認定司法書士と簡裁訴訟代理:特別研修と考査
司法書士試験に合格しただけでは簡易裁判所の代理はできません。特別研修の修了、法務大臣の認定考査、認定までの流れを司法書士法3条2項と施行規則で整理し、令和7年度の認定率など法務省の公表値、140万円の数え方と代理できる範囲の線引きまで解説します。
司法書士試験に合格して登録しただけでは、簡易裁判所で依頼者の代理人になることはできません。代理をするには、特別研修を修了し、法務大臣が実施する簡裁訴訟代理等能力認定考査を経て、法務大臣の認定を受ける必要があります。認定を受けた司法書士は、一般に認定司法書士と呼ばれます。
この記事は、合格後のキャリアを具体的に描きたい受験生と、合格したばかりで認定を取るかどうか迷っている人向けです。司法書士法3条2項と司法書士法施行規則の規定、法務省が公表している考査の実施結果をもとに、認定までの流れと、認定を受けた後に代理できる範囲の実務的な線引きを整理します。司法書士法3条の業務全体の構造は司法書士法の業務範囲に譲り、ここでは認定を取る流れと代理の境界に絞ります。
認定司法書士とは
合格・登録だけでは代理できない
司法書士法3条1項6号から8号までの業務は、簡裁訴訟代理等関係業務と呼ばれます(司法書士法3条2項)。簡易裁判所の民事訴訟・支払督促・民事保全・民事調停・少額訴訟債権執行の代理と、140万円以下の民事紛争についての相談や裁判外の和解の代理などです。
簡裁訴訟代理等関係業務は、次のいずれにも該当する司法書士に限り行うことができます(司法書士法3条2項)。
- 法務省令で定める法人が実施する研修で、法務大臣が指定するものの課程を修了した者であること
- その者の申請に基づき、法務大臣が簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有すると認定した者であること
- 司法書士会の会員であること
登記や供託の代理、裁判所に提出する書類の作成は、認定がなくてもできます。認定によって新しく加わるのは、簡易裁判所の手続で代理人として依頼者の代わりに行動する権限です。
研修と考査は別の手続
認定の流れは、研修と考査という2つの手続に分かれています。研修は法務大臣が指定した研修を実施する法人が行い、考査は法務大臣が行います。司法書士法施行規則は、法務大臣が研修を修了した者について必要な能力を習得したかどうかを判定するための考査を実施すると定めています(司法書士法施行規則11条1項)。考査の問題の作成と採点のために、法務省に考査委員が置かれます(同条2項)。
法務省の公表資料では、研修は「司法書士特別研修」と呼ばれ、実施主体は日本司法書士会連合会とされています。令和7年度の考査の結果を公表した資料では、第24回司法書士特別研修の修了認定を受けて考査を実施したと説明されています。
認定までの流れ
全体の流れを表で確認する
司法書士法と施行規則、法務省の受験案内から、認定までの流れを整理すると次のようになります。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 司法書士となる資格 | 司法書士試験に合格する | 司法書士法4条 |
| 特別研修の受講・修了 | 法務大臣が指定した研修の課程を修了し、修了証明書の交付を受ける | 司法書士法3条2項1号、施行規則10条 |
| 考査の申請 | 修了証明書と写真を添えて認定申請書を提出し、手数料を納める | 施行規則12条、司法書士法3条5項 |
| 考査の受験 | 法務大臣が実施する考査を受ける | 施行規則11条・12条1項 |
| 認定 | 法務大臣が能力を有すると認定し、認定証書を交付する | 司法書士法3条2項2号、施行規則13条 |
| 公告 | 認定を受けた者の氏名が官報で公告される | 施行規則13条 |
| 業務の開始 | 司法書士会の会員として簡裁訴訟代理等関係業務を行う | 司法書士法3条2項3号 |
認定を受けようとする者は、考査を受けなければなりません(施行規則12条1項)。研修を修了しただけで自動的に認定されるわけではなく、考査が認定の判定の場になっています。
特別研修の基準
研修の内容の基準は、施行規則8条が定めています。研修は、次の事項について講義及び演習により行います。
- 事実認定の手法
- 立証活動
- 弁論及び尋問技術
- 訴訟代理人としての倫理
- その他簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な事項
