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成年後見制度:後見・保佐・補助と司法書士の役割

民法 読了 約11分

成年後見制度を運用の側から整理。成年後見人の選任と監督、財産管理と身上配慮の職務、居住用不動産の処分許可、任意後見との関係、後見登記の仕組み、不動産登記での添付情報、司法書士の関わり方、2026年6月公布の改正まで解説します。

成年後見制度は、民法総則の制限行為能力者と、親族編の後見の章の両方にまたがる制度です。受験生は総則の側、つまり「本人が単独でした行為を取り消せるか」は比較表で覚えていても、後見人が選ばれた後に何をするのか、誰が監督するのか、どこに登記されるのかは手薄になりがちです。

結論を先に言うと、成年後見制度は「開始の審判」「後見人の選任と監督」「後見人の職務」「後見登記による公示」の4つの場面に分けると整理できます。任意後見はこれと並ぶもう一つの入口で、法定後見との優先関係が問われます。

本記事は、制限行為能力者の4類型の比較は一通り押さえた受験生に向けて、成年後見人の職務と監督、後見登記、不動産登記との接続を扱います。4類型の同意権・取消権の比較は制限行為能力者の比較に譲ります。民法全体の学習順序は民法の勉強法を参照してください。

成年後見制度の全体像

法定後見と任意後見

成年後見制度は、大きく法定後見と任意後見に分かれます。

区分 開始のしかた 保護者 根拠
法定後見 家庭裁判所の後見・保佐・補助開始の審判 成年後見人・保佐人・補助人 民法7条・11条・15条、838条以下
任意後見 本人が判断能力のあるうちに任意後見契約を結び、判断能力が不十分になった後に任意後見監督人が選任される 任意後見人 任意後見契約に関する法律

法定後見の後見は、後見開始の審判があったときに開始します(民法838条2号)。家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で成年後見人を選任します(843条1項)。保佐と補助も同じく、開始の審判のときに職権で保佐人・補助人を選任します(876条の2第1項・876条の7第1項)。

任意後見契約の仕組み

任意後見契約は、本人が、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護および財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、代理権を付与する委任契約です。任意後見監督人が選任された時から効力を生ずる旨の定めがあるものをいいます(任意後見契約に関する法律2条1号)。

任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければなりません(同法3条)。公証人は、公正証書を作成したときは、任意後見契約の登記を嘱託します(公証人法51条)。本人の判断能力が不十分になったとき、家庭裁判所は、本人・配偶者・四親等内の親族または任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任します(任意後見契約に関する法律4条1項)。本人以外の請求による選任には、本人がその意思を表示できない場合を除き、あらかじめ本人の同意が必要です(同条3項)。

任意後見人には同意権・取消権がありません。任意後見人が持つのは、契約で定めた範囲の代理権だけです。本人が単独でした行為を取り消す必要がある場面では、法定後見を使うことになります。

法定後見と任意後見の優先関係

任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができます(同法10条1項)。本人が自分で選んだ任意後見を尊重する趣旨で、任意後見が優先するのが原則です。

逆に、本人がすでに成年被後見人・被保佐人・被補助人である場合に任意後見監督人を選任するときは、家庭裁判所は後見開始の審判等を取り消さなければなりません(同法4条2項)。任意後見監督人が選任された後に本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了します(同法10条3項)。両者は併存しない設計です。

成年後見人の選任と監督

選任の考慮事情と法人後見・複数後見

成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態ならびに生活および財産の状況、成年後見人となる者の職業および経歴ならびに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければなりません(843条4項)。条文は成年後見人となる者が法人である場合の考慮事情も定めており、法人が成年後見人になることが前提になっています。

成年後見人が選任されている場合でも、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、さらに成年後見人を選任できます(843条3項)。成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、共同して、または事務を分掌して権限を行使すべきことを定めることができます(859条の2第1項)。親族が身上面を、専門職が財産管理を担うといった分担が、この規定で可能になります。

後見開始の申立ては、審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることができません(家事事件手続法121条1号)。申立てをした後の取下げを申立人の自由に委ねず、本人の保護の必要を家庭裁判所が確認する仕組みです。

欠格事由・辞任・解任

次の者は後見人となることができません(847条)。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
  • 破産者
  • 被後見人に対して訴訟をし、またはした者ならびにその配偶者および直系血族
  • 行方の知れない者

後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任できます(844条)。辞任によって新たな後見人を選任する必要が生じたときは、辞任した後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(845条)。後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人もしくはその親族もしくは検察官の請求により、または職権で解任できます(846条)。

後見監督人と家庭裁判所の監督

家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被後見人、その親族もしくは後見人の請求により、または職権で、後見監督人を選任できます(849条)。後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は、後見監督人になれません(850条)。

後見監督人の職務は、後見人の事務の監督、後見人が欠けた場合の選任請求、急迫の事情がある場合の必要な処分、後見人と被後見人の利益相反行為についての被後見人の代表です(851条)。後見監督人または家庭裁判所は、いつでも後見人に後見の事務の報告や財産目録の提出を求め、後見の事務や被後見人の財産の状況を調査できます(863条1項)。

