仮差押えと仮処分:保全命令の要件と手続
司法書士試験の民事保全法1問を取るために、仮差押えと仮処分の違いを保全命令の要件から整理。管轄と疎明、担保、仮の地位を定める仮処分の審尋、解放金、保全執行の期間、処分禁止の登記、保全異議と保全取消しまで解説します。
民事保全法は、3つの類型の「違い」だけを問う科目と言ってよいほど、対比で解ける問題が多い科目です。仮差押えは金銭債権の将来の強制執行を守るもの、係争物に関する仮処分は特定物についての請求権を守るもの、仮の地位を定める仮処分は争いのある権利関係について今の危険を避けるもの。この3つの目的の違いから、審尋の要否・解放金・執行の方法の違いがすべて導けます。
この記事は、民事保全法の条文を読み始めたものの、仮差押えと仮処分の要件や不服申立ての名前が混ざってしまう司法書士試験の受験生向けです。保全命令の要件と審理、保全執行、不服申立てを条文の順に整理し、不動産登記法の処分制限の登記との接点まで確認します。
民事保全の全体像
3つの類型
民事保全法1条は、民事保全を次の3つの総称として定めています。
| 類型 | 目的 | 必要性の要件 | 典型例 |
|---|---|---|---|
| 仮差押え | 金銭債権の将来の強制執行を保全する | 強制執行ができなくなる、または著しい困難を生ずるおそれ | 貸金返還請求権のために債務者の不動産や預金を仮差押えする |
| 係争物に関する仮処分 | 特定物についての給付請求権の将来の執行を保全する | 現状の変更により、権利を実行できなくなる、または著しい困難を生ずるおそれ | 処分禁止の仮処分、占有移転禁止の仮処分 |
| 仮の地位を定める仮処分 | 争いのある権利関係について、本案判決までの暫定的な状態を定める | 債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるため必要 | 従業員の地位保全、賃金の仮払い、建築工事の差止め |
仮差押えと係争物に関する仮処分は、どちらも「将来の強制執行のための現状維持」です。対象が金銭債権か、特定物についての請求権かで分かれます。仮の地位を定める仮処分だけは性質が違い、本案の判決を待っていたのでは債権者に著しい損害が生じる場合に、暫定的に一定の状態を作り出します。
保全命令と保全執行の2段階
民事保全の手続は、2つの段階に分かれます。
- 保全命令の段階:裁判所が、申立てにより保全命令を発する(民事保全法2条1項)
- 保全執行の段階:裁判所または執行官が、申立てにより保全命令を執行する(民事保全法2条2項)
判決手続と強制執行の関係を、そのまま小さくした構造です。保全命令が債務名義に、保全執行が強制執行に当たると考えると、民事執行法との関係が見えやすくなります。強制執行の側の全体像は強制執行の種類と全体像で整理しています。
保全命令の申立てと審理
管轄
保全命令事件は、本案の管轄裁判所、または仮に差し押さえるべき物もしくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄します(民事保全法12条1項)。本案の管轄裁判所とは第一審裁判所のことで、本案が控訴審に係属しているときは控訴裁判所です(同条3項)。
本案が140万円以下の請求で簡易裁判所の管轄に属するなら、簡易裁判所にも保全命令を申し立てられます。一方、目的物の所在地を基準にする場合は地方裁判所に限られます。債権を仮差押えする場合、その債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされます(同条4項)。
申立てと疎明
保全命令の申立ては、その趣旨と、保全すべき権利または権利関係、保全の必要性を明らかにしてしなければなりません(民事保全法13条1項)。保全すべき権利と保全の必要性は、疎明しなければなりません(同条2項)。
| 用語 | 意味 | 仮差押えの例 |
|---|---|---|
| 被保全権利 | 保全すべき権利または権利関係 | 貸金返還請求権 |
| 保全の必要性 | 今保全しないと将来の執行や権利の実現が困難になる事情 | 債務者が唯一の不動産を売却しようとしている |
| 疎明 | 裁判官に一応確からしいとの心証を得させる程度の立証 | 契約書・陳述書など即時に取り調べられる証拠 |
証明ではなく疎明で足りるのは、民事保全が迅速さを最優先する手続だからです。そのかわり、誤った保全命令で債務者が受ける損害に備えて、担保が求められます。
