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配偶者居住権:成立要件と登記

民法 読了 約10分

配偶者居住権を、民法1028条の成立要件、審判による取得、存続期間と効力、配偶者短期居住権との違い、設定登記の申請人・登記事項・添付情報・登録免許税、死亡による抹消の順に整理。司法書士試験の受験生向けに条文から解説します。

配偶者居住権は、2020年4月1日に施行された相続法改正で新設された権利です。民法の親族・相続で出題されるだけでなく、不動産登記法でも登記できる権利として条文に加わり、択一の両科目と記述式にまたがる論点になりました。

結論を先に言うと、配偶者居住権は「遺産分割か遺贈がなければ成立しない」「登記ができ、所有者は登記を備えさせる義務を負う」「譲渡できず、配偶者の死亡で終わる」の3点で整理できます。自動的に発生する配偶者短期居住権とは、成立の仕組みも登記の可否も正反対です。

本記事は、相続法の条文を一通り読んだ受験生が、配偶者居住権の要件と登記の申請構造を一度に固めるためのものです。民法1028条から1041条までを整理したうえで、不動産登記法3条9号・81条の2と、法務局が公表している申請書の記載例に沿って登記を扱います。民法全体の学習順序は民法の勉強法を参照してください。

配偶者居住権の制度の全体像

何を保護する権利か

配偶者居住権は、被相続人の配偶者が、相続開始の時に居住していた被相続人所有の建物を、無償で使用および収益できる権利です(民法1028条1項)。

制度の狙いは、建物の価値を「所有権」と「居住する権利」に分けることです。配偶者が建物の所有権を相続すると、その評価額が大きいために預貯金などの取り分が減ってしまいます。配偶者居住権を取得すれば、所有権は子などが相続し、配偶者は住み続けながら他の財産も取得しやすくなります。

配偶者短期居住権との違い

相続法改正では、配偶者居住権と並んで配偶者短期居住権(民法1037条)も新設されました。名前が似ていますが、別の制度です。

比較 配偶者居住権 配偶者短期居住権
成立 遺産分割・遺贈・審判で取得したとき 無償で居住していれば相続開始で当然に成立
権利の内容 建物全部の使用・収益 無償で使用していた部分の使用のみ
存続期間 原則として配偶者の終身 遺産分割で帰属が確定した日か相続開始から6か月を経過する日の遅い日まで、など
登記 できる できない
第三者への対抗 登記で対抗できる 対抗の仕組みがない

配偶者短期居住権は、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで存続します(1037条1項1号)。それ以外の場合は、居住建物取得者による消滅の申入れの日から6か月を経過する日までです(同項2号)。配偶者が配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅します(1039条)。

成立要件

1028条1項の要件

配偶者居住権が成立するための要件は、次のとおりです。

要件 内容
主体 被相続人の配偶者
対象 被相続人の財産に属した建物
居住 配偶者が相続開始の時にその建物に居住していた
取得原因 遺産分割によって取得するものとされたとき(1号)、または遺贈の目的とされたとき(2号)
消極要件 被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと(1項ただし書)

配偶者は、法律上の婚姻関係にある配偶者です。法務局の申請書記載例でも、登記原因証明情報に「相続開始の時に法律上被相続人と婚姻関係にあった」旨を記載する形になっています。

居住していたのが建物の一部であっても、配偶者居住権は居住建物の「全部」について成立します。配偶者短期居住権が使用していた部分に限られるのと対照的です。

共有と配偶者居住権

1028条1項ただし書は、被相続人が居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には配偶者居住権が成立しないとしています。他の共有者の利益を害するからです。逆に、被相続人と配偶者の共有であれば成立します。

さらに1028条2項は、居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合でも、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は消滅しないと定めます。混同の例外です。たとえば配偶者が遺産分割で建物の持分の一部を取得しても、他の相続人が残りの持分を持つ限り、配偶者居住権は存続します。共有の基本は共有の記事で整理しています。

遺贈と審判

遺贈で配偶者居住権を与えた場合には、民法903条4項が準用されます(1028条3項)。婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に配偶者居住権を遺贈したときは、持戻し免除の意思表示をしたものと推定されます。

遺産分割の協議が調わないときは、家庭裁判所が審判で配偶者居住権を定めることができます。ただし、次のいずれかの場合に限られます(1029条)。

  • 共同相続人間に、配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき
  • 配偶者が取得を希望する旨を申し出た場合に、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお、配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき

条文の取得原因は遺産分割と遺贈ですが、死因贈与については民法554条が遺贈に関する規定を準用しています。法務局は、死因贈与を原因とする配偶者居住権の設定登記とその仮登記の記載例も公表しています。

配偶者居住権の内容と効力

存続期間と対抗力

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間です(1030条本文)。ただし、遺産分割の協議や遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産分割の審判で別段の定めをしたときは、その定めによります(同条ただし書)。

