇔ 根抵当権抹消 原因(弁済・解除等)と、元本確定の要否 所有権移転仮登記 ⇔ 本登記 仮登記の税率、本登記における利害関係人の承諾 名変(住所変更)⇔ 更正登記 原因が「変更」か「錯誤・遺漏」か。前提として要求される場面が異なる

対比で覚えると、記述式の現場で「この事案はどちらの型か」を判断するだけで申請情報が出てくるようになります。これは枠決めの速度に直結します。

添付情報の覚え方

添付情報は項目数が多く、丸暗記しようとすると破綻します。「どの場面で何が必要か」を判断する思考の順序を作ってしまうのが効率的です。

5つの基本情報から考える

添付情報は、次の5つを基本形とし、そこに場面ごとの追加情報を足していく形で組み立てます。

基本情報 必要になる条件 判断のポイント 登記原因証明情報 ほぼすべての登記 所有権保存(不登法74条1項1号・2号)では不要 登記識別情報 共同申請で、登記義務者が登記名義人であるとき 単独申請では原則不要 印鑑証明書 所有権の登記名義人が登記義務者となるとき(書面申請) 「所有権の」がポイント。抵当権者が義務者なら不要 住所証明情報 新たに所有権の登記名義人となる者があるとき 所有権保存・所有権移転で必要。抵当権設定では不要 代理権限証明情報 代理人により申請するとき 記述式ではほぼ常に必要

この5つについて、それぞれ「なぜ必要か」を言えるようにしておくことが重要です。登記識別情報は本人確認のため、印鑑証明書は意思確認のため、住所証明情報は実在性の確認のため、という趣旨が分かっていれば、初見の場面でも判断できます。

場面ごとの追加情報

場面 追加される添付情報 相続による登記 相続を証する情報(戸籍全部事項証明書等)、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書 法人が申請人となる場合 会社法人等番号(または代表者の資格を証する情報) 利害関係人がいる変更・更正・抹消 承諾を証する情報(および印鑑証明書) 農地の権利移転 農地法の許可を証する情報 利益相反取引に該当する場合 取締役会議事録(または株主総会議事録)と押印者の印鑑証明書 成年被後見人の居住用不動産の処分 家庭裁判所の許可を証する情報 未成年者と親権者の利益相反 特別代理人の選任審判書

記述式では、事実関係の中にこれらの「引き金」がさりげなく置かれています。「対象土地の地目は畑である」「Aは甲株式会社の代表取締役であり、かつ買主でもある」「Bには成年後見人が付されている」といった記述を見た瞬間に、追加すべき添付情報が思い浮かぶようにしておきます。

承諾証明情報の要否は「効力要件か対抗要件か」で分ける

利害関係人の承諾については、その承諾が登記の効力要件なのか、それとも付記登記でするための要件なのかを区別する必要があります。

代表的なのは根抵当権の極度額の変更です。極度額の変更は、利害関係人の承諾がなければその効力を生じません。したがって承諾を証する情報は必須で、これがなければそもそも登記を申請できません。一方、多くの変更登記では、承諾があれば付記登記、なければ主登記という扱いになります。

この区別ができていないと、承諾書がない事案で「登記できない」と誤って判断したり、逆に必須の承諾を落としたりします。択一の知識がそのまま記述の判断に直結する典型例です。

答案構成(枠決め)の手順

記述式の得点は、答案構成の段階でほぼ決まります。ここでの判断が正しければ、あとは雛形どおりに書くだけです。逆に、ここを誤ると、どれだけ丁寧に書いても点になりません。

標準手順(所要20分)

手順1:注意事項を読む(2分)

申請件数の指定、記載方法の指定、判断の前提条件を確認します。特に「申請件数は○件以内」という指定がある場合、それは枠決めの答え合わせにも使える情報です。自分が導いた件数が指定と合わなければ、どこかで判断を誤っています。

手順2:登記記録を図にする(4分)

甲区・乙区の登記事項を読み、現在の権利関係を図で書き出します。以下のような簡略図で十分です。

【甲土地】
甲区 1番 所有権保存 A
    2番 所有権移転 B(平成30年 売買)
乙区 1番 抵当権設定 X銀行(債権額2,000万)
    2番 根抵当権設定 Y信金(極度額1,000万)

このとき、登記名義人の住所・氏名を必ず確認してください。事実関係の中で住所移転や氏名変更が起きていれば、前提としての名変登記が必要になります。

手順3:事実関係を時系列に並べる(5分)

