時効:取得時効と消滅時効、完成猶予と更新の整理
取得時効と消滅時効の要件・期間を現行法で比較し、2020年改正後の時効の完成猶予と更新の事由を一覧で整理。援用権者の範囲と時効取得の登記まで、司法書士試験の受験生向けに解説します。
時効は、司法書士試験の民法総則で毎年のように問われる分野です。しかも2020年4月施行の債権法改正で、消滅時効の期間と、旧法の「中断・停止」の体系が大きく変わりました。古い教材や改正前の過去問の肢をそのまま覚えていると、現行法では誤りになる箇所が多い分野です。
本記事は、時効の条文を一通り読んだものの、完成猶予と更新の区別や期間の数字で迷う受験生に向けて書いています。取得時効と消滅時効の要件を比べたうえで、民法147条から161条までの完成猶予・更新の事由を一覧にし、援用・放棄の判例を事案の型で押さえます。最後に、時効取得による所有権移転登記との接続を扱います。総則全体の学習順序は民法の勉強法を参照してください。
時効制度の全体像
取得時効と消滅時効に共通するルール
時効には、一定期間の占有によって権利を取得する取得時効と、一定期間の不行使によって権利が消滅する消滅時効があります。両者に共通するルールは次の3つです。
| ルール | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 遡及効 | 144条 | 時効の効力は起算日にさかのぼる |
| 援用 | 145条 | 当事者が援用しなければ、裁判所は時効によって裁判できない |
| 放棄 | 146条 | 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない |
144条の遡及効は、登記の場面で具体的な意味を持ちます。時効取得した者は、時効完成の日ではなく占有開始の日に所有権を取得したことになります。記述式の登記原因の日付に直結するので、後半で改めて扱います。
146条は、時効完成前の放棄を禁じる規定です。完成後に時効の利益を放棄することは認められています。
旧法の「中断・停止」から「完成猶予・更新」へ
改正前の民法は、時効の進行を止める制度を「中断」と「停止」と呼んでいました。中断は、それまで経過した期間をリセットする効果、停止は、一定期間だけ完成を先送りする効果です。ところが、旧法の「裁判上の請求による中断」は、訴えを取り下げると中断の効果が生じないなど、名前と効果が一致しない場面がありました。
現行法は、効果に着目して用語を整理しました。
| 現行法の用語 | 効果 | 旧法でおおむね対応するもの |
|---|---|---|
| 完成猶予 | 一定の時まで時効が完成しない。進行中の期間はリセットされない | 停止、および中断事由の一部の効果 |
| 更新 | その時から新たに時効が進行する。それまでの期間はリセットされる | 中断 |
1つの事由が、途中までは完成猶予、最後に更新という2段階の効果を持つことがあります。裁判上の請求が典型です。この「2段構え」を理解すると、147条と148条が読みやすくなります。
なお、取得時効について定める164条には、占有を失うと時効は「中断する」という文言が今も残っています。これは占有の喪失による自然中断と呼ばれるもので、147条以下の完成猶予・更新とは別の規律です。
取得時効(162条〜165条)
所有権の取得時効の要件
所有権の取得時効の要件は、162条に書かれています。
| 項目 | 20年の取得時効 | 10年の取得時効 |
|---|---|---|
| 条文 | 162条1項 | 162条2項 |
| 占有の態様 | 所有の意思をもって、平穏に、かつ公然と | 同左 |
| 主観的要件 | 不要。悪意でもよい | 占有の開始の時に善意かつ無過失 |
| 期間 | 20年 | 10年 |
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏かつ公然と占有するものと推定されます(186条1項)。前後の両時点で占有した証拠があれば、その間の占有の継続も推定されます(186条2項)。無過失は推定されないので、10年の取得時効を主張する側が証明します。
善意無過失は、占有の開始の時点で判断します。途中で他人の物だと知っても、10年の取得時効は妨げられません。
162条は「他人の物」と規定していますが、判例は、自己の物についても取得時効の援用を認めています。売買で所有権を取得した者が、その売買の有効性を証明しにくい場合などに、時効取得を主張できるということです。所有権以外の財産権、たとえば地上権や一定の要件を満たす賃借権も、163条により時効取得の対象になります。
占有の承継と善意無過失の判定時期
