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代理:無権代理と表見代理の整理

民法 読了 約11分

民法99条〜118条の代理を、無権代理の効果・相手方の3つの手段・表見代理3類型の要件で比較整理。無権代理と相続の判例の型と、登記申請の代理との接続まで司法書士試験の受験生向けに解説します。

代理の分野は、司法書士試験の民法総則で意思表示と並ぶ頻出論点です。得点を分けるのは、無権代理の相手方が取れる3つの手段と、表見代理3類型について、「相手方に何が求められるか」を一枚で比べられるかどうかです。善意で足りるのか、無過失まで要るのか。この一点で多くの肢が切れます。

本記事は、代理の条文を一通り読んだものの、無権代理と表見代理の関係や無権代理と相続の判例で迷う受験生に向けて書いています。民法99条から118条までを現行法で整理し、2020年4月施行の改正で明文化された代理権の濫用・利益相反行為・表見代理の重畳適用も扱います。後半では、登記申請の代理と民法の代理の違いにも触れます。民法総則の学び方の全体像は民法の勉強法にまとめています。

代理の基本構造と無権代理の位置づけ

有権代理の3つの要件

代理が本人に効果を生じるには、代理人が権限内で、本人のためにすることを示して意思表示をすることが必要です(99条1項)。要件は次の3つに分解できます。

  1. 代理権があること
  2. 顕名、つまり本人のためにすることを示すこと
  3. 代理人と相手方の間の有効な法律行為

顕名がない場合、その意思表示は代理人が自己のためにしたものとみなされます(100条本文)。ただし、相手方が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは、本人に効果が帰属します(100条ただし書)。

代理行為の瑕疵、たとえば錯誤や詐欺の有無は、原則として代理人を基準に判断します(101条1項)。意思表示をしているのは代理人だからです。意思表示の瑕疵そのものの整理は意思表示の記事を参照してください。

代理権がない3つの場面

1つ目の要件である代理権が欠ける場面は、次の3つに分けられます。

  • 最初から代理権がない
  • 代理権はあるが、その範囲を超えた
  • かつて代理権があったが、消滅した後に行為した

いずれも無権代理です。無権代理の行為は、本人が追認しなければ本人に効力を生じません(113条1項)。ただし、本人の側に代理権があるかのような外観を作った責任があるときは、相手方を保護するために本人に効果を帰属させます。これが表見代理です。3つの場面は、それぞれ109条・110条・112条の表見代理に対応します。

代理権の濫用と利益相反は無権代理とみなされる

2020年の改正で、次の2つが「代理権を有しない者がした行為とみなす」と明文化されました。

類型 条文 内容 本人に効果が帰属する場合
代理権の濫用 107条 代理人が自己または第三者の利益を図る目的で、代理権の範囲内の行為をした 相手方がその目的を知らず、知ることもできなかったとき
自己契約・双方代理 108条1項 相手方の代理人として、または当事者双方の代理人として行為した 債務の履行、本人があらかじめ許諾した行為
利益相反行為 108条2項 上記以外で、代理人と本人との利益が相反する行為 本人があらかじめ許諾した行為

改正前、代理権の濫用は93条ただし書の類推適用で処理されていました。現行法は107条で無権代理とみなすため、本人は追認することもできますし、相手方は無権代理人の責任を追及する余地があります。「無効」ではなく「無権代理とみなす」という効果の違いが、択一で問われます。

無権代理の効果(113条〜118条)

本人の追認と追認拒絶

本人は、無権代理行為を追認することも、追認を拒絶することもできます。追認すると、別段の意思表示がない限り契約の時にさかのぼって効力を生じます(116条本文)。ただし、第三者の権利を害することはできません(116条ただし書)。

追認や追認拒絶は、相手方に対してしなければ相手方に対抗できません(113条2項本文)。無権代理人に対して追認しても、相手方がその事実を知るまでは、相手方に追認を主張できないということです。相手方が追認の事実を知ったときは対抗できます(113条2項ただし書)。