居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(1031条1項)。登記をすると、民法605条の準用により、居住建物について物権を取得した者その他の第三者に対抗できます(1031条2項)。登記を備えた配偶者は、605条の4の準用により、占有を妨害する第三者に妨害の停止を、占有する第三者に返還を請求できます。

配偶者の義務と権利の制限

配偶者居住権は、配偶者の居住を守るための一身専属的な権利として設計されています。

  • 従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって使用・収益しなければならない(1032条1項)
  • 譲渡することができない(1032条2項)
  • 所有者の承諾がなければ、改築・増築や第三者に使用・収益をさせることはできない(1032条3項)
  • 用法違反や無断の改築・第三者使用があり、所有者が相当の期間を定めて是正を催告しても是正されないときは、所有者は意思表示で配偶者居住権を消滅させることができる(1032条4項)

修繕については、配偶者が使用・収益に必要な修繕をすることができ(1033条1項)、配偶者が相当の期間内に修繕をしないときは所有者が修繕できます(同条2項)。居住建物が修繕を要するとき、または居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、所有者が既に知っている場合を除き、遅滞なく所有者に通知しなければなりません(1033条3項)。通常の必要費は配偶者が負担します(1034条1項)。

消滅と返還

1036条は、使用貸借と賃貸借の規定を準用しています。597条1項・3項の準用により、存続期間の満了と配偶者の死亡で配偶者居住権は消滅します。616条の2の準用により、居住建物の全部が滅失などで使用・収益できなくなったときも消滅します。

配偶者居住権が消滅したときは、配偶者は居住建物を返還しなければなりません(1035条1項本文)。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては返還を求めることができません(同項ただし書)。

配偶者居住権の設定登記

登記できる権利と登記事項

不動産登記法3条は登記できる権利を列挙しており、9号に配偶者居住権が加えられています。配偶者居住権の登記事項は、59条各号の共通事項に加えて、次の2つです(不動産登記法81条の2)。

  • 存続期間(1号)
  • 第三者に居住建物の使用または収益をさせることを許す旨の定めがあるときは、その定め(2号)

1032条3項は、第三者に使用・収益をさせるには所有者の承諾が必要としています。この承諾をあらかじめ定めとして登記しておくのが2号の事項です。配偶者居住権の登記がある建物に賃借権の設定の登記をするときは、この定めの登記がない限り、所有者の承諾を証する情報が添付情報になります(不動産登記令別表38項添付情報欄ト)。

申請人と前提登記

配偶者居住権の設定登記は、配偶者を登記権利者、居住建物の所有者を登記義務者とする共同申請です(不動産登記法60条)。

建物が被相続人名義のままでは、義務者となる所有者が登記記録上に現れません。そのため、先に相続などによる所有権移転の登記をして、所有権を取得した相続人などを登記名義人にする必要があります。その後、その所有者を義務者として配偶者居住権の設定登記を申請します。遺贈で配偶者居住権を与えた場合に遺言執行者があるときは、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます(民法1012条2項)。

所有者が設定登記に協力しないときは、配偶者は1031条1項の義務の履行として登記手続を求める訴えを起こせます。登記手続をすべきことを命ずる確定判決を得れば、配偶者は不動産登記法63条1項により単独で申請できます。1031条1項が登記を備えさせる義務を明文で定めたことで、この請求の根拠がはっきりしています。

相続による所有権移転の登記の構造は相続登記の義務化とやり方で扱っています。

登記原因と存続期間の書き方

法務局の記載例に沿って、申請情報の骨格を架空の例で示します。

項目 遺産分割による場合 遺贈による場合
登記の目的 配偶者居住権設定 配偶者居住権設定
原因 年月日遺産分割 年月日遺贈
原因日付 遺産分割協議が成立した日 遺贈の効力が生じた日。遺言者の死亡の日
存続期間 年月日から配偶者居住権者の死亡時まで 配偶者居住権者の死亡時まで
特約 第三者に居住建物の使用または収益をさせることを許す定めがあれば記載 同左
権利者 配偶者 配偶者
義務者 建物の所有者 建物の所有者

存続期間を終身とする場合は「配偶者居住権者の死亡時まで」と記載します。遺産分割による場合の始期は、通常は相続開始の日か遺産分割協議が成立した日です。記載例の注記では、始期が協議成立の日で登記原因の日付と同じになるときは、始期を重ねて書かずに「配偶者居住権者の死亡時まで」と記載してよいとされています。存続期間の定めがあるときは、その期間と配偶者居住権者の死亡時までのうち、いずれか短い期間という形で記載します。

添付情報と登録免許税

添付情報 内容
登記原因証明情報 遺産分割協議の内容や遺贈の事実などを示す。遺贈なら遺言書と死亡の事実を証する情報も
登記識別情報 義務者である建物の所有者のもの
印鑑証明書 義務者である所有者のもの。所有権の登記名義人が義務者になるため必要
代理権限証明情報 代理人が申請するとき

