執行供託:第三債務者の供託と事情届
差押えを受けた第三債務者の執行供託を、民事執行法156条の権利供託・義務供託・事情届、配当と支払委託による払渡し、仮差押えの場合の民事保全法50条、滞調法の供託まで条文で整理。弁済供託との違いと択一の出題ポイントも解説します。
執行供託は、差押えを受けた第三債務者が、差し押さえられた債権の額を供託所に供託して債務を免れる手続です。中心になる条文は民事執行法156条で、供託「できる」場合の権利供託と、供託「しなければならない」場合の義務供託の2つに分かれます。供託をしたら、執行裁判所に事情を届け出なければなりません。この3点を押さえれば、執行供託の問題の大半は処理できます。
この記事は、弁済供託は固めたものの、執行供託になると条文の要件が曖昧になる司法書士試験の受験生向けです。民事執行法156条の各項を順に読み、配当と払渡し、仮差押えと滞納処分が絡む場合の供託まで、供託法の択一で問われる範囲を整理します。
執行供託とは:弁済供託との違い
差押えを受けた第三債務者の立場
AがBに100万円を貸しており、Aの債権者Cが、Aの貸金債権を差し押さえたとします。このときBを第三債務者と呼びます。差押命令は、債務者Aに取立てその他の処分を禁止し、第三債務者Bに債務者Aへの弁済を禁止します(民事執行法145条1項)。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生じます(同条5項)。
差押えを受けたBは、Aに弁済できなくなります。Aに払っても、差押債権者Cには対抗できないからです。一方でBの債務そのものは消えないので、遅延損害金が膨らむおそれがあります。ほかの債権者も差押えをしてくれば、誰に払えばよいのか分からなくなります。この板挟みから第三債務者を解放するのが執行供託です。
差押債権者の側から見た回収方法である取立てや転付命令の仕組みは、強制執行の種類で整理しています。この記事では、第三債務者の供託に絞って掘り下げます。
弁済供託との違い
同じ「債務を免れるための供託」でも、弁済供託と執行供託は仕組みが大きく違います。
| 比較項目 | 弁済供託 | 執行供託 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法494条 | 民事執行法156条など |
| 供託原因 | 受領拒絶・受領不能・債権者不確知 | 差押え、差押えの競合、配当要求、供託命令 |
| 供託所 | 債務の履行地の供託所 | 債務の履行地の供託所 |
| 供託後の届出・通知 | 債権者への供託の通知 | 執行裁判所への事情届 |
| 払渡しの方法 | 被供託者の還付請求、供託者の取戻請求 | 執行裁判所の配当等に基づく支払委託 |
| 誰が受け取るか | 被供託者である債権者 | 配当等を受けるべき債権者 |
弁済供託の供託原因と還付・取戻しは弁済供託の要件と還付・取戻しで扱っています。執行供託の払渡しは、供託所と個々の債権者の関係ではなく、執行裁判所の配当手続を通じて行われる点が決定的な違いです。
権利供託:156条1項
差押えが1つでも供託できる
第三債務者は、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を、債務の履行地の供託所に供託することができます(民事執行法156条1項)。ここでいう差押えに係る金銭債権は、差押命令により差し押さえられた金銭債権に限られます。
権利供託の要件は、差押えがあることだけです。差押えが1つしかなく、競合していなくても供託できます。第三債務者は、差押債権者の取立てに応じて支払うこともできるし、供託して手続から抜けることもできます。どちらを選ぶかは第三債務者の自由です。
全額を供託できる
156条1項は「差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭」と定めています。差し押さえられた部分だけでなく、債権全体を供託できるということです。
先ほどの例で、Cが100万円の貸金債権のうち60万円だけを差し押さえた場合を考えます。
| 供託の仕方 | 可否 | 供託金の性質 |
|---|---|---|
| 差押えに係る60万円だけを供託する | できる | 執行供託 |
| 債権全額の100万円を供託する | できる | 60万円部分は執行供託。差押えの及ばない40万円部分は、債務者Aに払渡しを受けさせる弁済供託の性質を持つ |
全額を供託すると、差押えの効力が及ばない部分は、本来の債権者である債務者Aのための供託になります。1回の供託に執行供託と弁済供託の性質が混ざるわけです。第三債務者にとっては、差押部分と非差押部分を分けて払う手間が省けるという利点があります。