相手方の3つの手段

相手方は、本人の態度が決まるまで不安定な立場に置かれます。民法は相手方に3つの手段を用意しています。要件が一つずつ違う点が、この分野の最大の暗記ポイントです。

手段 条文 相手方の主観的要件 効果
催告権 114条 悪意でも可 相当の期間内に確答がなければ追認拒絶とみなす
取消権 115条 善意であること。過失があっても可 本人が追認するまでに取り消せば、契約はなかったことになる
無権代理人の責任追及 117条 善意かつ無過失。ただし無権代理人が自分に代理権がないことを知っていたときは、善意であれば足りる 相手方の選択で履行または損害賠償

催告に確答がないときの効果は追認拒絶の擬制です。制限行為能力者の相手方の催告で、行為能力者となった本人に催告して確答がないと追認擬制になるのとは逆です。混同しやすいので、並べて覚えてください。制限行為能力者側の催告は制限行為能力者の比較で表にしています。

取消権は、本人が追認しない間に限り行使できます。取り消した後は、本人はもはや追認できず、相手方も117条の責任を追及できません。契約そのものが存在しなくなるからです。

無権代理人の責任(117条)

他人の代理人として契約をした者は、代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従って履行または損害賠償の責任を負います(117条1項)。

責任が生じない場合は、117条2項に列挙されています。

  • 相手方が、代理権がないことを知っていたとき(1号)
  • 相手方が、代理権がないことを過失によって知らなかったとき(2号本文)。ただし、無権代理人自身が代理権がないことを知っていたときは、相手方に過失があっても責任を負う(2号ただし書)
  • 無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき(3号)

2号ただし書は2020年の改正で加わった規定です。代理権がないと分かっていながら代理人と称した者は、相手方の過失を理由に責任を免れることはできません。また、117条の責任は、無権代理人に過失がなくても生じる無過失責任と解されています。

表見代理の3類型(109条・110条・112条)

代理権授与の表示による表見代理(109条)

第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内でその他人が第三者とした行為について責任を負います(109条1項本文)。白紙委任状を交付し、それが相手方に示された場面が典型です。

ただし、第三者が、その他人に代理権が与えられていないことを知り、または過失によって知らなかったときは、責任を負いません(109条1項ただし書)。条文の構造上、相手方の悪意・有過失は本人が主張立証します。

権限外の行為の表見代理(110条)

代理人がその権限外の行為をした場合、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときは、本人が責任を負います(110条による109条1項本文の準用)。

110条の適用には、何らかの代理権、いわゆる基本代理権が存在することが前提です。判例は、基本代理権について次のように整理しています。

  • 事実行為をする権限、たとえば勧誘行為を委託されただけでは、基本代理権にならない
  • 公法上の行為の代理権は、原則として基本代理権にならない
  • ただし、登記申請の代理権は、私法上の契約による義務の履行のために与えられたものであれば、基本代理権になる

「正当な理由」は、相手方の善意無過失とほぼ同じ意味で理解されています。実印や印鑑証明書を代理人が所持していた事実は正当な理由を基礎づける事情になりますが、それだけで常に認められるわけではありません。取引の内容や本人に確認すべき事情があったかどうかも考慮されます。また、110条の第三者は、無権代理行為の直接の相手方に限られるとするのが判例です。

代理権消滅後の表見代理(112条)

他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内でその他人が第三者とした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に責任を負います(112条1項本文)。第三者が過失によって知らなかったときは責任を負いません(112条1項ただし書)。

代理権の消滅事由は、本人の死亡、代理人の死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判です(111条1項)。委任による代理権は、委任の終了によっても消滅します(111条2項)。本人が後見開始の審判を受けても、代理権は消滅しない点に注意してください。111条1項2号は代理人側の事由だけを挙げています。

重畳適用の明文化(109条2項・112条2項)

改正前は、109条と110条、112条と110条を重ねて適用する判例法理がありました。現行法はこれを明文化しています。

類型 条文 場面 相手方の要件
授与表示 109条1項 表示された代理権の範囲内の行為 善意無過失
授与表示+権限外 109条2項 表示された代理権の範囲外の行為 権限があると信ずべき正当な理由
権限外 110条 基本代理権の範囲外の行為 権限があると信ずべき正当な理由
消滅後 112条1項 消滅前の代理権の範囲内の行為 消滅について善意無過失
消滅後+権限外 112条2項 消滅前の代理権の範囲外の行為 権限があると信ずべき正当な理由

