判決の効力:既判力・執行力・形成力
司法書士試験の民事訴訟法で問われる判決の効力を、既判力の客観的範囲・主観的範囲・時的限界、執行力と民事執行法23条、形成力と対世効に分けて整理。民訴法114条〜116条、基準時後の形成権行使の判例、IT化改正と令和8年度試験の関係まで解説します。
確定判決の効力は、既判力・執行力・形成力の3つに分けて考えると整理できます。既判力はすべての確定した本案判決に生じ、後の訴訟で同じ判断を蒸し返させない力です。執行力は給付判決にだけ生じ、強制執行の根拠になる力です。形成力は形成判決にだけ生じ、法律関係そのものを変える力です。
この記事は、既判力の「範囲」の論点が混ざってしまう司法書士試験の受験生向けです。民事訴訟法114条・115条・116条を軸に、既判力の客観的範囲・主観的範囲・時的限界を順に整理し、民事執行法22条・23条の執行力と形成力を比べます。令和4年の IT 化改正で判決書がどう変わったか、令和8年度試験の前提との違いも確認します。
判決の効力の全体像
3つの効力と対象になる判決
判決の種類と効力の関係を、まず表で押さえてください。
| 効力 | 内容 | 生じる判決 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 既判力 | 確定判決の判断内容が後の訴訟で当事者と裁判所を拘束する | 給付・確認・形成の本案判決すべて。訴訟判決にも訴訟要件の判断について生じる | 民事訴訟法114条・115条 |
| 執行力 | 判決で命じた給付を強制執行で実現できる | 給付判決だけ | 民事執行法22条1号・2号 |
| 形成力 | 判決の確定によって法律関係が発生・変更・消滅する | 形成判決だけ | 各実体法の規定 |
確認判決には執行力も形成力もありません。確認判決の効力は既判力だけです。「所有権確認の判決に基づいて強制執行ができる」という肢は誤りになります。
判決はいつ確定するか
既判力と形成力は、原則として判決が確定して初めて生じます。判決は、控訴・上告の提起や異議の申立てについて定めた期間の満了前には確定しません(民事訴訟法116条1項)。期間内に控訴などがあれば、確定は遮断されます(同条2項)。
控訴期間は、判決の送達を受けた日から2週間の不変期間です(民事訴訟法285条)。当事者が控訴しないまま2週間が経過すれば、判決は確定します。少額訴訟の判決に対する異議の期間も116条1項に挙がっており、この期間が過ぎるまで少額訴訟の判決は確定しません。少額訴訟の特則は少額訴訟と支払督促の違いで整理しています。
執行力には例外があります。仮執行の宣言を付した判決は、確定前でも債務名義になります(民事執行法22条2号)。
既判力の作用:3つの場面
既判力が後の訴訟で働く場面は、次の3つに整理されます。
| 場面 | 例 | 既判力の働き方 |
|---|---|---|
| 訴訟物が同一 | 貸金返還請求の棄却判決確定後に、同じ貸金を再び請求する | 前訴の判断と矛盾する主張ができず、請求は棄却される |
| 前訴の訴訟物が後訴の先決問題 | 所有権確認の認容判決確定後に、所有権に基づく明渡しを請求する | 所有権の存在を前提に審理される |
| 後訴が前訴と矛盾関係 | Xの所有権確認の判決確定後に、Yが同じ物の所有権確認を求める | 前訴の判断に反する主張は許されない |
既判力は、当事者が援用しなくても裁判所が職権で調べる事項です。
既判力の客観的範囲:何に生じるか
主文に包含するものに限る
確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を持ちます(民事訴訟法114条1項)。主文に包含するものとは、訴訟物である権利関係の存否についての判断です。
逆に言えば、判決理由中の判断には原則として既判力が生じません。所有権に基づく建物明渡請求の認容判決が確定しても、既判力が生じるのは明渡請求権の存在についてであり、前提となった原告の所有権には生じません。所有権そのものを確定させたいなら、所有権確認の請求をあわせて立てる必要があります。
判例は、理由中の判断に拘束力を認める争点効という考え方も採用していません(最判昭和44年6月24日)。一方で、前訴の実質的な蒸し返しにあたる後訴を、信義則によって許さないとした判例があります(最判昭和51年9月30日)。既判力の範囲外でも、信義則で遮断されうるという整理です。
相殺の抗弁は例外
理由中の判断に既判力が生じない原則の例外が、相殺の抗弁です。相殺のために主張した請求の成立または不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を持ちます(民事訴訟法114条2項)。