後見監督人があるときは、後見人が被後見人に代わって営業または13条1項各号に掲げる行為をするには、後見監督人の同意を得なければなりません。元本の領収は除かれます(864条)。不動産の売却は13条1項3号にあたるので、後見監督人がいれば同意が必要です。

成年後見人の職務

財産の調査と財産管理

後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、1か月以内に調査を終わり、目録を作成しなければなりません。この期間は家庭裁判所が伸長できます(853条1項)。目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為しかできません(854条本文)。後見人は、就職の初めに、被後見人の生活、療養看護および財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければなりません(861条1項)。

後見人は、被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について被後見人を代表します(859条1項)。後見の事務に必要な費用は被後見人の財産から支弁し(861条2項)、家庭裁判所は、被後見人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができます(862条)。報酬は家庭裁判所が決めるもので、後見人が自分で決めるものではありません。

身上配慮義務と居住用不動産の処分許可

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産の管理に関する事務を行うにあたっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければなりません(858条)。858条は事務を行うにあたっての配慮を求める規定で、成年後見人自身に介護などの事実行為を義務づける文言は置かれていません。

成年後見人が、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除または抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(859条の3)。この規定は、保佐人・補助人が代理権に基づいて処分する場合にも準用されます(876条の5第2項・876条の10第1項)。

利益相反・郵便物・死亡後の事務

後見人と被後見人の利益が相反する行為については、親権者の利益相反の826条が準用され、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求します。ただし後見監督人がある場合は、後見監督人が被後見人を代表するので、特別代理人は要りません(860条・851条4号)。成年後見人と成年被後見人がともに相続人となる遺産分割協議が典型です。

家庭裁判所は、成年後見人の請求により、6か月を超えない期間を定めて、成年被後見人宛ての郵便物等を成年後見人に配達すべき旨を嘱託できます(860条の2第1項・2項)。成年後見人は受け取った郵便物等を開いて見ることができ、事務に関しないものは速やかに本人に交付しなければなりません(860条の3)。

成年被後見人が死亡すると後見は終了しますが、成年後見人は、必要があるときは、相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理できるようになるまで、相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為と、弁済期が到来した相続債務の弁済をすることができます。火葬または埋葬に関する契約の締結などをするには、家庭裁判所の許可が必要です(873条の2)。

後見登記の仕組み

何が登記されるか

後見・保佐・補助と任意後見契約は、戸籍ではなく、後見登記等ファイルに登記されます(後見登記等に関する法律4条1項・5条)。後見等の登記で記録される主な事項は次のとおりです。

  • 後見等の種別、開始の審判をした裁判所、事件の表示および確定の年月日
  • 成年被後見人・被保佐人・被補助人の氏名、出生の年月日、住所および本籍
  • 成年後見人等と成年後見監督人等の氏名または名称および住所
  • 保佐人・補助人の同意を要する行為、保佐人・補助人に付与された代理権の範囲
  • 数人の成年後見人等の共同行使・事務分掌の定め
  • 後見等が終了したときは、その事由および年月日

任意後見契約の登記では、公正証書を作成した公証人、本人と任意後見受任者、代理権の範囲、任意後見監督人の選任などが記録されます(同法5条)。

嘱託による登記と申請による登記

後見開始などの審判が効力を生じたときは、裁判所書記官が登記を嘱託します(家事事件手続法116条)。任意後見契約の登記は、前述のとおり公証人が嘱託します。

一方、登記後に成年被後見人等や成年後見人等の住所・氏名が変わったときは、登記記録に記録されている本人や成年後見人等が、変更を知ったときに、嘱託による登記がされる場合を除き、変更の登記を申請しなければなりません(後見登記等に関する法律7条1項)。成年被後見人等が死亡したことを知ったときは、成年後見人等が終了の登記を申請しなければなりません(同法8条1項)。親族その他の利害関係人も、変更の登記や終了の登記を申請できます(同法7条2項・8条3項)。

登記事項証明書を請求できる人

後見登記等ファイルは、プライバシーに配慮して、請求できる人が限られています。登記事項証明書を請求できるのは、本人、成年後見人等や任意後見人など、本人の配偶者または四親等内の親族などです(同法10条1項)。国または地方公共団体の職員は、職務上必要とする場合に請求できます(同条5項)。取引の相手方だからといって、他人の登記事項証明書を請求することはできません。

成年後見人が本人に代わって取引をするときは、この登記事項証明書で自分の代理権を示すのが通常の方法です。

不動産登記と司法書士の役割

成年後見人が関わる不動産登記

成年後見人が成年被後見人の不動産を売却し、所有権移転の登記を申請する場面では、次の点を確認します。

確認事項 根拠 登記申請での扱い
代理権があるか 859条1項 代理人の権限を証する情報を提供する(不動産登記令7条1項2号)。後見登記の登記事項証明書が典型
居住用不動産か 859条の3 家庭裁判所の許可を証する情報を提供する(不動産登記令7条1項5号ハ)
後見監督人がいるか 864条 後見監督人の同意を証する情報を提供する(不動産登記令7条1項5号ハ)
利益相反にあたるか 860条・826条 特別代理人が代理する。後見監督人がいれば後見監督人が代表する