表見代理はどの類型でも、相手方に無過失まで求めます。無権代理の取消権が善意で足りるのと対照的です。

表見代理と無権代理の関係

相手方はどちらを主張してもよい

表見代理が成立する場面でも、行為の性質はあくまで無権代理です。そこで、相手方が表見代理を主張せず、無権代理人に117条の責任を追及できるかが問題になります。

判例(最判昭和62年7月7日)は、表見代理は相手方保護のための制度であり、相手方が表見代理を主張しないで直ちに117条の責任を問うことができるとしました。無権代理人の側から「表見代理が成立するから自分は責任を負わない」と主張することはできません。同じ判例は、117条2項の「過失」は重大な過失に限らないとしています。

日常家事代理権と110条

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方も連帯して責任を負います(761条本文)。判例は、この規定が夫婦相互に日常家事に関する代理権を認めたものと解しています。

では、夫婦の一方が日常家事の範囲を超えて、他方の不動産を売った場合に、日常家事代理権を基本代理権として110条を直接適用できるでしょうか。判例は、これを直接適用すると夫婦の財産的独立を損なうとして否定しました。そのうえで、相手方がその行為を日常家事の範囲内に属すると信ずるにつき正当な理由があるときに限り、110条の趣旨を類推して相手方を保護するとしています。「代理権があると信じた」ではなく「日常家事の範囲内だと信じた」ことが基準になる点が、肢の急所です。

無権代理と相続

本人と無権代理人の間に相続が生じると、同じ人が「追認を拒絶できる本人の地位」と「責任を負う無権代理人の地位」を併せ持つことになります。判例は、誰が誰を相続したかで結論を分けています。

無権代理人が本人を相続した場合

無権代理人が本人を単独で相続した場合、判例は、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、無権代理行為は当然に有効になるとしています。自分で無権代理をしておきながら、本人の地位で追認を拒絶するのは信義則に反するという理屈です。

ただし、次の2つの場面では結論が変わります。

  • 共同相続の場合:判例(最判平成5年1月21日)は、追認権は共同相続人全員に不可分的に帰属し、全員が共同して追認しない限り、無権代理人の相続分についても当然に有効とはならないとしました。他の共同相続人全員が追認しているのに、無権代理人だけが追認を拒絶することは信義則上許されません
  • 本人が追認を拒絶した後に死亡した場合:判例(最判平成10年7月17日)は、本人の追認拒絶によって無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定しており、その後に無権代理人が本人を相続しても有効にはならないとしました

本人が無権代理人を相続した場合

逆に、本人が無権代理人を相続した場合、判例は、本人は本人の資格で追認を拒絶できるとしています。本人は自ら無権代理をしたわけではないので、追認を拒絶しても信義則に反しないからです。

ただし、本人は無権代理人の地位も相続しています。そのため、相手方が117条の要件を満たすなら、本人は無権代理人の責任を承継し、追認を拒絶しても117条の責任を免れないとするのが判例です。

第三者が両方を相続した場合

無権代理人を本人とともに相続した者が、その後さらに本人を相続した場合、判例は、その者は本人の資格で追認を拒絶することはできないとしました。先に無権代理人の地位を承継した以上、無権代理人が本人を相続した場合と同じに扱うという考え方です。

相続の型 結論
無権代理人が本人を単独相続 当然に有効
無権代理人が本人を共同相続 全員の追認がなければ無権代理人の相続分も当然には有効にならない
本人が追認拒絶した後に無権代理人が相続 有効にならない
本人が無権代理人を相続 追認拒絶できる。ただし117条の責任は承継する
無権代理人を相続した者が本人も相続 追認拒絶できない