供託するかどうかの判断
権利供託では、第三債務者が供託しないで取立てに応じることもできます。差押債権者は、債務者に差押命令が送達された日から1週間を経過すれば、取り立てることができます(民事執行法155条1項)。給料などの継続的給付に係る債権では、原則として4週間です(同条2項)。
第三債務者が差押債権者に支払えば、その限度で債務は消滅します。差押えが1件だけで、取立ての申出があれば、供託せずに支払うのが通常の流れです。権利供託の意味は、取立てがいつ来るか分からない、差押えの有効性に疑問があるといった場合に、自分の判断で債務を免れられる点にあります。
義務供託:156条2項・3項
差押えが競合したとき
第三債務者は、取立訴訟の訴状の送達を受ける時までに、差押えに係る金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて発せられた差押命令、差押処分または仮差押命令の送達を受けたときは、その債権の全額に相当する金銭を供託しなければなりません(民事執行法156条2項)。
「差し押さえられていない部分を超えて」という文言が要件の核心です。数字で確認します。
| 事例:100万円の債権 | 競合するか | 第三債務者の義務 |
|---|---|---|
| Cが60万円、Dが40万円を差し押さえた | しない。合計が100万円以内 | 義務供託にはならない。権利供託はできる |
| Cが60万円、Dが60万円を差し押さえた | する。Dの差押えが残りの40万円を超える | 債権全額の100万円を供託しなければならない |
| Cが60万円を差し押さえ、Eが60万円を仮差押えした | する。仮差押命令も含まれる | 債権全額の100万円を供託しなければならない |
差押えが競合すると、差押えの効力は債権全体に及びます。そのため、競合した場合の義務供託は債権全額が対象になります。
配当要求があったとき
第三債務者が、配当要求があった旨を記載した文書の送達を受けたときは、差し押さえられた部分に相当する金銭を供託しなければなりません(民事執行法156条2項)。
差押えの競合と配当要求で、供託すべき額が違う点が択一の定番です。
| 義務供託の原因 | 供託すべき額 |
|---|---|
| 差押え・差押処分・仮差押命令の競合 | 債権の全額 |
| 配当要求 | 差し押さえられた部分 |
配当要求は、既にある差押えに乗って配当を受けようとするものなので、差押えの範囲を広げる効果はありません。だから供託すべき額も、差し押さえられた部分にとどまります。
取立訴訟の訴状送達までという時的限界
156条2項の義務は、取立訴訟の訴状の送達を受ける時までに競合や配当要求があった場合に生じます。取立訴訟とは、差押債権者が第三債務者に対して差し押さえた債権に係る給付を求める訴えです(民事執行法157条1項)。
供託義務を負う第三債務者に対する取立訴訟で原告の請求を認容するときは、受訴裁判所は、請求に係る金銭の支払は供託の方法によるべき旨を判決の主文に掲げなければなりません(民事執行法157条4項)。第三債務者は、取立訴訟で負けても、差押債権者に直接払うのではなく供託することになります。
供託命令:156条3項
第三債務者は、民事執行法161条の2第1項に規定する供託命令の送達を受けたときは、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託しなければなりません(民事執行法156条3項)。
供託命令は、差押債権者またはその法定代理人の住所・氏名を秘匿する決定がされた場合などに、差押債権者の申立てにより執行裁判所が発する命令です(民事執行法161条の2第1項)。住所や氏名を秘匿された差押債権者に第三債務者が直接支払うことは難しいので、供託の方法で回収させる仕組みです。供託命令に対しては、不服を申し立てることができません(同条4項)。
事情届と配当・払渡し
事情届:156条4項
第三債務者は、156条1項から3項までの規定による供託をしたときは、その事情を執行裁判所に届け出なければなりません(民事執行法156条4項)。これを事情届といいます。権利供託でも義務供託でも、事情届は必要です。
事情届は、執行裁判所が配当等の手続を始めるきっかけになります。供託所は、供託を受けても自分から配当をするわけではありません。執行裁判所が事情届によって供託の事実を知り、配当等を実施するという流れです。