事実関係は、必ずしも時系列順に書かれていません。日付を拾って、発生順に並べ直します。

R8/3/10  B死亡(相続人 C・D)
R8/4/ 5  C・Dが遺産分割協議(甲土地はCが取得)
R8/4/20  Cが住所移転
R8/5/ 1  CがEに甲土地を売却
R8/5/10  X銀行の抵当権について弁済

手順4:各事実に登記が発生するか判定する(3分)

並べた事実の一つひとつについて、登記申請が必要かを判定します。ここで「登記できない事項」や「今回は申請しない登記」を除外します。

手順5:枠を並べ、件数と順序を確定する(4分)

登記が発生する事実について、申請の枠を並べます。上の例なら次のようになります。

1件目  所有権移転(相続)      原因 R8/3/10 相続   申請人 C
2件目  所有権登記名義人住所変更  原因 R8/4/20 住所移転 申請人 C
3件目  所有権移転(売買)      原因 R8/5/ 1 売買   権利者 E / 義務者 C
4件目  抵当権抹消          原因 R8/5/10 弁済   権利者 C or E / 義務者 X銀行

手順6:各枠を埋める(残り時間で記入)

枠が確定したら、雛形どおりに記入します。目的→原因日付→申請人→添付情報→登録免許税の順に、全枠について1項目ずつ横断して埋めていくのが安全です。1枠を完成させてから次へ進むより、全枠の目的を先に埋め、次に全枠の原因日付を埋める、という進め方のほうが、時間切れになったときの失点を最小化できます。

枠決めで必ず確認する5つのチェックポイント

# 確認事項 見落とすと 1 登記義務者の住所・氏名は登記記録と一致するか 前提の名変登記が抜ける 2 登記義務者は生存しているか(相続が介在しないか) 前提の相続登記が抜ける 3 各申請の順序は効力発生順になっているか 順序ズレで連鎖失点 4 一の申請でできるものを分けていないか、逆はないか 件数ズレ 5 申請できない登記を書いていないか 余分な枠で減点

枠ズレの類型と防止策

記述式で最も怖いのが「枠ズレ」です。1つの枠を誤ると、以降の枠がすべて連鎖的に外れ、大量失点につながります。ここでは枠ズレを類型化し、それぞれの防止策を示します。

類型1:前提登記の脱落

最も頻度が高い枠ズレです。ある登記を申請するために、先に別の登記を経由しなければならない場合に、その前提登記を落とすパターンです。

典型例

  • 登記義務者の住所が登記記録上の住所と異なる → 所有権登記名義人住所変更が前提として必要
  • 登記名義人が死亡している → 相続による所有権移転が前提として必要
  • 登記名義人が会社で、商号や本店を変更している → 登記名義人名称変更が前提として必要

防止策
枠決めの手順2で登記記録を図にする際、所有権の登記名義人の住所と氏名に必ず下線を引く習慣をつけます。そして事実関係を読むときに、住所移転・氏名変更・死亡・商号変更のキーワードが出たら、その場で図に書き込みます。この2つを機械的にやるだけで、この類型のミスは大幅に減ります。

なお、前提としての名変登記が省略できる場面もあります。たとえば、担保権の抹消登記の前提として、その担保権者の表示変更の登記は省略できるとされています。また、相続による所有権移転の場合、被相続人の登記記録上の住所と死亡時の住所が異なっていても、同一性が証明できれば前提の名変は要しません。「常に必要」でも「常に不要」でもないため、場面ごとの整理が必要です。

類型2:申請件数のズレ

一の申請ですべきものを2件に分けてしまう、あるいはその逆のパターンです。

典型例

  • 同一人が複数の不動産について同一の登記原因で登記する場合の一括申請の可否
  • 数人の共有者が同一の原因で持分を移転する場合の扱い
  • 抵当権の債務者の住所変更と氏名変更が同時に生じた場合

防止策
一括申請の可否は択一でも頻出の論点です。「登記の目的が同一であること」「登記原因及びその日付が同一であること」「当事者が同一であること」という基本原則を押さえたうえで、例外(相続による所有権移転で登記原因の日付が異なっても一括できる場合など)を整理しておきます。そして、注意事項に件数の指定があれば、それと突き合わせて検算します。

類型3:申請順序のズレ

枠の内容自体は正しいが、順序が違うパターンです。

防止策
原則は効力発生の時系列順です。加えて、前提登記は必ず先、という制約が入ります。手順3で作った時系列表をそのまま枠の順序に写すことで、大半は防げます。

判断に迷うのは、同日に複数の事実が発生した場合や、抹消と設定が絡む場合です。この場合は、「その登記をするために、直前の登記が完了している必要があるか」という依存関係で考えます。依存関係がなければ、事実関係で示された順序に従います。