占有者の承継人は、自己の占有だけを主張することも、前の占有者の占有を併せて主張することもできます(187条1項)。併せて主張する場合は、前の占有者の占有の瑕疵も承継します(187条2項)。
では、前主が善意無過失で占有を始め、後主が悪意で承継した場合、合計10年で時効取得できるでしょうか。判例は、占有を併せて主張する場合、善意無過失は最初の占有者の占有開始の時点で判定すればよいとしています。前主が善意無過失なら、後主が悪意でも、通算10年で時効取得できます。
他主占有と所有の意思
所有の意思は、占有を始めた原因、つまり権原の性質で客観的に判断します。賃借人や受寄者は、内心で所有者のつもりでいても、所有の意思はありません。これを他主占有といいます。
他主占有者が自主占有に変わるには、占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示するか、新たな権原によってさらに所有の意思をもって占有を始める必要があります(185条)。
問題になるのが相続です。賃借人が死亡し、相続人が占有を続けた場合、判例は、相続人が新たに目的物を事実上支配して占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合には、相続人は独自の自主占有に基づく取得時効を主張できるとしています。この場合、所有の意思があることは、相続人の側が証明しなければなりません。186条1項の推定がそのまま働くわけではない点に注意してください。
消滅時効(166条〜169条)
債権の消滅時効は二重の期間
現行法の166条1項は、債権の消滅時効について2つの期間を定めています。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(1号)
- 権利を行使することができる時から10年間(2号)
どちらか早い方が経過した時点で時効が完成します。1号は主観的起算点、2号は客観的起算点と呼ばれます。
改正前は、民事債権が10年、商行為によって生じた債権が5年、さらに職業別の短期消滅時効として1年から3年の期間がありました。現行法はこれらを廃止し、166条1項の二重期間に統一しています。改正法の附則により、施行日である2020年4月1日より前に生じた債権には、原則として改正前の規定が適用されます。過去問の事案がいつの債権かを見る癖をつけてください。
債権以外の権利と特則
| 権利 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 一般の債権 | 知った時から5年、行使できる時から10年 | 166条1項 |
| 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権 | 知った時から5年、行使できる時から20年 | 167条 |
| 不法行為による損害賠償請求権 | 損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年 | 724条 |
| 生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権 | 損害および加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年 | 724条の2 |
| 定期金債権 | 各債権を行使できることを知った時から10年、行使できる時から20年 | 168条1項 |
| 債権・所有権以外の財産権 | 行使できる時から20年 | 166条2項 |
| 確定判決等で確定した権利 | 10年より短い期間の定めがあっても10年 | 169条1項 |
人の生命・身体の侵害については、債務不履行構成でも不法行為構成でも、知った時から5年、客観的起算点から20年にそろう設計です。また、724条2号の20年は、改正前は除斥期間と解されていましたが、現行法では消滅時効の期間として規定されています。完成猶予や更新の対象になるという違いがあります。
所有権と抵当権の消滅時効
166条2項は「債権又は所有権以外の財産権」と定めています。所有権は消滅時効にかかりません。所有者が長期間使わなくても所有権は消えず、他人の取得時効が完成したときに、その反射として失うだけです。
抵当権には特則があります。抵当権は、債務者および抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しません(396条)。一方、債務者または抵当権設定者でない者が、抵当不動産について取得時効に必要な要件を備える占有をしたときは、抵当権は消滅します(397条)。抵当権の分野は抵当権と根抵当権の違いと合わせて確認してください。
時効の完成猶予と更新(147条〜161条)
裁判上の請求と強制執行等
147条と148条は、手続の進行中は完成猶予、手続の結果によって更新という2段構えの事由です。