なお、以前の条文では事情届は156条3項に置かれていました。秘匿制度の導入にあわせて供託命令の規定が3項に入り、事情届は4項に移っています。古い教材で「156条3項の事情届」と書かれていても、現行法では4項です。
配当加入の遮断と配当の実施
第三債務者の供託には、配当を受けられる債権者の範囲を確定させる効果があります。配当等を受けるべき債権者は、第三債務者が156条1項から3項までの規定による供託をした時までに、差押え、仮差押えの執行または配当要求をした債権者とされています(民事執行法165条1号)。供託の後に差押えをしても、その配当には加われません。
執行裁判所は、156条1項から3項までの規定による供託がされた場合には、配当等を実施しなければなりません(民事執行法166条1項1号)。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 供託 | 第三債務者が債務の履行地の供託所に供託する | 民事執行法156条1項〜3項 |
| 事情届 | 第三債務者が執行裁判所に供託の事情を届け出る | 民事執行法156条4項 |
| 配当加入の遮断 | 供託の時までに差押え等をした債権者だけが配当を受ける | 民事執行法165条1号 |
| 配当等の実施 | 執行裁判所が配当表を作るなどして配当等を実施する | 民事執行法166条1項1号 |
| 払渡し | 執行裁判所が供託所に支払委託書を送付し、債権者に証明書を交付する | 供託規則30条1項 |
払渡しは支払委託による
執行供託の払渡しは、配当その他官庁または公署の決定によって供託物の払渡しをすべき場合として、供託規則30条の手続で行われます。執行裁判所は、供託所に支払委託書を送付し、払渡しを受けるべき者に証明書を交付します(供託規則30条1項)。支払委託書の記載から払渡しを受けるべき者であることが明らかにならないときは、その者は供託物払渡請求書に証明書を添付します(同条2項)。
債権者は、弁済供託の還付のように自分で権利を証明して請求するのではなく、執行裁判所の配当の結果に従って受け取ります。第三債務者は、供託によって手続から離れるので、執行供託した金銭を自由に取り戻すことは原則としてできません。取戻しの一般的な要件は供託法8条2項に定められていますが、執行手続に組み込まれた供託金は、その手続の中で処理されるのが原則です。
仮差押え・滞納処分との関係
仮差押えの執行と第三債務者の供託
債権に対する仮差押えの執行は、保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行います(民事保全法50条1項)。この仮差押えの執行には、民事執行法156条のうち3項を除く規定が準用されます(民事保全法50条5項)。
準用の結果、次のようになります。
- 仮差押えの執行を受けた第三債務者は、権利供託ができる
- 仮差押えが競合したときなどは、義務供託になる
- 供託したら、事情を保全執行裁判所に届け出る
- 供託命令の規定である156条3項は準用されない
仮差押えだけの段階で第三債務者が供託した場合、その供託は配当のためではありません。第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭債権の額に相当する金銭を供託した場合には、債務者が仮差押解放金を供託したものとみなされます(民事保全法50条3項本文)。仮差押解放金の額を超える部分は、みなしの対象外です(同項ただし書)。仮差押解放金の仕組みは仮差押えと仮処分で扱っています。
滞納処分との競合:滞調法
国税などの滞納処分による差押えと、民事執行法の強制執行による差押えが同じ債権にされることがあります。この調整をするのが、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律、いわゆる滞調法です。どちらの差押えが先かで、第三債務者の供託の性質が変わります。
| 先後 | 第三債務者の供託 | 事情届の提出先 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 滞納処分が先、強制執行が後 | 債権の全額を供託することができる。権利供託 | 徴収職員等 | 滞調法20条の6第1項・2項 |
| 強制執行が先、滞納処分が後 | 取立訴訟の訴状送達までに滞納処分があれば、供託しなければならない。義務供託 | 執行裁判所 | 滞調法36条の6第1項・2項 |