相続の順序と追認拒絶の有無を時系列で書き出すと、どの型にあたるかがすぐに分かります。相続人の範囲や承認・放棄との関係は相続の承認と放棄の記事を参照してください。

試験での出題ポイント

択一式ではこう問われる

代理は、条文の要件を入れ替える肢と、判例の事案を少し変える肢の2種類で出題されます。

  • 相手方の主観的要件の入れ替え:催告は悪意でも可、取消しは善意、117条の責任と表見代理は善意無過失。取消権について「善意無過失の相手方に限り取り消せる」とする肢は誤り
  • 117条2項2号ただし書:無権代理人が代理権のないことを知っていたときは、相手方に過失があっても責任を負う
  • 催告の効果:無権代理の催告に確答がなければ追認拒絶とみなす
  • 代理権の濫用:107条により無権代理とみなされる。無効ではない
  • 代理権の消滅事由:本人の後見開始の審判は消滅事由ではない
  • 表見代理と117条の選択:相手方は表見代理を主張せずに117条の責任を追及できる
  • 無権代理と相続:単独相続か共同相続か、本人が追認拒絶をしていたかで結論が変わる

事例問題では、表見代理の成否と無権代理と相続が一つの問題に組み込まれることがあります。まず代理権の有無を確定し、次に表見代理の要件、最後に相続の有無を確認する順で図を描いてください。肢の回し方は肢別過去問の勉強法で扱っています。

記述式との接続

不動産登記では、登記申請そのものを司法書士が代理します。民法の代理との違いを知っておくと、択一の不動産登記法でも得点できます。

双方代理の許容:売買による所有権移転登記は、売主と買主が共同で申請します。司法書士が双方から委任を受けて申請するのは形式上は双方代理ですが、判例は登記申請を債務の履行に準ずるものとして許しています。108条1項ただし書の考え方です。

本人の死亡と代理権:民法では本人の死亡により代理権は消滅します(111条1項1号)。これに対し不動産登記法17条は、登記申請の委任による代理人の権限は、本人の死亡によっては消滅しないと定めています。売主から委任を受けた後、申請前に売主が死亡しても、その委任に基づいて申請できます。

無権代理による登記:記述式の別紙で、代理人と称する者が本人の不動産を売却した事実が示されることがあります。本人の追認があれば売買は有効で、登記原因の日付は追認の日ではなく契約の日になります。追認に遡及効があるからです(116条本文)。表見代理が成立する場合も、効果は本人に帰属します。売買の登記の構造は売買による所有権移転登記で確認できます。

まとめ

  • 無権代理は本人が追認しなければ本人に効力を生じない。追認は契約の時にさかのぼる
  • 相手方の手段は、催告が悪意でも可、取消しが善意、117条の責任が善意無過失
  • 無権代理人が代理権のないことを知っていたときは、相手方に過失があっても117条の責任を負う
  • 代理権の濫用と利益相反行為は、現行法では無権代理とみなされる
  • 表見代理は109条・110条・112条とその重畳適用で、いずれも相手方に無過失まで求める
  • 相手方は表見代理を主張せずに117条の責任を追及できる
  • 無権代理と相続は、誰が誰を相続したか、共同相続か、追認拒絶の後かで結論が分かれる

よくある質問

無権代理の相手方が取消しと117条の責任追及の両方の要件を満たす場合、どちらを選ぶべきですか

どちらも選べますが、取消しをすると契約がなかったことになり、117条の責任は追及できなくなります。契約の履行を望むなら117条で履行を求め、契約から離れたいなら取消しを選ぶ、という使い分けです。試験では「取消し後に117条の責任を追及できる」とする肢が誤りとして出ます。

110条の基本代理権は、表見代理が問題となる行為と同種である必要がありますか

判例は、基本代理権の内容と実際にされた行為が同種であることを要求していません。基本代理権が存在すれば足り、それを超えた行為について相手方に正当な理由があるかを判断します。ただし、基本代理権と実際の行為がかけ離れているほど、正当な理由は認められにくくなります。

表見代理が成立すると、無権代理人は本人に対して責任を負いますか

表見代理が成立して本人が責任を負った場合、本人は無権代理人に対して、委任契約上の債務不履行や不法行為を理由に損害賠償を請求できます。表見代理は相手方との関係で本人に効果を帰属させる制度であり、本人と無権代理人の内部関係まで清算するものではありません。代理権の消滅と時効の関係など隣接論点は時効:取得時効と消滅時効とあわせて確認しておくと、総則全体の整理が進みます。

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