| 例 | 既判力が生じる判断 |
|---|---|
| 原告の100万円の請求に対し、被告が80万円の反対債権で相殺を主張し、反対債権が認められた | 反対債権80万円が相殺で消滅したこと。訴求債権の残り20万円の存在 |
| 同じ事例で、反対債権は存在しないと判断された | 反対債権80万円が存在しないこと |
相殺の抗弁に既判力を認めないと、被告は同じ反対債権を後で別訴で請求でき、二重に使えてしまいます。それを防ぐための例外です。
一部請求の扱い
金銭債権の一部だけを請求する一部請求では、既判力の範囲が問題になります。判例の結論は次のとおりです。
- 一部であることを明示して請求した場合、既判力はその一部についてだけ生じ、残部の請求は妨げられない
- 明示しなかった場合、既判力は債権全体に及び、残部の請求はできない
- 明示の一部請求で請求の全部または一部が棄却された後に残部を請求することは、特段の事情がない限り信義則に反して許されない
3つ目は、一部請求の棄却判決は債権全体を審理した結果だという考え方に基づいています。
既判力の主観的範囲:誰に及ぶか
115条1項の4類型
既判力は、原則として訴訟の当事者の間にだけ生じます。訴訟に関与していない第三者を判決で拘束すると、手続保障を欠くからです。民事訴訟法115条1項は、確定判決の効力が及ぶ者を次のように定めています。
| 号 | 効力が及ぶ者 | 例 |
|---|---|---|
| 1号 | 当事者 | 原告と被告 |
| 2号 | 当事者が他人のために原告または被告となった場合のその他人 | 選定当事者の訴訟における選定者、破産管財人の訴訟における破産者 |
| 3号 | 1号・2号の者の口頭弁論終結後の承継人 | 口頭弁論終結後に訴訟物である権利を譲り受けた者、係争物を買い受けた者 |
| 4号 | 1号から3号の者のために請求の目的物を所持する者 | 当事者のために物を預かっている受寄者・管理人 |
同じ規定は仮執行の宣言について準用されます(民事訴訟法115条2項)。
口頭弁論終結後の承継人
3号の承継人は、事実審の口頭弁論の終結後に承継した者に限られます。口頭弁論終結前に承継した者には既判力は及びません。終結前の承継には、訴訟承継の手続で対応することになります。
例えば、XがYに対する貸金返還請求で勝訴し、口頭弁論終結後にXがその貸金債権をAに譲渡した場合、Aは口頭弁論終結後の承継人として判決の効力を受けます。どのような第三者が承継人にあたるかは、実体法上の地位との関係で争いのある論点です。択一では、基準時の前か後かという区別を確実にしてください。
請求の目的物を所持する者
4号の「請求の目的物を所持する者」は、もっぱら当事者または承継人のために物を所持する者です。受寄者や管理人のように、自分の固有の利益のために所持しているわけではない者を指します。
賃借人のように自己の固有の利益のために物を占有する者は、4号にあたりません。家屋の明渡しの判決を得ても、その家屋を自分の権利で占有している第三者には、4号によって既判力を及ぼすことはできないということです。
対世効:第三者にも及ぶ判決
法律関係を画一的に確定する必要がある訴訟では、判決の効力が第三者にも及ぶと法律が定めています。これを対世効といいます。
- 人事訴訟の確定判決は、民事訴訟法115条1項にかかわらず、第三者に対しても効力を持つ(人事訴訟法24条1項)
- 会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対しても効力を持つ(会社法838条)
会社法838条が対世効を認めるのは、請求を認容する判決だけです。棄却判決には対世効がないので、別の株主が同じ訴えを起こすことは妨げられません。会社の組織に関する訴えは商業登記とも結びつきます。
既判力の時的限界:いつの時点の判断か
基準時は事実審の口頭弁論終結時
既判力は、事実審の口頭弁論終結時における権利関係の存否について生じます。この時点を基準時といいます。判決は口頭弁論終結時までに提出された資料に基づいてされるからです。
基準時の効果は次の2つです。
- 基準時前に存在した事由は、前訴で主張しなかったものでも、後の訴訟で主張できない。これを遮断効または失権効という
- 基準時後に生じた事由は、後の訴訟で主張できる。例えば、判決確定後にした弁済は請求異議の事由になる
民事執行法35条2項は、確定判決についての請求異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限ると定めています。既判力の基準時と請求異議の事由がきれいに対応していることを確認してください。