類型4:登記の目的の表記ズレ

内容は理解しているが、文言が正確でないパターンです。前述の持分の表記(所有権一部移転/甲某持分全部移転など)が典型です。

防止策
登記記録の甲区を見て、現在の所有形態を確認してから目的を書く、という順序を固定します。「Aから移転する」と考えるのではなく、「甲区の現在の名義はどうなっているか」から入る癖をつけます。

類型5:登記原因日付のズレ

日付を1つ間違えるだけで、その枠の原因欄が失点します。

間違えやすい原因日付

登記原因 日付 注意点 売買 契約の日 所有権移転時期の特約があればその日 相続 被相続人の死亡の日 遺産分割協議の日ではない 遺贈 遺言者の死亡の日 同上 農地の売買 許可書が到達した日 契約日ではない 時効取得 占有を開始した日 時効が完成した日ではない 財産分与 財産分与の協議が成立した日 離婚の日ではない 解除 解除の意思表示が到達した日 —

特に注意が必要なのが相続と遺贈です。遺産分割協議によってCが単独取得した場合でも、登記原因は「年月日相続」であり、日付は被相続人の死亡日です。遺産分割は相続開始時に遡って効力を生じるからです。この理屈を理解していれば、協議の日を書いてしまうミスは起きません。

農地の場合も同様に、許可が効力発生要件であることを理解していれば、許可書の到達日が原因日付になることが導けます。

類型6:申請人のズレ

権利者と義務者を取り違える、持分の記載を落とす、といったパターンです。

防止策
「登記をすることによって直接に利益を受ける者が権利者、不利益を受ける者が義務者」という原則に立ち返ります。抹消登記の場合、権利者と義務者が直感と逆になることがあるため注意が必要です。抵当権の抹消登記では、抵当権者が義務者、設定者(所有者)が権利者になります。

類型7:登記できない事項を書いてしまう

事実関係の中に、あえて「登記できない」事案が混ぜられていることがあります。これに気づかず枠を作ると、余分な枠ができて全体がズレます。

典型例

  • 農地法の許可が得られていない段階での農地の所有権移転
  • 元本確定前の根抵当権について、被担保債権の譲渡を原因とする移転登記
  • 実体上の権利変動を伴わない登記

防止策
近年は「なぜ登記できないのか」を説明させる小問として出題されることが多く、むしろこれに気づくことが得点源になります。事実関係に不自然な要素(許可書がない、日付が前後している、当事者に制限がある)を見つけたら、それは意図的に置かれた論点だと考えてください。

類型8:添付情報の過不足

枠自体は正しいが、添付情報を書きすぎる/落とすパターンです。過不足のどちらも減点対象になり得ます。

防止策
前述の5つの基本情報を機械的に検討したうえで、事実関係の「引き金」に対応する追加情報を足す、という2段階で処理します。時間が足りないときは、基本5つを確実に書くことを優先します。

年度別過去問の使い方

記述式の演習で中心に据えるべきは、本試験の過去問です。市販の演習書や答練も有用ですが、出題の形式・分量・難易度の基準は本試験にしかありません。

3周する前提で使い方を変える

同じ年度の問題を、目的を変えて3回使います。

周回 時間 やること 目的 1周目 無制限 納得いくまで考え、解説を精読する 論点の把握と雛形の確認 2周目 55分 本試験と同じ時間制限で通しで解く 時間内に処理する訓練 3周目 20分 枠決めまでだけをやり、記入は省略 答案構成の精度と速度

3周目の使い方が効きます。記述式の演習は1問1時間かかるため、何度も通しで解くのは負担が大きい。しかし、失点の主因が枠決めである以上、鍛えるべきは枠決めです。枠決めだけを20分でやり、正解の枠と突き合わせるという演習なら、1時間で3年分を回せます。

古い年度の扱いと制度改正への注意

過去問を遡る際は、制度改正の影響に注意が必要です。近年の主な変更点は次のとおりです。

時期 変更内容 過去問への影響 令和6年度(2024年度)本試験〜 記述式の配点が70点→140点 それ以前の年度は分量・配点感覚が異なる 令和6年4月1日 相続登記の申請義務化、相続人申告登記の創設 相続関連の出題環境が変化 令和8年4月1日 住所等の変更登記の申請義務化 名変登記の位置づけに影響 令和5年4月1日 共有・相隣関係・財産管理に関する民法改正 共有物分割等の事案の前提知識が変化