研修の総時間数は、100時間以上とされています(施行規則8条2号)。法務大臣は、研修の内容がこの基準を満たし、実施計画が適切で、実施する法人に専門的能力と経理的基礎があると認められる研修についてだけ指定をします(司法書士法3条3項)。研修を修了した者には、研修を実施した法人から修了証明書が交付されます(施行規則10条)。
研修の具体的な日程や会場は、年度ごとに実施主体が案内します。受講を考える場合は、日本司法書士会連合会や所属する司法書士会の案内で確認してください。
考査の申請と手数料
考査を受ける認定申請者は、写真と修了証明書を添えて、考査を受けようとする地を管轄する法務局または地方法務局の長に認定申請書を提出します(施行規則12条2項)。法務省の受験案内では、申請書類は司法書士会を通じて交付を受け、司法書士会に提出する手順になっています。司法書士会に入会していない者も、住所地を管轄する法務局の管轄区域の司法書士会で申請書類の交付を受けられると案内されています。
手数料の額は、司法書士法施行令1条で1万900円と定められています。収入印紙で納付し、納付した後は返還されません(施行規則12条3項・4項)。令和8年度の受験案内では、受験しなかった場合でも返還されないと明記されています。
認定を受けた後の扱い
法務大臣は、認定した者に認定証書を交付し、その氏名を官報で公告します(施行規則13条)。司法書士名簿には、認定を受けている司法書士について、その旨と認定年月日・認定番号が記載されます(施行規則15条2項3号)。依頼者や裁判所は、名簿の記載で認定の有無を確認できるわけです。
認定を受けた司法書士は、民事訴訟法54条1項本文の規定にかかわらず、3条1項6号イからハまでとホの手続で訴訟代理人または代理人になれます(司法書士法3条6項)。民事訴訟法54条1項本文は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほかは、弁護士でなければ訴訟代理人となれないと定めています。3条6項は、その例外を認定司法書士に開く規定です。
なお、司法書士は正当な事由がなければ依頼を拒めませんが、簡裁訴訟代理等関係業務に関する依頼はこの義務から除かれています(司法書士法21条)。認定を受けても、代理の依頼を受けるかどうかは自分で判断できます。
考査の中身と実施結果
令和8年度の日程
法務省が令和8年7月1日に公表した令和8年度簡裁訴訟代理等能力認定考査受験案内によると、日程は次のとおりです。
| 項目 | 令和8年度の内容 |
|---|---|
| 受験資格 | 司法書士法3条2項1号に規定する研修の課程を修了した者 |
| 申請期限 | 令和8年8月6日 午後5時まで。郵送は同日必着 |
| 考査の期日 | 令和8年9月13日 |
| 考査時間 | 午後1時から午後3時まで |
| 形式 | 記述式 |
| 法令の適用日 | 令和8年4月1日現在で施行されている法令 |
| 結果の発表 | 令和8年12月10日 午後4時 |
認定者は、認定を受けるにあたり、登録免許税として5,000円相当の収入印紙を納付する必要があると案内されています。日程は年度ごとに変わるので、受験する年度の受験案内で必ず確認してください。
何が問われるか
考査は、事実認定の手法、立証活動、弁論及び尋問技術、訴訟代理人としての倫理その他簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を習得したかどうかについて、記述式で行われます。研修の基準と同じ項目が並んでいる点に注目してください。
法務省は、考査の結果の発表とあわせて、出題の趣旨と配点を公表しています。令和7年度の公表資料を見ると、出題の趣旨は次のような能力を問うものと説明されています。
- 事例に即して訴訟物を構成し、請求の趣旨を正しく記載する
- 請求原因・抗弁・再抗弁の要件事実を摘示する
- 和解条項の文言を適切に記載する
- 証拠説明書の記載事項や書証の成立の真正についての理解
- 簡易裁判所における司法委員の役割
- 利害が対立するに至った複数の依頼者の代理を続けられるかという倫理の問題
司法書士試験の民法と民事訴訟法の知識が土台になりますが、問われ方は大きく違います。択一のように正誤を選ぶのではなく、事例から訴訟物と要件事実を組み立てて書く力が求められます。
令和6年度・令和7年度の実施結果