住所証明情報は不要です。配偶者は所有権の登記名義人になるわけではないからです。登記識別情報を提供できない場合の扱いは登記識別情報と添付情報で確認してください。

登録免許税は、不動産の価額の1000分の2です(登録免許税法別表第一第1号(三の二))。課税標準は建物の価額で、配偶者居住権そのものの評価額ではありません。配偶者居住権の設定の仮登記は1000分の1です(同号(十二)ニ)。

配偶者居住権の登記の抹消

死亡による消滅は所有者が単独で申請できる

配偶者の死亡で配偶者居住権が消滅したときは、登記の抹消を申請します。存続期間を「配偶者居住権者の死亡時まで」と登記していれば、権利が人の死亡によって消滅する旨が登記されている場合にあたります。そのため、登記権利者である建物の所有者は、不動産登記法69条により単独で抹消を申請できます。

法務局の記載例では、登記の目的を「配偶者居住権抹消」、原因を「年月日死亡による消滅」とし、登記原因証明情報として配偶者の死亡の事実の記載のある戸籍全部事項証明書などを添付します。配偶者居住権を目的とする賃借権の登記があるなど、登記上の利害関係を有する第三者がいるときは、その承諾を証する情報も必要です(不動産登記法68条)。

合意による消滅などは共同申請

配偶者と所有者の合意で配偶者居住権を消滅させた場合、1032条4項の消滅の意思表示があった場合などは、原則どおり所有者を権利者、配偶者を義務者とする共同申請です。死亡による消滅と区別してください。

抹消の登録免許税は、不動産1個につき1000円です(登録免許税法別表第一第1号(十五))。

どの消滅原因でも、登記権利者である所有者の住所・氏名は登記記録と一致している必要があります。一致しないときは、前提として所有権登記名義人の住所等の変更の登記を申請します。また、死亡した配偶者の最後の住所が登記記録上の住所と違う場合は、登記名義人と同一人であることを示すために住民票の除票などを添えることになります。

消滅原因 申請の形
配偶者の死亡 所有者が69条で単独申請。死亡を証する情報を添付
合意による消滅 所有者と配偶者の共同申請
存続期間の満了 所有者と配偶者の共同申請

試験での出題ポイント

択一式ではこう問われる

  • 成立の原因:遺産分割・遺贈・審判。相続開始で当然に成立するのは配偶者短期居住権のほう
  • 共有:被相続人が配偶者以外と共有していれば成立しない。配偶者と共有なら成立する
  • 混同の例外:配偶者が持分を取得しても、他に共有者がいれば配偶者居住権は消滅しない
  • 範囲:居住建物の全部に及ぶ。短期居住権は使用していた部分だけ
  • 処分の制限:譲渡できない。第三者に使用させるには所有者の承諾が必要
  • 登記:所有者は登記を備えさせる義務を負う。短期居住権は登記できない
  • 申請構造:配偶者が権利者、所有者が義務者の共同申請。前提として所有権の相続登記が必要
  • 登録免許税:設定は不動産の価額の1000分の2。抹消は1個1000円

相続法の関連論点では、相続放棄と承認の要件を相続の放棄と承認で整理しています。

記述式との接続

不動産登記の記述式で配偶者居住権が出るなら、相続登記との連件が基本形です。

  • 1件目は、建物を取得した相続人への所有権移転の登記
  • 2件目は、配偶者を権利者、1件目の登記名義人を義務者とする配偶者居住権の設定登記
  • 原因日付は遺産分割協議の成立日で、相続開始日ではない。存続期間の始期との区別に注意
  • 前後を明らかにして同時に申請すれば、2件目の義務者の登記識別情報は提供されたものとみなされる(不動産登記規則67条)

まとめ

  • 配偶者居住権は、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を、無償で使用・収益できる権利
  • 成立は遺産分割・遺贈・審判による。被相続人が配偶者以外と共有していた建物には成立しない
  • 存続期間は原則として配偶者の終身。譲渡はできない
  • 所有者は登記を備えさせる義務を負い、登記すると第三者に対抗できる
  • 設定登記は配偶者と所有者の共同申請で、前提として所有権の移転登記が必要
  • 登記事項は存続期間と第三者に使用・収益させることを許す定め
  • 死亡による消滅の抹消は、所有者が69条で単独申請できる

よくある質問

配偶者居住権は、土地にも登記できますか

できません。配偶者居住権は居住建物についての権利で(民法1028条1項)、登記も居住建物についてします。敷地の登記記録に配偶者居住権を登記することはできません。

配偶者居住権を売って老人ホームの入居費用に充てることはできますか

配偶者居住権そのものを譲渡することはできません(民法1032条2項)。所有者の承諾を得て第三者に賃貸し、賃料を得ることは可能です。また、所有者との合意で配偶者居住権を消滅させることもでき、その際に対価を定めることも当事者の自由です。

内縁の配偶者は配偶者居住権を取得できますか

取得できません。1028条の「被相続人の配偶者」は、法律上の婚姻関係にある配偶者です。内縁の配偶者は相続人でもないので、遺産分割で取得することもありません。

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