基準時後の形成権行使
基準時前に発生していた形成権を、基準時後に行使した場合に遮断されるかどうかは、形成権の種類によって判例の結論が分かれます。
| 形成権 | 基準時後の行使 | 判例の結論 |
|---|---|---|
| 取消権 | 遮断される | 詐欺による取消権は、前訴の口頭弁論終結前に行使できたのに行使しなかった場合、後訴で主張できない(最判昭和55年10月23日) |
| 白地手形の補充権 | 遮断される | 前訴で補充権を行使しなかった場合、後訴で補充して請求することは許されない |
| 相殺権 | 遮断されない | 基準時後に相殺の意思表示をしたことは、請求異議の事由になる(最判昭和40年4月2日) |
| 建物買取請求権 | 遮断されない | 基準時後に建物買取請求権を行使したことは、請求異議の事由になる(最判平成7年12月15日) |
取消権は、請求権そのものに付着した瑕疵を主張するものなので遮断されます。相殺権と建物買取請求権は、訴求債権とは別の権利を行使するものなので遮断されません。理由づけの軸を1本持っておくと、判例の結論を取り違えにくくなります。
定期金賠償の変更を求める訴え
基準時後に事情が変わった場合の特則として、定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えがあります。口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起できます(民事訴訟法117条1項)。変更の対象は、訴え提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限られます。この訴えは第一審裁判所の専属管轄です(同条2項)。
執行力と形成力
執行力:債務名義としての判決
執行力は、判決で命じた給付を強制執行によって実現できる効力です。確定判決と仮執行の宣言を付した判決は、債務名義になります(民事執行法22条1号・2号)。
意思表示をすべきことを命じる判決は、少し特殊です。登記手続を命じる判決のような意思表示を命じる判決が確定すると、債務者はその確定の時に意思表示をしたものとみなされます(民事執行法177条1項)。強制執行の手続を経ずに、判決の確定で目的が達成されるわけです。
債務名義・執行文・執行機関の全体像は、強制執行の種類で整理しています。
執行力の主観的範囲:民事執行法23条
執行力が及ぶ者は、民事執行法23条が定めています。民事訴訟法115条と並べると、構造がそっくりです。
| 民事執行法23条 | 内容 | 対応する民事訴訟法115条1項 |
|---|---|---|
| 1項1号 | 債務名義に表示された当事者 | 1号 当事者 |
| 1項2号 | 表示された当事者が他人のために当事者となった場合のその他人 | 2号 |
| 1項3号 | 債務名義成立後の承継人。確定判決・仮執行宣言付判決などは口頭弁論終結後の承継人 | 3号 |
| 3項 | 1項各号の者のために請求の目的物を所持する者 | 4号 |
執行証書による強制執行は、執行証書に表示された当事者または執行証書作成後のその承継人に対し、またはこれらの者のためにすることができます(民事執行法23条2項)。
債務名義に表示された当事者以外の者を債権者または債務者とする場合は、承継執行文の付与を受けます。その者に対しまたはその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官に明白であるとき、または債権者がそれを証する文書を提出したときに限り付与されます(民事執行法27条2項)。
形成力:判決で法律関係が変わる
形成判決が確定すると、判決の内容どおりに法律関係が発生・変更・消滅します。これが形成力です。離婚判決が確定すれば婚姻は解消され、会社の設立無効の判決が確定すれば設立が無効になります。
形成判決には、強制執行で実現すべき給付がないので、執行力はありません。形成の結果を登記や戸籍に反映させる手続は、執行とは別の仕組みで行われます。形成判決は法律に定めがある場合にだけ認められ、その多くに対世効が付いているのは、法律関係を画一的に変える必要があるからです。
IT化改正と令和8年度試験の前提
判決書から電子判決書へ
令和4年法律48号による民事訴訟法の改正のうち、判決の電子化を含む最終段階は令和8年5月21日に施行されました。令和8年度の司法書士試験は、令和8年4月1日現在で施行されている法令が前提なので、この部分は試験では前提になっていません。e-Gov 法令検索の API で両方の版を確認した結果は次のとおりです。
| 項目 | 令和8年度試験の前提 | 現行法 |