法務省が公表した実施結果は次のとおりです。
| 年度 | 考査の実施日 | 受験者数 | 認定者数 | 認定率 | 認定日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和6年度 | 令和6年9月8日 | 706人 | 438人 | 62.0% | 令和6年12月4日 |
| 令和7年度 | 令和7年9月14日 | 810人 | 585人 | 72.2% | 令和7年12月10日 |
出典は、法務省「司法書士法第3条第2項第2号の法務大臣の認定について」の令和6年12月4日付けと令和7年12月10日付けの公表資料、および各年度の得点別員数表です。法務大臣の認定の基準点は、両年度とも満点70点中40点以上と公表されています。考査は全国8か所で実施されました。
認定率は年度によって10ポイント程度動いています。研修を修了すれば必ず認定されるものではないので、研修の段階から要件事実の整理と起案の練習を積むことが大切です。
代理できる範囲の実務的な線引き
140万円の数え方
認定司法書士が代理できる簡易裁判所の民事訴訟は、訴訟の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額、つまり140万円を超えないものです(司法書士法3条1項6号イ)。この訴訟の目的の価額は、民事訴訟法の規定に従って算定します。
| 場面 | 数え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則 | 訴えで主張する利益で算定する | 民事訴訟法8条1項 |
| 算定できない・極めて困難 | 140万円を超えるものとみなす | 同条2項 |
| 数個の請求 | 合算する | 民事訴訟法9条1項 |
| 遅延損害金・違約金など | 附帯の目的なら算入しない | 同条2項 |
元本130万円と遅延損害金20万円を請求する場合、遅延損害金は附帯の目的なので訴額は130万円で、代理できます。反対に、元本80万円の貸金と元本70万円の売買代金を1つの訴えで請求すれば、合算して150万円になり、140万円を超えます。訴額の算定と管轄の関係は民事訴訟の訴訟要件で整理しています。
裁判外の和解の代理については、紛争の目的の価額が140万円を超えないことが要件です(司法書士法3条1項7号)。債務整理の事案について、最高裁平成28年6月27日判決は、紛争の目的の価額は個別の債権ごとにその額で判断するとしました。
途中で地方裁判所に移る場合
訴え提起の時点で140万円以下でも、手続の途中で地方裁判所に移ることがあります。
- 被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をし、相手方の申立てがあれば、簡易裁判所は本訴と反訴を地方裁判所に移送しなければならない(民事訴訟法274条1項)
- 簡易裁判所の不動産に関する訴訟で被告の申立てがあれば、被告が本案の弁論をする前なら、地方裁判所に移送しなければならない(民事訴訟法19条2項)
- 簡易裁判所は、相当と認めるときは、訴訟を所在地を管轄する地方裁判所に移送できる(民事訴訟法18条)
移送されて地方裁判所の手続になれば、認定司法書士は代理人を続けられません。依頼を受けるときは、こうした移送の可能性も説明しておく必要があります。
手続の出口:上訴と強制執行
代理できる範囲には、手続の出口にも制限があります(司法書士法3条1項6号ただし書)。
| 場面 | 代理の可否 |
|---|---|
| 自ら代理人として関与した事件の判決に対する控訴の提起 | できる |
| 控訴審の手続 | できない。地方裁判所の手続になる |
| 再審 | できない |
| 強制執行 | できない |
| 少額訴訟債権執行 | できる。請求の価額が140万円以下 |
6号イ・ロの手続で訴訟代理人になった認定司法書士は、委任を受けた事件について強制執行に関する訴訟行為をすることができません(司法書士法3条7項本文)。例外は、少額訴訟の訴訟代理人になった者が少額訴訟債権執行の手続でする訴訟行為です(同項ただし書)。
代理ができない場面でも、裁判所に提出する書類の作成は3条1項4号の業務として金額にかかわらずできます。控訴状や強制執行の申立書を作成して、本人の手続を支えることは可能です。
受験生にとっての意味
試験の民事訴訟法とつながる