古い年度の問題は、事案の作り方や論点の組み合わせを学ぶ素材としては今でも有効です。ただし、当時の制度を前提にした解説をそのまま覚えないよう、改正点は別途確認してください。

解き直しの記録を残す

演習の記録は、次の項目だけで十分です。

年度       解答日   枠数(正/全)  枠ズレの類型   所要時間  得点感触
R6年度     6/12    3/4           前提名変の脱落  62分     △
R5年度     6/15    4/4           —              54分     ○
R4年度     6/18    2/3           原因日付(農地) 58分     ×

「枠ズレの類型」の欄が重要です。ここに同じ類型が繰り返し現れるなら、それが自分の弱点です。前提名変の脱落が3回続くなら、枠決め手順の「登記名義人の住所・氏名に下線を引く」工程を、意識的に強化する必要があります。

直前期の仕上げと本試験当日の立ち回り

直前2か月でやること

この時期に新しい教材へ手を出すのは得策ではありません。やるべきことは3つに絞られます。

  1. 雛形の最終確認 — 優先度Sの雛形を白紙に書き出す作業を、週1回のペースで行う
  2. 枠決め演習 — 過去問の枠決めだけを1日1年分、20分で処理する
  3. 枠ズレ記録の見直し — 自分が繰り返している類型を確認し、その1点に絞ってチェックリストを作る

特に3が効きます。人が犯すミスの類型は限られていて、同じ人は同じ種類のミスを繰り返します。自分専用の3〜5項目のチェックリストを作り、本試験当日、枠決めが終わった時点でそれを確認する。この習慣が、直前期に得点を数点押し上げます。

直前期全体の組み立て方は直前期の基準点突破戦略でも扱っています。

本試験当日の判断

択一で時間を使いすぎない
午後の択一は、迷った問題を飛ばして先に進むことが鉄則です。択一の1問は3点ですが、記述の枠1つはそれ以上の価値があります。70分で択一を切り上げる意思決定を、事前に決めておきます。

記述はどちらから解くか
不動産登記法と商業登記法のどちらから解くかは、事前に決めておきます。一般には、自分が得意なほう、あるいは得点が安定しているほうから解くのが安全です。ただし、どちらを先にする場合でも、先に解くほうに時間を使いすぎないことが条件です。片方に70分使って、もう片方が30分になる展開は、記述の基準点を割る最大の原因になります。

時間管理の具体策としては、開始時に「不登記述の終了予定時刻」を問題用紙に書いておくのが有効です。その時刻が来たら、書きかけでも次に移ります。

最後の5分は記入漏れの確認に使う
すべての枠について、登記の目的・原因日付・申請人が埋まっているかだけを機械的に確認します。この段階で内容を検討し直すのは避けてください。時間内に修正しきれない可能性が高く、かえって混乱します。

学習全体の中での位置づけ

記述式の対策は、択一の学習が一定水準に達してから始めるものだと考えられがちですが、実際には早期から並行するほうが効率的です。理由は2つあります。

第一に、記述式の学習は択一の理解を深めます。申請情報を書くという作業は、要件と効果を具体的な形で確認することにほかなりません。抵当権と根抵当権の違いを択一の知識として覚えるより、両者の申請情報を書き比べるほうが、違いが構造として頭に入ります。

第二に、記述式は伸びるまでに時間がかかります。雛形の暗記、枠決めの訓練、時間内処理の慣れという3つの層を積み上げる必要があり、直前期の数か月では間に合いません。学習計画全体の中での位置づけについては司法書士試験の合格ロードマップも参考にしてください。

まとめ

記述式(不動産登記法)の対策は、次の5点に集約されます。

  1. 出題形式を分解して理解する — 注意事項を最初に読み、答案に書くべき項目を把握する
  2. 雛形は優先度をつけて、書けるレベルまで持っていく — 所有権移転・抵当権・根抵当権・名変を最優先に
  3. 添付情報は5つの基本形+場面ごとの追加という思考順序で処理する — 丸暗記ではなく判断手順を作る
  4. 枠決めの手順を固定する — 注意事項→登記記録の図化→時系列化→枠の確定、という順序を毎回同じにする
  5. 自分の枠ズレの類型を特定し、そこだけを潰す — 記録を残し、繰り返す類型に対して専用のチェックを設ける

配点が140点になったことで、記述式は総合点の4割を占める最大の得点区分になりました。同時に、独立した基準点があるため、ここを外すと他がどれだけ良くても合格できません。逆に言えば、記述式は対策の効果が最も明確に出る分野でもあります。枠決めの精度が上がれば、得点は階段状に伸びていきます。

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