| 事由 | 手続中 | 権利が確定・手続が終了した場合 | 取下げ等で終了した場合 |
|---|---|---|---|
| 裁判上の請求、支払督促、裁判上の和解・調停、破産手続参加等 | 完成猶予 | 確定判決等で権利が確定したら、事由の終了時から更新 | 終了の時から6か月を経過するまで完成猶予 |
| 強制執行、担保権の実行、形式競売、財産開示手続等 | 完成猶予 | 事由の終了時から更新 | 取下げや法律の規定に従わないことによる取消しで終了した場合は更新なし。終了の時から6か月を経過するまで完成猶予 |
147条の「裁判上の請求」には、支払督促も独立の号として並んでいます。支払督促の手続は少額訴訟と支払督促で扱っています。強制執行の種類については強制執行の種類を参照してください。
完成猶予のみの事由
次の事由は、完成猶予の効果だけを持ち、更新にはつながりません。
| 事由 | 条文 | 完成猶予の期間 |
|---|---|---|
| 仮差押え・仮処分 | 149条 | 事由が終了した時から6か月を経過するまで |
| 催告 | 150条1項 | 催告の時から6か月を経過するまで |
| 協議を行う旨の書面による合意 | 151条1項 | 合意から1年、合意で定めた1年未満の期間、協議続行拒絶の書面通知から6か月、のいずれか早い時まで |
| 未成年者・成年被後見人に法定代理人がない | 158条 | 行為能力者となった時、または法定代理人が就職した時から6か月 |
| 夫婦間の権利 | 159条 | 婚姻の解消の時から6か月 |
| 相続財産 | 160条 | 相続人の確定、管理人の選任、破産手続開始の決定の時から6か月 |
| 天災その他避けることのできない事変 | 161条 | 障害が消滅した時から3か月 |
特に狙われるのは次の3点です。
- 仮差押え・仮処分は、旧法では中断事由でしたが、現行法では完成猶予にとどまります。仮差押えの手続そのものは民事保全:仮差押えと仮処分で扱っています
- 催告によって完成猶予されている間の再度の催告は、完成猶予の効力を持ちません(150条2項)
- 協議の合意は、猶予中に再度合意することで延長できますが、本来の完成時から通算5年を超えられません(151条2項)。催告による猶予中の協議の合意、協議の合意による猶予中の催告は、いずれも完成猶予の効力を持ちません(151条3項)
天災の場合だけ3か月で、他はすべて6か月です。数字の入れ替えは択一の定番です。
承認による更新と効力の相対性
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たに進行を始めます(152条1項)。承認は完成猶予を経ずに直ちに更新の効果を生じます。一部弁済や支払猶予の申入れ、利息の支払いは、債務の承認にあたります。
承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことや、権限があることを要しません(152条2項)。承認は権利を処分する行為ではないからです。判例は、被保佐人が保佐人の同意なく承認しても有効としています。一方、未成年者が法定代理人の同意なく承認した場合は取り消すことができるとされています。承認には管理の能力は必要と解されているためで、制限行為能力者の類型ごとの違いは制限行為能力者の比較とあわせて整理してください。
完成猶予と更新の効力は、その事由が生じた当事者とその承継人の間でのみ生じます(153条)。また、強制執行や仮差押えなどの手続を、時効の利益を受ける者以外に対してした場合は、時効の利益を受ける者に通知した後でなければ、完成猶予や更新の効力を生じません(154条)。物上保証人の不動産に対する担保権の実行で、債務者の被担保債権の時効を止めたいときは、債務者への通知が必要ということです。
時効の援用と放棄
援用権者の範囲
145条は、援用できる「当事者」に、消滅時効について保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が含まれることを明示しています。改正前に判例で認められていた範囲を、条文に書き込んだものです。
判例は、後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できないとしています。先順位抵当権が消えて順位が上がる利益は、反射的な利益にすぎないという理由です。「正当な利益を有する者」の具体的な範囲は、条文ではなく判例で押さえる必要があります。
時効完成後の債務の承認
時効完成後に債務者が債務を承認した場合、時効の完成を知っていれば、それは時効の利益の放棄です。問題は、時効の完成を知らずに承認した場合です。