|---|---|---|
| 判決の作成 | 判決書。言渡しは判決書の原本に基づく。民事訴訟法252条・253条 | 電子判決書を作成する。民事訴訟法252条 |
| 判決の送達 | 判決書の正本の送達。民事訴訟法255条 | 電子判決書に記録された事項を記載した書面の送達、またはシステムによる送達。民事訴訟法255条 |
| 控訴期間の起算点 | 判決書の送達を受けた日から2週間。民事訴訟法285条 | 電子判決書の送達を受けた日から2週間。民事訴訟法285条 |
| 判決の確定時期 | 116条1項に法定審理期間訴訟手続の異議はない | 116条1項に381条の7第1項の異議が加わった |
変わっていない条文
既判力の中心である114条・115条は、4月1日時点の版と現行版で文言が同じです。民事執行法22条・23条・35条も同じでした。既判力の範囲の学習は、改正の影響を受けません。判決の作成と送達の手続だけが電子化されたと理解しておけば十分です。
試験での出題ポイント
択一式ではこう問われる
判決の効力は、民事訴訟法5問のうち訴訟の終了の段階で出題されます。狙われる肢は次のとおりです。
- 既判力は主文に包含するものに限り生じ、判決理由中の判断には原則として生じない
- 相殺の抗弁についての判断には、相殺をもって対抗した額について既判力が生じる
- 確認判決には執行力がない。形成判決にも執行力はない
- 口頭弁論終結後の承継人には既判力が及ぶが、終結前の承継人には及ばない
- 賃借人のように自己の利益のために目的物を所持する者は、請求の目的物の所持者にあたらない
- 取消権は基準時後の行使が遮断されるが、相殺権と建物買取請求権は遮断されない
- 会社の組織に関する訴えの認容判決は第三者に効力が及ぶが、棄却判決には及ばない
前提となる訴訟要件は民事訴訟の訴訟要件で整理しています。既判力の周辺は学説に深入りすると際限がないので、条文と判例の結論に絞る方針はマイナー科目の攻略法で示したとおりです。
不動産登記法との接続
登記手続を命じる判決は、不動産登記法の判決による登記の論点と直結します。共同申請の一方に登記手続をすべきことを命じる確定判決による登記は、他方が単独で申請できます(不動産登記法63条1項)。確定判決の効力は民事執行法177条の意思表示の擬制として働き、登記権利者は単独で申請できるわけです。申請の手続は判決による登記で扱っています。承継人との関係や執行文の要否も含めて、民事訴訟法と不動産登記法を往復して確認してください。
まとめ
- 既判力はすべての確定した本案判決に、執行力は給付判決に、形成力は形成判決に生じる。確認判決は既判力だけ
- 既判力は主文に包含するもの、つまり訴訟物の判断に限られる。例外は相殺の抗弁で、対抗した額について生じる
- 既判力は当事者、他人のための当事者のその他人、口頭弁論終結後の承継人、目的物の所持者に及ぶ
- 基準時は事実審の口頭弁論終結時。取消権は遮断され、相殺権と建物買取請求権は遮断されない
- 執行力の主観的範囲は民事執行法23条で、民事訴訟法115条と同じ構造
- IT化改正で判決書は電子判決書になったが、令和8年度試験は4月1日時点の判決書の条文が前提
よくある質問
所有権に基づく明渡請求で勝訴すれば、所有権の存在も既判力で確定しますか
確定しません。既判力は主文に包含するもの、つまり訴訟物である明渡請求権の存否についての判断に限られます(民事訴訟法114条1項)。所有権の存在は判決理由中の判断なので、既判力は生じません。所有権そのものを確定させたい場合は、所有権確認の請求をあわせて立てるか、中間確認の訴えを利用します。
判決確定後に相殺をしたら、強制執行を止められますか
止める手段があります。判例は、前訴の口頭弁論終結前に相殺適状にあった反対債権でも、口頭弁論終結後に相殺の意思表示をしたことは請求異議の事由になるとしています(最判昭和40年4月2日)。債務者は、請求異議の訴えを提起して、その債務名義による強制執行の不許を求めることになります(民事執行法35条)。取消権の場合は遮断されるので、結論が逆になる点に注意してください。
口頭弁論終結後に目的物を譲り受けた人に対して、判決で強制執行できますか
できます。確定判決による強制執行は、口頭弁論終結後の承継人に対してもすることができます(民事執行法23条1項3号)。ただし、債務名義に表示された当事者以外の者に対して執行するので、承継執行文の付与を受ける必要があります(民事執行法27条2項)。承継の事実が裁判所書記官に明白であるか、債権者がそれを証する文書を提出したときに付与されます。
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