審理の方式と担保
民事保全の手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができます(民事保全法3条)。保全命令は決定で発せられ、口頭弁論を経ないで決定をする場合には理由の要旨を示せば足ります(民事保全法16条)。
仮差押えと係争物に関する仮処分は、債務者に知られずに発令されるのが通常です。事前に知られると、財産を隠されたり処分されたりするおそれがあるからです。これを密行性といいます。
これに対して、仮の地位を定める仮処分命令は、口頭弁論または債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません(民事保全法23条4項本文)。債務者に与える影響が大きく、密行性も通常は問題にならないからです。ただし、その期日を経ることにより申立ての目的を達することができない事情があるときは、例外として期日を経ずに発令できます(同項ただし書)。
保全命令は、担保を立てさせて、相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、または担保を立てさせないで発することができます(民事保全法14条1項)。実務では担保を立てさせるのが通常で、その多くは供託によります。保全命令の担保は、供託法でいう担保供託の典型例です。
急迫の事情があるときに限り、裁判長が単独で保全命令を発することもできます(民事保全法15条)。
仮差押えの要件と効果
仮差押えの必要性
仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、または強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができます(民事保全法20条1項)。被保全権利が条件付または期限付であっても発令できます(同条2項)。
弁済期が来ていない貸金債権でも、債務者が財産を処分しようとしていれば仮差押えができます。「まだ請求できない債権だから保全もできない」という肢は誤りです。
目的物の特定と仮差押解放金
仮差押命令は、特定の物について発しなければなりません。ただし、動産の仮差押命令は目的物を特定しないで発することができます(民事保全法21条)。不動産や債権は特定が必要で、動産だけは特定不要です。
仮差押命令では、債務者が供託すべき金銭の額を必ず定めなければなりません(民事保全法22条1項)。これが仮差押解放金です。債務者がこの額を供託すれば、仮差押えの執行の停止または既にした執行の取消しを得られます。仮差押えは金銭債権の保全なので、同じ額の金銭が供託されれば目的物を拘束しておく必要がなくなる、という発想です。
仮処分の要件と種類
係争物に関する仮処分
係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、または権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができます(民事保全法23条1項)。代表例は次の2つです。
- 処分禁止の仮処分:不動産の所有権移転登記請求権などを保全するため、債務者に目的物の譲渡や担保設定を禁止する
- 占有移転禁止の仮処分:建物明渡請求権などを保全するため、債務者に目的物の占有の移転を禁止する
占有移転禁止の仮処分命令の執行がされると、債権者は本案の債務名義に基づき、執行を知って係争物を占有した者や、執行後に知らずに債務者の占有を承継した者に対しても、引渡し・明渡しの強制執行ができます(民事保全法62条1項)。執行後に占有した者は、執行を知って占有したものと推定されます(同条2項)。訴訟の途中で占有者が入れ替わっても、相手方を固定できるわけです。
仮の地位を定める仮処分
仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができます(民事保全法23条2項)。
係争物に関する仮処分との違いは、将来の執行の保全ではなく、今の状態を暫定的に作る点です。解雇の効力を争う従業員の賃金仮払いのように、本案で勝つ前に実質的な満足を与える内容になることもあります。
裁判所は、申立ての目的を達するため、債務者に一定の行為を命じ、もしくは禁止し、給付を命じ、または保管人に目的物を保管させるなど、必要な処分をすることができます(民事保全法24条)。仮処分の内容は、仮差押えと違って定型が決まっていません。