判例(最大判昭和41年4月20日)は、時効完成後に債務を承認した債務者は、時効の完成を知らなかったときでも、信義則に照らしてその債務について時効を援用することは許されないとしました。債権者は、債務者がもはや時効を援用しないと信じるからです。
ただし、承認の時から新たに時効期間が進行し、その期間が経過すれば、改めて時効を援用できます。放棄の効果も相対的で、主たる債務者が時効の利益を放棄しても、保証人は主たる債務の時効を援用できます。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
時効は、数字と効果の入れ替えで肢が作られます。
- 期間の数字:債権は5年と10年、人身損害は5年と20年、不法行為は3年と20年、所有権以外の財産権は20年。所有権は消滅時効にかからない
- 完成猶予と更新の区別:仮差押え・仮処分、催告、協議の合意は完成猶予のみ。承認は直ちに更新
- 猶予期間の数字:天災だけが3か月、他は6か月
- 再度の催告:催告による猶予中の再度の催告は効力を持たない
- 承認の能力:承認に処分の能力や権限は要らない
- 援用権者:保証人・物上保証人・第三取得者は援用できる。後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の時効を援用できない
- 取得時効の善意無過失:占有開始時に判断。占有を併せて主張するときは最初の占有者の開始時で判断する
- 改正前後の入れ替え:「仮差押えにより時効は中断する」「商行為による債権は5年」といった旧法の規律を現行法として出す
改正前の過去問を解くときは、肢の用語が「中断」「停止」なら必ず現行法に読み替えてから判断してください。肢別演習の回し方は肢別過去問の勉強法で扱っています。
記述式との接続
不動産登記の記述式では、取得時効が所有権移転登記の形で現れます。
登記の種類:時効取得は原始取得ですが、登記は所有権保存登記ではなく、元の所有者から時効取得者への所有権移転登記によります。時効取得者を登記権利者、登記名義人である元の所有者を登記義務者として共同で申請します。
登記原因と日付:登記原因は「時効取得」、日付は占有を開始した日です。144条の遡及効により、起算日に所有権を取得したことになるからです。時効が完成した日や援用した日を書くと誤りです。
時効完成と第三者:時効完成前に元の所有者から譲り受けた第三者に対しては、時効取得者は登記なくして所有権を主張できます。時効完成後の第三者との関係は対抗問題となり、登記の先後で決まります。判例群の整理は民法177条の第三者を参照してください。
記述式の別紙に「昭和何年から占有している」「平穏かつ公然に」といった聴取記録が出てきたら、起算日を特定し、登記原因の日付に写すのが最初の作業です。
まとめ
- 時効の効力は起算日にさかのぼる。時効取得の登記原因の日付は占有開始の日
- 所有権の取得時効は、悪意でも20年、占有開始時に善意無過失なら10年
- 債権の消滅時効は、知った時から5年と行使できる時から10年の二重期間。所有権は消滅時効にかからない
- 完成猶予は完成の先送り、更新は期間のリセット。裁判上の請求と強制執行等は2段構え
- 仮差押え・仮処分、催告、協議の合意は完成猶予のみ。承認は直ちに更新
- 援用権者には保証人・物上保証人・第三取得者が含まれる。後順位抵当権者は先順位の被担保債権の時効を援用できない
- 時効完成後に承認した債務者は、完成を知らなくても信義則上援用できない
よくある質問
改正前に生じた債権の消滅時効は、どちらの法律で判断しますか
改正法の附則により、施行日の2020年4月1日より前に債権が生じた場合、その債権の消滅時効の期間は原則として改正前の規定によります。施行日以後に生じた債権には現行法が適用されます。試験では現行法を前提に出題されるので、まず現行法で正確に判断できるようにし、経過措置は事案の日付に注意する程度で足ります。
催告を繰り返せば、時効の完成を先送りし続けられますか
できません。催告によって完成が猶予されている間にされた再度の催告は、完成猶予の効力を持ちません(150条2項)。催告は、6か月の間に裁判上の請求などの本格的な手段をとるための時間稼ぎと位置づけられています。当事者間で話合いを続けたいときは、151条の協議を行う旨の書面による合意を使います。
取得時効の要件を満たした占有者は、登記がなくても誰にでも所有権を主張できますか
元の所有者と、時効完成前に元の所有者から権利を取得した第三者に対しては、登記なくして主張できます。時効完成後に元の所有者から権利を取得した第三者とは対抗関係に立ち、先に登記を備えた方が優先します。時効の完成時期と第三者の登場時期の先後を、図に書いて確認してください。
民法の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と関連先例がその場で開きます。