居住用かどうかは、登記記録からは分かりません。記述式では、別紙に「本人が施設に入所するまで住んでいた」などの事情があれば、許可の要否を検討する合図です。代理人による申請の構造は登記原因証明情報の記事とあわせて確認してください。

司法書士の関わり方

司法書士が成年後見制度に関わる場面は、大きく2つあります。

1つ目は、書類作成と相談です。後見開始の申立書のように裁判所に提出する書類の作成は、司法書士法3条1項4号の業務にあたり、その相談も同項5号の業務です。後見人が申請する不動産登記の代理は、同項1号の業務です。

2つ目は、成年後見人等への就任です。司法書士法施行規則31条2号は、当事者その他関係人の依頼または官公署の委嘱により、後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について代理などを行う業務を挙げています。司法書士が家庭裁判所の選任を受けて成年後見人や後見監督人になるのは、この業務です。業務範囲の全体は司法書士の業務範囲で整理しています。

2026年6月公布の改正と令和8年度試験

2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は、後見・保佐・補助の3類型を見直し、補助開始の審判を入口とする制度に組み替える内容を含んでいます。改正後の条文では、事理を弁識する能力を欠く常況にある者について特定補助人を付する旨の審判が置かれ、現行の13条から19条は削除されます。任意後見契約に関する法律と後見登記等に関する法律も同じ法律で改正されます。

この部分は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。令和8年度試験は令和8年4月1日現在で施行されている法令が基準なので、この改正は前提になっていません。本記事の条文番号と内容は、すべて現行の後見・保佐・補助の3類型を前提にしています。

試験での出題ポイント

択一式ではこう問われる

  • 選任:成年後見人は後見開始の審判のときに職権で選任される。法人も成年後見人になれ、数人選任もできる
  • 欠格事由:未成年者・破産者・被後見人に対して訴訟をした者など。後見監督人は後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹がなれない
  • 辞任:正当な事由と家庭裁判所の許可が必要
  • 859条の3:居住用不動産の売却・賃貸・抵当権設定などには家庭裁判所の許可が必要
  • 864条:後見監督人がいれば、13条1項の行為の代理には同意が必要。元本の領収は除く
  • 利益相反:特別代理人が必要。ただし後見監督人がいれば不要
  • 任意後見:公正証書が必要。任意後見監督人の選任で効力が生じる。任意後見人に取消権はない
  • 優先関係:任意後見契約が登記されていれば、法定後見の開始は本人の利益のため特に必要なときに限られる

記述式との接続

不動産登記の記述式では、登記義務者が成年被後見人である事例で、添付情報の取捨が問われます。代理権限を証する情報、居住用不動産の処分許可、後見監督人の同意の3つを、別紙の事実から一つずつ判定してください。遺産分割による相続登記で、成年後見人と本人がともに相続人になっている場合は、特別代理人か後見監督人の関与を確認します。

まとめ

  • 成年後見制度は法定後見と任意後見に分かれ、任意後見契約が登記されていれば原則として任意後見が優先する
  • 成年後見人は家庭裁判所が職権で選任し、法人の選任や数人の選任もできる
  • 後見人の辞任には家庭裁判所の許可が、解任には不正な行為などの事由が必要
  • 成年後見人は財産を管理し、本人の意思を尊重して心身の状態に配慮する義務を負う
  • 居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が要り、後見監督人がいれば重要な行為に同意が要る
  • 後見・保佐・補助と任意後見契約は後見登記等ファイルに登記され、証明書を請求できる人は限られる
  • 2026年6月公布の改正は令和8年度試験の前提になっていない

よくある質問

成年後見人は、本人の自宅を自由に売ることができますか

できません。本人の居住の用に供する建物またはその敷地を売却するには、家庭裁判所の許可が必要です(859条の3)。後見監督人がいる場合は、不動産の売却は13条1項3号の行為にあたるので、後見監督人の同意も必要です(864条)。登記の申請では、これらを証する情報を提供します。

任意後見契約を結んだら、すぐに任意後見人が代理できますか

できません。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力を生じます(任意後見契約に関する法律2条1号)。本人の判断能力が不十分な状況になり、任意後見受任者などが請求して任意後見監督人が選任されるまでは、受任者は任意後見人として代理できません。

後見登記の登記事項証明書は、誰でも取得できますか

取得できません。請求できるのは、本人、成年後見人等、本人の配偶者または四親等内の親族など、後見登記等に関する法律10条に定める人に限られます。不動産登記や商業登記のように誰でも請求できる仕組みではない点が、試験でも実務でも重要です。

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