仮処分解放金は任意
仮処分命令では、保全すべき権利が金銭の支払を受けることで行使の目的を達することができるものであるときに限り、債権者の意見を聴いて、仮処分解放金を定めることができます(民事保全法25条1項)。
| 比較項目 | 仮差押解放金 | 仮処分解放金 |
|---|---|---|
| 定めるかどうか | 必ず定める | 定めることができる |
| 要件 | なし | 金銭の支払で目的を達することができる権利に限る |
| 債権者の意見 | 不要 | 聴く必要がある |
| 根拠 | 民事保全法22条 | 民事保全法25条 |
「必ず」と「できる」の違いは、択一で最も狙われる対比の1つです。
保全執行と不服申立て
保全執行の3つの特則
保全執行には、強制執行と比べて迅速さを優先する特則があります(民事保全法43条)。
- 執行文は原則不要:保全命令の正本に基づいて実施する。当事者以外の者に対し、またはその者のためにする場合だけ執行文が要る
- 執行期間は2週間:債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過すると、保全執行をしてはならない
- 送達前の執行:保全命令が債務者に送達される前でも、保全執行ができる
送達前の執行を認めるのは、密行性を貫くためです。債務者は、財産に仮差押えがされた後で保全命令の存在を知ることになります。
不動産に対する保全執行と登記
不動産に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法または強制管理の方法により行い、両者は併用できます(民事保全法47条1項)。仮差押えの登記は裁判所書記官が嘱託します(同条3項)。
不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行います(民事保全法53条1項)。所有権以外の権利の保存・設定・変更の登記請求権を保全する場合は、処分禁止の登記とともに保全仮登記をします(同条2項)。抵当権設定登記請求権を保全する仮処分が典型です。
処分禁止の登記の後にされた登記に係る権利の取得や処分の制限は、仮処分債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をする場合には、その登記と抵触する限度で債権者に対抗できません(民事保全法58条1項)。保全仮登記がされていない処分禁止の仮処分の債権者は、処分禁止の登記に後れる登記を抹消することができます(同条2項)。
保全仮登記は、不動産登記法の仮登記とは別の制度です。仮登記との違いは仮登記の種類と効力で確認してください。処分禁止の登記に後れる登記を抹消する手続は、不動産登記法の処分制限の登記として不動産登記法の勉強法でも扱っています。
不服申立ての整理
民事保全法の不服申立ては、誰が、どの裁判に対して申し立てるかで名前が変わります。
| 申立て | 申し立てる者 | 対象 | 期間など | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 即時抗告 | 債権者 | 保全命令の申立てを却下する裁判 | 告知を受けた日から2週間 | 民事保全法19条 |
| 保全異議 | 債務者 | 保全命令そのもの。発令の当否を争う | 期間の定めなし。発令した裁判所に申し立てる | 民事保全法26条 |
| 起訴命令による保全取消し | 債務者 | 本案の訴えを提起しない保全命令 | 起訴命令の期間は2週間以上 | 民事保全法37条 |
| 事情の変更による保全取消し | 債務者 | 被保全権利や必要性の消滅など | 事情の変更は疎明が必要 | 民事保全法38条 |
| 特別の事情による保全取消し | 債務者 | 仮処分命令のみ | 担保を立てることが条件 | 民事保全法39条 |
| 保全抗告 | 双方 | 保全異議・保全取消しの申立てについての裁判 | 送達を受けた日から2週間 | 民事保全法41条 |
保全異議の審理では、口頭弁論または当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ決定できません(民事保全法29条)。発令段階の密行性は、債務者が争う段階では解除されるわけです。特別の事情による保全取消しが仮処分に限られている点も、条文上の区別として押さえてください。