滞納処分が先行している場合は、徴収職員等が先に取り立てることができるので、供託は第三債務者の権利にとどまります。強制執行が先行している場合は、執行裁判所の配当手続の中で国税などの配当を処理する必要があるので、供託が義務になります。事情届の提出先が、先行している手続の側になる点も対応しています。
債権譲渡と差押えの競合
第三債務者が債権譲渡の通知を受けた後に、譲渡人の債権者から差押えを受け、譲渡が有効かどうか第三債務者には判断できない場合など、債権者不確知と差押えが重なる場面があります。この場合に、弁済供託と執行供託を兼ねた供託を認める先例があり、混合供託と呼ばれています。混合供託は、弁済供託の供託原因と執行供託の供託原因の両方を満たす必要がある点に注意してください。細部の要件は先例で決まっているので、過去問に出た事例の型で押さえるのが効率的です。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
執行供託は、供託法3問のうち弁済供託と並ぶ出題の中心です。民事執行法の債権執行の問題でも同じ知識が問われます。狙われる肢は次のとおりです。
- 差押えが1つだけで競合していなくても、第三債務者は供託することができる
- 権利供託では、差押えに係る部分だけでなく債権の全額を供託することができる
- 差押えが競合したときは債権の全額を、配当要求があったときは差し押さえられた部分を供託しなければならない
- 仮差押命令の送達も、差押えの競合を生じさせる
- 供託をしたときは、権利供託でも義務供託でも事情届が必要である
- 配当を受ける債権者は、供託の時までに差押え等をした債権者に限られる
- 仮差押えの執行を受けた第三債務者の供託は、仮差押解放金の供託とみなされる
- 滞納処分が先行する場合は権利供託、強制執行が先行する場合は義務供託になる
学習の時期としては、民事執行法の債権執行と同じ時期に学ぶと、条文の理解が一度で済みます。供託法全体の骨格と時間配分はマイナー科目の攻略法で示しています。
条文番号の確認
執行供託の条文は、改正で項番号が動いています。現行の民事執行法156条は、1項が権利供託、2項が差押えの競合・配当要求による義務供託、3項が供託命令による義務供託、4項が事情届です。e-Gov 法令検索の API で確認した限り、令和8年4月1日時点の版と現行版で156条の文言は同じなので、令和8年度試験でもこの項番号が前提になります。
まとめ
- 執行供託は、差押えを受けた第三債務者が債務の履行地の供託所に供託して債務を免れる手続
- 差押えがあれば、競合していなくても権利供託ができる。供託できる額は債権の全額
- 差押えの競合と供託命令では債権全額、配当要求では差し押さえられた部分の義務供託になる
- 供託したら執行裁判所に事情届。事情届は現行法では156条4項
- 供託の時までに差押え等をした債権者だけが配当を受け、払渡しは支払委託による
- 仮差押えの場合は民事保全法50条5項で準用され、供託は仮差押解放金の供託とみなされる
- 滞調法では、滞納処分が先なら権利供託、強制執行が先なら義務供託
よくある質問
差押えが1件だけなら、第三債務者は供託してはいけないのですか
供託できます。民事執行法156条1項は、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託することができると定めており、差押えの競合を要件にしていません。差押えが1件だけのときに供託するか、差押債権者の取立てに応じて支払うかは、第三債務者が選べます。差押えが競合したときや配当要求があったとき、供託命令が送達されたときには、選択の余地がなくなり供託義務を負います。
第三債務者が供託したのに事情届を出さないと、どうなりますか
事情届は民事執行法156条4項が定める第三債務者の義務です。執行裁判所は事情届によって供託の事実を知り、配当等を実施します。事情届が出されないと、配当手続が始まらず、差押債権者は供託金から回収できない状態が続きます。供託によって債務を免れる効果と、手続を進めるための届出義務は別のものとして整理しておいてください。
仮差押えしかされていない債権を第三債務者が供託した場合、仮差押債権者はすぐに供託金を受け取れますか
受け取れません。仮差押えは債権の保全にとどまり、仮差押債権者はまだ債務名義に基づく回収の段階にありません。第三債務者の供託は、債務者が仮差押解放金を供託したものとみなされます(民事保全法50条3項)。仮差押債権者は、本案で勝訴して債務名義を得た後、本執行に移行して配当等を受けることになります。
供託法の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と関連先例がその場で開きます。