認定考査で問われる訴訟物や要件事実は、司法書士試験の民法と民事訴訟法の延長線上にあります。受験中に民事訴訟法を手続の時系列で理解しておくと、合格後に研修と考査に進むときの負担が軽くなります。民事訴訟法の学習の組み立て方はマイナー科目の攻略法で扱っています。
ただし、受験中に認定考査の準備まで手を広げる必要はありません。試験の民事訴訟法は5問の択一で、条文と判例の結論が問われます。合格までの学習計画は司法書士試験の合格ロードマップを基準にし、認定の準備は合格後に始めるのが現実的です。
IT化改正と条文の読み方
令和8年5月21日に民事訴訟法の IT 化改正の最終段階が施行されたのにあわせて、司法書士法3条も改められました。e-Gov 法令検索の API で令和8年4月1日時点の版と現行版を比べると、変わった点は次の2つです。
| 条文 | 令和8年度試験の前提 | 現行法 |
|---|---|---|
| 3条1項4号 | 裁判所もしくは検察庁に提出する書類の作成 | 書類もしくは電磁的記録の作成 |
| 3条1項6号ロ | 民事訴訟法第7編の支払督促の手続 | 民事訴訟法第8編の支払督促の手続 |
どちらも代理できる範囲そのものは変わっていません。令和8年度の司法書士試験は4月1日時点の法令が前提なので、条文の文言を問う肢では、改正前の表記が基準になります。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
認定の仕組みは、司法書士法の択一1問の素材になります。研修と考査の日程や認定率は問われませんが、認定の主体と要件は条文どおりに問われます。
- 簡裁訴訟代理等関係業務の認定をするのは法務大臣である。日本司法書士会連合会ではない
- 認定の要件は、研修の修了・法務大臣の認定・司法書士会の会員であることの3つで、いずれも満たす必要がある
- 認定司法書士は、自ら代理人として関与した事件の判決について控訴を提起できるが、控訴審の代理はできない
- 少額訴訟の訴訟代理人になった認定司法書士は、少額訴訟債権執行の手続で訴訟行為ができる
- 簡裁訴訟代理等関係業務に関する依頼は、依頼に応ずる義務の対象外である
条文の主体と例外の入れ替えで肢が作られるので、3条2項・6項・7項と21条をセットで読んでおくと確実です。
まとめ
- 司法書士試験に合格・登録しただけでは、簡易裁判所の代理はできない
- 認定の要件は、特別研修の修了、法務大臣の認定、司法書士会の会員の3つ
- 特別研修は講義と演習で100時間以上。考査は法務大臣が実施する記述式
- 考査の手数料は1万900円。令和8年度は9月13日実施、12月10日発表
- 令和7年度の認定率は72.2%、令和6年度は62.0%。基準点は両年度とも70点中40点以上
- 140万円は民事訴訟法8条・9条で数える。附帯請求は算入せず、数個の請求は合算する
- 控訴の提起まではできるが、控訴審・再審・強制執行は代理できない。少額訴訟債権執行は例外
よくある質問
司法書士登録をする前に特別研修や考査を受けることはできますか
令和8年度の受験案内は、考査の受験資格を「司法書士法第3条第2項第1号に規定する研修の課程を修了した者」としており、司法書士会に入会していない者の申請書類の交付先も案内しています。一方で、認定を受けて実際に簡裁訴訟代理等関係業務を行うには、司法書士会の会員であることが必要です(司法書士法3条2項3号)。研修の受講資格の細部は、実施主体の案内で確認してください。
考査に落ちたら、もう一度特別研修を受け直す必要がありますか
受験案内の受験資格は研修の課程を修了した者とされており、年度の限定は書かれていません。ただし、再受験の取扱いの細部は受験案内とよくあるお問合せに従うことになるので、受験する年度の法務省の案内で確認してください。確実に言えるのは、考査に合格して法務大臣の認定を受けない限り、簡裁訴訟代理等関係業務はできないということです。
認定を受けなくても、司法書士として簡易裁判所の事件に関われますか
関われます。訴状や答弁書などの裁判所に提出する書類の作成は、司法書士法3条1項4号の業務で、認定も金額の上限も要りません。本人が自分で訴訟を進め、司法書士が書類の作成で支える形です。認定がないとできないのは、依頼者の代理人として期日に出頭し、訴訟行為をすることや、紛争の相手方との和解交渉を代理することです。
過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。