保全命令の申立ての取下げには、保全異議や保全取消しの申立てがあった後でも、債務者の同意は要りません(民事保全法18条)。訴えの取下げとの違いとして問われます。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
民事保全法は午後の部で例年1問です。条文数が少ないので、条文の文言を正確に覚えていれば正解できる肢が中心です。狙われやすいのは次の肢です。
- 被保全権利と保全の必要性は、証明ではなく疎明で足りる
- 仮差押えは条件付・期限付の債権についても発令できる
- 動産の仮差押命令は目的物を特定しないで発令できる
- 仮差押解放金は必ず定める。仮処分解放金は、金銭で目的を達する場合に債権者の意見を聴いて定めることができる
- 仮の地位を定める仮処分は、原則として口頭弁論または債務者が立ち会える審尋の期日を経なければ発令できない
- 保全執行は、債権者への送達から2週間を経過すると、することができない
- 保全執行は、債務者への送達前でもできる
- 保全命令の申立ての取下げには、債務者の同意は不要
- 特別の事情による保全取消しは仮処分命令に限られ、担保を立てることが条件
肢を読むときは、まず「仮差押えか、係争物の仮処分か、仮の地位を定める仮処分か」を確定させてから条文に当てはめてください。3類型の位置づけとマイナー科目全体の学習時間の配分は、マイナー科目の攻略法で示しています。
不動産登記法との接続
民事保全法は記述式の出題科目ではありませんが、不動産登記の記述式や択一では、登記記録に仮差押えや処分禁止の登記が入った状態で出題されることがあります。
押さえるべきは次の2点です。1つ目は、仮差押えの登記も処分禁止の登記も、当事者の申請ではなく裁判所書記官の嘱託でされること。2つ目は、処分禁止の登記に後れる登記は、仮処分債権者が本案で勝訴して登記をするときに、その債権者が単独で抹消を申請できること。登記記録を読むときに、甲区の「仮差押」「処分禁止仮処分」の記載を見落とさない習慣をつけてください。
まとめ
- 民事保全は、仮差押え・係争物に関する仮処分・仮の地位を定める仮処分の3類型。目的の違いから要件と手続の違いが導ける
- 保全命令の申立てでは、被保全権利と保全の必要性を明らかにし、疎明する。担保を立てさせるのが通常
- 仮差押えと係争物の仮処分は密行性があり、仮の地位を定める仮処分は原則として債務者の立会いの機会が必要
- 仮差押えは条件付・期限付債権でも可。動産は目的物の特定不要。仮差押解放金は必ず定める
- 仮処分解放金は、金銭で目的を達する場合に債権者の意見を聴いて定めることができる
- 保全執行は執行文原則不要、債権者への送達から2週間以内、債務者への送達前でも可
- 不服申立ては、債権者は即時抗告、債務者は保全異議と保全取消し、その後は双方が保全抗告
よくある質問
仮差押えと仮処分は、どちらを申し立てればよいか、どう見分けますか
守りたい権利が金銭債権かどうかで見分けます。貸金や売買代金のように、最終的にお金を払ってもらえればよい権利なら仮差押えです。特定の土地の所有権移転登記や建物の明渡しのように、特定の物についての権利なら係争物に関する仮処分です。解雇の効力を争う場合のように、特定物の執行ではなく今の法律関係そのものが問題なら、仮の地位を定める仮処分になります。
保全命令が出たのに2週間以内に執行しないと、どうなりますか
保全執行ができなくなります。民事保全法43条2項は、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過したときは、保全執行をしてはならないと定めています。保全命令は緊急の必要があるから発せられるもので、債権者が執行を急がないなら保全の必要性自体が疑わしくなるからです。期間の起算点は、債務者への送達ではなく債権者への送達である点に注意してください。
保全異議と保全取消しは、何が違うのですか
保全異議は、保全命令が発せられた時点での当否を争うものです。被保全権利や保全の必要性がそもそもなかったと主張して、発令した裁判所に申し立てます。保全取消しは、発令の当否とは別の事情で命令を失わせるものです。本案の訴えを起こさない、発令後に事情が変わった、仮処分によって償えない損害が生ずるといった事情が理由になります。どちらも債務者が申し立て、その裁判に不服があれば保全抗告で争います。
民事保全法の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と関連先例がその場で開きます。